ユーザー系vsSIer キャリアアップに有利なのはどちらか
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はじめに
日本のIT業界では、エンジニアやコンサルタントのキャリアパスとして「ユーザー系企業」か「SIer」かという議論がたびたび見られます。
近年は内製化やエンジニア不足の流れもあり、SIerの多くは以前ほどの影響力を持っていないように感じます。
しかし、それでも技術力や知見を深めるためにはSIerが適している、という風潮が根強いです。
一方で、ユーザー系企業は業務知識が得られることやプライムベンダーとしての「一次請け」が画定していることなど、SIerにはないメリットがあります。
果たして、キャリアアップの際にはどちらが有利になるのでしょうか。
1.SIerとユーザー系それぞれの特徴とメリット
まずそれぞれの特徴とメリット・デメリットを整理しておきましょう。
1-1.ユーザー企業の特徴とメリット、デメリット
●特徴
・システムのエンドユーザーとして実務を知る
ユーザー企業は自社の業務やプロジェクトのためにITシステムを開発・運用します。
したがって、「使える仕組みかどうか」を常に念頭においた開発・運用を求められ、このことが要件定義や設計のズレを防ぐ思考につながることもあります。
・業界の専門知識を得られる
ユーザー企業は自社の業界に関する専門知識を持つことが求められます。
特に、業界特有のプロセスを理解することは、SAPコンサルタント/エンジニアにとって大きなプラスになるでしょう。
製造業ならば、生産・在庫管理・品質管理などの製造プロセスに関する知識が自然と身に付きます。
また、金融業界ならば会計・リスク管理・取引処理などの金融プロセスに関する知識が必要です。
さらに、業界には特定の法的要件や規制が存在することがあります。
たとえば、医療業界ではHIPAA(保険携帯性および説明責任法)に関する理解が必要であり、金融業界ではSOX法やIFRSなどが重要です。
こうした知識は、システム開発にどっぷり浸かっているだけではなかなか身に付きません。
業務・法規制などを「自分ごと」として扱うユーザー系企業だからこそ得られる経験です。
●ユーザー系企業のメリット
・安定性
通常、ユーザー系企業は何らかの事業会社の子会社、もしくは関連会社という位置づけです。
安定した事業基盤を持つ親会社や持ち株会社がバックについていますから、経営は安定していることが多いですね。
・継続性の高いプロジェクトにスタートからエンドまで関われる
ユーザー系企業では、開発プロジェクトがカットオーバーを迎えた後も、運用保守の中心メンバーとしてアサインされることがほとんどです。
開発から運用保守まで一貫して経験することで、システムのライフサイクルを知り、運用保守を見越した開発や、開発者としての技術レベルを持った上での運用など、自身の力量をバランスよく鍛えることができます。
・リーダークラスの経験が早い段階で積める
ユーザー系企業は、親会社が顧客となるため、立ち位置的には「プライムベンダー」としてプロジェクトに関わることが多いでしょう。
そのため、2次請けや3次請け企業のメンバーを束ね、小規模でありながらもTLやPLといったポジションを経験します。
リーダークラスの経験はSAP業界でも確実にプラスになりますから、この点は大きなメリットです。
●ユーザー系企業のデメリット
・スキルが身に付きにくい
ユーザー系企業は、SIerのように業界や規模のことなる複数のプロジェクトを経験する、というキャリアの積み方が難しくなります。
プロジェクトの内容は親会社の事業に依存するため、業務知識の面でも範囲が狭くなるでしょう。
また、技術も先端的な分野は使いにくく、ある程度保証がとれているものだけを選別する傾向が強いです。
1-2.SIerの特徴とメリット、デメリット
●特徴
・多様なプロジェクト経験
SIerでは異なる業界やプロジェクトに携わる機会が多く、幅広い経験を積むことができます。
これは市場価値を向上させ、将来の雇用機会を広げる要因となります。
・技術的多様性
SIerは様々なクライアントと協力するため、異なる技術スタックやプラットフォームに触れる機会が多いです。
このあたりなSIerの性質や得意分野、クライアントの業界などに依存するのですが、ユーザー系企業に比べると確実に技術力を鍛えられる環境であることは間違いありません。
●SIerのメリット
・市場価値向上
