「SAP PPの教科書」No.4BOMとは何か
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はじめに
BOMとは、Bill of Materialsの略で、製品を構成する部品リストのことです。SAPを学んでいく中でのBOMはマスタの一部としか考えられていない傾向がありますが、モノづくりにおける設計や生産管理、サービスで利用されるE-BOM、M-BOM、S-BOMについて解説します。
1.BOMの定義と役割
BOM(読み方はボム、またはビーオーエム)はBillofMaterialsの略で、直訳すると材料表です。部品表と呼ばれることも多いです。
BOMは、製品を構成するアセンブリや部品を定義したデータベースです。
製品の規模や構造により複数階層になることもあり、製品以下に複数のアセンブリや部品が構成されるイメージです。
BOMは、商品企画、見積、設計、生産管理、購買、製造、保守など、さまざまな業務シーンで利用される製品構成を表現するマスタ情報です。BOMの精度が高いと業務品質や効率を向上させることができますが、精度が低いと業務は混乱し、業務上の間違いや手戻りが発生しやすくなります。したがって、BOMの精度をいかに高めるかが、BOMの業務設計、システム構築を行う際のキーとなります。
1-1.E-BOM
E-BOMとは、EngineeringBOMの略で、設計BOMや技術BOMとも呼ばれます。ドキュメントや図面含めた設計情報は、E-BOMを中核として管理されます。中間層は機能またはASSYです。
※ASSY(アッシー)とは、パーツ単体ではなく複数が組み合わされた構成部品(ユニット)を指す言葉です。「assembly(アッセンブリー)」の略語であり、ASSYの読み方は前述のアッシー以外に、アッセン、アッセンブリーなど、多岐に渡ります。
1-2.M-BOM
M-BOMはManufacturingBOMの略であり、生産BOM、製造BOMとも呼ばれます。生産用のマスタで、工場の生産管理、購買、工程設計の各部門などが共同でメンテナンスします。M-BOMは、E-BOMを元に作成され、生産都合による中間品や工程の追加などの構成の組み換え、自社調達不要品の削除などが行われます。
1-3.S-BOM
S-BOMはSoftwareBillOfMaterials(ソフトウェア部品表)と呼ばれ、サービス用のBOMです。サービスBOM、保守BOMと呼ばれることもあります。量産製品におけるS-BOMでは、アフターパーツとして提供可能な部品で構成されるので、提供不可の部品は構成を削除するのが一般的である。生産設備のような個別受注品の場合は、出荷後の構成をS-BOMとして管理し、保守用の交換部品などをこの中に記録します。
2.なぜBOMは必要か
BOMは、開発・設計、生産、保守など多くの業務領域で用いられます。それらはE-BOM、M-BOM、S-BOMと呼ばれますが、それぞれの目的について理解を深めていきたいです。
大企業であっても、図面主体で設計・生産していて、BOMをうまく活用できていないことが多く見られます。たとえば、設計部門から出力されるBOMにはすべての部品が網羅されておらず、調達部門は図面を読み取って手配する全部品を抽出する必要があるBOMに生産工程が表現されていないので、生産技術部門は図面を読み取って工程を追加するなどをおこなっております。各業務プロセスにおけるBOMの本来の目的、利用方法を下記に記します。
2-1.開発・設計
このプロセスで作成されるものはE-BOMです。開発・設計での目的は、後工程に設計の意図を伝達することはもちろんですが、開発・設計の品質を高める、コストを低減する、設計リードタイムを短縮することも挙げられます。
例えば、E-BOMをチームメンバーで共有して、チーム設計やコンカレントエンジニアリングを実施する、E-BOMにコスト目標や現時点の見積価格を記入して、目標との乖離を把握することで原価企画に役立てる、既存のASSYや部品を流用して、新規部品点数を削減する、などが挙げられます。
2-2.生産
生産で利用されるのは、M-BOMです。生産用のマスタとして、生産計画立案や調達計画立案、製造指示などに利用されます。
それ以外の用途としては、内外作設定が挙げられます。例えば、部品を調達して組み立てるというASSY工程があり、この工程を外部委託し、さらに部品の調達も合わせて委託する場合に、自社で部品調達をする必要がなくなります。この場合、自社調達しない部品については、M-BOM上からは削除する処理を施します。
2-3.保守
