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モダンERPとは?従来型ERPと何がちがうのか

はじめに

SAP S/4 HANA世代になって、「ポストモダンERP」という言葉を見かけるようになりました。

従来型のERPと対比される形で登場したこの言葉、一体どのような意味があるのでしょうか。

また、従来型ERPとは具体的に何が違うのでしょうか。

今回は「ポストモダンERP」についての全体像をまとめてみたいと思います。

 

 

 

1.ガートナーが提唱するポストモダンERPとは

ポストモダンERPという言葉は、2010年代に生まれたと言われています。

2013年〜2014年頃、従来型のモノシリック型ERPが発展の限界を迎えるとの論調が強くなり、次世代型ERPを体現する言葉として使われ始めたようです。

この時期、クラウド技術の進化やデジタルトランスフォーメーションの動きが加速しており、伝統的なERPの限界や新しい技術への適応の必要性が高まっていました。

こうした背景から、ガートナーはこの新しいERPのアプローチを「ポストモダンERP」として定義し、その重要性や方向性を示唆しました。

 

 

1-1.ポストモダンERPの特徴

ポストモダンERPは、従来の一元的・集中型のERPから、より分散型で柔軟なアーキテクチャを持つシステムへの移行を意味します。

具体的には、核となるERPとその周辺の特定の業務機能を持つ専用のアプリケーション(クラウドベースのもの)を組み合わせるアプローチを取ります。

SAP業界の方であれば、ECC6.0までのSAP ERPとSAP S/4 HANAの違いを思い浮かべるとイメージしやすいかもしれません。

 

ECC6.0までのSAP ERPは、まさしく従来型ERPの代表格です。

業務領域に対応した機能群(モジュール)がひとつのパッケージの中にまとめられ、それぞれが密接であり、一枚岩のように機能します。

従来型ERPは「オールインワン型」と呼ばれることも多く、中央集権的なシステムにおいて中核をなす存在でした。

 

また、基本的にはオンプレミス型システムに組み込まれることが多く、本番稼働後は大幅な修正や変更を加えることなく稼働するものがほとんどです。

 

一方でポストモダンERPは、「疎結合」の考え方が根底にあります。

モノシリック(一枚岩)ではなく、各機能は独立した状態でありながら、自由に連携が可能であり、必要な機能を必要な場所にだけ配置することが可能です。

以下は、ポストモダンERPの特徴を端的にまとめたものです。

 

 

1-2.ポストモダンERPの技術的な特徴

・ハイブリッドアーキテクチャ

従来のオンプレミスのERPとクラウドベースのアプリケーションの組み合わせを指します。

これにより、既存の技術的資源を維持しつつ、新しい技術やアプローチを迅速に取り入れることができます。

 

・API中心の設計

ポストモダンERPでは、組織内外の他のシステムやアプリケーションとの統合を容易にするためのAPI(Application Programming Interface)を多用します。

これにより、データの流れや機能の拡張が柔軟に行えます。

 

・疎結合

ポストモダンERPの各コンポーネントやアプリケーションは、独立性を保ちながらも他のコンポーネントと連携できる設計となっています。

 

・コスト削減

ポストモダンERPの多くはクラウド型です。

したがって、オンプレミス型で必要となるインフラの購入、維持、アップグレードのコストが削減されます。

また、実際に使用するリソースに応じて料金が発生するため、長期的なコストパフォーマンスが向上します。

 

・自動アップデート

クラウドベンンダーからソフトウェアのアップデートやパッチが自動的に適用されるため、常に最新の機能やセキュリティ対策を利用することができます。

 

 

 

2.ポストモダンERP=コンポーネント型ERP

ここまでの内容からすでにお分かりかと思いますが、ポストモダンERPとは「クラウド型かつコンポーネント型のERP」のことです。

そもそもポストモダンという言葉は、「近代以降の」という意味が込められており、これが転じて「次世代の」という文脈で使われることが多いですよね。

つまり、2010年代の時点で言えばポストモダンERP=次世代型ERPであり、「クラウド型かつモジュール単位で導入・運用が可能なERP」が該当すると考えられます。

 

ポストモダンERPは、SAP以外のベンダーでも盛んに売り出されています。

代表的な存在としてはMicrosoftの「Dynamics360」が挙げられるでしょう。

DynamicsのERPパッケージは、従来型として大規模向け「Microsoft Dynamics AX」、小規模向け「Microsoft Dynamics NAV」が用意されていましたが、現在は全く異なる構成になっています。

 

