「SAP PPの教科書」No.5 PP領域における組織構造およびマスタデータ_概要
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はじめに
ここではPP領域で必ず必要とされている組織構造およびマスタデータについて、概要レベルで書きます。
カスタマイズ設定(最近はコンフィグ設定と表されますが)については別途説明いたします。
1.組織構造
1-1.クライアント
SAPにおいて、どのモジュールでも一番理解しておかなければならないクライアントとは、SAPシステム内の、法的、組織的、およびデータ上独立した1単位であり、個々のマスタレコードと一連の個別テーブルを備えています。業務面から見ると、クライアントは企業グループなどを表します。
クライアントは、SAPシステムの最上位の階層レベルにあたります。このレベルで作成し、入力する設定やデータは、全ての会社コードと組織ユニットに適用されます。そのため、クライアントレベルの設定やシステムへのデータ入力は、1度だけでよく、何度も行いません。それによって、データのステータスは確実に統一されます。
アクセス権限はクライアントごとに割り当てられます。それぞれのクライアントにおいて、そのクライアントで作業するユーザごとに、対応するユーザマスタレコードを登録する必要があります。クライアント項目にあらかじめ値が設定されていない場合、各ユーザはSAPクライアントへのログオン時は、初期画面において、クライアントキーを指定する必要があります。クライアントキーは、システムで一意に定義された3桁の数字です。この入力によって、ユーザは作業場所のクライアントを指定します。ユーザの入力はすべて、クライアントごとに保存されます。
同様に、データの処理と評価もクライアントごとに実行されます。
1-2.会社コード
SAPにおいて、もう一つ理解しておかなければならない会社コードは、独立した完全な経理ユニットを複製することができる、外部会計における最小組織のユニットです。このような複製では、勘定転記を必要とするすべてのイベントの入力や、貸借対照表(B/S:バランスシート)および損益計算書(P/L)の完全な監査証跡の登録などが行われます。会社コードは、例えば、企業グループ(クライアント)内の1つの会社など、独自の貸借対照表を作成する独立した単位を表します。
1つのクライアントに複数の会社コードを設定して、会社コードごとに独立した帳簿を管理することができます。会社コードは、特別なカスタマイジング機能を使用してコピーすることができます。このプロセスでは、コピー元の会社コード固有の設定が新しい会社コードに適用されます。
会社コードはクライアント内で一意の4桁の英数字で定義されます。
1-3.プラント
プラントとは、生産、調達、品目計画の観点から企業を細分化する、ロジスティックにおける組織ユニットです。
1-4.保管場所
保管場所とは、プラント内の品目在庫を区別するための組織ユニットです。プラント内の保管場所レベルでは、数量を基準とする在庫管理が実行されます。実地棚卸もこのレベルで実行されます。
保管場所はクライアント内で一意の4桁の英数字で定義されます。
1-5.生産計画における組織オブジェクト
組織構造は、企業におけるSAP導入の基盤であり、ソフトウェア導入の初期段階で設定されます。ほかの設定やマスタデータは、いずれも組織構造の土台に構築されます。
組織ユニットは、事業領域内の関連データを迅速に処理できるように、互いに密接に関連付けられます。
以下はその例です。
プラント1000の割当先 会社コード1000
会社コード1000の割当先 管理領域1000
この場合、プラント1000で原価管理のトランザクションが発生すると、管理領域1000の関連するレコードが自動的に更新されます。評価エリアとは、品目の数量と金額を管理する組織レベルです。原価積上では、各プラントに評価エリアを設定することが重要になります。特に生産管理の活動を行うには必須の設定となります。
評価エリアレベルを選択すると、各プラントの評価エリアが自動登録されます。製品および指図の原価積上を使用するには、棚卸をプラントレベルで評価する必要があります。
1-6.購買組織
MMモジュールに必須の組織データになりますが、PPモジュールに関する内容を加味して記載します。
生産計画の外部にある、SAPシステムの他のエリアでは、それぞれの機能の要件を満たすための追加設定が必要になります。購買管理では、クライアントおよび会社コードに加えて、もう1つ必要な組織構造があります。
