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    鍋野敬一郎のSAPソリューション最新動向#05

    こんにちは!SAP Freelance Jobs運営事務局です。

    弊社では、SAPジャパン株式会社出身で、ERP研究推進フォーラム講師でもある株式会社フロンティアワン 代表取締役 鍋野敬一郎氏をコラムニストとして迎え、「鍋野敬一郎のSAPソリューション最新動向」と題し、SAPのERP製品情報や最新技術情報を全12回にわたってお届けしています。

    第5回目である今回は、「SAP ERPとSAP S/4HANAの違い」について取り上げます!

    これからSAPに携わるお仕事をしたい方も、最前線で戦うフリーランスSAPコンサルタントの方も、ぜひ一度読み進めてみてください!

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    鍋野 敬一郎 プロフィール
    株式会社フロンティアワン 代表取締役
    ERP研究推進フォーラム講師
    1989年 同志社大学工学部化学工学科(生化学研究室)卒業
    1989年 米国大手総合化学会社デュポン社の日本法人へ入社。農業用製品事業部に所属し事業部のマーケティング・広報を担当。
    1998年 ERPベンダー最大手SAP社の日本法人SAPジャパンに転職し、マーケティング担当、広報担当、プリセールスコンサルタントを経験。アライアンス本部にて戦略担当マネージャーとしてSAP Business All-in-One(ERP導入テンプレート)立ち上げを行った。
    2003年 SAPジャパンを退社し、コンサルタントとしてERPの導入支援・提案活動に従事。
    2005年 独立し株式会社フロンティアワン設立。現在はERP研究推進フォーラムでERP提案の研修講師、ITベンダーのERP/SOA/SaaS事業企画や提案活動の支援、ユーザー企業のシステム導入支援など、おもに業務アプリケーションに関わるビジネスを行っている。
    2015年よりインダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI):サポート会員(ビジネス連携委員会委員、パブリシティ委員会委員エバンジェリスト)

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    ■はじめに

    今回は、SAP ERPとSAP S/4HANAの違いについてご説明したいと思います。

    SAP S/4HANAが、SAPの次期メインERP製品であることは良くご存知だと思います。ERP製品として、基本機能も操作画面も従来製品をほぼそのまま引き継いで利用することが出来ます。SAP S/4HANAの機能と見た目がこれまでとあまり変わらないため、SAP ERPとの違いがあまり感じられないという人も居るのですが実際には大きく仕様が変わっています。現行ERP製品のSAP ERPの標準サポートが2025年で終了するというアナウンスが出ているため、大半のユーザー企業はあと5年余りで現行システムを新しいS/4HANAへ移行することになると予想されます。

    こうした状況を踏まえて、何が変わったのか。何を考慮して、S/4HANAへの移行を進めればよいのか。といった疑問を技術寄りの内容で説明したいと思います。S/4HANAでは、機能が強化されるのは言うまでもありませんが、それ以上にデータベースやOSが変わり、処理が高速化されるなど様々な点で工夫されています。しかし、その反面で現行SAP ERPで充分満足しているユーザー企業も少なくありません。SAPを上手く利用出来ている企業ほど、新しいシステムへ乗り換えるメリットを見出すのが難しいというケースもあります。今回はあらためてSAP ERPとSAP S/4HANAの違いについて整理してみたいと思います。

     

    ■なぜ創業者ハッソー・プラットナー氏はSAP HANAを作ったのか

    SAP ERPの前進となるSAP R/3の“R/3”はアール・スリーと呼称されていて、“R”は「リアルタイム・データプロセシング」、“3”は「“3-tier”スリーティア―つまり3階層という意味で、①データベース、②アプリケーション・サーバ、③クライアント(SAPgui)の3つの階層を指しています。

    今から27年前の1992年7月6日にSAP R/3の名称でリリースされた現SAP ERPを継承するのは、2015年11月にリリースされたSAP S/4HANAという後継製品となります。変化が激しいITの世界で、随時機能強化、バージョンアップを続けてきたとは言え約30年間も同じ製品が継続利用されているのは凄いことだと言えます。25年以上を経て、R/3の基本仕様が現在のニーズに対応出来ていないことは言うまでもありません。

    解決すべき最重要課題は、これからの業務システムとして必要な「処理性能向上とシンプル化」でした。こうしたニーズを受けてSAPは、機能性はそのまま継承しつつ処理性能の大幅な向上に成功。肥大化、複雑化したERPを刷新しました。これは、業務処理システムに特化した膨大なデータを即時処理に対応した専用データベース“SAP HANA”の開発に成功したことによるものです。

     

    SAP ERP6.0の設計思想は、“R/3”が登場した1992年から基本的に同じです。そのため、この25年余りの度重なる機能拡張によって内部構造は肥大化していました。ユーザー企業からのあらゆる機能要件に応えるため、SAP ERP内部のテーブル構成が複雑化してそのデータ処理に大量のリソースと時間が必要になってしまったのです。

