「シリーズCOPC」2.SAPのCOモジュールとサブモジュールの構成
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1.管理会計(CO)とは
SAP CO(管理会計)は、企業の財務データの分析と戦略的意思決定に不可欠なツールです。このモジュールには、以下の主要な機能が備わっています。
- 間接費管理: SAP COは、企業が発生させるさまざまな間接費用の追跡と管理を可能にします。これには、人事経費、オフィスの維持費、広告費などが含まれます。この機能を使用することで、企業はどの部門が最も費用がかかり、どの部門がコストを削減する必要があるのかを把握できます。
- 製造原価管理: 製造業の企業にとって、製品の製造原価の正確な計算が重要です。SAP COは、材料、労力、設備などのコストを正確に追跡し、製品ごとの製造原価を計算するのに役立ちます。これにより、企業は製品の価格設定や効率的な製造プロセスの改善に基づいた意思決定を行うことができます。
- 収益性分析: 収益性分析は、企業の収益の要因となるさまざまな要因を理解するための重要なプロセスです。SAP COは、製品、顧客、地域などの要因に基づいて収益データを分析し、どの部分が最も収益性が高く、どの部分が改善の余地があるのかを特定するのに役立ちます。これにより、企業は収益を最大化するための戦略を策定できます。
COモジュールの特徴として、財務会計モジュール(FI)との統合があります。これにより、会計データと管理会計データをシームレスに連動させ、企業の全体像をより明確に把握できます。さらに、ロジスティクス系のモジュール(PP、MM、SD)とも連動し、製造、在庫管理、販売といったプロセス全体に関連したデータを統合的に扱うことができます。
ただし、COモジュールは初心者にとっては理解が難しい部分もあり、専門性を高めるためには学習と実践が必要です。この記事では、COモジュールや管理会計の基本的な概念を、初学者にも理解しやすいように詳細に解説していきます。
2.COモジュールの基本的な機能
- 組織設定(Organization Structure): SAP COの組織設定は、企業の組織構造をシステム内に反映させる重要なステップです。これには、会社コード、勘定項目、コストセンター、利益センタ、組織ユニットなどの要素が含まれます。組織設定を適切に行うことで、会計データを正確に追跡し、分析するための基盤を築きます。
- カスタマイズ(Customization): SAP COは多くの業界と企業の要件に対応するために高度にカスタマイズ可能です。組織独自の会計ルールやプロセスを設定するため、カスタマイズが重要です。これには、収益センタ、コスト要素、内部オーダーなどの設定が含まれます。カスタマイズにより、SAP COは特定のビジネスニーズに合わせて調整できます。
- 会計期間(Accounting Periods): SAP COでは、特定の会計期間内でのデータ収集と分析を行います。通常、企業は月次、四半期、年次などの会計期間を設定します。会計期間の正確な設定は、会計データの整合性を保ち、経営分析において時間軸を提供します。
- マスタ設定(Master Data Configuration): SAP COのマスタデータは、組織、顧客、資産、製品など、ビジネスプロセスに関連する重要な情報を含みます。これらのデータは一度設定されると、システム全体で共有されます。正確なマスタデータ設定は、誤ったデータの入力を防ぎ、迅速な報告と分析を可能にします。
これらの基本要素を適切に設定し、カスタマイズすることにより、SAP COは企業の管理会計プロセスをサポートし、正確な財務データの収集と戦略的な意思決定を実現するのに役立ちます。
3.組織設定
管理領域(Tr:OKKP)
管理会計において、管理領域(OKKP)は組織単位で、原価センタや利益センタを管理領域の下に定義するのに用います。管理領域は通常、会社コードに対して割り当てられますが、必要に応じて複数の会社コードにまたがる単一の管理領域を割り当てることも可能です。
原価センタとは
