「SAP PPの教科書」No.10 生産計画概要
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はじめに
本記事では、SAP S/4 HANAにおける生産管理(PP: Production Planning)モジュールの生産計画と、生産計画ごとのトランザクションについて、専門的かつ詳細に解説します。このようなプロセス全体の概要を理解することで、それぞれのトランザクションの細かい動作が把握できるようになります。初心者の方でも分かりやすいように、PPモジュールの全体プロセスを解説していきます。
1. 生産計画のプロセス
生産計画は、以下の4つのステップで進行します。
- 計画独立所要量登録または受注登録
- MPS・MRP(所要量計画)
- 生産能力所要計画
- 計画手配→製造指図・購買依頼へ変換
生産計画は、主にこれら4つのプロセスの順番に進行します。それでは、各計画を詳しく解説していきます。
2. 計画独立所要量登録または受注登録
まず、生産計画のベースとなる製品の数量を登録します。見込生産の場合は、計画独立所要量登録を行い、対象の製品がいくら必要なのかを「計画独立所要量」として登録します。計画独立所要量は、月・週・日と登録する単位を指定できます。例えば、日単位に、何日にいくら生産が必要なのかをT-code:MD61で登録していきます。見込生産の場合は、T-code:MD61で登録された、計画独立所要量をもとに生産計画が立てられていきます。一方、受注生産の場合は、製品の受注数量をもとに生産計画が立てられます。受注登録は、T-code:VA01を使用して行います。
3. MPS・MRP(所要量計画)
次に、MPS・MRP(所要量計画)を行います。計画独立所要量登録または受注登録で登録された情報をもとに、製品に紐づく「半製品」・「原材料」がいくら必要なのかを算出します。この計算は所要量計算と呼ばれます。MPS(Master Production Schedule)は、半製品のための言葉であり、最終的に製造指図につながります。一方、MRP(Material Requirement Planning)は、原材料のための言葉であり、最終的に購買依頼につながります。MPS・MRPは半製品向け・原材料向けと言葉を使い分けますが、所要量算出の計算ロジックはどちらも同じです。ERP 6.0までは、T-code:MD01でしたが、S/4 HANAからは、T-code:MD01N(MRP Live)を使います。MD01との相違点は、MPS・MRPが一括で実行される点です。データベースがHANAになったことにより、処理が高速化されたため、MPSだけ実行・MRPだけ実行と分けずとも実行可能になったことが背景にあります。
4. 生産能力所要計画
次に、生産能力所要計画を行います。所要量計算をもとに、生産能力計算をします。ただし、所要量計算は、いつまでに・いくら必要かということを計算するのみであり、実際に生産能力を超えた所要量になってしまうこともあります。そのため、生産能力所要計画により、生産の負荷分散をします。生産能力所要計画は、T-code:CM25を使用して行います。この計画により、並列タスクで所要日に生産が間に合うのか、残業や休日出勤で生産しないといけないのか、所要日付を後ろにずらすなど、社内調整をするのかという選択が可能になります。
最後に、計画手配を製造指図・購買依頼へ変換します。MPS・MRP(所要量計算)を行うことで、「計画手配」が登録されます。「計画手配」とは、製造指図・購買依頼の1つ前の状態で、「生産予定」・「購買予定」を表す伝票です。MPS・MRP(所要量計算)後、もしくは生産能力所要計画後に、生産計画として実行可能という判断になれば、「計画手配」を「製造指図」・「購買依頼」に変換します。計画手配→製造指図一括変換は、T-code:CO41を使用し、計画手配→購買依頼一括変換は、T-code:MD15を使用します。
まとめ
ここまで、SAPの生産計画の流れについて解説してきました。要点をまとめると、以下のポイントを理解すれば、OKです。
- 見込生産・受注生産で生産計画のもととなる数量を取得する方法が異なること。
- MPS・MRPでそれぞれ「半製品」・「原材料」の所要量計算が行われること。
- MPSはあくまで必要となる日付しか算出しないため、能力計画を実施する必要があること。
- 生産計画が確定すれば、「計画手配」を「製造指図」・「購買依頼」に変換すること。
生産計画が効率的に立てられるようになると、企業全体の生産性が向上し、顧客への納期遵守や在庫管理の最適化が実現できます。SAP S/4 HANAの生産管理モジュールを使用することで、企業は生産計画の構築、実行、評価を迅速かつ正確に行うことができます。
また、SAP S/4 HANAは機械学習や人工知能(AI)といった先進技術を活用し、将来の需要予測や生産計画の最適化も行うことができます。これにより、企業は市場変動に迅速に対応し、競争力を維持・向上させることができるでしょう。
今回解説した生産計画に関する知識は、生産管理コンサルタントにとって重要な基礎知識です。生産計画に関わる業務に従事する方は、この基本的なプロセスを理解し、適切な計画立案や実行ができるようになることが求められます。SAP S/4 HANAの生産管理モジュールを使いこなすことで、生産計画の効率化や最適化が実現できるため、是非とも学んでおきたい知識です。