SAPの新UI 「Fiori」は何がどう変わったのか
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はじめに
SAP ERPのUIといえば、水色とブルーの直線的なウィンドウを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
一般的には「SAP GUI for Windows」が使用されると思いますが、近年はS/4 HANAの普及に伴い、新GUIの「Fiori」へと移行が進んでいます。
そこで今回は、SAPの新GUIである「Fiori」について、旧GUIとの違いをまとめてみました。
1.SAP Fioriの概要と特徴
Fioriは、2013年からSAP社が提供を開始した新しいUIです。
S/4HANAからは標準UIとして実装されています。
SAP GUIはシンプルで使いやすいUIだったと思うのですが、その反面、機能に忠実すぎるのか操作が煩雑になりがちな弱点がありました。
これを修正するために開発されたのがFioriだとされており、UX(User Experience)の向上をテーマとして、直感的でシンプルな操作性を重視しているようです。
機能へのアクセスは「タイル」というボタンのクリックによって行い、タイルを移動したり集約したりすることで、自分好みの画面仕様に変更することもできます。
1-1.脱ABAPを目指すSAP Fiori
Fioriの最も優れた点は、ABAPからの脱却でしょう。
SAP GUIは事実上、ABAPのみ(javaも可能でしたが、実際のプロジェクトではあまり見かけない)で開発されていました。
一方、Fioriは設計言語として「HTML5」「JavaScript」「CSS」といったWeb・オープン系で頻繁に使用される言語が採用されています。
SAP ERPのコアな部分は依然としてABAPですが、ユーザとのタッチポイントについてはオープン系の言語に置き換えていく意向なのかもしれません。
ABAPは良くも悪くも独自性が強く、SAP界隈以外の人材はほとんど目にすることがない言語ですので、人材調達やノウハウの面から考えると、適切な言語とは言えません。
一方、オープン系の言語ならば学習コストも低く、人材調達も楽になるというメリットがあります。
1-2.Fioriの特徴
その他、Fioriの特徴を簡単にまとめてみます。
・マルチデバイス/マルチブラウザ対応のアプリケーション
従来のSAP GUIは基本的に「PCから(PC版のWindows OSから)のアクセス」を前提としていました。
一方、FioriはPCのみならずスマホやタブレットからのアクセスも想定しています。
厳密にいえば、これらに搭載されているブラウザから利用することを想定しているので、根本の思想がSAP GUIとは異なるという点が最大の特徴かもしれません。
・UI技術と設計原則
SAP Fioriのユーザインターフェース(UI)は、主にHTML5、JavaScript、CSSといったオープンなウェブテクノロジーを基盤として構築されています。
これにより、モダンなウェブアプリケーションの特徴を取り入れ、レスポンシブなデザインやアニメーションなどを活用して、ユーザーエクスペリエンスを向上させています。
・UIパターン
Fioriは、特定のビジネスプロセスに関連するUIパターン(デザインパターン)を提供します。
同じようなタスクを持つアプリケーションが一貫性のあるデザインで統一され、ユーザが異なるアプリケーション間で簡単に移動できるようになります。
・ODataプロトコル
Fioriアプリケーションは、バックエンドのデータとの連携にODataプロトコルを使用しています。
ODataはRESTfulなデータアクセスの標準的なプロトコルであり、異なるデータソースとのシームレスな統合を可能にします。
・SAP Gateway
FioriアプリケーションとバックエンドのSAPシステムをつなぐために、SAP Gatewayが使用されます。
SAP Gatewayは、ODataサービスを作成して公開し、Fioriアプリケーションがこれにアクセスできるようにします。
・SAPUI5フレームワーク
SAPUI5は、SAPが提供するJavaScriptベースのUIフレームワークで、Fioriアプリケーションの開発に使用されます。
SAPUI5は、UIコントロールやツール、データバインディングの仕組みを提供し、効率的な開発と一貫性のあるデザインを実現します。
・Fiori Launchpad
Fioriアプリケーションは、Fiori Launchpadと呼ばれるアプリケーションポータル内で提供されます。
このポータルは、ユーザがタイルを配置し、自分の作業に合わせてカスタマイズできる場所です。
2.SAP GUIとFioriの違い
このような特徴を持つFioriが、従来のSAP GUIとどのように異なるのかを整理してみましょう。
2-1.画面設計方法
・SAP GUI
SAP GUI(Graphical User Interface)は、機能中心の設計を基本としています。
そのため、多くの機能を提供することが可能であり、長い間の開発と追加によって豊富な機能が搭載されました。
しかし、画面が複雑で、操作が難しいという特徴があります。
・Fiori
Fioriはユーザ中心の設計思想に基づいています。
機能中心ではなく、ユーザエクスペリエンス(UX)を重視し、直感的な操作が可能な画面を提供することを目指しているわけです。
各処理画面へのアクセスはタイルと呼ばれるボタン形式で行い、ユーザが簡単にカスタマイズできるようになっています。
2-2.画面設計言語
・SAP GUI
SAP GUIでは、ABAP(Advanced Business Application Programming)というSAP独自のプログラミング言語が使用されます。
・Fiori
Fioriでは、オープン系の言語であるHTML5、JavaScript、CSSが使用されます。
ABAPという制限が外れたため、一般的なWebエンジニアでもFioriの画面開発に参加できるようになりました。
2-3.各処理画面へのアクセス
・SAP GUI
SAP GUIでは、トランザクションコードを入力して各処理画面にアクセスします。
・Fiori
Fioriでは、タイルをクリックすることで各処理画面にアクセスします。ユーザは自身でタイルの配置やグループ化などの画面カスタマイズが可能です。
2-4.動作環境
・SAP GUI
SAP GUIは、従来のSAP ERPの利用が想定されるシーン、つまりオフィス内のデスクトップPC上で動作することを念頭に置いていました。
・Fiori
FioriはPC、スマートフォン、タブレットなどに搭載されているGoogle ChromeやInternet Explorerなどのブラウザによる利用を想定しています。
使用してアクセスできます。
まとめ
SAP GUIは長らくの間、SAPシステムへのアクセス方法として使われてきましたが、Fioriの登場により、より直感的でユーザ中心のUIが提供されるようになりました。
すでにERPはオフィス内からのみアクセス可能な、閉じたシステムではなくなっています。
Fioriに置き換わることで、SAP ERPはユビキタスなシステムへと変貌していくのかもしれません。
今後は、FioriがSAPユーザインターフェースの主流となることは確実ですから、ABAP以外の言語にも対応できるように自己研鑽を重ねていきたいですね。