原価センタは、費用や原価を管理するための組織単位です。これは、原価が発生する組織または事業単位を表します。通常、原価センタは部門単位で設定され、例えば総務部、経理部、営業部(およびこれらの部門内の課単位)が一つの原価センターコードを共有することが一般的です。部門間で共通の費用が発生する場合は、別個の原価センタ(たとえば「本社共通用」など)を設定することもあります。
以下は、原価センタに関連する一連のトランザクションコードです。
- Tr:KS01: 原価センタ登録
- Tr:KS02: 原価センタ変更
- Tr:KS03: 原価センタ照会
利益センタとは
利益センタは、損益を分析するための組織単位です。利益センタには売上、売上原価、各種費用などが配賦され、損益計算が行われます。組織または事業単位を表す場合があり、一般的には「売上が発生する事業/組織」を表すために利益センタとして設定されます。これにより、該当の利益センタ(組織または事業)のパフォーマンスを評価するための情報を提供します。
以下は、利益センタに関連するトランザクションコードです。
- Tr:KE51: 利益センタ登録
- Tr:KE52: 利益センタ変更
- Tr:KE53: 利益センタ照会
これらの組織構造と設定要素を適切に管理することは、SAP管理会計の効果的な運用と企業の財務データの正確な追跡に欠かせません。また、SAP組織に関する詳細な情報は、関連記事で詳細に説明されています。
4.COにおける会計期間
SAPにおいて、会計期間(OKP1)は財務会計と管理会計の転記を管理するための重要な要素です。会計期間は「オープン」または「クローズ」の状態で設定され、財務データの正確性を確保する役割を果たします。
SAP上では、毎月の経理業務において、締め処理を行い、月次の財務状況を確定させることが一般的です。会計期間をクローズすることにより、一度締めた月の財務データを変更できなくなるため、データの一貫性と信頼性を維持するのに役立ちます。基本的に、毎月(または期ごと)の会計期間をクローズすることが慣例とされています。
財務会計(FI)において、会計期間を閉じることは、該当する月における財務データの転記を防ぎます。具体的には、Tr:OB52というトランザクションコードを使用して、会計期間をクローズすることにより、その期間における財務転記を制限することができます。
CO(管理会計)においても、会計期間が存在し、Tr:OKP1を使用して会計期間のオープン/クローズの管理が行われます。これにより、管理会計における転記の正確性とデータの整合性を確保し、会計プロセス全体をスムーズに運用できるようになります。
5.COにおけるマスタについて
原価要素は、SAP COモジュールにおいて、仕訳を記録するための必要な勘定のマスタ情報です。一次原価要素と二次原価要素の2つの種類が存在します。一次原価要素は通常の期中取引において転記される費用や収益を表し、これらの一次原価要素は財務会計(FI)の費用・収益勘定(G/L勘定マスタ)とコードを共有しています。一方、二次原価要素はCOモジュール内の処理(例: 配布、決済など)で使用されます。
原価要素の役割は、費用や収益を特定のコストオブジェクト(原価センタ、指図など)に割り当てることです。原価要素の設定により、費用がどのコストオブジェクトに計上されるかが管理されます。原価要素の正確な設定は、財務データの正確性と追跡性を確保するために不可欠です。
また、管理会計において、コストの収集と分析は特定のコストオブジェクトに基づいて行われます。以下は、COモジュールで使用される一部のコストオブジェクトの例です:
- 原価センタ: 原価センタは、部門単位でコストを管理し、特定のコストオブジェクトにコストを割り当てるための組織単位です。
- 収益性セグメント: 収益性セグメントは、特定の製品ライン、地域、またはビジネスユニットに関連付けられた収益データを収集するためのコストオブジェクトです。
- 指図: 内部指図やCO製造指図、製造指図はプロジェクトや特定のタスクにコストを割り当てるためのコストオブジェクトです。
これらのコストオブジェクトは、COモジュール内でのみ使用されるものではなく、ロジスティクスの各モジュールでも広く活用されます。たとえば、購買発注の場合、原価センタを費用の計上先として指定することで、物品の納入に伴う在庫管理を行うことが一般的です。これにより、費用の正確な割り当てと財務データの追跡が実現されます。
