「シリーズCOPC」5.原価計算とリアルタイムでの原価管理
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はじめに
ビジネスの舞台裏で繰り広げられるのが、管理会計の舞台。企業の目標達成において、経営者の意思決定を支える不可欠な機能となっています。製造業においては、製品原価管理が特にクリティカルなポジションを占め、その結果が財務諸表の策定だけでなく、企業の競争力向上にも響いています。
SAP S/4HANAの原価管理は、ビジネスの中核である製造プロセスに革新をもたらします。月中には標準原価や予定賃率に基づいたリアルタイムな原価把握を実現し、月末には実際の製造費用を考慮して効率的かつ正確な原価計算を行います。これにより、企業はリアルタイムで粗利を把握し、迅速な意思決定と原価低減活動を可能にし、ビジネスプロセスの最適化に寄与します。SAP S/4HANAは、競争激化する現代のビジネス環境において、原価管理の新たなスタンダードを確立します。
本ブログでは、SAP S/4HANAの製品原価管理にフォーカスし、以下の方に向けて情報をお届けします。
・すでにSAP ERP(ECC)をご利用中で、SAP S/4HANAへの移行を検討中の方
・ERPシステムの採用を検討中で、SAPの製品原価管理の中身に興味をお持ちの方
・他社製品との比較に迫り、SAPの製品原価管理の特異性を知りたい方
SAPの製品原価管理の魅力は、以下の3つの要素に集約されます。
- 準原価を基にしたリアルタイムな原価集計と視覚化の実現
- 製品原価管理の情報が損益管理とシームレスに連携
- ころがし計算による品目別月次総平均計算が標準機能でサポート
1.標準原価を基にしたリアルタイムな原価集計と視覚化の実現
SAPシステムにおいて、原材料や部品などに対して標準原価を設定し、各工程の受け払い情報からリアルタイムに原価を集計します。この仕組みでは、月次で投入実績や生産実績をまとめてから原価計算を行うのではなく、標準原価をベースにして月中から実績原価を捉えることが可能です。
この特長により、原価管理が従来よりも早期に行え、原価差異の把握とその原因分析が容易になります。例えば、標準原価と実績原価との差異が発生した場合、その情報はリアルタイムで提供されるため、早急な対応が可能となります。これにより、企業は適切なタイミングで原価低減活動を促進することができ、業績向上に寄与します。さらに、リアルタイムな原価情報に基づいた早期の原価差異の把握は、効果的な経営戦略の展開にも繋がります。経営者は即座に課題を把握し、素早い意思決定を行うことができるため、競争激化の中での優位性を維持しやすくなります。このような仕組みは、企業にとってコストの把握と管理を向上させ、ビジネスプロセスの効率化に寄与する重要なツールと言えます。SAPシステムのリアルタイムな原価計算は、変動するビジネス環境に迅速に対応し、持続可能な成長をサポートします。
2.製品原価管理の情報が損益管理とシームレスに連携
製品原価の内訳としての原価構成は、お客様の特定の要件に適応させることが可能です。この柔軟性は、パラメータ設定を通じて、各お客様のビジネスに合わせた具体的な要素を取り入れることを意味しています。特に、収益性分析との連動により、品目別の収支管理を効果的に行うことができます。
例えば、製品別の原価構成情報を固定費と変動費に分けて保持することが可能です。これにより、標準レポートを活用して製品別の売上実績を確認する際に、原価の詳細な内訳も同時に把握できます。このアプローチは、企業全体や事業単位だけでなく、販売製品別や製品群別の貢献利益分析を可能にします。その結果、固定費削減などの施策の検討において、より高い解像度で原価情報をもとにした適切な意思決定をサポートします。
この柔軟性と詳細な内訳により、企業は事業戦略の最適化や競争力の向上に向けて、より具体的かつ効果的な手段を見つけることができます。製品別の原価構成情報の活用は、単なる経費管理を超え、戦略的な意思決定の基盤となる強力なツールと言えるでしょう。
3.ころがし計算による品目別月次総平均計算が標準機能でサポート
標準機能を駆使し、月末や四半期末、年次処理において、ころがし計算(実際原価計算)をスムーズに実行することがSAPシステムで可能です。この標準機能では、標準原価に対する原材料の購入価格差異や棚卸差異といった品目に関連する差異を自動的に集計し、総平均単価の計算を行います。品目ごとの払出数量を基準にし、月末在庫数量見合いで原価差額の自動按分も実行されます。なお、払出見合いの原価差額は、半製品から最終製品などの上位構成へと自動でロールアップされます。通常、原価差異は簡便法により全額を売上原価に付加するか、あるいは売上原価と棚卸資産にまとめて按分する仕訳が行われますが、SAPの実際原価計算機能では、後者の按分仕訳を品目別に自動で計算・記帳することが可能です。これにより、原価差異の管理が効率的に行え、品目別の原価情報を正確かつ迅速に取り込むことができます。
