ABAPerからSAPコンサルタントへステップアップする方法
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1.はじめに
SAP業界における入門的な職種といえば、ABAPerではないでしょうか。ABAPerはいわゆるプログラマーですが、SAPコンサルタントへの登竜門として紹介されることが多いと感じています。もちろん、長年にわたってABAPerとして活躍する方も大勢いらっしゃいます。しかしSAP業界の高単価は、主にSAPコンサルタントを対象としたもの。収入をアップさせたければ、ABAPerを経由してSAPコンサルタントへステップアップすることが必須です。
そこで今回は、SAP業界におけるABAPerからコンサルタントへのキャリアパスを体験ベースで紹介します。
2.ABAPerでいることのメリットとリスク
SAP業界で働く方は当然ご存じかと思いますが、ABAPerとは他の分野におけるプログラマーを指す言葉です。SAPの独自言語であるABAPを使うことからこのように呼ばれていますが、単にプログラマーと表現しないあたりがSAP業界の独特さを表していますね。
さて、このABAPerですが、SAP業界に参入する登竜門的なポジションと言えます。SAP認定コンサルタント資格を取得していても、「まずは開発を覚えよう」ということでABAPerとして配属されることがありますよね。その後、数年の経験を経て、SAPコンサルタントへとステップアップしていく流れが一般的ではないでしょうか。
2-1.ABAPerでいることのメリット
ABAPerとして働くことのメリットとしては、主に「安定した仕事量」「技術的に深い部分まで知識が身につく」などが挙げられます。
ひとつめの仕事量についてですが、ABAPerはSAP業界で常に需要があるポジションで、単価にさえこだわらなければ仕事の量は比較的安定しています。また、開発が終了してプロジェクトがカットオーバーを迎えたあとも、軽微な改修や要件変更、不具合修正などに対応する運用保守要員としてアサインされる可能性が高いです。SAP業界に参入して間もない新人からすると、ABAPerはプロジェクトへの参画経験を積むための貴重なポジションであると言えるでしょう。
ふたつめのメリットとしては、「SAP ERPの技術を深いところまで学べる」というものが挙げられます。ABAPを用いた開発の作法(SE80の使い方など)はもちろん、主要な標準テーブルやよく使うテーブルの項目、BAPIの種類と仕様などをしっかり学べるのは、ABAPerとして働くからこそのメリットです。
SAPコンサルタントとして上流工程に参画するにあたっても、これらSAPの技術的な知識は必須です。実際の設計やカスタマイズでは、モジュールの表面的な動作をなぞるだけでは身につかない知識が必要になってきます。技術的なバックボーンを持つSAPコンサルタントは顧客からの信頼を得やすく、長期にわたって活躍することができるでしょう。
2-2.ABAPerでいることのリスク
こうしたメリットがある一方で、ABAPerでいることのリスクも存在します。それは「単価の上限が低い」「上流工程の経験を積みにくい」という2点です。
まず単価についてですが、一般的にSAP業界においてABAPerの単価は100万円/月未満程度に抑えられることが多いです。どれだけ経験を積んで腕を磨いたとしても、この上限を突破することは容易ではありません。SAP業界はクライアント企業やプロジェクトの規模が大きく、それだけに上流工程を担う人材にコストが集中します。Fit&Gap分析やカスタマイズ、要件定義などの上流工程は影響範囲が大きく責任も重いので、どうしても人材の単価が高くなっていくのです。
もちろん、技術的な面で言えば腕の良いABAPerは貴重な存在です。しかしSAP業界では技術一辺倒よりも「SAP製品の知識、経験」と「クライアント企業が属する業界の知識」のバランスが良い人材が評価されます。クラウドネイティブ、クラウドファーストが根付き、SAP S/4 HANAが主流になろうとしている現在でも、この傾向は変わらないと思います。
したがって、今以上に単価を上げたければ、どこかでABAPerから脱皮する必要があるのです。
また、ABAPerの仕事は詳細設計やコーディング、テストの比重が高いです。他の分野でいうプログラマーですから当然なのですが、SAP業界で重宝される知見(各モジュールの標準仕様の把握、カスタマイズ、権限関係の知識など)は得にくいのが実情です。近年のSAP業界は、以前と異なり、過度なアドオン開発は避ける傾向にあります。つまり、詳細設計やコーディングのスキルよりも、「標準機能をうまく使って顧客要求を実現するスキル」のほうが評価されやすくなってきています。アドオン開発がゼロになることはないと思いますが、巨大で広範なSAP ERPのカスタマイズやチューニング、他システムと連携しようなども身に着けていかなければ、生き残ることが難しいかもしれません。