6.管理会計の基本的なプロセスとサブモジュール
[製造原価管理(CO-PC)]
製造原価の正確な把握は、企業の利益構造の改善や製造プロセスの最適化に不可欠な要素です。企業が製品を製造する際にかかる費用を正確に計算し、把握することは、効果的な経営戦略の策定に貢献します。
製品原価は通常、以下の3つの主要な要素で構成されています。
- 直接材料費: 製品を製造するために直接使用される材料のコスト。
- 直接労務費: 製品の生産にかかる直接労働者のコスト。
- 製造間接費: 製品の製造に関連する間接的なコスト。これには設備の維持費、工場の運営コストなどが含まれます。
SAPの生産管理機能では、BOM(Bill of Materials:材料表)および作業手順というマスタ情報が使用されます。BOMには、製品を製造するために必要な原材料や部品が定義されており、それぞれの価格(材料費)と作業にかかる単位時間当たりの価格(労務費)を集計することで、製品の標準原価を求めることができます。このプロセスは一般的に「原価積上」と呼ばれ、求められた標準的な費用を「標準原価」と呼びます。
SAPでは、生産系マスタ情報を使用して標準原価を計算する処理を「品目原価積上(数量構成あり)」と呼びます。一方、生産系マスタを使用せず、個別の原価要素ごとに金額を指定して標準原価を設定する処理は「品目原価積上(数量構成なし)」と呼ばれます。
標準原価は、在庫評価時に必要です。在庫の残高を金額で把握することは、財務報告のために必要であり、製品を売却する際にはその評価額が売上原価となります。
実際原価計算(Tr:CKMLCP 実際原価積上実行編集)は、標準原価と実際の製造コストの差異を計算し、どこにどのような差異があるのかを把握するために行います。この差異の把握は、財務データの精度を向上させ、効果的な経営戦略の立案に貢献します。
[間接費管理(CO-OM)_配賦と配賦処理]
費用は部門に直接割り当てられるものと、複数の部門で共通に発生するものの2つのカテゴリに分けることができます。共通費用の一例として、本社ビルの賃料が挙げられます。本社ビルの賃料は複数の部門が共有し、そのため部門ごとの支出を正確に把握するためには、共通費用を部門に配賦する必要があります。
共通費用を各部門に配賦する際には、あらかじめ定義されたルールや比率に従います。これらのルールや比率は、部門ごとに異なる要因に基づいて設定されます。例えば、部門の人数比率、占有している面積比率、売上高比率などが、共通費用の配賦に使用されることがあります。
共通費用の配賦により、各部門は実際に共有する費用に対して適切なシェアを負担し、部門ごとの正確な損益を評価できます。このプロセスは、経営戦略の策定や意思決定のために不可欠であり、企業内でのリソースの適切な配分と財務データの追跡を実現します。
部門ごとに異なるルールや比率を使用することで、共通費用の公平な分担が実現され、各部門の業績や効率性を評価しやすくなります。
CO(管理会計)において、原価センタ間の配賦処理を行う際には、「周期マスタ」という重要な要素を登録します。この周期マスタを通じて、配賦の対象となる原価センタ(センダ原価センタおよびレシーバ原価センタ)、配賦の比率、および配賦処理に使用する原価要素などを定義します。
配賦処理の基本ステップは以下の通りです:
- 配賦周期登録(計画)(Tr:KSU1):まず、配賦処理を計画するために、配賦周期を定義します。このステップでは、どの原価センタからどの原価センタにどのような比率でコストを配賦するかを計画します。また、どの原価要素を使用するかも指定します。
- 配賦実行(計画)(Tr:KSU5):計画が設定されたら、実際の配賦処理を実行します。このステップでは、予め設定した計画に基づいて、各原価センタ間でコストを配賦します。配賦処理は、統計キー数値(Tr:KK01)を使用して、部門間の配賦比率を指定することができます。統計キー数値は、どの原価センタに対してどの基準でコストを配賦するかを指定するために使用されます。
