SCMにPLM…ERP関連の重要キーワードを徹底解説
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はじめに
ERPはもはや単一で動く仕組みではなく、多数の周辺システムとの連携によってその価値を発揮するものとなっています。
SAP ERPも、S/4 HANA世代からは企業システムの「核」という位置づけになり、周辺システムとの連携が必須になりました。
そこで今回は、これら周辺システムに関する理解を深めるために、ERP関連の用語をおさらいしておきたいと思います。
1.SCM(SCP)
正式名称:Supply Chain Management、 Supply Chain Planning
現状で最もERPに近い仕組みがSCMです。
システムとしてのSCMはERPとほぼ一体のものとして作られることも多く、日本の製造業ではSCMを実現するためにERPの販売管理や在庫管理機能を使うこともあります。
SCMの考え方自体は1980年代に登場し、1990年代には広く普及しました。
当初は物流と在庫管理に焦点を当てていましたが、時間が経つにつれてより包括的なアプローチに発展しました。
SCMは製品の原材料調達から最終消費者への配送に至るまでの一連のプロセスを管理するアプローチです。
つまり「価値の鎖」を一括で管理する考え方ですね。
これには供給者との関係、製造、配送、在庫管理が含まれます。
また、システムとしてのSCMの目的は、サプライチェーン全体の透明性の向上、コスト削減、効率の最適化です。
これらを達成するために、リアルタイムデータの分析と応答に重点を置いています。
企業はSCMを活用することで、原料調達から製品の供給までを効率的に管理することが可能です。
実際のシステムではERPや在庫管理システムと連携することが多いでしょう。
需要予測、資源配分、生産計画などが含まれるので、ERPとは非常に近い存在です。
1-1.SCMとERPの違い
SCMでは、原材料の調達、製品の生産、配送の最適化、在庫レベルの管理、サプライヤーとの協力関係の構築などを行います。
例えば、需要予測に基づいて原材料の発注量を自動調整する機能や、輸送ルートの効率化を図るための解析ツールが含まれます。
これに対して ERPは、企業の財務、人事、製造などの内部プロセスを統合するシステムです。
供給網管理は、ERPシステムの中で製造や物流などの外部プロセスと連携する部分に相当します。
ERPにおいては、SCM関連のデータが財務や製造など他の部門と連携し、全社的な資源の最適化に貢献します。
ちょっと理解しにくいと思うのですが、簡単に言えば「システムとしてのSCMはERPに内包されやすい」と考えて良いでしょう。
SCMに求められる機能の大半はERPが持っていますし、実際にSAP ERPでもコンサルト資格の一部は「SCM-ERP6.0」のような表記です。
考え方としては異なるが、実際のシステムとしては融合しつつある、という理解でよいと思います。
2.PLM
正式名称: Product Lifecycle Management
PLMは製品のライフサイクル全体を通じて、アイデアから廃棄まで、製品情報を統合し管理するプロセスです。
PLMは2000年代初頭に普及し始めました。
製品開発が複雑化するにつれ、一貫したデータ管理とプロセスの統合が重要になりました。
PLMは製品設計、開発、製造、サポート、廃棄を統合します。
したがって、製品に関する詳細なデータ管理が何よりも重要です。
企業ではPLMを使用して製品開発プロセスを合理化し、コストを削減し、市場投入時間を短縮します。
また、製品の品質とコンプライアンスを保証するのにも役立ちます。
2-1.PLMとERPの違い
PLMは、製品の設計、開発、試作、製造、販売、廃棄に至るまでの全プロセスを管理します。
例えば、設計データの管理、変更履歴の追跡、製造プロセスのシミュレーションなどが管理対象ですね。
一方、ERPは製品の製造や販売プロセスを管理しますが、製品のライフサイクルは管理していません。
ERPとPLMが連携することで、製品データの整合性が保たれ、開発から製造、販売までの全データが得られるようになり、品質改善や機能の取捨選択などが進むでしょう。