購買グループとは、一定の購買活動を管理する購買担当者または購買担当者グループを表すキーです。簡単に説明すると、担当者の集まりになります。内部的には、購買グループは品目または品目クラスの調達を管理します。外部的には、企業とその仕入先との取引の主要チャネルとして機能します。しかし、SAPにおいて、購買グループは企業構造の他のユニットには割り当てられません。
購買グループの定義は、企業構造のカスタマイジングで行うのではなく、
在庫/購買管理→購買管理→登録:購買グループ
のカスタマイジングで行います。
購買組織とは、購買要件に応じて企業を細分化する、ロジスティックにおける組織ユニットです。言い換えると購買部門になります。購買組織は、品目やサービスの調達、および仕入先との購買条件の交渉を担当し、こうした取引の責任を負います。
購買組織を会社コードおよびプラントに割り当てることによって、会社構造に購買管理部門を組み込むことができます。この場合、購買管理部門を社内の1カ所に集中させるか、または分散させるかを決定することができます。この両方の組織形態を組み合わせて使用することもできます。
1つの会社コードに複数の購買組織を割り当てることができます。しかし逆に、1つの購買組織を複数の会社コードにも割り当てずにしておくこともできます(会社間購買の場合)。購買組織とプラントは、n:mの関係になります。つまり、複数のプラントを1つの購買組織に割り当てたり、1つのプラントを複数の購買組織に割り当てたりすることができます。
1-7.販売組織
SDモジュールに必須の組織データになりますが、PPモジュールに関する内容を加味して記載します。
組織内の組織管理部門と同様に、販売管理を担当するグループにも固有の追加要件があります。
販売組織は商品とサービスの販売と流通を管理します。販売した製品に対する責任と共に、得意先の償還請求権に対する責任を負います。販売組織の使用を通して、地域別や国別、または国際的な市場の分類を表現することができます。
個々の販売組織は、1つの会社コードのみ一意に割り当てられますが、逆に個々の会社コードには複数の販売組織を割り当てることができます。販売管理モジュールを使用する場合は、少なくとも1つの販売組織を定義する必要があります。
販売組織は、販売統計ごとにおける最上位の集計レベルです。得意先マスタデータは販売組織ごとに登録されます。販売管理プロセスで登録される伝票(受注伝票および出荷伝票、請求伝票)は、いずれか1つの販売組織に属します。
流通チャネルは、販売可能な品目またはサービスを得意先に届けるための手段です。流通チャネルは、いずれか1つの販売組織に割り当てられます。個々の販売組織には複数の流通チャネルを割り当てることができます。販売管理モジュールを使用する場合は、少なくとも1つの流通チャネルを定義して、いずれかの販売組織に割り当てる必要があります。
流通チャネルの使用をとおして、得意先への対応をそれぞれの割当先のチャネルに応じて変えることができます。たとえば、卸売流通チャネルに割り当てた得意先に対して、小売流通チャネルに割り当てた得意先向けの価格より有利な優先価格を適用することができます。
販売組織には、少なくとも1つの製品部門を割り当てる必要があり、また複数の製品部門の割当が可能です。製品部門は、品目とサービスのグループ化に使用されます。それぞれの製品部門は、品目とサービスのグループ化に使用されます。それぞれの製品部門は、製品グループまたは製品ラインを表します。製品部門の使用によって、以下のことが可能です。
・特定の製品部門への価格契約の限定
・製品部門ごとの統計分析
販売エリアは、販売組織および流通チャネル、製品部門の使用可能な一意の組合せです。各販売管理伝票には、1つの販売エリアのみに割り当てられます。この割当は、変更できません。それぞれの販売エリアは、1つの会社コードのみに属します。この関係は、カスタマイジングにおける会社コードへの販売組織への割当によって登録されます。
出荷ポイントは出荷処理を管理するための組織要素です。各出荷伝票は出荷ポイントで処理されます。
出荷ポイントには、積載ドックや郵便仕分室、鉄道停車場などの物理的な場所を指定することができます。また、翌日の出荷処理やトラック1台分に満たない受注を管理する従業員グループなどを、論理的な場所として指定することもできます。
出荷ポイントは、プラントに割り当てられます。それぞれの出荷ポイントは、割当先のプラントと物理的に近接していなければなりません。1つのプラントに複数の出荷ポイントを割り当てることは可能です。また、1つの共通出荷ポイントを複数のプラントに割り当てることも可能です。たとえば、物理的に近接する複数のプラントで同じ鉄道停車場を共有することができます。
2.マスタデータ
生産計画におけるマスタデータオブジェクト
