SAPのクラウド化・RISE with SAP:第1回:SAPクラウド化とは?クラウドERPへの移行が求められる理由を解説
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【コラム監修者 プロフィール】
薮内貴之
SAPベーシスを中心に、SAP導入やインフラ・インタフェース設計を担当。
大手企業のベーシスから出荷まで幅広く支えつつ、周辺システムの設計や運用サポートを経験。
現在は単純なSAPのみならずAWSなどクラウドのインフラを含めてサポート。
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はじめに
長年、企業の基幹システムとしてSAPが利用されてきました。
以前はオンプレミスでの導入が当たり前でしたが、現在はクラウドへの移行が急速に進んでいます。
クラウドERPによって、柔軟性の向上や運用負荷の軽減など、多くのメリットが得られるためです。
グローバル企業を中心に、日本国内でも導入が進んでいます。
今回は、SAPのクラウド化の概要から導入が進む背景、そしてメリットや注意点まで、体系的に解説します。
1.SAPのクラウド化とは

最初にSAPのクラウド化とは、どのような取り組みかを紹介します。
1-1.クラウドERPとオンプレミスERPの違い
従来主流であったオンプレミスは、自社サーバーでSAPを構築・運用する方法です。
カスタマイズの自由度が高い一方で、ハードウェア調達や保守、セキュリティ管理など運用負荷の高さが課題となっていました。
対してクラウドは、インターネット経由でSAPを利用する方式です。
インフラ管理はベンダー側が担い、利用者は必要な機能をサービスとして利用できます。
サーバー構築が不要で、アップデートも自動適用されるため、運用負荷やコストを大幅に削減できる点が大きな特徴です。
1-2.クラウドERPの基本構成
クラウドERPを理解する際は、以下の3つのモデルを押さえておきましょう。
・SaaS(Software as a Service)
・PaaS(Platform as a Service)
・IaaS(Infrastructure as a Service)
これらを組み合わせることで、企業は必要な機能やインフラを柔軟に構築できます。
なお、SAPのクラウドといえば一般的にSaaSをイメージしがちです。
しかし、IaaS上に独自構築するケースもあり得ます。
1-3.SAPクラウドの種類
SAPのクラウドサービスには大きく分けて2種類あります。
SAP S/4HANA Cloud Public Edition
標準機能を中心とした提供モデルで、導入スピードが速く、自動アップデートが適用されます。
カスタマイズを抑えて標準化を進めたい企業向けです。
SAP S/4HANA Cloud Private Edition
より柔軟な設定・拡張が可能で、既存のSAP ECC環境から移行しやすい構造を持ちます。
カスタマイズを引き継ぎつつクラウド化したい企業に適しています。
2.SAPのクラウド化が注目されている3つの理由
続いて、SAPのクラウド化が注目される3つの理由を解説します。
2-1.DX推進や経営スピードの強化
現在、ビジネス環境は急速に変化してきました。
結果、企業には迅速な意思決定と業務プロセスの標準化が求められています。
しかしオンプレミス環境では、機能追加や改修に時間がかかるため、DX推進の妨げになるケースが多く見られました。
一方、クラウドサービスなら最新機能がベンダー側から継続的に提供されます。
つまり、短期間で業務改善が可能なのです。
グローバル展開やリモートワークとの相性も良く、経営スピードを向上できる点から導入が広がっています。
2-2.SAP ECCサポート終了
SAPの従来製品であるSAP ECCは、2027年に標準サポートが終了します。
これにより、旧環境を維持し続けることが大きなリスクとなりました。
将来的な機能改善も期待しにくいため、この機会にクラウド移行を検討する企業が増えています。
ECCのサポート終了はシステム更新のきっかけです。
広い意味で、業務の標準化や企業全体のデジタル基盤の再構築を進めるチャンスとして捉えられています。
2-3.セキュリティ・コスト・運用面での課題解消
オンプレミス環境では、サーバー保守、OS更新、パッチ適用、バックアップ、監視など、運用担当者の負担が非常に大きいという課題がありました。
また、セキュリティ対策も自社で実施する必要があり、専門人材の確保やコスト増加につながります。
クラウド環境では、インフラ管理やセキュリティパッチ適用などをベンダー側が標準サービスとして提供します。
これにより、企業は運用負荷を大幅に軽減できるのです。
加えて、最新のセキュリティ技術を常に取り入れられます。
情報漏えいやシステム障害のリスク低減にもつながるのです。
さらに、クラウドは初期投資を抑えやすく、利用量に応じて課金するモデルが一般的です。
そのため、従来のハードウェア調達や更新費用を削減し、総保有コスト(TCO)の最適化を実現できます。
セキュリティ・コスト・運用の3点で、クラウド化が注目されるのです。
3.SAPをクラウド化する4つのメリット
SAPをクラウド化するメリットは、以下の4つです。
3-1.初期投資の削減
クラウド化することで、サーバーの購入や保守が不要となります。
そのため、初期コストを大幅に削減できる点が大きなメリットです。
また、専門知識を持つ人材を確保する必要がなくなり、人件費の削減にもつながります。
さらにサブスクリプション型であるため、必要な分だけ契約して利用可能です。
つまり、導入のハードルが低く、中小規模の企業でも採用しやすい経営メリットを持っています。
3-2.スケーラビリティの強化
クラウド化すれば、業務量の変動や事業拡大に応じてリソースを柔軟に増減できます。
