鍋野敬一郎のSAPソリューション最新動向#01
こんにちは!SAP Freelance Jobs運営事務局です。
フリーランスになると、会社が提供してくれる研修を受講する機会がなくなり、「私のスキルは陳腐化していないだろうか」という悩みを頂いている方が少なくありません。そこで弊社では、SAPジャパン株式会社出身で、ERP研究推進フォーラム講師でもある株式会社フロンティアワン 代表取締役 鍋野敬一郎氏をコラムニストとして迎え、「鍋野敬一郎のSAPソリューション最新動向」と題し、SAPのERP製品情報や最新技術情報をお届けしていきます。
初回である今回は「SAPのERPコンサルタントとは」「どのERP製品を選択してどのように学べば良いのか」にフォーカス。SAPの基本情報とともに、効率良くSAPコンサルタントになる方法について、数多くのSAPコンサルタントを育成した鍋野氏ならではのアドバイスをお届けします。これからSAPに携わるお仕事をしたい方も、最前線で戦うフリーランスSAPコンサルタントの方も、ぜひ一度読み進めてみてください!
【鍋野 敬一郎 プロフィール】
株式会社フロンティアワン 代表取締役
ERP研究推進フォーラム講師
- 1989年 同志社大学工学部化学工学科(生化学研究室)卒業
- 1989年 米国大手総合化学会社デュポン社の日本法人へ入社。農業用製品事業部に所属し事業部のマーケティング・広報を担当。
- 1998年 ERPベンダー最大手SAP社の日本法人SAPジャパンに転職し、マーケティング担当、広報担当、プリセールスコンサルタントを経験。アライアンス本部にて戦略担当マネージャーとしてSAP Business All-in-One(ERP導入テンプレート)立ち上げを行った。
- 2003年 SAPジャパンを退社し、コンサルタントとしてERPの導入支援・提案活動に従事。
- 2005年 独立し株式会社フロンティアワン設立。現在はERP研究推進フォーラムでERP提案の研修講師、ITベンダーのERP/SOA/SaaS事業企画や提案活動の支援、ユーザー企業のシステム導入支援など、おもに業務アプリケーションに関わるビジネスを行っている。
- 2015年よりインダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI):サポート会員(ビジネス連携委員会委員、パブリシティ委員会委員エバンジェリスト)
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はじめに
はじめまして、今回よりこちらでコラムを書かせて頂くことになりました。筆者は、フリーランスで業務とシステムのコンサルタントというお仕事をしていますが、もちろんはじめからコンサルタント職だったわけではありません。
はじめは新入社員として製造業(化学会社)の営業担当からスタートして、途中配置転換でマーケティング責任者となりました。転職してSAPジャパンのマーケティング職を経て、コンサルタント職へ移ってその後新規ビジネスの立ち上げに関わるなど、様々な会社と仕事を経験しました。
さて、このコラムのテーマはずばり“SAPのコンサルタント”になりたい人に向けに、SAPに関係する技術系の仕事にチャンスを求めたいという人に気軽に読んで頂けることを目指しています。
SAPとは、言わずと知れたERP老舗&ナンバーワンのベンダであり、欧州最大のIT企業であり、世界最先端のテクノロジーカンパニーのひとつです。
多くの人が、「正攻法でSAPの仕事に就くのはハードルが高い」と考えているようですが、入口やきっかけさえ見つけるのはそれほど難しいことはありません。むしろ難しいのは広大なSAPの情報量に溺れることなくコツコツ少しずつ自分のモノにしていく継続的な取り組みです。このコラムで、あなたに合ったSAPのお仕事をはじめるきっかけを見つけてください。
SAPのERPコンサルタントとは
“SAPのコンサルタント”を厳密に定義すると、『SAP製品の認定資格を取得した人』ということになりますが、SAPが取り扱う製品はものすごく幅広いというのはご存知でしょうか。
代表的な製品は、誰でも知っている「SAP ERP」(エスエーピー・イーアールピー)と呼ばれる企業向け基幹システムのERP製品です。
