SAP Business SuiteとECC,HANAの違いとは?
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はじめに
2024年現在、SAP ERPにはさまざまな呼称があります。
特に多いのが「SAP Business Suite」、「SAP ECC」、「S/4 HANA」、「HANA」という4つではないでしょうか。
これらは同一の製品を指しているわけではありません。
しかし、いずれもERPに関連した呼称です。
そこで今回は、意外とよくわかっていないSAP ERPに関する製品の違いを整理してみたいと思います。
1.「4つの呼称」の意味は?
結論から言うと「SAP Business Suite」、「SAP ECC」、「S/4 HANA」、「HANA」という4つの呼称は、下記のような意味を持っています。
・「SAP Business Suite」…SAPの企業向けIT製品群をまとめたもの
・「SAP ECC」…オンプレミス型のSAP R/x世代のバージョン
・「S/4 HANA」…インメモリDBを採用した最新世代のERP
・「HANA」…SAPが2010年にリリースしたインメモリDB
こうして並べてみると、まったく意味の異なる言葉であることがわかると思います。
ではそれぞれの内容をもう少し具体的に掘り下げてみましょう。
2.SAPの製品群「SAP Business Suite」
SAP Business Suiteは、企業の業務プロセスを効率化し、統合管理を可能にするための一連のソフトウェアアプリケーションを提供します。
これらのアプリケーションは、以下のような主要な業務領域をカバーしています。
ERP(Enterprise Resource Planning): 企業資源計画システム。
財務管理、人事管理、製造、供給連鎖管理など、企業の基本的な業務プロセスを統合し、一元管理します。
CRM(Customer Relationship Management): 顧客関係管理。
顧客との関係を強化し、販売、マーケティング、カスタマーサービスを効率化します。
SCM(Supply Chain Management): 供給連鎖管理。
原材料の調達から製品の出荷までの供給連鎖全体を最適化します。
SRM(Supplier Relationship Management): 仕入先関係管理。
仕入先との関係を管理し、調達プロセスを改善します。
PLM(Product Lifecycle Management): 製品ライフサイクル管理。
製品の設計、開発、生産、廃棄までの全過程を管理します。
2-1.そもそも「Suite(スイート)」って何?
要は「企業活動を支えるエンタープライズIT製品をまとめたセット」のような位置づけなのですが、「Suite(スイート)」という言葉がややこしさを助長していると思います。
そこでスイートという言葉の意味も理解しておきましょう。
「ソフトウェアスイート」という言葉は、複数のソフトウェア、アプリケーションやプログラムが一つのパッケージとしてまとめられているもの(状態)を指します。
スイートは、共通の目的や業務を支援するために設計されており、相互に連携して動作することで、より効果的にタスクを遂行できるようにします。
そもそもスイートに含まれる製品は、単体でも販売されています。
これはSAPに限らず、どのベンダーでも同じです。
ただし、セット化することで製品選定の手間がなくなったり、販売元から特別なサポートが受けられたりと、さまざまな恩恵があります。
販売元としても「セットで買ってくれる優良顧客」を狙い撃ちできるのでメリットがあるわけですね。
3.R/x世代の最新版「SAP ECC」
SAP ECC(SAP ERP Central Component)は、ドイツのソフトウェア企業SAPが提供する企業資源計画(ERP)ソフトウェアの中心的なコンポーネントです。
ECCは、企業がさまざまなビジネスプロセスを統合し、管理するための強力なツールを提供します。
いわゆる「SAP ERP」と呼ばれるものの本体ですね。
SAP業界の方であればまず耳にしたことがある言葉だと思います。
具体的な内容は割愛しますが、FI、CO、SD、MMといった主要モジュールで構成された従来型ERPパッケージと考えて差し支えありません。
ここで気になるのが「R/3」との関係性です。
ECCはR/3の後継製品と言われています。
しかし両者の違いを明確に述べられる人は意外と少ない印象です。
SAP R/3も典型的な従来型ERPの呼称ですが、ECCとはいくつかの点で違いがあります。
3-1.ECCとR/3の違い
SAP R/3は、1992年にリリースされたSAP ERPの第三世代製品です。
「R/3」の名前は、3層のアーキテクチャ(プレゼンテーション層、アプリケーション層、データベース層)に由来しています。