SIerでの経験は市場価値を高めやすい傾向があります。
Slerは数か月~数年でプロジェクト間を移動するのが通例なので、3~5年程度の間にそれなりの経験を積んで転職するという方が珍しくありません。
・多様な経験
異なる業界やプロジェクトに参加することで、幅広い経験を積むことができますね。
業界や技術分野が特定されないので、スキルの幅を拡げるという意味ではユーザー系企業よりも上かもしれないですね。
・人脈が広がる
意外と見逃されがちなメリットですが、SIerではさまざまなベンダー・開発会社から人材が集められます。
悪く言えば寄せ集めなのですが、それなりの規模のプロジェクトになると十分な経験とスキルを持った人材と共に仕事をするため、日々刺激を受けることになります。
経験3~5年程度の間は、プロジェクトメンバーに仕事を教わることも多く、自社の上司や先輩よりも頼りになる存在だったりします。
●デメリット
・プロジェクトの不確定性
SIerでの仕事はプロジェクトごとに環境が変動するため、安定感が低い場合があります。
これは経済的な面よりも「精神面」のほうが大きいですね。
安定したプロジェクトの後に炎上気味のプロジェクトが何度も続く、クライアントと肌が合わないなど、メンタル面に関する課題は次々に発生します。
フリーランスならば、ある程度はプロジェクトを選べますし、こうした環境の変動も「自分のため」と割り切ることができるでしょう。
しかしSIerに勤めている間は組織人ですから、会社の方針に逆らうにも限度があります。
SIerを辞める人のほとんどが、この「不安定な環境と組織人としての縛り」の矛盾に苦しんでいるように思いますね。
・長期的なキャリアプランが立てにくい
SIerでの仕事はプロジェクトベースであり、長期的なキャリアプランを立てにくいことがあります。
多様な経験を積める一方で、どのプロジェクトにアサインされるかは会社の都合によるところが多く、「得意分野の強化/苦手分野の克服」は意外と難しいのが実情です。
そのため、漫然と過ごしていると将来の方向性を決定するのが難しいかもしれません。
2.SAP業界でキャリアアップを目指すなら?
こうしてみると
「ユーザー系企業は安定している一方で、技術力が身に付きにくい」
「SIerは技術が身につくが、プロジェクトを選べず長期的なキャリア形成が難しい」
という具合に、どちらも一長一短であることが理解できると思います。
しかし、業務知識が重視されるSAP業界に限って言えば、ユーザー系企業は決して悪い選択肢ではありません。
SAP ERPや周辺製品の知識習得さえしっかりやっておけば、ユーザー系企業からフリーランスという道も不可能ではないでしょう。
ただし、SAP界隈でフリーランスになる人材の大半がSIerもしくはそれに準ずるような働き方を経験しています。
フリーランスのキャリアで最も重視されるのは「場数」です。
抽象的な言い方になりますが、どのようなプロジェクトでも安定して重宝される人材というのは、例外なく場数を踏んでいます。
場数を踏んでいると、「多様なプロジェクトを経験し、プロジェクトの習慣やクライアントの性質をすぐに読むことができる」ようになるので、短期間で周囲の評価を得やすいのです。
したがって、ユーザー系企業からキャリアをスタートさせる場合は、「プライムベンダーで得たマネジメント経験を、多様なプロジェクトですぐに活かすことができるか」という点が課題になるでしょう。
一般的に技術力を活かすよりも、マネジメント能力や上流での経験を活かすほうが難しいです。
なぜなら、上流工程やマネジメントには企業独自の習慣や風習が絡むため、技術力のように標準化されたスキルとして評価されないからです。
一方、SIerで磨いた技術は、どこへ行ってもある程度は通用します。
一足飛びにマネジメント層を目指さないのであれば、SIer出身として地道に信頼を得てポジションを上げていくという、極めて堅実なキャリアプランが描けるのです。
まとめ
今回はSAP人材のキャリアアップに有利なのはユーザー系企業かSIerのどちらか、という視点を紹介しました。
SAP業界に限って言えば、深い業務知識やマネジメント能力が鍛えられるユーザー系企業も決して悪い選択肢ではありません。
しかし、フリーランスとして活躍したいのであれば、まずは場数を踏むことを目指して多様なプロジェクトを経験しておくべきでしょう。
特にフリーのコンサルタントとして独立を目指すのであれば、2~3年程度かけてさまざまなプロジェクトを経験しておくべきだと思います。