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SAPによるモダナイズとは?なぜモダナイズは難しいのか

はじめに

近年、SAP界隈で「モダナイズ」という言葉を目にする機会が増えました。

モダナイズとは、ご存じのとおり「近代化」「現代化」を意味する言葉です。

振り返ってみれば、SAP界隈は常にモダナイズをテーマにしてきたイメージがあります。

ではなぜ、今モダナイズが叫ばれるのか。

その背景には、モダナイズの難しさがあるようです。

今回は、SAPによるモダナイズの定義や難しいとされる理由をまとめてみたいと思います。

 

 

 

1.そもそもモダナイズとは

まず、モダナイズという言葉の意味をはっきりさせておきましょう。

モダナイズとは、「対象を現代の基準や技術に合わせて更新・改良すること」を意味します。

 

例としては、下記のようなものが挙げられます。

・ビジネスプロセスのモダナイズ

一般的には、企業の業務プロセスを最新の方法論やツールを使用して効率化・最適化することです。

例えば、ある企業が紙ベースの承認プロセスを使用しているとします。

モダナイズするために、電子署名とワークフロー管理ツールを導入し、承認プロセスをデジタル化します。

 

・ソフトウェアのモダナイズ

古いソフトウェアシステムを最新の技術スタックやアーキテクチャに移行することを指します。

1990年代に開発した顧客管理システム(CRM)を使用しているとします。

このシステムは古いプログラミング言語で書かれており、メンテナンスが困難です。

このシステムをモダナイズするために、最新のプログラミング言語やクラウドベースのインフラに移行し、モバイルデバイスからもアクセス可能にします。

 

このようにモダナイズは、簡単に言ってしまえば現代化や近代化です。

しかし、「何をもって現代化、近代化とするか」はその時々で変わります。

現代や近代という言葉は相対的ですから、10年前のモダナイズと現在のモダナイズは当然のことながら意味が変わるわけですね。

 

 

1-1.SAP業界におけるモダナイズとは

古くなった基幹システムは、企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を進める際の大きな障害です。

長期・安定稼働という利点がある一方で、環境変化への対応が難しく、運用コストが増大するというデメリットがあるからです。

IT人材の不足が深刻化する中、レガシーシステムの運用に人材を割くことは難しくなってきました。

より効率的で柔軟な運用が可能な基幹システムへの移行が求められています。

ざっくり言えば、これがSAP ERP業界における「モダナイズ」の中身だと思います。

 

 

 

2.基幹システムのモダナイズはなぜ難しいのか

このようにモダナイズは、言葉の定義だけをみればそれほど難しいものではないように感じます。

しかし、実際にはさまざまな理由から「困難」とされているようです。

ここではその一部を整理してみました。

 

 

2-1.レガシーシステムの複雑性

基幹システムは長年にわたって企業活動を支えており、その構造は非常に複雑です。

特に日本企業はモノシリック型(一枚岩型)のシステムを愛用していることが多く、各機能が部品として独立していません。

また、カスタマイズや独自機能が追加されており、これがシステムの複雑化を招いています。

モダナイズに際しては、これら種々の事情をゼロベースで分解し、置き換え、新しいシステムに移行しなくてはなりません。

この「分解・置き換え」にかかる工数が膨大で、最初の一歩が踏み出せない企業が多いですね。

 

 

2-2.互換性と統合の問題

基幹システムは通常、周辺システムやツールと連携しています。

新しいシステムに移行する際、これらの既存システムとの互換性を保つことは大きな課題です。

例えば、既存のデータフォーマットや通信プロトコルが新しいシステムでサポートされていない場合、データの移行やシステム間の連携に多大な労力が必要となります。

 

 

2-3.ビジネスプロセスへの影響

基幹システムは企業の日常業務を支える重要な役割を果たしています。

基幹システムを変えるとなれば、ビジネスプロセスに大きな影響を及ぼすことは明白です。

モダナイズの過程でシステムのダウンタイムが発生すると、業務が停滞し、ビジネスに甚大な損失をもたらす可能性があります。

したがって慎重な計画と段階的な移行が求められますが、これがプロジェクトの難易度を一層高めるというわけです。

 

 

2-4.コストとリソースの制約

モダナイズプロジェクトは通常、高額な費用と多くのリソースを必要とします。

新しいシステムの導入、既存データの移行、従業員のトレーニングなど、多くの項目に対する投資が必要です。

また、IT人材の不足が深刻化している現代では、専門的なスキルを持つ人材の確保が難しく、これがプロジェクトの進行を遅らせる要因となります。

 

 

2-5.文化的および組織的な抵抗

企業内には、新しいシステムやプロセスに対する抵抗感が存在することが多いです。

特に、長年使用してきたシステムに慣れ親しんだ従業員にとって、新しいシステムへの移行は大きなストレスとなります。

組織的な抵抗を克服するためには、十分なコミュニケーションと変革管理が必要です。

そして、これもまた大きなコストになります。

 

