クリーンコアとは?SAPが提唱する新しいERP戦略
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はじめに
今後のERP業界は、アドオンをいかに減らすか?という点が焦点になってくるでしょう。
そこで覚えておきたいのが、SAPが提唱する新しい戦略「クリーンコア」。
まだ日本ではそれほど一般的ではありませんが、標準をいかにうまく使うか?という点で覚えておくべきことが数多くあります。
今回は、SAPの新しい戦略「クリーンコア」について解説します。
1.クリーンコアアプローチとは?
クリーンコアアプローチとは、SAPオブジェクトとアドオンのカスタムコードを分離し、標準のオブジェクト(コア)をクリーンに保つことを目指そうというアプローチです。
これまでのSAP ERPはABAPなどによってSAPオブジェクトを使用し、直接変更などが可能でした。
しかし、この状態が長く続くと、アドオンと標準が入り組んだ状態になってしまい、不具合の増加やテストの長期化など、さまざまなデメリットが発生します。
今までの日本国内のプロジェクトがまさにこの状態だったわけです。
ただし、従来のSAP ERPも直接SAP ERPのデータベースにアクセスすることはせず、BASIS経由でデータの読み書きを行っていました。
このことから、クリーンコアは昔からある考え方とも言えます。
少し話がそれましたが、要は「SAP標準のコア機能にはあまり手を加えず、カスタマイズやアドオンと疎結合な状態を作ろう」というのがクリーンコアアプローチの概要です。
1-1.BTPを使い、カスタマイズとアドオンは分離
もう少し踏み込んでクリーンコアを見ていくと、BTP(SAP Business Technology Platform)の存在が見えてきます。
SAP BTPとは、クラウドベースのビジネステクノロジープラットフォーム、簡単に言えばカスタマイズや開発を行うための環境でしょう。
SAPの解説では「先進的な技術をベースにした、ローコード・ノーコードでビジネスアプリケーションを拡張・融合できるプラットフォーム」としています。
アプリ開発・実行、データ管理、データ分析、自動化、機械学習やAIなどをひとつのプラットフォーム上で提供するもので、機能の数は100に迫る勢いです。
SAP BTPは、SAP HANA Cloud Platform(SCP)を源流としており、SAP Cloud Platform(SAP CP)を経て、2021年から現在の姿になりました。
SAP CPまではアプリケーション開発・統合プラットフォームという位置づけでしたが、SAP BTPになると対象範囲を広げ、「ビジネス全体」をカバーする技術的プラットフォームに変更されています。
クリーンコアでは、このBTPを使用して、従来のカスタマイズやアドオン開発などを吸収していく考えです。
つまり、Fit to Standardの考えに基づき、ERPそのものにはなるべく手を加えずに、業務とのギャップをBTP上の拡張によって賄うわけです。
2.クリーンコアのメリット
次にクリーンコアのメリットを整理してみましょう。
現役のSAP ERP人材であれば「カスタマイズやアドオン開発がやりにくそうだし、効率が悪いのでは?」と感じるかもしれません。
確かにそういう側面があるとは思いますが、そもそもクリーンコアは「カスタマイズやアドオンを最小化する」ことも念頭に置いています。
なので、カスタマイズやアドオンありきの開発・運用からは一旦離れて考える必要がありそうです。
ちなみにクリーンコアがもたらすメリットとしては、下記が挙げられています。
・必要に応じて機能を必要最低限の拡張を行うことでビジネスの俊敏性を向上
・SAP 標準の新しい機能をそのまま使用することで、さまざまな工数を削減
・データの品質と可用性の向上により、的確で迅速な意思決定を実行
・部門間のサイロを解消することで共同作業を促進
・適切な人材を適切なプロジェクトにつなげ、プロセスを最適化
・保守ではなくイノベーションにリソースを割り当てられる
・規制の変更に迅速に対応し、コンプライアンスの追跡、監査、レポートを簡素化
・最新のアップグレードと最先端イノベーションによってセキュリティを強化
全体的に「迅速さ」「簡易さ」「最新機能をすぐに使える」といった内容が強調されています。
これまでの日本企業は、どちらかと言えばSAP ERPの新しい機能よりも、自社で開発したアドオン機能に重きを置いてきました。
しかし、Fit to Standardの流れが加速する中で、これまでと同じような独自機能の開発が難しくなっています。
今後は、クリーンコアアプローチに従って、「SAP ERPを素直に使う」ことが求められるのかもしれません。
まとめ
今回は、SAPの新戦略「クリーンコア」の概要とメリットなどを開設しました。
クリーンコアは、日本型のERP導入、つまり「Fit&Gap分析を行い、標準機能と業務の差をカスタマイズ+アドオン開発で埋める」というやり方とは、全く異なるアプローチです。
ローコードツールを基本としながらも、プロコードツールであるSAP Build Codeを提供するなど、業務特化人材・技術特化人材の双方をSAP ERPに参画させる工夫もあります。
今後は、BTP上でのカスタマイズ・開発が主流になっていくのかもしれません。
クリーンコアの概念と同時にBTPの扱いも学んでおきたいですね。