グリーンフィールドは本当に最適解?ブラウンフィールドとの比較や問題点を整理
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はじめに
2027年問題に対応するための選択肢としてグリーンフィールド、ブラウンフィールドの2つがあるとされています。
どちらのアプローチを選択するかは、企業の現在のシステムの状態、業務の複雑さ、将来のビジネス戦略、リソースの可用性など多くの要因に依存します。
そのため、どちらが正解かはケースバイケースです。
しかし、日本ではどちらかといえばグリーンフィールドが最適解とされる風潮が強くなっています。
イノベーションという意味では正解ですが、果たして本当にグリーンフィールドが正解なのでしょうか。
今回はSAP導入の2大手法、グリーンフィールドとブラウンフィールドについて違いや問題点を整理してみます。
1.グリーンフィールド、ブラウンフィールドとは
グリーンフィールドとブラウンフィールドは、ERPシステムの導入戦略として用いられる用語です。
まずこの2つの用語の内容をおさらいしておきましょう。
1-1.グリーンフィールド
グリーンフィールド戦略は、文字通り「未開の地」から新しいシステムを導入する方法を指します。
グリーンフィールドでは、企業はERPシステムをゼロから構築し、既存のシステムやプロセスに縛られることなく、最新の技術やプロセスを導入できるという利点があります。
グリーンフィールドでは、最先端の機能を利用でき、カスタマイズが容易です。
ただし投資コストが高く、導入までの時間が長くなることがデメリットとして挙げられます。
2027年問題では、SAP S/4HANAへの移行が必要とされており、グリーンフィールドアプローチが選ばれることがよくあります。
新しいERPシステムを導入することで、ビジネスプロセスを根本的に見直し、DXを推進する大きな機会となる、というのがその背景にあるようですね。
また、最新のテクノロジー(AI、機械学習、ビッグデータ等)を統合することで、より洗練されたビジネス運営が実現できるというメリットもあります。
1-2.ブラウンフィールド
一方、ブラウンフィールド戦略は、既存のシステムやインフラを基盤として、そこに新しい要素や改善を加えていく方法です。
既存のデータやプロセスを部分的にアップグレードし、新しい技術を統合していきます。
グリーンフィールドとは異なり、既存の資源を最大限に活用するため、初期投資を抑えることができるというメリットがあります。
その反面、古いシステムの制約により最新技術の完全な活用が難しくなることがあります。
また、技術だけではなく、業務プロセスも旧来のやり方を踏襲しなくてはなりません。
DXという観点から見れば問題が多いかもしれないですね。
しかし、既存のシステムやプロセスがある程度の機能を持っていれば、ブラウンフィールドはかなり優秀です。
旧来の基盤の上に新しいシステムを構築することで、過去の投資を活用しながら、段階的に最新の技術に移行することができますから。
資源の有効活用という意味では、グリーンフィールドよりも圧倒的にコスパが良いのはブラウンフィールドです。
実際に、これまで日本のIT業界はブラウンフィールドモデルによるアプローチを長年続けてきました。
既存システムの上に新たな機能をかぶせて、さらに業務プロセスも少しずつアップデートしながら、何とか「使える」ものを仕上げてきたわけです。
したがって、ノウハウの蓄積という観点で言えばブランフィールドのほうが有利になることは自明です。
2.なぜここまでグリーンフィールドが持て囃されるのか
しかし、近年はグリーンフィールドによるシステム導入が「正」とみなされる動きが強くなってきました。
これまでブラウンフィールドで散々ノウハウを積み上げてきたにも関わらずです。
なぜでしょうか。その理由は以下2つに集約されると思います。
2-1.EOSが迫っているから
身もフタもない話ですが、SAPに限らず、日本企業の多くは「今使っているツールがサポートされなくなるので」というタイミングでシステムの切り替えを検討することが多いです。
よくネットで見かける「新規性」「革新性」よりも、「もう使えなくなるから」という理由のほうが圧倒的に強いのです。
これはERPだけではなく、CRMなど別領域のエンタープライズITでも同様です。
この時点である程度お分かりだと思いますが、要は「サポートされなくなって使えなくなるのだから、この機会に新しいものを入れてしまおう」というニーズがあるわけですね。