ちなみに、現行製品最新版は「SAP ERP、ECC6.0 EhP8:イーシーシー6.0エンハンスメントパック8」ですがこの現行製品は2025年末で保守サポート期限が終了となる予定であり、次期主力ERP製品としてパッケージ版の「SAP S/4HANA:エスエーピー・エスフォーハナ、リリース1809」とクラウド版の「SAP 4/HANA Cloud:エスエーピー・エスフォーハナクラウド、リリース1811」が提供されています。
名前が異なることからも分かるように、「SAP S/4HANA 1809」、「SAP S/4HANA Cloud 1811」はリリース時期が異なる製品です。オンプレミス版の「S/4HANA」は年1回のバージョンアップ、SaaS版の「S/4HANA Cloud」は年3回のバージョンアップがあります。SAPが提供しているERPは、中堅企業向けクラウドERP製品の「SAP Business ByDesign」や中小企業向けERP製品の「SAP BusnessOne」などがあります。以下に簡単にご紹介します。
SAP S/4HANA(エスエーピー・エスフォーハナ)、SAP S/4HANA Cloud(エスエーピー・エスフォーハナクラウド)
※次期主力製品。2015年に後継製品としてリリースされ、安定性と機能拡 張性が強化。(パッケージ版は年1回、クラウド版は年3回のバージョンアップが提供)SAPが独自開発した高速データベースを搭載し、処理性能と機能が大幅に拡充。クラウド製品との親和性が高く、他システムとの連携性が向上し、煩雑だった操作性やマルチデバイス対応にも配慮。全世界1,000社以上/国内100社以上が導入・稼働中。(2018年末現在)
OSはLinux、DBはSAP HANA(SAPの独自開発したデータベース、カラムストア指向リレーショナルインメモリーデータベース)
SAP ERP(エスエーピー・イーアールピー)※ECC6.0
現行主力製品、幅広い業種業態に対応。多言語・多通貨に対応。マルチOS/マルチDB対応、全世界4万社以上/国内2千社以上が利用。2025年末に保守期限を迎える予定。(法改正対応などの追加機能対応パッチの無償提供がなくなる。有償によるサポートは従来通り提供される。後継製品はSAP S/4HANA)
SAP Business All-in-One(エスエーピー・ビジネス・オールインワン)、通称「A-1」
SAP ERP(ECC6.0)の派生製品。これをベースに、中堅中小企業向け短期導入ソリューション。各種業種業態のテンプレート(ひな形)を組み合わせて短期かつ低コストのERP導入を実現。汎用的なSAP ERPの機能と用途を絞り込んだことで、中堅中小企業がSAPを利用する機会を拡大した。現在では、SAP ERPベースのものと、次期主力製品SAP S/4HANAベース(SAP Business One, version for SAP HANA)のもの両方がある。パッケージ版とサブスクリプションによるクラウドがある。
SAP Business ByDesign(エスエーピー・ビジネス・バイデザイン)
SAPが開発した中堅中小および大企業の子会社など向けクラウドERP製品。(グローバルでは2007年より提供、国内では2013年より日本語版がリリース)提供はパートナー経由のみ(NEC、NTTデータGSL、シナプスイノベーション、クレスコイーソリューションなど)月額課金モデルでの利用。SaaS型でパッケージ版はない。
OSはLinux、DBはSAP HANA(SAPの独自開発データベース)
SAP BusinessOne(エスエーピー・ビジネスワン)
2004年にSAPがイスラエル企業の開始したERPをベースに開発した中小企業向けERP製品。日本語版の提供は2007年より。(全世界で6万社以上が導入。2017年末現在)提供はパートナー経由のみ(ロータスビジネスコンサルティング、ソルパックなど)パッケージ版とサブスクリプションによるクラウドがある。
稼働環境は、OS:Windows/DB:MS SQL ServerとOS:Linux/DB:SAP HANAのいずれかを選択することが可能。
以上の通り、SAPには複数のERP製品があります。メインストリームは、かつてSAP R/3(エスエーピー・アールスリー)と呼ばれていたSAP ERPと、その後継製品であるSAP S/4HANAですが、中堅中小企業向けのSAP Business ByDesign(略称:バイデザイン)やSAP BusinessOne(略称:ビーワン)も着実に導入企業が拡大しています。
