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SAPのクラウド移行が進まない理由

はじめに

S/4HANAがリリースされて数年がたちますが、いまだにオンプレ版を支持するユーザー企業が多いとのことなので、その理由を整理して解説します。

 

基幹システムのクラウド化は2010年代中頃から本格的に始まりました。

技術の進歩とともに、堅牢性や信頼性に関する課題が解決され、クラウドのメリットが大きくなったからです。

しかし、SAP ERPに関して言えば、まだまだクラウド化に踏み切っていない企業は珍しくありません。

なぜ、SAPのクラウド移行が進まないのでしょうか。

今回は、SAPのクラウド移行が進まない理由を解説します。

 

 

 

1.SAPをはじめとしたベンダーはクラウド移行を後押し

ERPベンダーとしてトップを走るSAPは、人工知能(AI)技術関連の事業を“成長分野”に位置付けています。

AIがERPに組み入れられるようになると、さまざまな業務タスクが自動化され、省人化や効率化が進みます。

ただし、この裏には「クラウド移行の推進」という大前提があるわけです。

SAPの優先事項は、オンプレミスからクラウドサービス型ERP「SAP S/4HANA Cloud」への移行をユーザー企業に認めさせること。

明言しているわけではないのですが、種々のニュースリリースからこれは明らかです。

 

SAPをはじめとしたベンダー側としては、顧客をクラウドに統一することのメリットが大きいのだそうです。

全ての顧客が同じソースコードで作られたクラウド製品を使用すると、新機能の追加やアップデートを施しやすく、コスト上昇の防止につながるからでしょうね。

 

一方で、海外の調査会社のサーベイによると、SAPは競合するERPベンダーと比べてクラウドサービスへの移行が遅れているとのこと。

特に日本国内は遅れているようで、長く慣れ親しんだオンプレミス型のシステムを改修して使い続けるというユーザーも少なくないのだとか。

 

 

 

2.クラウド移行が進まない理由

なぜここまでクラウド移行が遅れているのでしょうか。

その背景にはいくつかの理由があるようです。

 

 

2-1.SAPのクラウド移行が最優先課題ではない

理由の一つは、SAPがユーザー企業の要望に必ずしも応えられていないことでしょう。

ソフトウェアベンダーの多くは、顧客をクラウドサービスに移行させることに対して、非常に熱心です。

一方で、顧客は既存のERPシステムに満足している、もしくは「現状で何の問題もないので動かしたくない」という本音があります。

また、ERPのクラウド移行よりも優先的に対応する事項があるため、移行を急いでいない可能性もあるでしょう。

これは企業向けIT製品すべてに言えることですが、IT投資を最優先とする企業はまだまだ少なく、多くの企業が「製品開発」や「営業力の強化」にリソースを割きます。

IT投資は攻めの領域にも大きなメリットをもたらすのですが、日本ではまだまだ守りの領域と考えられる節があり、後回しにされがちです。

 

 

2-2.クラウドの機能追加が十分ではない

2つ目の理由として、クラウド版の機能が十分ではないという点が挙げられます。

SAPはAI技術関連の機能を強烈にプッシュしていますが、実際に顧客が欲しがっているのは基本機能の充実だという声があります。

こうした顧客は、「オンプレミス型のパッケージ製品と同等以上の機能性や使い勝手が欲しい」と考えていて、それと比較したクラウド版の機能に不満を持っています。

特に「業界特化の機能」については不満が多いようですね。

もともとSAPは、業界別の特化機能が差別化の柱でした。

しかし、クラウドサービスへの移行ではこの柱がそれほど強調されていません。

ということは、既存顧客が「SAPの強み」と感じている部分に対して、SAPがリーチできていないということ。

もちろん、S/4 HANAは業界別の機能がしっかり搭載していますし、アップデートもされています。

ただし、顧客側の多くは、「これまでSAP ERPがR/3からECC世代で繰り返してきたようなアップデートではない」と感じているようです。

 

 