また、外部開示向けの売上原価や棚卸資産の調整仕訳もSAPの機能を活用して自動的に転記可能です。このような自動処理により、企業は原価計算の手続きを合理化し、精度の高い経営情報を迅速に得ることができます。SAPの実際原価計算機能は、煩雑なプロセスを簡素化し、生産の透明性を向上させるための有力な支援ツールと言えるでしょう。
そして、以降はSAPの原価管理の重要な要素である「標準原価管理」「リアルタイム原価計算」「決済処理」についてご説明します。
3-1.標準原価管理
SAPの原価管理は、標準原価を基準として原価管理を行うため、期首に品目ごとの標準原価を設定します。SAPシステムは、会計だけでなく生産や調達など様々な業務領域の情報を一元的に統合管理しているため、標準原価積上に必要な情報を自動で収集・計算することが可能です。標準原価は、品目ごとに、毎月あるいは四半期や年次といった任意のタイミングで積上計算および洗い替えが可能となっています。
原価積上時には、数量情報として部品表・配合表(BOM)および作業手順の情報を、金額情報として品目マスタの原材料の単価や労務費などの予定賃率(標準賃率)を自動で集計し、計算します。各業務で使用されるマスタデータをそのまま収集できるため、インターフェースの構築などは不要です。
収集したマスタデータを利用して原価積上げを実行します。それによって品目ごとに標準原価が自動的に計算されます。
計算された標準原価は年次や月次などの適切なタイミングでマーク&リリースを行います、この処理によって品目に新たな標準原価が設定されることとなります。
3-2.リアルタイム原価管理
月中には、あらかじめ設定した標準原価を使用した原価集計がスムーズに行われます。直接材料費や直接労務費は、品目の受払情報や工程での作業時間などの情報を基に、品目別の標準原価や労務費の予定賃率(標準賃率)をリアルタイムで使用して集計され、実績としての原価情報が即座に把握されます。月中には製品別や指図別の原価差異分析レポートを随時参照できます。
また、売上計上が行われていなくても、受注を受けた段階で、標準原価ベースの粗利(受注に基づく仮売上 – 標準原価)を捉えることが可能です。着地見込用の元帳と実績の元帳を双方管理することができ、現在の受注をベースとした売上計上見込や各種利益見込を手軽に確認できます。これにより、販売システムのデータダウンロードや加工・合算といった手間を省くことができます。さらに、財務諸表照会画面にて売上原価の内訳も確認可能です。この内訳は、標準原価見積で計算された値が利用され、数字をクリックすると、明細一覧に遷移することができ、それぞれの仕訳や発生源の受注伝票を確認することができます。
このような月中から標準原価を元に原価を集計・把握する仕組みにはいくつかのメリットがあります。販売視点では、月末を待たずに粗利の情報をリアルタイムに把握できるため、迅速な意思決定や戦略の調整が可能です。同時に、原価管理視点では、原価差異を早期に把握でき、原価低減活動を迅速に検討・実行することができます。これにより、ビジネスプロセス全体の効率向上や競争力の強化に貢献します。
3-3.決済処理(月次などの処理)
月の途中では、あらかじめ設定された標準原価や予定賃率に基づいた原価をリアルタイムでキャッチしつつ、月末には実際の製造費用を考慮して、品目ごとの総平均単価を計算し、原価差異を適切に分散処理し、更には会計仕訳を自動的に処理します。これらの機能はSAP S/4HANAの標準機能として提供されています。
品目別総平均単価の計算では、予定原価ベースの月初在庫と当月入庫分の金額に、原価差異を考慮して総平均単価を品目ごとに計算し、当月の出庫分と月末在庫に分散させます。
同時に、原材料から最終製品までの原価差異を巧みに取りまとめ、これに伴う棚卸資産勘定と売上原価勘定への調整仕訳も完全自動化されています。
特に製造工程の長い製品を生産する場合など、多段階のころがし計算を手動でこなすのは非常に手間がかかります。しかし、SAP S/4HANAの標準機能はこうしたころがし計算を完全に自動化し、それだけでなく、会計仕訳までワンストップで処理できるのです。これによって、手作業の手間を大幅に削減し、迅速で正確な原価管理を実現しています
さいごに
月の途中では、あらかじめ設定された標準原価や予定賃率に基づいた原価をリアルタイムでキャッチしつつ、月末には実際の製造費用を考慮して、品目ごとの総平均単価を計算し、原価差異を適切に分散処理し、更には会計仕訳を自動的に処理します。これらの機能はSAP S/4HANAの標準機能として提供されています。
品目別総平均単価の計算では、予定原価ベースの月初在庫と当月入庫分の金額に、原価差異を考慮して総平均単価を品目ごとに計算し、当月の出庫分と月末在庫に分散させます。
同時に、原材料から最終製品までの原価差異を巧みに取りまとめ、これに伴う棚卸資産勘定と売上原価勘定への調整仕訳も完全自動化されています。
特に製造工程の長い製品を生産する場合など、多段階のころがし計算を手動でこなすのは非常に手間がかかります。しかし、SAP S/4HANAの標準機能はこうしたころがし計算を完全に自動化し、それだけでなく、会計仕訳までワンストップで処理できるのです。これによって、手作業の手間を大幅に削減し、迅速で正確な原価管理を実現しています