社内の組織構造の設定が完了したら、次はそれぞれの事業領域ごとに、日々の業務遂行に必要な機能を有効化するため。アプリケーション固有のマスタデータの開発に着手します。
PPモジュールでは、計画及び実行機能を使用するためにいくつかのマスタデータが必要になります。SAPで計画及び実行機能の使用を開始するためには、以下のマスタデータオブジェクトが必要です。
・品目マスタ
・部品表/配合表(BOM)
・作業区
・作業手順
・製造バージョン
これらを下記に解説していきます。
2-1.品目マスタ
品目マスタは、全部門で共通して使用される情報量を多く持っているマスタです。
品目マスタには、会社が建造、調達、製造、保管、販売を行う品目に関する情報が格納されます。この情報は、品目の共通データソースであるデータベースに保存されます。品目マスタレコードによって、社内のさまざまな領域のデータが統合されます。
会社にとって、品目マスタは品目に関するデータの共通データソースです。品目マスタはさまざまなSAPロジスティックアプリケーションで使用されます。品目には、最終製品(製品または商品)、半製品(半組立品:Assyと呼ばれます)、原材料(購買部品)があります。
2-2.部品表/配合表(BOM)
部品表/配合表(BOM)は、製品または組立品のすべての構成品目を示す正式な構成一覧です。この一覧には、各構成品目のオプション番号とテキストおよび数量と数量単位が含まれています。部品表/配合表はプラントレベルまたはクライアントレベルで登録することができます。ヘッダと各構成品目には、いずれも有効日付が表示されます。この日付は、設計変更管理を使用して操作することができます。
部品表/配合表は品目マスタと統合されます。また、部品表/配合表を作業手順と組み合わせて使用することで、より正確な使用ポイントの日程計画を実行することができます。これらのBOMは、資材所要量計画、生産、調達及び原価積上で使用されます。
BOMはヘッダ品目とBOM明細(構成品目)で構成されます。ヘッダ品目の基本数量は、最終製品の数量を表します。それぞれの構成品目の基本数量はこの数量にもとづきます。BOM明細では、個々の部品および組立品が品目コードによって示されます。
BOMは単一段階です。BOM明細にさらに構成品目を組み込むことで、最終製品のボム組立品のBOM、さらにその組立品(組立品の組立品)のBOMといったように。単一段階の複数のBOMを使用して多段階の生産を定義することができます。BOMには、最終製品に使用される在庫品目だけでなく、文章やテキスト明細も組み込むことができます。
2-3.作業区
作業区とは、生産資源が必要とされる時期と場所を指図の要件に基づいて定義したものです。それぞれの会社に応じて、作業区は機械センタ、作業センタ、能力センタなどとも呼ばれます。
作業区は、個別または複数の機械、作業者、ツールなどとして定義することができます。作業区は、作業手順(作業手順、標準ネットワーク、品質検査計画、保全タスクリスト、および概略計画プロファイル)と指図で使用されます。
2-4.作業手順
作業手順では作業とその実施手順が定義されます。また、作業手順では以下についても定義されます。
・作業の実施場所
・作業に要する時間
・各作業で必要とされる品目
・必要な治工具および器具備品
作業手順は実施する作業を順番に示すものであり、製造指図のテンプレートとして機能します。各ステップで、個々の作業を実施する作業区が定義されます。作業手順には、各作業の計画時間が標準値として保存されます。
これらの標準値は、以下の処理の基準として使用されます。
・リードタイム日程計画
・原価積上
・能力計画
2-5.製造バージョン
BOMと作業手順を組み合わせたものを製造バージョンと呼びます。同じ製品でも状況に応じて作業手順やBOMを変えます。例えば、複数ラインで製造するケースは、ラインごとに製造バージョンを分ける、一部工程を外注するケースでは内製する場合と製造バージョンを分けるなど、製造の特性に応じてバージョンの設定を行います。また、コスト改善の結果、設備を更新したり、原材料を変更したりする場合にも製造バージョンを分けることで対応することが可能です。
2-6.マスタレシピ
BOMと作業手順を組み合わせたものを製造バージョンと呼びます。同じ製品でも状況に応じて作業手順やBOMを変えます。例えば、複数ラインで製造するケースは、ラインごとに製造バージョンを分ける、一部工程を外注するケースでは内製する場合と製造バージョンを分けるなど、製造の特性に応じてバージョンの設定を行います。また、コスト改善の結果、設備を更新したり、原材料を変更したりする場合にも製造バージョンを分けることで対応することが可能です。