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鍋野敬一郎のSAPソリューション最新動向#04

こんにちは!SAP Freelance Jobs運営事務局です。

弊社では、SAPジャパン株式会社出身で、ERP研究推進フォーラム講師でもある株式会社フロンティアワン 代表取締役 鍋野敬一郎氏をコラムニストとして迎え、「鍋野敬一郎のSAPソリューション最新動向」と題し、SAPのERP製品情報や最新技術情報をお届けしています。

第4回目である今回は、「SAPのERPマスタ」について取り上げます!

これからSAPに携わるお仕事をしたい方も、最前線で戦うフリーランスSAPコンサルタントの方も、ぜひ一度読み進めてみてください!

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鍋野 敬一郎 プロフィール

株式会社フロンティアワン 代表取締役
ERP研究推進フォーラム講師

  • 1989年 同志社大学工学部化学工学科(生化学研究室)卒業
  • 1989年 米国大手総合化学会社デュポン社の日本法人へ入社。農業用製品事業部に所属し事業部のマーケティング・広報を担当。
  • 1998年 ERPベンダー最大手SAP社の日本法人SAPジャパンに転職し、マーケティング担当、広報担当、プリセールスコンサルタントを経験。アライアンス本部にて戦略担当マネージャーとしてSAP Business All-in-One(ERP導入テンプレート)立ち上げを行った。
  • 2003年 SAPジャパンを退社し、コンサルタントとしてERPの導入支援・提案活動に従事。
  • 2005年 独立し株式会社フロンティアワン設立。現在はERP研究推進フォーラムでERP提案の研修講師、ITベンダーのERP/SOA/SaaS事業企画や提案活動の支援、ユーザー企業のシステム導入支援など、おもに業務アプリケーションに関わるビジネスを行っている。
  • 2015年よりインダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI):サポート会員(ビジネス連携委員会委員、パブリシティ委員会委員エバンジェリスト)

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はじめに

今回は、SAP ERPのマスタについて説明したいと思います。
SAP ERPは、“ERP”がエンタプライズ・リソース・プランニングという言葉の頭文字をとった略称であるのは良く知られていると思いますが、その特徴は「①統合マスタ、②標準業務プロセス、③統合データベース」の3つです。その目的は、1つデータを入力すれば、これに関連する全てのデータが自動的に更新されるという仕組みを不整合無く処理することで正確なデータから経営資源のムダを最小限に抑える計画(プランニング)が作れるはずです。ERPが登場するまでは、営業部門の受注情報と経理部門の会計情報はバラバラに管理されていました。例えば、営業部門の販売管理システムにある顧客マスタと経理部門の会計システムにある顧客マスタが別々に管理されていると営業がお客様から受注して売上報告をしていても、製品が出荷されて月次の締め処理にその情報が経理に伝わっていなければ、経理が売掛金としてカウントできないということになります。システムが違うために、部門間の処理タイミングのズレで売掛金の計上が1カ月遅れることを意味しています。これが決算期に跨ると、決算報告書の数字が変わります。2000年頃まではこれが当たり前でしたが、現在でこんな処理をしていると為替変動や市場価格の変動が大きいので、売上/収益が大きく乖離します。昨今のように日々の変化が激しいビジネス環境で、その変化を察知して的確な経営判断を下すためには、こうした情報は即時に反映される必要があります。これをパッケージシステムとして、完成させたのがSAP ERP(前名称はSAP R/3、エスエーピー・アールスリー)です。今回は、SAPのマスタについてご説明します。

統合マスタ、標準業務プロセス、統合データベースを実現したSAP

SAPの強みは、①統合マスタ、②標準業務プロセス、③統合データベースをパッケージシステムとして最初に実現したことです。

この仕組みを実現したことで、部門間をまたがる業務の情報連携・データ共有を実現することが可能となります。

例えば、営業部門でお客様からの注文を受けて受注管理を行うところをイメージしてください。製品を出荷して、お客様が商品を受け取り、これを確認してからお客様へ請求書を送り、お客様が入金して取引は完了となります。注文を受ける営業部門、商品を出荷する倉庫部門、請求処理と後の入金を管理する経理部門など複数の部門にまたがる情報共有を行う必要があります。

しかし、これまでは、営業部門の販売管理システムと倉庫部門の在庫管理システムと経理部門の会計システムは、それぞれバラバラでした。

つまり、マスタ情報とその処理タイミングとデータが保管されるシステムが別々でした。全て同じシステム上で、同じマスタ、同じデータベース上で処理情報が管理されれば、どの部門からでも必要なタイミングで状況を把握することが可能となります。

