SAPによる経営管理のポイント
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1.はじめに
近年、経営管理の高度化によって「経営管理システム」というソリューションが注目され始めています。経営管理システムはERPとは異なる仕組みですが、その前提としてSAP ERPが選択されることが多いようです。今回は、経営管理システムとSAP ERPの関係性について解説します。
2.経営管理とは?経営企画や経営戦略とは似て非なる概念
経営管理は、文字通り「経営を管理すること」なのですが、経営企画や経営戦略と同じような意味で語られることが少なくありません。これら3つの言葉はそれぞれ別の意味を持っているため、まず用語の定義を理解しておきましょう。
・経営企画
「経営企画」は、端的に言えば「経営目標を設定するための材料づくり」を担う業務です。市場調査や営業データの収集などを中心として、経営会議における意思決定のサポートを行います。経営企画が作成した資料などを基に、経営会議で経営目標を決定し、これを実現するための経営戦略を立案する、というのが一般的な流れです。
経営企画は「自社が将来にわたって取り組むべきビジネス」を見出すことがミッションであり、数年先の事業展開やビジネストレンドを踏まえながら、中長期的な計画の立案を行います。
・経営戦略
経営戦略とは、経営目標を実現するための戦略です。前述のように、経営企画が作成した案をもとに経営会議で「経営目標」が設定されると、これを実現するための戦略が必要になります。経営戦略の策定では、自社が保有するさまざまなリソースの状況を把握しながら、競合企業にいかに勝つかなど、内的要因と外的要因を組み合わせながら目標達成のための作戦を練っていきます。
・経営管理
ここまでの内容から「経営企画によって経営目標を設定する」「経営戦略で経営目標を達成するための施策を練る」と定義できます。経営管理とは、この2つの工程の次に来るもので、「経営戦略の実行段階において、自社のリソースが効率よく活用されるように管理すること」です。したがって、経営企画・経営戦略の実行段階における非常に重要な業務であると言えます。いくら優れた企画や戦略があったとしても、実際に社内のリソースをうまく運用できなければ目標は達成できないからです。
3.経営管理の具体的な内容
では、経営管理の具体的な施策をもう掘り下げてみましょう。経営管理では、主に以下のような施策を行います。
・KPIを用いた具体的な評価
経営管理では、施策ごとにKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を設定し、達成度合いを定期的に確認します。もし計画通りに施策が進んでいない場合は、原因の特定と改善を続け、軌道修正を行う必要があるでしょう。一般的にKPIは業務領域ごとに設定することが多く、各業務領域でどのような項目をKPIとするかは経営管理の腕の見せ所とも言えます。
また、一般的な製造業の場合、経営管理は「生産管理」「販売管理」「人事・労務管理」「財務管理」などが管理対象です。
・生産管理
生産管理とは、主に製造業において品質や納期、数量が適正化するように管理する業務です。生産プロセス全般が管理対象であり、広い意味で経営管理に含まれることがあります。生産管理には、納期スケジュールや在庫の管理、生産計画の立案や生産工程の進捗チェック、品質管理、原価管理などが含まれることが多いでしょう。
これらが適切に管理されることで、品質向上のみならず製造コスト・在庫保管コストの削減、短納期の実現などが期待できます。
・販売管理
販売管理では、顧客からの受注をはじめ、売上や出荷、代金の請求、顧客データなどが含まれます。「どの顧客に・どの商品を・どのくらいの量と頻度で」販売しているかが可視化されるため、生産管理や原材料の調達、在庫管理の適正化などにつながります。SAP ERPのモジュールでも販売管理と在庫調達管理の機能は表裏一体ですよね。このことからもわかるように、モノづくりにおける根幹部分を担う業務です。
・人事および労務管理
人事・労務管理では、従業員と労働時間など主に人的リソースに関する管理を行います。人事管理では、人的リソースの最適配置を目的とします。一方、労務管理では労働時間の把握と調整、モチベーションの関する施策などを中心として、人的リソースが発揮するパフォーマンスを最大化することが目的です。