保守やサービスの現場で使用されるものは、S-BOMと呼ばれます。個別受注生産品では、出荷号機ごとに構成がユニークになっていて、サービスマンが出荷先で保守のために部品を交換した際に、社内で管理しているS-BOMをメンテナンスします。また、量産品では、サービス用部品やASSYを管理できるようにします。保守においては、末端部品を交換するだけでなく、ASSY単位で交換することも多です。E-BOMをベースにして、S-BOMを構成し、サービスパーツリストとして出荷可能な部品やASSYを管理します。
3.シングルBOMについて
SAPコンサルタントの中にはBOMはE-BOMやM-BOMのような役割が理解しておらず、何も区別のないシングルBOMで構成されていると考える方々が多いように思えます。しかしシングルBOMの構成では、システム要件定義を行っていく中で様々、勝手が違うことが見えてくるので、ここではE-BOMとM-BOMの内容に絞って考察していきます。
3-1.E-BOMとM-BOMの違い
前項にそれぞれの項目について記載いたしましたが、もう一度BOMの特徴について書いていきます。
E-BOMは、設計部門が定義する構成で、関連情報として図面や3Dモデルを含めた技術ドキュメント(いわゆるCADデータなど)を管理します。
一方、M-BOMは、E-BOMをベースとして構成されていますが、購買部門や生産技術部門が定義する構成です。購買部門では主に、部品の手配に関する情報(調達リードタイムや発注先、取引価格名など)を定義します。
下記にE-BOMとM-BOMの違いをまとめます。
【E-BOM】
管理部門:開発、設計
管理システム:PLM(Product Lifecycle Management:製品ライフサイクル管理システム)
表現する構成:技術的な観点の製品構成
付随情報、属性:図面、3Dモデル、仕様書、実験結果など技術検討資料
【M-BOM】
管理部門:生産管理、生産技術、購買
管理システム:SAPなどのERP、生産管理システム
表現する構成:実際に生産するための製品構成
付随情報、属性:製造リードタイム、調達リードタイム、サプライヤー、生産ライン、有効日、取引価格などの生産・調達に必要な情報
協調すべき点は、管理部門が別であることです。E-BOMは、設計部門が責任をもって完成させ、メンテナンスします。M-BOMは、工場の複数部門にまたがりますが、工場が責任をもって管理します。
3-2.シングルBOMの問題点
シングルBOMで運用する場合に想定される問題点を下記にまとめます。
1番目は、組織の問題です。複数部門が1つのBOMに向かってメンテナンスするようになるので、様々な不整合などの混乱が生じる可能性があります。仮に、製品構成をよく知る設計部門だけが更新、管理する責任を持つと、工場都合で発生した変更(生産工程の変更、調達のための中間品の選定など)を設計部門が対応することになるので、設計部門が本来業務ではない業務に時間を取られる。また、設計部門と工場が海外を含めた別の場所にある場合には、BOM管理の役割責任や変更プロセスを明確化しておかなければ、間違いが生じるリスクがあります。
2番目は、タイミングの表現が難しくなる事です。設計部門は設計変更を行うために、常に最新の状態でBOMを管理したいです。しかし、工場側は生産のためのマスタ情報なので。日付別の生産構成を設定したいです。設計変更のタイミングが在庫を考慮した部品の切り替えタイミングがどうしても合いません。
このようなことから、現代の複雑化した製造業では、E-BOMとM-BOMを分けて管理することは現実的な答えであるといえます。
4.目的別BOMで部門の役割分担を適正化する
設計部門からは、E-BOMをリリースします。それを受けて工場(生産管理部門)はM-BOMを生成します。この時点では、E-BOMと同じ構成ですが、そこから工場側のM-BOM編集作業が開始されます。
生産技術部門は、製造上の組立工程を追加し、そのポイントで在庫管理を実施します。具体的にはASSYとしての真下にサブASSYを追加し、その構成部品を形成します。
ここで注意すべき点は、M-BOMの構成編集においてE-BOMから継承した品目のリビジョンを変更しないルールにすることです。例えば購買部門がE-BOMで定義されていない中間品用のサブASSYとして組み立てた状態で納品してもらう場合も、設計変更でなくM-BOMの編集として対応することができます。検収用の図面が必要な場合には、設計部門に図面だけの作成を依頼することもあります。
このように目的別BOMには、運用ルールの整合を図ったうえで、各部門の責任を分散化して業務に集中させる効果があります。
5.PLMからERPへのBOM情報の転送
M-BOMの品目で設定する情報量は膨大です、よってE-BOMの承認前に、部品番号が決定した時点で生産管理システムまたはERP上で工場の各部門が品目情報(購買や製造に関する情報)を先行で入力を開始する企業もあります。SAPを導入している企業が大半ですが、この考え方は、M-BOMの品目定義と構成承認を非同期化し、生産準備のリードタイムをねらったものです。