SAP界隈はITの中でも異端?他分野との文化の違い
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はじめに
SAP界隈はIT業界の中でも少し特殊な部分があり、Web開発系や業務アプリ開発で経験を積んだエンジニアの参入者が少ない印象があります。
しかし、実際には他分野のエンジニアでも十分に活躍できることは間違いありません。
そこで、異分野からの参入者に向けてSAP業界の特殊性をまとめてみたいと思います。
1.業務知識>技術力な風潮
SAP ERP業界の特徴のひとつに、IT業界にありながら業務知識が重視されるという点があります。
もちろん、どの分野でも業務知識は必要ですが、SAP ERP業界で求められるのは専門性が高い業務知識が多いのです。
例えば、日本で最もよく使われる会計系モジュール開発に携わるには、勘定や仕分け、転記といった知識を学んでおく必要があります。
こうした知識は簿記や経理の実務経験が活きるのですが、一般的なITエンジニアが触れる機会は少ないでしょう。
さらに、製造業のクライアントであればロジスティクス系の知識や、受注→在庫購買→生産といった一連の流れを理解しておく必要があるでしょう。
こうした業務知識の多くは、事業会社の担当者として働くことで身に着けられますが、普通のITエンジニアのキャリアパスからは少し外れています。
SAP ERPは「業務を理解していれば、技術に精通していなくても動きを理解できる」と言われることが多いパッケージです。
クライアントの基幹業務を理解し、パッケージの機能を使ってどう改善できるかを考えるのが主な仕事ですから、技術力が先行している状態では要求に応えにくいのです。
2.すべての機能がミッションクリティカル
SAP ERPは、基幹業務を丸ごとパッケージ化していると言っても過言ではありません。
基幹業務ですから、すべての業務がミッションクリティカルです。
ほかの分野でもミスや不具合は問題視されますが、SAP ERPでは特にその傾向が強いのです。
また、開発時やテスト時には設計書やテスト結果にも頻繁に細かなチェックが入ります。
基幹系システムは、AIやIoT、Webサービスといった機能を組み込みにくく、ITの中では「枯れた分野」とも言われます。
最近になってようやく、こうした先端技術が組み込まれるようになりましたが、それでもまだまだ「安定性」「正確性」が最重要です。
常に100%に近いものを求められる環境は、他の分野に比べてもやや異質かもしれません。
3.モジュール単位でのスキルセットが基準
SAP ERPは、企業内の業務領域を「モジュール」という単位で表現しています。
例えば会計領域は「FI(財務会計)」「CO(管理会計)」、製造や物流は「SD(販売管理)」や「MM(在庫・購買)」といったモジュールが設けられています。
SAP ERPのコンサルタントやエンジニアは、まずいずれかのモジュールに関する仕事を任せられることが多く、自然とスキルや経験はモジュール単位で伸ばしてくことになります。
さらに認定資格制度もモジュールごとに区切られており、どのモジュールでどれだけの経験を積んだかが人材としての評価の基本とになるのです。
もちろん、SEやプログラマーといった職種ごとの評価も存在しますが、基本的にはモジュール単位でスキルを磨いていくことになるでしょう。
4.独自言語「ABAP」
SAP ERP内で用いられる言語「ABAP」は、SAPに携わったことがなければ、まったくと言ってよいほど目にする機会がありません。
いわゆる工業言語で、なおかつ比較的シンプルな構造を持つ、習得しやすい言語です。
しかし、SAP ERP内に標準で搭載されているBAPI(いわゆるサブルーチン、API)との連携や、動的な画面プログラム(Dynpro)など、ほかの言語ではあまり見られない特徴を備えています。
加えて、手動での画面入力を模したバッチインプット処理も実装できることから、多様なデータ登録が実現できる言語です。
ABAPはCOBOLに画面設計とデータベース操作(SQL)を合わせたような言語です。
ただし、徐々にオブジェクト指向言語に寄せられていることから、構造化プログラミングとオブジェクト指向、どちらの知識も必要とされます。
このように多様な特徴を持つABAPですが、とにかく独学で触れる機会がありません。
実質的に、SAPの公式アカデミーで専用のコースを受講するか、実際にプロジェクトで触れるかの2択になるでしょう。
ただし、近年はSAP Learning Hubの中でABAPを学習することができるため、アカデミーに通うことができない場合でもある程度は学習できるようです。
ABAPはSAP ERP以外では使われることがない言語なので、習得のためにどれだけのリソースを割くか悩むエンジニアも多いようです。
実際に旧知のエンジニアの話しを聞くと、javaやC#といったメジャーでクラシカルな言語を習得しつつ、ABAPも見様見真似で書いているうちに自然とスキルが身についたというエピソードが多かったですね。
年配のエンジニアの中にはCOBOLを専門的に扱っていて、初期のABAPにそのまま移行した、というタイプも多いようですが、現在はCOBOLに触れる機会もほとんどありませんから。
まったくの初心者が身に着けるならば、オンライン学習やWeb上での解説サイトを参考にしながら試行錯誤するのが近道かもしれません。
5.他分野からでもSAP ERPに参入可能
ここまで、SAP ERP界隈の特殊な点を紹介してきましたが、基本的にSAP ERP界隈は常に人材不足です。
それゆえに「業務やビジネスをある程度知っていて、なおかつ技術力もある人」はかなり厚遇されます。
もし、事業会社で会計や物流を専門的に担当していて、ITに関してもある程度のリテラシーがあるという方ならば、参入するメリットは大きいでしょう。
また、Webやアプリ開発でオブジェクト指向言語をいくつか習得しているならば、ABAPの習得もそれほど難しくないはずです。
この場合は、まずABAPer(SAP界隈におけるプログラマー)として経験を積み、モジュール別のコンサルタントへとステップアップしていくことができます。
BAPIや汎用モジュールをうまく扱えるようになると、プロジェクトで評価されやすいでしょう。
どちらかといえば閉じた世界と言われるSAP ERP界隈ですが、2027年問題や基幹系システムの人材難もあり、意欲のある人材への門戸は開かれています。
納得がいく単価のプロジェクトが多いので、ぜひ挑戦してみてください。