これを実現したのがSAPのERPシステムです。営業担当者は、商品がいつ出荷されたのかを即時に確認できます。出荷した商品にトラブルがあれば、その情報はSAPのシステムで統合管理されます。「伝票フロー」機能を使えば、受注(販売管理業務:営業部門)と出荷(在庫管理業務:倉庫)と請求(経理部門)という3つの部門にまたがる業務プロセスの情報を一気通貫で把握することが出来ます。

 

(図表1、SAP ERPの伝票フロー参考例)

 

SAP ERPのマスタは、このように複数の部門にまたがる情報を共有することが出来る統合マスタという考え方に基づいて作られています。営業部門と倉庫部門と経理部門の顧客マスタは同じものです。
住所が変更されたり、電話番号などが変わったりしていずれかの部門でマスタの更新を行えば、その情報は共有する他部門にも伝わります。システムがバラバラだと、システムごとに更新しなければなりませんが統合マスタを持つERPならばそんな手間は不要となります。
これはSAPが、複数モジュール/コンポーネント間でマスタデータを共有する仕組みを持っていることによるものです。全てのマスタは、有効期限、更新履歴、更新ルール(排他制御など)が明確に決められているため不整合やエラーのリスクを最小限にすることが出来ます。参考までに、SAP ERPの主要モジュール/コンポーネント間の組織構造基本データモデルを図表2に記載します。
この統合マスタのデータモデルは、最新版のSAP S/4HANAでも継承されていますのでSAP ERPとSAP S/4HANAは互換性が取れています。※全て自動で移行できる訳ではなく、追加設定が必要になるケースもある。例、SAP ERP→SAP S/4HANA移行時に、得意先/仕入先ビジネスパートナー統合マスタはCVIカスタマイズ設定追加などが必要。

 

(図表2、SAP ERPの組織構造基本データモデル)

 

(図表3、SAPマスタ連携 参考:品目マスタと他モジュールの連携)

 

統合マスタと標準業務プロセスがクラウド時代のシステム構築に必須である理由

基幹系システムの最新トレンドは、“クラウド”と“DX(デジタル化やデジタル・トランスフォーメーション)”だと言えるでしょう。クラウドについては、オンプレミスのシステムをクラウドへ上げることで、サーバ管理やその運用コストを最適化することが出来ます。SAPのみならず、あらゆる企業システムがAWSやMS-Azureなどクラウド環境へ移行されています。オンプレミスのシステムをクラウドへ上げること(“リフト”と呼びます)で、複雑化したインターフェースや運用作業をシンプルに見直すことが可能です。
また、一度クラウド環境へシステム移行してから再構築する方が迅速かつ柔軟にリニューアルすることが出来ると思われます。先日もメガバンクのグループ会社のシステム開発が途中で中止になりました。計画通り進めるとシステム完成までに2年間以上掛かるため、その間の待ち時間がビジネス環境の変化やライバル銀行との競争で後れを取るリスクとなるからです。
システムが企業成長のカギを握るのは間違いありませんが、それはシステム構築スピードが競争に勝つための最重要課題です。高機能であっても、ライバルよりも遅ければ競争に負けてしまいます。そして、企業システムのコアはマスタデータと標準業務プロセスにあるのは言うまでもありません。

 

(図表4、作らないシステムによるERP成功の秘訣)

SAPは企業システムの中心となるのは、統合マスタと標準業務プロセスを持つERPがその役割を担うと考えています。データは、社内のみならず社外のクラウドや製品(機器やデバイスなどに組込まれたシステム)などに幅広く在りますが、ネットワークでつながっていればデータを収集して利用することが出来ます。
SAPでは、ERPをデジタルコアと呼び、収集したデータを高度に分析するインテリジェンス機能をSAP Leonardo(エスエーピー・レオナルド)という製品群で情報活用することをイメージしています。SAP以外のシステムでも、SAPが持つ統合マスタを「すぐに利用できる」仕組みとして提供されているのが、SAP Master Data Governance(エスエーピー・データガバナンス)というコンポーネントです。
クラウド時代のシステムを支える基本は、前述したSAP ERPの統合マスタと標準業務プロセスから何ら変わることはありません。

 

(図表5:SAPのマスタデータ管理コンポーネント)

今回のまとめ

SAPのシステムは、現在では巨大なシステムでその全体像をイメージするのは非常に難しいと思います。SAPの1つのモジュール/コンポーネントの機能や構造を理解するだけでも、かなりの時間が掛かるのですがそのスタートは、SAP ERPの組織構造基本データモデルにあります。
この基本的な考え方が変わらないからこそ、クラウド時代の現在でもなんの問題もなくSAPのシステムは動きます。当たり前のことですが、これを20年以上変えずに継承して進化させているシステムを他に見つけるのは難しいでしょう。SAPを触れば触るほど、そうした基本構想を感じることが出来ます。

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