一方、SAP ECCは、SAP R/3の後継バージョンであり、2004年にリリースされました。
ECCは「ERP Central Component」の略で、SAP ERPの中心的なコンポーネントとして位置づけられています。
SAP ECCは、R/3に比べて機能が強化され、より柔軟でスケーラブルなソリューションを提供します。
3-2.ECCとR/3の主な違い
ECCとR/3は次の点で違いがあります。
アーキテクチャと技術基盤:
SAP R/3は3層アーキテクチャを採用しており、従来のオンプレミス環境で動作します。
SAP ECCは、インターネット技術やWebベースのインターフェースを組み入れており、根本的な部分はR/3と同一ながらも技術基盤の刷新が行われています。
機能強化:
SAP ECCは、SAP R/3の機能を基にしており、さらに多くの機能とモジュールが追加されています
統合性と拡張性:
SAP ECCは、他のSAP製品(例えばSAP CRM、SAP SCM、SAP SRMなど)とより密接に統合されています。
また、柔軟なカスタマイズと拡張も特徴のひとつです。
3-3.「202x年の崖」の根拠となっているSAP ECC
数年前に国が「2025年の崖」という言葉を発し、バズワードになりました。
レガシーシステムがビジネスに及ぼす影響を危惧した言葉でしたが、この「2025年」はECC6.0のサポート期限でもありました。
シェアの大きいSAP ERPのサポート期限を、「レガシーシステムからの脱却を目指すべき最終ライン」として意識づけたものと考えられます。
実際にSAP ECCのサポート期限が2027年に延長されると、「2027年の崖」という言葉に変わりましたよね。
SAP ECCの影響力がよくわかる出来事だと思います。
4.ECCの後継 第4世代ERP「SAP S/4 HANA」
ECCの後継として2015年に正式リリースされた最新世代のERPがSAP S/4 HANAです。
こちらも具体的な説明は割愛しますが、インメモリDBであるHANAを採用したことで、全体的なパフォーマンスが大幅に向上しました。
R/3のような3層モデルではなく、なおかつECCのようにHDDベースのDBでないのであらゆる処理が高速です。
また、データモデルの簡素化や開発プロセスの合理化および外部化など、さまざまな革新的技術が導入されています。
「リアルタイム性」「周辺システムとの連携」という2点については、過去のSAP ERP製品を置き去りにしているといっても過言ではないでしょう。
5.S/4 HANAの基盤技術「HANA」
S/4 HANAに先駆けて2010年にリリースされたのがインメモリDB「HANA」です。
HANAは簡単に言えばDB技術であり、S/4 HANA(ERP)の一要素です。
技術的な特徴をすべて上げると膨大になるので、ここでは主要なもののみ紹介します。
5-1.インメモリーデータベース技術
SAP HANAの最も特徴的な技術は、インメモリーデータベース技術です。
データを主記憶(RAM)に格納することで、ディスクI/Oを最小限に抑え、データアクセスの速度を劇的に向上させます。
従来のディスクベースのデータベースに比べて数百倍の処理速度を実現しています。
また、データの格納方法として「列指向ストレージ」を採用しており、圧縮率が高く、分析クエリの性能が向上します。
列単位でデータを格納することにより、特定のカラムに対するクエリ処理が高速化されるため、分析処理において優れたパフォーマンスを発揮します。
5-2.効率的なデータ圧縮
SAP HANAはデータ圧縮技術にも優れており、辞書圧縮とランレングスエンコーディングを用いてデータを効率的に格納します。
辞書圧縮では、頻繁に繰り返される値を辞書に格納し、データの格納サイズを減少させます。
また、ランレングスエンコーディングは、同じ値が連続する場合にその値と連続する回数を記録することでデータを圧縮します。
さらに、トランザクションデータはデルタストレージに格納され、定期的にメインストレージに統合されるため、書き込みパフォーマンスが向上することも見逃せません。
5-3.マルチモデルデータベースサポート
SAP HANAは、リレーショナルデータ、グラフデータ、文書データ、時系列データなど、さまざまなデータモデルをサポートしています。
しがたって、単一のプラットフォームで複数のデータモデルを処理でき、データの統合が容易になります。
たとえば、ビジネスデータをリレーショナルモデルで管理しつつ、ソーシャルネットワークデータをグラフモデルで分析することが可能です。
まとめ
今回は、SAP ERPにまつわる4つの呼称について具体的に解説しました。
こうして整理してみると全く違う言葉なのですが、混同されることも多いのでしっかり理解しておきたいですね。