「SAP PPの教科書」No.9 生産プロセス概要
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はじめに
本記事では、SAP S/4 HANAにおける生産管理 (PP: Production Planning) モジュールのプロセス概要と、プロセスごとのトランザクションについて詳細に解説します。プロセスの全体概要を理解することで、それぞれのトランザクションの細かい動作が把握できます。初心者の方でも分かりやすいように、PPモジュールの全体プロセスを解説していきます。
生産管理のプロセス
生産管理は、以下の5つのプロセスで構成されています。
- 計画独立所要量または受注:最終製品の販売予定数量または受注数量を登録
- MPS/MRP(所要量計算):計画独立所要量または受注を基に、各品目の必要生産数量・購買数量を算出
- CRP(能力計画):MPS/MRPで算出された生産予定(負荷山積み)を製造能力に合わせて負荷平準化
- 製造指図:MPSまたはCRPの生産計画予定を基に、製造指図を登録
- 製造実績:製造指図を基に、製造実績(生産品入庫・構成品出庫・作業時間)を計上
生産プロセスは、主にこれら5つのプロセスの順番に進行します。それでは、各プロセスを詳しく解説していきます。
計画独立所要量または受注
計画独立所要量 or 受注プロセスでは、販売する製品の販売予定数量または受注数量を登録します。見込生産形態の企業は、「計画独立所要量」を登録し、受注生産形態の企業は、「受注」を登録します。
計画独立所要量(T-code:MD61)は、見込生産形態の企業が登録する製品の見込数量で、T-code:MD61を用いて登録されます。見込生産形態では、計画独立所要量をもとに生産計画が立てられます。
受注(T-code:VA01)は、受注生産形態の企業が登録する製品の受注数量で、T-code:VA01を用いて登録されます。受注生産形態では、受注数量をもとに生産計画が立てられます。
MPS/MRP(所要量計算)
MPS/MRP(所要量計算)(T-code:MD01N)では、計画独立所要量または受注数量をもとに、製品に関連する半製品や原材料の必要量を算出します。MPSはMaster Production Scheduleの略で、半製品に対応する言葉であり、最終的に製造指図につながります。
MRPはMaterial Requirement Planningの略で、原材料に対応する言葉であり、最終的に購買依頼につながります。MPSとMRPは、半製品向けと原材料向けに言葉が使い分けられますが、所要量算出の計算ロジックはどちらも同じです。所要量、現在庫、入出庫予定、安全在庫を考慮して、必要な生産数量が算出されます。
CRP(能力計画)
CRP(能力計画)(T-code:CM50)では、MPSおよびMRP(所要量計算)を基に生産能力計算を行います。MPSおよびMRP(所要量計算)は、いつまでにどれだけの量が必要かを計算するだけです。そのため、実際の生産能力を超えた所要量になることがあります。このため、CRPによって、企業の製造機器能力に合わせて生産の負荷分散を行います。
以上のプロセスを経て、生産管理の全体プロセスが遂行されます。SAP S/4 HANAの生産管理モジュールは、企業の生産計画や製造実績の管理を効率化し、正確な生産計画と適切な資源配分を実現するために設計されています。これらのプロセスやトランザクションを理解し、適切に活用することで、企業はより効率的な生産管理を実現することができます。
製造指図
製造指図は、生産管理の重要な要素であり、生産計画に基づいて製造現場への具体的な指示情報を伝達するために登録されるものです。この指示情報は、誰がどの作業を行うのか、いつ行うのか、どの品目をどれだけ使用して、どの品目をどれだけ生産するのかといった詳細が含まれており、これにより生産現場は適切な指示情報を受け取り、効率的な生産活動を実施することができます。
製造指図の登録方法には、生産計画を基にした登録方法とマニュアルでの登録方法の2つがあり、それぞれ異なるT-codeが使用されます。生産計画をもとに製造指図を登録する場合、T-code:CO41が使用されます。この方法では、マスタープロダクションスケジュール(MPS)を実行することで、計画手配(製造指図の確定前伝票)が登録されます。MPSを実行し、その結果に従って製造作業に取り掛かる際には、T-code:CO41を使って計画手配を製造指図に変換します。これにより、生産計画と連携した効率的な製造指図の管理が可能となります。
一方、製造指図をマニュアルで登録する場合には、T-code:CO01かCO08が使用されます。CO01は見込生産の際に使われるコードで、CO08は受注伝票をキーにして登録するため、受注生産の際に使用されます。T-code:CO01やCO08が利用されるケースとしては、生産計画システムが別の場合や、SAPでマニュアル登録する場合、またインターフェースを使用して製造指図を登録する場合が挙げられます。これにより、状況に応じた柔軟な製造指図の登録が可能となります。