    そこで、SAPはこれを解消すべくERPの構造を全面的に見直すことにしたのですが、そのアプローチは単純にシステムの内部処理スピードを上げるということではありませんでした。業務システムでは、大量のメモリやCPUの性能を増やすだけでは業務処理のパフォーマンスを向上できないことが分かっています。データベースやハードウェアスペックだけの性能比較では業務処理時間は早くなりません。

    重要なのは、システムの「同じデータを計算処理する応答時間」レスポンス時間ではなく、「何らかのデータが投入され、それが処理され結果が返ってくるまでの時間」ターンアラウンド時間こそ重要です。並行処理するプロセス数を増やしただけでは、パフォーマンスが変わらないという結果となります。つまり、ERPの製品仕様を抜本的に見直して、ミドルウェア(OS/データベースなど)やアプリケーションの内部構造(テーブル数の削減、中間処理を無くす、更新系データベースと情報系データベースの並立という発想を変える)など従来の考え方を疑うところからはじめる必要がありました。

     

    (図表1、SAP ERP→SAP S/4HANAのシンプル化による効果)


     

    ERPの業務処理において、レスポンス時間ではなくターンアラウンド時間を向上させるIT基盤には次のようなポイントがあります。

    ・ストレージの大幅な削減

    ・複数サーバーでのデータ重複が無い

    ・バッチ連携、ETL作業の排除

    ・IT運用管理の簡素化

     

    見直しの結果行きついた答えは、業務システムの即時処理を実現するためのOSやデータベースを、汎用的な従来製品ではなくこの処理専用にすることです。つまり、ERPのアプリケーションを見直すだけではなく、インフラのIT基盤も抜本的に見直します。

    こうしてインフラに選ばれたのが、データベース製品“SAP HANA”開発とLinux OSです。専用インフラを作ってこの上に新しいERPアプリケーションを作り直すことで、劇的に業務システムの処理性能を向上することが可能となるのです。

     

    (図表2、SAP HANAによるIT基盤のシンプル化:会計データに見る削減例)


     

    ■ERPの基本コンセプトを変える、内部構成を大幅に見直すメリット

     

    業務システムのパフォーマンスを向上するためには、メモリを増やす、CPU性能を上げる、並立処理するといったインフラ面の機能アップよりも、この処理に特化したOSや専用データベース(SAP HANA)を作って、ERPアプリケーションの仕様も業務処理に必要な全てのデータをメモリ上に展開(インメモリーデータベース)、データ容量の最小化、中間処理テーブルを排除してテーブル数を最適化するなどのソフトウェア面での見直しが有効となります。

    例えるならば、これまでSAPは市販されている汎用のOSやデータベース、サーバーやメモリなどの上でERPアプリケーションを開発してきました。オンプレミスの時代はこの考え方でも問題はありませんでした。しかし、現在はオンプレミスとクラウドが混在するマルチプラットフォームの時代です。ERPを取り巻く環境とニーズが変わったのです。つまり、ERPは進化が求められていました。進化するためには、専用のOSやデータベースから見直して、その上にアプリケーションを作り直す必要がありました。

     

    (図表3、基本コンセプト変更:SAP HANAで更新系と情報系を1つのシステムにする)


     

    クラウド時代の現在は、業務システムの“安定性と信頼性”をそのままで“柔軟性と即応性”を兼ね備えた仕組みが求められています。一見矛盾しているようにも見えますが、その現実解は存在しています。既にSAPのERPは、クラウド上の開発・運用手法が確立されていて定期的なバージョンアップもクラウド版が先行リリースされた後にパッケージ版(オンプレミス)が提供されています。クラウドにアプリケーションやデータを置くことで、インフラ面での制約が大幅に減ってシステム維持管理とデータ活用度の自由度が高くなるメリットがあります。(リフト&シフト)

    さらに、データの肥大化や業務プロセスの複雑化によるパフォーマンス低下をシンプル化によって見直すことが出来ます。ご参考までに、会計モジュールの内部構成(テーブル構造、データモデル)がどのように見直されたのかをご覧ください。テーブル構成が、大幅に削減されているのが分かります。実際には、ユーザー企業やユーザー会からシンプル化し過ぎて不足したテーブル構成を追加(復活)する要請が出て、機能は随時見直されています。

     

    (図表4、シンプル化したデータモデル)

     

    (図表5、シンプル化によるデータのスリム化)

     

    ■今回のまとめ

    SAP ERPからSAP S/4HANAへのシステム移行は、その見た目や機能が大きく変わらないため、単純にデータベースを置き換えただけだと勘違いするケースが多いようです。

    しかし、内部構造を調べて見ればその違いは一目瞭然です。

    例えるならば、ガソリン車とEV車のようなものです。外見は同じ自動車ですが、シンプルで高性能な内部構造は言うまでもなく。EV車はソフトウェアのアップデートだけで不具合対応や機能拡張が可能となります。どちらも自動車としての基本機能は備わっていますが、到達できるゴールや狙いが異なります。SAP ERPとSAP S/4HANAの違いもこうした技術面での認識がまだまだ足りていないようですが、その理由としてSAP HANAとSAP S/4HANAの知識を持つ技術者が全く足りていないからだと思います。毎年3,000人以上技術者を増やしているそうですが、この程度では全然足りていないようです。