どのERP製品を選択してどのように学べば良いのか
SAPには、複数のERPがあることは分かりましたが、それではどうすればそれぞれの情報を入手して比較検討すれば良いでしょうか。ネット検索すれば分かると思いますが、テキストでも画像でも動画でもちょっと検索すれば膨大な情報を入手することができます。むしろ、情報が多すぎて訳が分からなくなるほどです。
さらに調べてみると『SAP用語』というのがあって、これが正直かなり難解です。一般的なシステム用語やビジネス用語と微妙に異なっています。独学でSAPを学ぼうと考えた人の多くが躓くのが、この情報量の膨大さにあります。あまりにも情報が多すぎて、どこから手を付ければ良いのか分からなくなってしまいます。
そこでアドバイスです、自分の身近なところでSAPに詳しい人を2,3人探してみましょう。できれば経験豊富なSAPのコンサルタントを師匠として、その弟子となるやり方が筆者は一番迷わない学び方だと思っています。そういう頼りになる人が見当たらない場合ですが、選択肢は2つです。
1つ目は、SAPジャパンかSAPパートナー企業に転職すること、これならば確実にSAPに近づくことが出来ます。さすがに転職はちょっとという方にもチャンスはあります。2つ目の選択肢は、自分の会社にSAPのERP製品を導入することです。自社導入をきっかけとして、その導入に関わる担当に立候補してユーザー企業の立場からコンサルタントを目指します。
SAP ERP(SAP S/4HANAも同様)は、巨大なシステムなので一人で構築するのはほぼ不可能です。ERPを実際に稼働するところまで持っていくためには、まず環境をセットアップする必要があります。SAPでは、アプリケーションが稼働するシステムインフラを構築・運用する役割全てを担うベーシスコンサルタントという職種があります。
これはOSやデータベース、サーバやクラウド環境などの技術者なら、比較的に馴染みやすい仕事です。そして、SAPのERPアプリケーション上に各種業務要件を設定する役割を担う職種がアプリケーションコンサルタントです。
このコンサルタント職は、モジュール(またはコンポーネント)と呼ばれる機能単位でアプリケーションの設定を行う仕事です。FI:Financials(財務会計)、CO:Controlling(管理会計)、SD:Sales & Distribution(販売管理)、MM:Material Management(在庫/購買管理)、Project System(プロジェクト管理)など数十の機能単位ごとにその業務が細分化されています。
当然ながら機能単位ごとに、トレーニングと認定資格(試験のパスでCertificationが貰える)があります。日本でも青山学院大学など一部大学では、SAPについて学べる学科や授業がありますが、誰でも手軽に受講できる訳ではありません。一番確実なのは、やはりSAPのトレーニングコースに参加することです。しかし、かなり高額なので会社の仕事として受講するのでなければ、個人が自己負担で受講して資格取得するのは困難だと思います。(最短で資格取得するためには、約ひと月半の期間と150万円以上の受講料、さらに認定資格試験をパスする必要がある)
認定資格を取得して、やっと免許取得して公道を走れるようになるというレベルで、現実には最低でも3年以上、複数のプロジェクト経験を経て一人前のSAPコンサルタントとなります。ちなみに、中堅中小企業向けの「SAP BusinessOne」と「SAP Business ByDesign」ならばここまで機能単位がシンプルかつ簡素化されています。ユーザー企業からコンサルタントを目指すなら、こうした手軽なERP製品から始めるという手もあります。
今回のまとめ
さて今回はSAPには複数のERP製品があることと、インフラを構築・運用するベーシスコンサルタントとERPアプリケーション上に業務要件を設定するアプリケーションコンサルタントの2つの職種があることをご紹介しました。
実は、筆者が最初に勤めた会社は外資系でSAPのユーザー企業でした。当時はまだSAP R/2というERPとなる前の基幹システムでした。事業部門所属のエンドユーザーでしたが、本当に使いにくいシステムで操作も難しく、まさか後にそのシステムを作っている会社の社員になっているとは夢にも思いませんでした。
左:弊社代表 岸仲、右:コラムニストの鍋野氏