オンプレミスでは難しい調整も、クラウドならスムーズに実施できる点が強みです。
また、繁忙期の一時的なアクセス増加にも対応しやすく、安定したシステム運用を維持できます。
こうした点で、クラウドは高い優位性を持っています。
3-3.自動アップデートによる最新環境の維持
SAP S/4HANA Cloudを利用すれば、定期的なアップデートが自動適用されます。
法改正対応や新機能追加などが自動的に反映されるため、企業は常に最新環境で業務を遂行できるのです。
オンプレミスの場合、ユーザー側でバージョンアップの計画・実施などを実施しなければなりません。
つまり、どうしても人的・金銭的コストが必要とされるのです。
クラウド移行により、これらの負担を軽減し、運用コスト削減に寄与します。
3-4.グローバル展開・BCP対策の容易化
クラウド上に環境を構築すれば、インターネット接続が可能な場所であればどこからでもSAPへアクセスが可能です。
海外拠点とのデータ共有も容易になり、グローバル企業にとって競争力強化につながります。
また、多くのクラウド基盤では複数データセンターによる冗長化構成が標準で提供されています。
これにより、災害や障害が発生しても迅速な復旧が可能です。
つまり、企業で求められているBCP(事業継続計画)対策としても高い効果を発揮してくれます。
オンプレミスでは実現しづらい機能が、クラウドでは標準で用意されている点がメリットです。
4.SAPをクラウド化する3つの注意点
SAPをクラウド化する際には、3つの注意点があります。
4-1.カスタマイズ制限
クラウド環境では、カスタマイズに制限が発生するケースが多いです。
特にベンダーがアプリケーションを運用管理するSaaS型の場合は、標準機能を前提として利用する必要があります。
オンプレミスほど自由なカスタマイズはできません。
そのため、業務を標準機能へ寄せるFit to Standardの考え方が不可欠です。
場合によっては現場から反発が生じ、思うように導入が進まないリスクもあります。
4-2.データ移行の難易度
クラウドへ環境が変わるため、必ずデータ移行が必要です。
ただ、移行には難易度が高いケースがあり、移行作業がプロジェクトの大きな負荷となるかもしれません。
マスタ整備、コード体系の統一、重複排除などは特に手間のかかる工程です。
また、オンプレミス環境で個別カスタマイズが多い場合は注意しましょう。
標準には存在しないデータが蓄積されているケースがあります。
これらをどのように移行するかを綿密に検討しなければなりません。
移行計画の立案から実行まで相応のリスクが伴います。
4-3.運用スキル・人材再教育
クラウド移行後は、運用方法や業務フローが変更されるケースが大半です。
そのため、運用スキルの見直しや人材の再教育が必要になります。
これはクラウド化に限らず、システム変更時の一般的な注意点です。
クラウド特有の契約管理・権限管理・セキュリティ運用といった新しいスキルセットにも対応しましょう。
5.SAPクラウド化を進める際のポイント
SAPのクラウド化を進める際は、以下のポイントを意識しましょう。
5-1.現行システムの棚卸に注力
クラウド化を成功させるためには、現行システムの棚卸が不可欠です。
現在のシステム構成、カスタマイズ内容、インターフェース、データ品質などを詳細に把握しましょう。
これらを正しく理解することで、
・何を移行するのか
・どこを新規導入するのか
といった判断が明確になります。
特にデータや業務をクラウドへ移行する場合、正確な棚卸が成功の鍵を握るのです。
5-2.移行方針の明確化
移行方針は大きく次の2つに分けられます。
・現行環境を活かす移行(Brownfield)
・新規に再構築する移行(Greenfield)
また、部分的にクラウド化するハイブリッド方式を選択することも可能です。
それぞれにメリット・デメリットがあるため、比較検討し、自社に最適な方針を選ぶことを意識しましょう。
方針が定まらないままクラウド化を進めると、途中で頓挫するリスクがあります。
移行方針はIT面だけにとどまらず、担当者のリソース、金銭的コスト、移行までの期間なども考慮が必要です。
多角的に判断し、IT部門だけでなく、全社的な合意形成を心がけてください。
5-3.段階的移行の検討
状況によっては、段階的(フェーズド)移行を検討することも効果的です。
基幹システムは一度にすべて移行するイメージを持つ人が多いでしょう。
しかし、優先度の高い領域から段階的にクラウドへ移す方法も有効です。
特に製造・販売・会計など主要モジュールは段階的にクラウド化できます。
たとえば以下の流れです。
1.製造領域だけをクラウド化
2.次に販売領域もクラウド化
3.その後、会計領域を移行
段階を踏むことで、全体的な負担を軽減できます。
5-4.「RISE with SAP」の活用
SAP社はクラウド移行を包括的に支援するRISE with SAPを提供しています。
社内リソースだけで対応が難しい場合、このサービスを活用することも有効です。
インフラ・ライセンス・運用まで一体的に支援してもらえるため、クラウド移行の負荷とリスクを大幅に軽減できるでしょう。
プロのサポートを受けることで、移行プロジェクトの成功確度を高めることができます。
6.まとめ
SAPのクラウド化は、単なるIT刷新ではありません。
企業の競争力強化や業務変革を実現するための重要な取り組みといえます。
クラウド化によって、運用負荷の軽減、迅速な経営判断、グローバル統合などを実現しやすくなり、企業の持続的な成長を支える基盤の構築が可能です。
ただ、SAPのクラウド化を実現したくとも「何から着手すれば良いか」と悩むケースが大半です。
その場合は、SAPのプロであるSAPコンサルタントを活用ください。
弊社クラウドコンサルティングには、クラウド化に強いコンサルタントが多数在籍しています。