COにおける配賦処理は、コストの正確な割り当てとトレーシングを実現するために重要です。企業が異なる部門間で共通のコストを公平に配分し、部門ごとのコスト構造を評価するのに役立ちます。これにより、経営戦略の策定やコスト管理が向上し、組織全体の効率性が高まります。
[間接費管理(CO-OM)_内部指図によるコスト管理]
内部指図(Internal Orders)は、CO(管理会計)における重要なコストオブジェクトの一つです。内部指図は、費用の計上や決済を行うために使用され、その用途は非常に多岐にわたります。内部指図は、企業内で特定のプロジェクト、案件、生産ロットなどの費用の集計オブジェクトとして使用されることがあります。
内部指図の主な用途には以下のようなものがあります:
- プロジェクトの費用管理: 内部指図を特定のプロジェクトや案件に関連付けて、そのプロジェクトにかかる費用をトラッキングおよび管理するために使用されます。プロジェクトの予算管理や実際の費用計上に内部指図を活用します。
- 生産ロット別の原価計算: 内部指図は、製造プロセスで特定の生産ロットにかかる費用を集計するために使用されます。これにより、各生産ロットの個別の原価計算が実現され、製品のコストを正確に把握できます。
内部指図の利用方法には多様性があり、企業の独自のニーズに合わせてカスタマイズできます。内部指図を使用することで、特定のプロジェクトや生産ロットに関連付けられた費用を正確に追跡し、部門やプロジェクトごとのコスト構造を管理できます。
内部指図に計上された費用は、決済処理(Tr:KO88)によって決済プロファイルに設定された方法に従って決済されます。たとえば、売上原価などの原価要素(G/L勘定)に費用を振り替える際に、決済プロファイルを設定することがあります。内部指図を通じて正確なコストの割り当てと決済が実現され、企業の経営戦略とコスト管理が向上します。
[収益性分析(CO-PA)]
収益性分析(Cost and Profitability Analysis)では、取引情報をさまざまな特性(事業領域、国、リージョン、製品群)と結びつけて保存し、多角的な分析が可能となります。
費用または収益が伴う会計仕訳が発生するたびに、その取引情報は収益性セグメントとして該当の会計伝票明細に紐づけて保存されます。収益性セグメントは、複数の特性項目を保持しており、例えば特定の売上がどの事業領域、どの会社、どの国や地域、どの顧客、どの製品群によるものであるかなどの情報が登録されています。
これらの情報は集計およびレポート化され、どの地域でどの製品が最も収益性が高いのか、どの市場が利益を生み出しているのかなどを可視化するのに役立ちます。このような情報をもとに、経営陣は収益性を向上させるための戦略を策定し、事業運営の最適化を図ることができます。
収益性セグメントにどのような特性や数値項目を持たせるかは、収益性の観点からどの情報が重要であるかを明確にするための要件定義に基づいて決定されます。各特性項目は、収益性分析の特定の観点を捉えるために設定され、収益性セグメントを通じてビジネスに関する洞察を提供します。
まとめ
SAP COモジュールの解説を通じて、COモジュールが以下の3つのサブモジュールに分かれることを理解しました:
- CO-OM(間接費管理): このサブモジュールでは、企業の間接費用を集計し、各部門に適切に配賦します。間接費用の効率的な管理と正確な割り当てを実現します。
- CO-PC(製造原価管理): 製造原価管理では、直接費用と配賦された間接費用は製造実績を元に計上します。このサブモジュールは製品の製造にかかるコストをトラッキングし、正確な原価情報を提供します。
- CO-PA(収益性分析): 収益性分析は、集まった原価情報とFI(財務会計)およびSD(販売および配送)モジュールから連携された収益情報を活用し、企業の収益性を分析します。このサブモジュールは、経営戦略の策定やコスト管理に貢献します。
これらのサブモジュールは、企業のコスト管理と収益性分析において重要な役割を果たし、情報を効果的に収集、処理し、意思決定に活用するのに役立ちます。詳細な情報は別の記事で提供されるでしょうが、これらの概要を理解することで、SAP COモジュールの基本機能についての理解を深めることができます。