まとめ
生産管理コンサルタントとして、適切な製造指図の登録方法を選択し、効果的な生産管理を実現することが重要です。生産計画を基にした登録方法とマニュアルでの登録方法を理解し、適切なケースにそれぞれの方法を適用することで、生産現場の効率を最大限に引き出すことができます。また、製造指図の登録方法によっては、異なるシステム間の連携や情報共有が必要となる場合があります。そのため、システム間のインターフェース設定やデータ連携の最適化にも着目し、スムーズな情報伝達が行われるように努めることが求められます。
さらに、生産管理コンサルタントとしては、生産計画や製造指図の登録方法だけでなく、生産プロセス全体の最適化にも取り組むことが重要です。これには、作業工程の改善、リソース管理の効率化、品質管理の向上、在庫管理の最適化などが含まれます。これらの要素を総合的に評価し、適切なアドバイスや改善策を提案することで、顧客企業の生産性向上に貢献できます。
また、生産管理コンサルタントは、顧客企業の状況やニーズに応じて、カスタマイズされたソリューションを提案する必要があります。これには、最新の技術動向や業界標準の理解が不可欠です。例えば、IoTやAIを活用した生産管理システムの導入や、スマートファクトリーへの移行など、最新の技術を適切に取り入れることで、さらなる生産効率の向上が期待できます。
総じて、生産管理コンサルタントは、製造指図の登録方法をはじめとする生産管理に関する知識や技術を活用して、顧客企業の生産現場の効率化や生産性向上に貢献することが求められます。このためには、生産計画や製造指図の登録方法の選択、システム間の連携、生産プロセス全体の最適化、最新技術の適用など、幅広い視点での分析と改善が不可欠です。これらの要素を総合的に取り組むことで、顧客企業の競争力向上につながる生産管理の実現が可能となります。
製造実績
製造実績は、生産管理の重要な側面であり、企業が生産活動の効果や効率性を評価する上で不可欠な要素です。製造実績の主要な要素は、生産品入庫、構成品出庫、および作業時間の3つがあります。これらの要素を適切に計上・管理することで、企業の生産管理や経営判断に有益な情報が提供され、生産プロセスの最適化やコスト削減に役立ちます。
生産品入庫は、製造によって生産された品目、数量、およびロットを正確に計上するプロセスです。このプロセスでは、T-code:MIGOが使用され、生産された製品が適切に入庫されることが確認されます。これにより、企業は生産効果を明確に把握し、在庫管理や販売戦略に反映させることができます。生産管理コンサルタントは、顧客企業の生産品入庫プロセスを評価し、改善策を提案することで、効率的な生産活動の実現に貢献できます。
構成品出庫は、製造プロセスで使用された品目、数量、およびロットを適切に計上するプロセスです。このプロセスでも、T-code:MIGOが使用され、消費された部品や材料の正確な記録が保持されます。これにより、原材料の在庫管理や購買戦略の最適化が可能となり、コスト管理の向上が期待できます。生産管理コンサルタントは、顧客企業の構成品出庫プロセスの改善に取り組むことで、コスト削減や資源の有効活用を実現することができます。
作業時間は、製造プロセスにかかった作業時間を正確に計上するプロセスです。ここでは、活動タイプごとに作業時間が計上され、T-code:CO11Nが使用されます。作業時間の正確な記録によって、労働力の効率や生産性の評価が可能となり、改善策の立案や人員配置の最適化に役立ちます。生産管理コンサルタントは、顧客企業の作業時間計上プロロセスを分析し、労働力の適切な活用方法や効率化の提案を行うことで、生産コストの削減や生産性の向上に寄与します。
総じて、生産管理コンサルタントは、製造実績の要素である生産品入庫、構成品出庫、および作業時間について深い理解を持ち、これらの要素を正確に計上・管理することで、企業の生産管理や経営判断に重要な情報が提供されるようにサポートします。さらに、生産管理コンサルタントは、顧客企業の生産プロセスを総合的に評価し、適切な改善策や最適化戦略を提案することで、生産効率の向上やコスト削減に貢献します。
これに加えて、生産管理コンサルタントは、最新の技術や業界標準にも精通していることが求められます。例えば、IoTやAIを活用した生産管理システムの導入や、スマートファクトリーへの移行など、最新の技術を適切に取り入れることで、顧客企業の競争力をさらに高めることができます。
生産管理コンサルタントは、生産品入庫、構成品出庫、および作業時間という3つの要素に焦点を当て、これらの要素がどのように企業の生産管理や経営判断に役立つかを詳細に説明することが重要です。また、生産管理コンサルタントは、顧客企業の生産活動の最適化や競争力向上にどのように寄与するかを明確にすることが望ましいです。