 

2-6.データ移行の難しさ

我々SAP業界に人間からすると、この点が最大のハードルですよね。

基幹システムには通常、大量の重要なデータが蓄積されています。

このデータを新しいシステムに正確に移行することは技術的に非常に難しく、データの一貫性と完全性を保つことが求められます。

また、データのクリーニングや変換作業が必要な場合も多く、これがプロジェクトの複雑さを増します。

 

 

2-7.規制とコンプライアンスの要件

特に金融や医療などの規制が厳しい業界では、基幹システムのモダナイズに伴う規制対応が大きな課題となります。

新しいシステムがすべての法的要件とコンプライアンス基準を満たす必要があるため、これに対応するための時間とコストがかかります。

 

 

 

3.SAP ERPによるモダナイズとは?

以上を踏まえて、SAPERPにおけるモダナイズを整理してみましょう。

SAP ERPをモダナイズするためには、以下のような技術的および戦略的な要素が必要です。

 

 

 

3-1.クラウド移行とハイブリッド環境の活用

モダナイズの第一歩として、クラウドへの移行が重要です。

クラウドベースのERPは、オンプレミスのシステムに比べて柔軟性が高く、スケーラビリティも優れています。

SAPは「SAP S/4HANA Cloud」というソリューションを提供しており、これを活用することでリアルタイムのデータ処理や分析が可能になります。

また、既存のオンプレミスシステムとクラウドシステムを組み合わせたハイブリッド環境を構築することで、移行のリスクを最小限に抑えつつ、段階的なモダナイズが可能です。

 

 

3-2.RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)とAIの導入

業務プロセスの自動化を進めるために、RPAやAIを導入することが求められます。

SAP ERPの操作をRPAにより自動化することで、手作業の削減と業務効率の向上が期待できます。

さらに、AI技術を活用することで、予測分析や異常検知などの高度な機能を実現し、ビジネスの意思決定を支援します。

例えば、SAPの「SAP Leonardo」はAI、機械学習、IoTなどを統合したプラットフォームで、これを活用することでスマートファクトリーの実現などが可能です。

 

 

3-3.マイクロサービスアーキテクチャの採用

従来のモノリシックなアーキテクチャからマイクロサービスアーキテクチャへの移行も重要です。

システムの各コンポーネントを独立して開発・デプロイできるため、迅速な機能追加や変更が可能になります。

SAPは「SAP Cloud Platform」を通じてマイクロサービスの構築をサポートしており、これを利用することで柔軟でスケーラブルなシステムを実現できます。

 

 

3-4.APIエコノミーの活用

APIを活用することで、SAP ERPを他のシステムやサービスとシームレスに統合することができます。

これにより、サプライチェーン全体の透明性を向上させ、ビジネスプロセスを最適化することができます。

SAPは「SAP API Business Hub」を提供しており、多数の標準APIを利用することで、迅速にシステム間の連携を構築できます。

 

 

3-5.セキュリティとコンプライアンスの強化

モダナイズに伴い、セキュリティとコンプライアンスの強化も重要な課題です。

クラウド環境や新しい技術を導入することで、サイバーセキュリティの脅威が増加するため、包括的なセキュリティ対策が必要です。

SAPは「SAP Trust Center」を通じて、セキュリティ、プライバシー、コンプライアンスに関する情報を提供しており、これを活用することで信頼性の高いシステムを維持することができます。

 

 

3-6.データ管理と分析の強化

リアルタイムでのデータ処理と高度な分析機能を強化するために、インメモリデータベースの「SAP HANA」を活用することが推奨されます。

SAP HANAは高速なデータ処理と分析能力を持ち、大量のデータをリアルタイムで処理することができます。

これにより、ビジネスインテリジェンスを強化し、迅速な意思決定を支援します。

 

 

3-7.ユーザーエクスペリエンスの向上

ユーザーインターフェース(UI)とユーザーエクスペリエンス(UX)の改善も、モダナイズの一環として重要です。

SAPは「SAP Fiori」というモダンなUIフレームワークを提供しており、これを導入することで直感的で使いやすいインターフェースを実現し、ユーザーの生産性を向上させることができます。

 

 

 

まとめ

今回は、SAP ERPとモダナイズについて解説しました。

モダナイズはそのときどきのトレンドや技術を用いますが、往々にして煩雑になりがちです。

SAPにように統合型のパッケージであれば、パッケージが持つ機能を活用してモダナイズしていくことができます。

もちろん、導入・開発にかかわる人材もモダナイズの知見が必要とされますから、顧客事例などを熟読しつつ、モダナイズのニーズをつかんでいきたいですね。

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