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【第3回】SAPを導入している企業の事例は?導入による効果と課題を解説
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【コラム監修者 プロフィール】
薮内貴之
SAPベーシスを中心に、SAP導入やインフラ・インタフェース設計を担当。
大手企業のベーシスから出荷まで幅広く支えつつ、周辺システムの設計や運用サポートを経験。
現在は単純なSAPのみならずAWSなどクラウドのインフラを含めてサポート。
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はじめに
中小企業を含めてSAPを利用する機会が増えてきました。
皆さんの周りでも、SAPを導入している企業があるでしょう。そのような状況の中で「自社もSAPを導入した方が良いか」と悩むケースが増えています。
ただ、実際にどの企業が導入しているのかが分からなければ、自社にとって導入すべきかどうかの判断も難しいでしょう。
今回は、大手企業を中心に、SAPを導入している企業について紹介します。
1.はじめに:導入企業はどんなところ?
多くの大手企業や中小企業において、SAPが採用されています。
以前は「大手企業が導入するソフトウェア」という印象が強くありましたが、現在では中小企業でも利用されるようになってきました。
これは、SAP社が新しいクラウドサービスを提供するようになったことが背景にあります。
ただ、依然として大手企業での活用は幅広く、製造業を代表するトヨタ自動車やパナソニック、日立製作所などがSAPを導入しています。
日本国内のみならず、グローバル標準への対応やDX推進の礎として機能しているのです。
2.日本でも多くの企業がSAPを採用している背景
実際の事例は後ほど紹介しますが、日本でも多くの企業がSAPを採用しています。
特に、DXやグローバル展開をけん引する企業がSAPを導入している状況です。
以下で解説する通り、トヨタ自動車やパナソニック、日立製作所などは、全社的にSAPを採用しています。
本社がSAPを利用していることはもちろん、子会社を含めたSAPの活用が日本では広がってきました。
大手企業にSAPが採用される背景には、信頼性と実績が挙げられます。
日本ではソフトウェアの実績が重視されるため、SAPのように世界的に実績のあるソフトウェアが受け入れられやすいのです。
また、SAP社としてもクラウド化やリアルタイム処理に注力しており、需要と供給のマッチ度合いが高いと言えるでしょう。
3.実際にSAPを導入している企業例
続いては、大手企業を中心に、実際にSAPを導入している事例を紹介します。
3-1.トヨタ自動車のケース
トヨタはSAPのインメモリデータベース「S/4HANA」を中心にグループ会計・財務処理の統一を進めています。
2018年にはToyota Motor CorporationがS/4HANAを導入し、グローバル会計基盤の標準化やリアルタイムな経営データ活用を実現したと公表されています。
また、Toyota Indus Motors(子会社)ではS/4HANAによりサプライチェーンのスピードと品質が向上し、納期遵守力と顧客満足度が改善したと紹介されていました。
これらは単なるIT刷新ではなく、トヨタ流の現場主体の改革を基盤にしたERP導入です。
情報の可視化・意思決定の高速化・連携強化といった成果が得られています。
[参考]
3-2.パナソニックのケース
パナソニックは「PX(Panasonic Transformation)」の名の下、グループ全体のDX基盤を強化すべく、「RISE with SAP」「S/4HANA Cloud」「S/4HANA」を活用したクラウドERPへの移行を加速しています。
また、中国子会社においては、「デジタルCNA」プロジェクトとして製販一体化基盤をS/4HANAで構築しました。
導入効果としては、業務標準化、属人的運用の解消、リアルタイム分析環境の整備が期待されています。
さらには環境負荷削減に向けたサプライチェーン可視化など、多面的な改革が進行中です。
[参考]
https://blog.csdn.net/guanshiyishi/article/details/130219295
3-3.日立製作所のケース
日立製作所は1997年からSAPを採用し、2024年時点でグループ34カ国・640拠点・約45,000名が使用する大規模ネットワークを構築済みです。
同社は自社内でのSAP導入ノウハウを提供可能なコンサル人材を多数抱えており、外販向けにも650件を超える構築実績があります。
社内では会計・人事・購買などの業務を統合するための利用が中心です。
また、新型コロナ禍でリモート体制が整い、その中でSAP運用に注力するなど、堅牢な基盤として活用されています
[参考]
https://www.erp-assist.com/list/hitachi.html
4.海外の有名企業の導入例
さらに、海外企業で実際にSAPを導入している事例を紹介します。
4-1.コカ・コーラ:製造と流通の最適化
コカ・コーラでは、グループ会社の多国展開に対応すべく、SAP ERPを導入し製造・流通・物流・財務を統合しています。
特にCoca‑Cola Hellenic Bottling Company(Coca‑Cola HBC)は、SAP Commerce Cloudを用いてB2B注文のオンライン化を実現しました。
非常に多くの顧客が頻繁に注文するシステムを、短期間で構築し業務効率を大きく改善しています。
サプライチェーンの可視化や自動バッチ処理の最適化も進みました。
[参考]
https://www.redwood.com/resource/coca-cola-hbc-case-study/
https://www.sap.com/documents/2023/06/04f2111c-7b7e-0010-bca6-c68f7e60039b.html