2-3.コスト面で割に合わない

3つ目の理由は、SAPを利用している顧客がSAP S4/HANAを「高コスト」だと感じていることでしょう。

実際に一部の顧客は、SAPのクラウド移行に対して「投資対効果を見いだしにくい」と考えているようです。

また、既存の業務プロセスとクラウド化を比較した場合に、標準化や自動化が自社の方針には合わないと判断する場合も多いのだとか。

端的に言うと「大規模な予算を組んでまで、現行の業務を変える価値があるのか」という疑問ですね。

特に2023年、一部のAI技術関連の機能が、「RISE with SAP」かクラウドサービス製品のみで利用可能になると発表されたことで、この傾向が一気に強まりました。

「RISE with SAP」は、ERPのクラウドサービス移行を支援するサービス群ですから、「今後の重要な機能追加はクラウド版のみにする」と言っているのと同じことです。

あまり使わない(使う可能性が低い)機能のために、クラウド移行を強制されるのであれば、別のERPに切り替える企業が出てもおかしくはありません。

 

 

 

3.それでもSAPは使い続ける価値がある

これら種々の理由からSAPのクラウド移行は足踏みしている状態です。

しかし、それでもSAPには使い続ける価値があると考えます。

その理由は以下のとおりです。

 

 

3-1.長期的なコスト削減効果

初期導入コストやライセンス費用が高額である点は否めません。

しかし長期的な視点で見ると、SAP ERPの導入による業務効率化や生産性向上により、ビジネス自体の運用コスト削減が期待できます。

また、SAPの標準機能を活用することで、カスタマイズやシステムの運用保守にかかるコストも削減できる可能性があります。

 

 

3-2.高度なセキュリティとコンプライアンス対応

SAPは、最新のセキュリティ技術を採用し、企業データの保護に努めています。

また、グローバルな標準に基づいたコンプライアンス対応が可能であり、国内外の規制に対する準拠を確実にします。

これにより、企業の信頼性を向上させ、リスク管理を強化することができます。

 

 

3-3.継続的なイノベーションとサポート

SAPは常に最新の技術とトレンドを取り入れたアップデートを提供しており、企業が最新のビジネス要件に対応できるようサポートしています。

また、豊富なドキュメントやトレーニングリソース、専門のサポートチームが存在するため、問題発生時にも迅速に対応できる体制が整っています。

サポートを活用するためにはそれなりにコストが必要ですが、SAPのサポートは質が高いです。

ちょっと融通が利かないところもあるのですが、「役に立たない」というケースはほとんど聞いたことがありません。

 

 

3-4.グローバルな導入実績と信頼性

世界中の大手企業がSAP ERPを導入しており、その信頼性と実績は折り紙付きです。

多くの成功事例に裏打ちされたソリューションであることから、業界のベストプラクティスを取り入れた運用が可能となります。

日本企業にとっても、グローバル市場での競争力強化に寄与するでしょう。

 

 

3-5.海外進出時の事業基盤として強い

SAP ERPは、世界中の多言語・多通貨に対応しており、異なる国や地域での業務運営がスムーズに行えます。

現地のビジネス環境に即したシステム運用が可能で、グローバルなビジネス展開をサポートします。

また、各国の法規制や税制に対応しており、グローバル企業が現地のコンプライアンスを遵守するのに役立ちます。

海外進出での法的リスクを低減し、安心してビジネスを行うことができるわけです。

より実務的な視点でいえば、異なる国や地域の拠点間での情報共有と業務連携がスムーズに行えます。

グローバルな視点での経営判断が迅速に行えるようになり、企業全体の統制力が向上するでしょう。

 

 

 

まとめ

今回はSAPのクラウド移行が進まない理由を紹介しました。

経営的な面でいえば「すでに事足りているものにコストを投じるのは無駄」となります。

しかし、クラウド化で事業基盤の強化に成功した事例は山ほどあります。

こうした事例をしっかり学び、SAP ERPを通して価値提供につなげることが、今後のSAP人材に求められているのかもしれません。

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