具体的な業務としては、人事考課や評価制度の策定、人事異動の管理、そのほか福利厚生などに対する管理などが該当するでしょう。
・財務管理
財務管理では、財務状況の把握と分析を行います。経営戦略の実行に必要な資金調達計画を立案し、それが適切に実行されているかをチェックするのです。具体的には、手元資金の管理や、金融資産の運用、予算配布と実行(予実管理)などが含まれます。また、M&Aの計画・実行なども財務管理の一部とみなすことが多いでしょう。
4.経営管理を可視化、定量化する経営管理システム
こうした経営管理の実務をシステム化したものが「経営管理システム」です。経営管理しシステムは大きく「EPM」「CPM」に分類されます。
・ERP(ビジネス業績管理システム)
EPMは「Enterprise Project Management」の頭文字をとった略称で、日本では「ビジネス業績管理」と翻訳されています。EPMは、ある企業内で稼働しているプロジェクトを一元的に管理するための考え方およびシステムです。システムとしてのEPMでは、ERP内に集約されたデータを分析し、前述のような経営管理業務に役立てることを目的としています。
具体的には、予算達成率やリスク、インセンティブなどが算出され、これらを通じてボトルネックを特定したりKPIを調整したりといった業務が可能です。
EPMでは、半自動的に業務進捗やパフォーマンスを計測できるため、経営管理の効率化や精度の向上に役立ちます。
・CPM(企業業績管理システム)
EPMに似た考え方・システムとしてCPM(Corporate Performance Management)があります。日本語では「企業業績管理」と呼ばれており、主に経営管理を財務面から支援するシステムとして知られています。CPMでは、財務面の管理を通してある程度の予測を立てることが可能です。ちなみにSAP ERPにも財務管理機能は存在していますが、こちらはこれまでの実績を財務諸表としてまとめるための機能であり、予測機能はそれほど重視されていません。
5.経営管理システムの前提となるSAP ERP
以上、経営管理の実務を支援する2つのシステムがあることを紹介してきました。すでにお気づきの方も多いと思いますが、これら2つの経営管理システムではERPが持つデータを参照しながら分析や予測を行います。したがって、経営管理システムの前提となるのはSAP ERPのように優れたデータ収集・保管機能を持ったERPパッケージなのです。
経営管理システムを単体で導入することも不可能ではないのですが、複数の業務部門からさまざまなデータをリアルタイムに取得する仕組みを構築するためには、巨大なシステムが必須です。ERPパッケージは企業内資源の一元管理に長けた仕組みであり、経営管理システムが必要とするデータを網羅的に管理することができます。そのため、ERPの上に経営管理システムを置いたほうが時間・お金の両面で効率が良いのです。
6.経営管理の視点を持つSAP ERP人材を目指そう
ちなみに、SAP社ではEPMやCPMに該当するような機能も提供しています。例えば「SAP Business Planning and Consolidation」や「SAP Analytics Cloud」などは、EPMやCPMの機能を内包したソリューションと言えるでしょう。
これらは、最新のERPであるSAP S/4 HANAをコアとして連携することで、その真価を発揮します。また、近年はSAP ERPの導入においても経営管理の効率化を見越して「業界別テンプレート」を用意するベンダーが増えてきました。業界別テンプレートには、SAP ERPの標準機能にベンダー独自の機能を組み合わせ、業界で必ず発生する業務やデータ項目を最初からまとめられています。主に短期導入と工数削減を狙ったものですが、経営管理に必要なデータを効率よく運用・管理できるという点も見逃せません。
複雑・高度化する昨今のビジネスにおいて、経営の視点から「現場の効率化、ハイパフォーマンス化」を支援するのが経営管理の要諦といえます。そのためには経営管理システムの活用と、その前提となるERPの導入が重要になってくるでしょう。
したがって、SAP ERPに携わる人材についても、経営管理に関する知識と実務経験が問われる時代が来るかもしれません。さまざまなプロジェクトを経験しながら経営管理の視点を獲得し、自身のスキルアップにつなげていきたいところですね。