3.意外と難しいABAPerからの脱却
ここまで述べた内容は、10数年前から常に現場で叫ばれていたことです。しかし、すべてのABAPerが上流工程を目指すわけではありません。繰り返すようですが、ABAPerは単価や責任の範囲はともかくとして、どのプロジェクトでも必ず必要とされる存在です。さらにクライアント企業やプロジェクトオーナーからすれば、そこそこのコストで保守運用を任せられる人材というメリットもあり、なかなか仕事が途切れません。そのため、長期にわたって微修正や不具合対応を繰り返しているうちに居心地がよくなり、キャリアアップの機会を喪失する方が大勢いるのです。
ABAPerとして腕を磨くことは決して悪いことではないでしょう。しかしSAP業界にはコンサルタントとして参画したときにしか得られないスキルや知見が沢山あります。特に「標準仕様の理解と設計への落とし込み」「どのモジュールのどの機能がクライアントの業務に役立つか」といった内容は、ABAPerでいる限り身に付きにくいものなのです。
4.ABAerからコンサルへのキャリアパス
ここまでの内容を踏まえつつ、ABAPerからコンサルタントへのキャリアパスを紹介したいと思います。もちろん、ここで紹介する以外にも方法はあると思いますが、より実践的な方法のひとつとして理解して頂ければ幸いです。
4-1.開発チーム以外を狙う
この方法は自分ひとりの力では難しいかもしれませんが、「権限管理チーム」や「移行チーム」など、より業務に近いチームへの参画を狙うという方法です。
まず権限管理チームですが、SAPの権限管理機能はクライアント企業の組織構造や社員のポジション、業務内容と直結しています。「権限ロール」と「権限オブジェクト」という2つの機能を用いて、クライアント企業内のどのポジションが何をしているか(何をできるか)を学ぶことが可能です。したがって、顧客理解が進みますし、業務知識も身につくでしょう。ABAPerとしては、プログラムごとの権限チェック(オーソリティチェック)くらいでしか権限機能を扱わない場合もありますので、知見を拡げる良い機会になると思います。
また、移行チームへの参画では、クライアント企業のシステムを俯瞰的・体系的に学ぶことができます。SAP業界における移行フェーズはプロジェクトの山場であり、カットオーバー前の一大イベントです。移行チームで働くことにより、普段接することのない他チームの人材と一緒に仕事をしたり、影響調査や分析を重ねたりしながら、新しい知識がどんどん入ってきます。
このように開発チーム以外のチームへ在籍することで、知識や経験の幅が広がり、上流工程に参画するきっかけを得られるかもしれません。
4-2.事業会社の運用保守チームへ転職
ABAPerからSAPコンサルタントを目指す場合、どうしてもネックになるのが「経験」です。プロジェクトに参画する場合に未経験でも許されるのはABAPerくらいのもので、それ以上のポジションは必ず経験が重視されます。したがって、ゼロからイチを得る機会に巡り合うことが難しいのです。こうした状況を打開するために、ABAPerとしての経験をもとに、事業会社のポテンシャル採用枠を狙うという方法があります。
近年はどの業界でも内製化に力を入れており、情シスメンバーとしてSAPの知見を持つ人材を探していることがあります。外注のメンバーでは実現しえない昇格や職種の変更も、事業会社の正社員としてならば十分に可能です。一時的に収入は落ちるかもしれませんが、事業会社の社員だからこそ任せられる仕事には、業務知識を深めるためのヒントが詰まっています。また、事業会社の社員は必ずと言ってよいほど上流工程に携わるため、要件定義やカスタマイズを行うチャンスに恵まれやすいのです。さらに、外注のコンサルタントの仕事ぶり見ることができるというメリットもあります。
4-3.フリーランスとして自ら仕事を選びキャリア形成
3つ目の方法としては、あえてフリーランスとして仕事を選んでいくというものがあります。個人で営業している限りは難しいのですが、SAPに特化した人材系企業のバックアップを得ることで、未経験の分野に挑戦できる可能性が拡がるのです。もちろん、本人にも自己研鑽が求められますが、個人単位では獲得しえない営業の機会を得られるのは、人材系企業を活用するメリットですね。
実際にプロジェクトに参画してしまうと、仕事に没頭するあまり業界全体の流れを知る機会が無くなっていきます。人材系企業の担当者を通じて常に新しい情報を取り入れ、ともにキャリアパスを模索していくことで、ABAPerから脱却する道が見えてくるでしょう。
5.まとめ
今回は、ABAPerからSAPコンサルタントへのステップアップについて紹介しました。ABAPはSAP ERPの独自言語であるゆえに、他の言語に比べると汎用性が低く、学べる知識も限られています。「一生プログラマーを続ける気がない」というのであれば、開発以外の経験を積極的に積んでいくべきです。