4-2.ナイキ:需要予測と供給の統合管理
ナイキは、当初i2 Technologies製SCMで大規模な失敗を経験しました。
その後SAP ERP(Apparel and Footwear Solutions)を導入し再構築に成功しています。
グローバルテンプレートとフェーズ導入により、在庫レベルの適正化、製造リードタイムの短縮、利益率とキャッシュフローの改善を実現しました。
特にS/4HANAへの移行は、デジタル売上の拡大と直接消費者向け販売(D2C)戦略の基盤として機能しています。
[参考]
https://www.scribd.com/document/430198886/220103586-NIKE-ERP-IMPLEMENTATION-pdf
https://www.thestack.technology/nike-digital-revenue-soars/
5.SAPの導入によって得られる主な効果
大手企業のみならず、中小企業においても、SAPの導入によってさまざまな効果が得られます。
具体的にどのような効果があるのか、主なものをピックアップして紹介します。
5-1.データの一元化と「見える化」
SAPの導入によって、大量のデータを一元化できることがメリットです。
特に中小企業では、用途に応じてさまざまなソフトウェアやサービスを導入していることが多く、データが点在しがちです。
しかし、SAPを導入することで、販売・在庫・製造・財務・人事など複数部門のデータを統合できます。
情報の再入力を防止し、リアルタイムで状況を把握することに役立つのです。
また、SAPを利用すれば、情報の見える化も簡単に実現できます。
たとえば、毎月の財務状況を自動でレポート化することが可能です。
現在は専用のツールを用いて可視化している企業も多いでしょう。
しかし、SAPであれば「見える化」まで一貫しておこなえます。
5-2.意思決定のスピードアップ
SAP独自の技術によって、素早く情報をアウトプットできることもメリットのひとつです。
これにより、意思決定のスピードが格段に向上します。
たとえば、「S/4HANA」などを活用したインメモリ分析では、過去の集計処理を短時間で完了できます。
その結果、従来よりも分析処理にかかる時間を圧縮し、意思決定までの時間も短縮されるのです。
トヨタやナイキなどでは、需要変動への対応や不具合の検出などの反応スピードが向上し、経営判断の迅速化に貢献したとされています。
大手企業だけでなく、中小企業でも自動化や処理の高速化と組み合わせることで、意思決定全体のスピードを高めることができるでしょう。
迅速かつ精度の高い意思決定を可能にします。
5-3.業務の標準化と業務品質の均一化
SAPを導入し、業界テンプレートや標準業務プロセスを適用することで、業務の標準化や品質の均一化を図ることができます。
社内の統一はもちろん、グループ全体や拠点間での業務品質を一定に保てる点が大きなメリットです。
中小企業では、拠点ごとに異なるサービスやソフトウェアを導入しているケースがあります。
結果、相互にデータをやり取りしづらいといった問題が生じがちです。
しかし、SAPを導入することで、これらが標準化され、各拠点が持つデータを活用しやすくなります。
6.SAP導入時の課題と解決策
SAPを導入している企業は多く、導入によってさまざまな効果を得られます。
ただし、導入時にはいくつかの課題も存在するため、ここではその内容と解決策について解説します。
6-1.初期コストの大きさ/時間がかかる
基本的に、SAPの導入時には初期コストが大きくかかる点が課題です。
ライセンス費はもちろん、カスタマイズ費やインフラ構築費用など、さまざまなコストが発生します。
また、SAPを使いこなすためには、業務設計やマスターデータの整備、さらには従業員の教育にも追加コストが必要です。
さらに、導入に時間がかかってしまう点も問題となりやすいでしょう。
そのため、簡単に導入できるSAPのクラウドサービスを利用する企業が増えてきました。
たとえば「SAP Business One」など、中小企業向けに提供されている製品があり、スモールスタートが可能です。
規模の小さな企業では、従来型のSAP導入では費用対効果が見合わないケースがありました。
しかし、クラウドサービスを活用することで、最小限のコストで最大限のメリットを享受できるようになります。
6-2.段階的導入・外部コンサルの活用
SAPの導入には専門知識が必要で、全社導入には時間も労力もかかります。
そのため、「段階的導入」というアプローチも検討しましょう。
たとえば、まずは一部の部門でSAPを導入し、その後、順次全社へ展開していくといった方法です。
前述のとおり、近年はクラウドサービスの普及により、全社的な導入もスムーズに行える環境が整ってきていますが、段階的な導入はリスク分散にもつながります。
また、SAP導入に精通した外部コンサルタントを活用することも有効です。
専門家による全面的なサポートを受けることで、短期間かつ正確にSAPを導入できます。
特にSAPは専門知識を要するため、自社だけでの導入には限界があるケースも少なくありません。
SAP公式のパートナー企業や、専用のコンサルティングサービスを活用することをおすすめします。
まとめ
SAPを導入している企業の事例を確認することで、導入による効果を感じていただけたのではないでしょうか。
具体的なケースは大企業が多いものの、中小企業においても同様の効果が期待できます。
現在はクラウドサービスの登場により、初期コストを抑えやすくなったため、費用対効果も得やすくなりました。
ただ、クラウドサービスを用いる場合でも、事前に業務フローの棚卸しやSAPの初期設定が求められます。
また、システムを使いこなすためには、従業員への教育も必要です。
導入事例で見られるようなメリットを享受するためには、多少なりとも負担を受け入れる必要があるでしょう。