3.CRM
正式名称:Customer Relationship Management):
CRMは顧客情報の管理と分析、顧客との関係の強化に焦点を当てた戦略です。
CRMシステムは顧客データの集約、分析、活用を行います。
これにより、パーソナライズされたマーケティング、セールス、サービスの提供が可能になります。
CRMは1990年代に登場しましたが、2000年代に入るとインターネットとモバイルテクノロジーの台頭とともに急速に発展しました。
ガートナーが毎年公開しているトレンド予測では、2019年頃からERPよりも重要な位置を占める存在として紹介されています。
それまでエンタープライズITの王者であったERPを抜き去り、今では企業の最重要システムとして位置づけられるのがCRMです。
企業はCRMを使用して顧客満足度を向上させ、リピート購入や顧客ロイヤリティを促進します。
また、販売機会の識別や効率的なマーケティング戦略の策定にも役立ちます。
3-1.CRMとERPの違い
CRMは、顧客データの収集・分析、マーケティングキャンペーンの管理、営業活動の追跡、顧客サービスの提供などを行います。
例えば、顧客の購買履歴や嗜好を分析し、パーソナライズされたマーケティングを実施する機能が含まれます。
ERPが対象とするのは主に企業内部のデータや業務プロセスですが、CRMは外部の顧客関係に焦点を当てます。
ERPとCRMが連携することで、顧客のニーズをより深く理解し、製品やサービスの提供を最適化することが可能です。
実際に近年は、ERPとCRMが融合しつつあります。
SAP ERPでも顧客管理機能が実装され始めましたし、そのほかの外資系ベンダーが提供するERPにもCRMの機能が一部内容されています。
SCMと同じように、CRMはERPと切っても切れない関係にあり、ERP業界の人間もある程度は知識をつけておく必要がありそうです。
4.MRP
正式名称:Material Requirements Planning
MRPは製造業における在庫管理と生産計画のためのシステムです。
生産に必要な材料とコ部品を計算し、正しい時期に、正しい量で手に入れることを目的としています。
MRPは在庫レベルの最適化、生産スケジュールの効率化、資源配分の改善を目指します。
MRPは1960年代に登場し、1980年代にはMRP II(Manufacturing Resource Planning)として進化しました。
また、MRPを発展させた考えかたがERPとも言われており、ERPとは非常に関係が深いことでも知られています。
これは、ERPパッケージの中に必ずMRP計算の機能が実装されていることからも明らかです。
製造業の企業はMRPを使用して生産効率を高め、在庫コストを削減し、顧客への納期遵守に役立てます。
また、生産プロセスの透明性と追跡可能性も向上させます。
4-1.MRPとERPの違い
MRPは、生産に必要な材料と部品の量とタイミングを計画します。
これには、在庫レベルの管理、生産計画の作成、購買発注の自動化などが含まれます。
ERPとMRPの区分けは非常に難しいのですが、強いて言えば、ERPは販売や会計などの機能が統合されているため、対象範囲がより広いと言えるでしょう。
ERPの核がMRPであり、ERPが管理する企業内の資源と密接に関連しています。
実際の製品としてMRPが単体で提供されているわけではないので、「ERPの核の一つ」と考えておけば良いと思います。
ちなみにSAP S/4 HANAではECC6.0に比べてMRP計算の高速化が謡われています。
まとめ
今回はERPに関連が深い用語/システムを網羅的に解説してみました。
繰り返すようですが、ERPはもはや単体で動くシステムではありません。
そのため、SAP ERP業界で働くかたも、周辺システムの知識をつけておく必要があります。
もっとも、プロジェクトに参加すると、これら周辺システムがレガシーシステムとして稼働していることも多いので、ある程度は自然に身につくことでしょう。
しかし、連携部分の要件定義や開発においてはより深い知識が必要とされますから、SAPがリリースしているERP以外の製品について学ぶなど、自己研鑽を積んでおきたいところです。