グリーンフィールドを支えているのは、この点が大きいと感じています。
2-2.そもそもDXのきっかけがないから
「DX(デジタルトランスフォーメーション)」は、もはや日本企業の多くが立ち向かうべきテーマとして浸透しました。
しかし、DXに舵をきって悠々と進める企業は非常に限られています。
EOSの話でも触れましたが、「使えなくなるから新しいものを」という理由がなければ、なかなか新システムへの移行が進みません。
裏を返せば「使えるならこのまま使い続けよう」という論調が強いわけです。
となると、ビジネスカルチャーの大変革を謳い文句にするDXに対しても同じ理屈が働きます。
つまり、「今のままで事業が回っているなら、そのまま進もう」というものです。
DXは経営層のみならず、現場レベルの業務プロセスまで変革することが多いので、当然のことながらシステムも新しくなります。
EOSが来ない限りは今のままでよいというのならば、DXのタイミングは永遠にこない可能性もあるわけです。
「時代はグリーンフィールドによる新システム移行だ!DXのきっかけだ!」という半ば強引な理由でもなければ、DXのきっかけすらつかめない企業が多く存在することは知っておくべきかもしれません。
3.グリーンフィールドの問題点
グリーンフィールド自体は良くも悪くも「方法論」であり、善悪を伴うものではありません。
しかし、いくつかの問題点があることは確かです。
・膨大なイニシャルコスト
SAP S/4 HANAを筆頭に、グリーンフィールドを推進しているシステムの多くはクラウド型です。
オンプレミスに比べるとイニシャルコストは低いのですが、システム構想や要求定義、要件定義など上流工程に要するコストを考慮すると、実はあまり変わらないことがあります。
・人材不足
2つ目の問題点は人材不足です。実務上はここが最も深刻かもしれません。
グリーンフィールドは上流工程のみならず、実装の段階で多くの人材が必要とされます。
SAP ERPであれば旧システムのアドオンプログラムの整理と再編、新たな設計書類の書き起こし、テスト関連、マニュアルの新規作成など膨大な実装業務が発生しますよね。
これを賄うだけの人材は当然社内では足りず、SIerの力を借りなくてはなりません。
・ノウハウの総量が絶対的に不足している
3つ目の問題点は、ノウハウ不足です。
これは単に導入先、導入元というくくりではなく、業界全体のノウハウですね。
ブラウンフィールドであれば、実績のあるシステムをベースにしますから、最悪の場合でも社外からノウハウを仕入れることができます。(もちろんコストはかかりますが)
しかしグリーンフィールドで新システムとなると、「誰も試していない機能」を「新しい業務プロセス」に適用するケースが多くなり、不具合や障害発生時の解決事例がありません。
極端な例になるとコンサルティングファームやSIerにすらノウハウがない可能性もあるわけで、そうなると文字通り「手探り」で運用を固めていかなくてはなりません。
もちろん、独自のノウハウを蓄積するには良い機会ですが、あまりにも時間を要すると上層部から「失敗」と判断されかねないというリスクもあります。
4.選択データ移行という選択肢
このようにグリーンフィールドにもさまざまな問題点があります。
とはいえ、EOSの絡みからブラウンフィールドにも戻れない、というのが実際の企業の判断であるはず。
この場合は、両者の中間である「選択的データ移行」という選択肢もあります。
現在利用している旧システムから業務データを徐々に新システムに移行し、データがしっかり使えるように範囲を限定して新システムの開発を進めていく方法です。
この方法ならば、グリーンフィールドで問題になりがちな「イニシャルコスト」「人材不足」「ノウハウ不足」のショックをやわらげることができます。
SAPでもこの選択データ移行という折衷案を実現するために「SAP DMLT(Data Management and Landscape Transformation)」というツールを提供しているので、ご存じない方はチェックしてみてください。
まとめ
今回はSAP S/4 HANAへの移行で論じられるグリーンフィールドやブラウンフィールド、そして第三の選択肢としての選択データ移行について紹介しました。
選択データ移行は、日本企業の現実的な解決策となる可能性が高いです。
SAP業界に属する人材も、選択データ移行の手法やツールについて、理解を深めておくべきでしょう。