具体的には、大規模向け「Microsoft Dynamics AX」がDynamics360の各サービスへ(モジュール単位で独立)、小規模向け「Microsoft Dynamics NAV」がDynamics 365 Business Centralという別製品へとリニューアルされました。

小規模向けのNAVはともかくとして、中堅以上の企業を対象としたAXがモジュール別に売り出されたことで、当初は多少の混乱を招いたと記憶しています。

 

しかし、こうした流れは市場ニーズを受けた結果であり、今ではすっかり根付いた印象です。

そもそもERPの機能をフルに使いこなす企業は稀であり、日本企業であれば財務会計や在庫購買を好んで使う傾向にありました。

その他の機能は「無ければついでに使う」といった企業も多く、既存の社内システムとERPの機能を連携させる使い方が一般的だったはずです。

こうした流れを見れば、モジュール別(コンポーネント別)に売り出すという昨今のトレンドにも納得がいきます。

 

 

 

3.ポストモダンの次に来る「コンポーザブルERP」

さて、ここでポストモダンという言葉にもう一度目を向けてみましょう。

ポストモダンERPは、すでに「現行」のERPと言っても過言ではありません。

つまり、言葉の用法的には「ポストモダン」は間違いなのです。

2023年現在の状況から考えると、真のポストモダンは「コンポーザブルERP」であると言えます。

 

 

3-1.次のポストモダンERP「コンポーザブルERP」とは

2020年ころからコンポーネント型の疎結合なERPに加えて、コンポーザブルERPと呼ばれる製品が登場しました。

コンポーザブルERPとは、「ユーザーが任意のコンポーネントを組み合わせ、かつ従来型のようにカスタイマイズや改修を加えたうえで使用できるERP」のことです。

 

端的に言えば、コンポーネントERPと従来型ERPの良いとこ取りをしたような製品といえるでしょう。

コンポーネント型ERPは、柔軟な導入ができる一方で、カスタマイズや改修に制限がありました。

これはクラウド型の宿命ともいえるのですが、サービスとして提供するという建前上、汎用化は必須であり、ユーザー目線でのカスタマイズや改修は必要最小限にとどめる必要があるわけです。

したがって、クラウド化の一環でコンポーネント型ERPを導入すると、「業務をシステムに合わせる」ことが必須になっていました。

 

一方、コンポーザブルERPは、ベースをコンポーネント型としながらも、従来型のように独自ロジックを追加したり、アドオン画面を追加したりといった改修が可能です。

もちろん、従来型のように自由にとはいかないものの、コンポーネント型よりも自由度は上がっていることが確認されています。

 

 

3-2.SAPでも進むコンポーザブル化

すでにSAP ERP界隈でもコンポーザブルERPへの流れが出来つつあります。

良い例がSAP S/4 HANA CloudにおけるABAP拡張の解禁です。

 

SAP S/4 HANA Cloudは2016年から提供が開始されたクラウド専用のERPであり、以下の2エディションが存在しています。

 

・SAP S/4 HANA Public Edition:パブリッククラウド版

・SAP S/4 HANA Private Edition:プライベートクラウド版

 

SAPのプレスリリースなどを見ると、Public Editionの売上が好調であるとのこと。Public Editionは本来「安価だがカスタマイズや改修の自由度は低い」というエディションでした。

しかし、2022年に提供が開始された「開発者拡張」によって、自由度が向上しています。

具体的には、制限があるもののABAPによるアドオン開発可能になっています。

もちろん従来型とは異なる実装ルールを守る必要がありますが、「従来型とポストモダン型の良いとこ取り」へと進んでいるとみて間違いないでしょう。

つまり、コンポーザブル化が進んでいるのです。

 

 

3-3.コンポーザブルERPへの対応力が人材価値を高める

ここまでの内容をまとめると、以下のようになります。

 

・従来型のモノシリックかつオールインワンなERPは廃れつつある

・2010年代から言われていたポストモダンERPはコンポーネント型のERPのことである

・コンポーネント型ERPはカスタマイズや改修の自由度が低い

・コンポーネント型ERPの弱点を克服した真のポストモダンERPがコンポーザブルERPである

 

2023年秋時点で言えば、ポストモダンERPとはコンポーザブルERPを指すと考えられます。

オンプレミス型ともクラウド型とも取れる方式ですが、今後しばらくはコンポーザブルERPが主流になるのかもしれません。

 

SAP ERP界隈でも、オンプレミス・クラウド双方に対応でき、なおかつモノシリック時代も疎結合時代も知っている人材が重宝されそうです。

人材に求められる知識・経験が一層分厚くなるのですが、時代の流れとして甘受し、研鑽を積むしかなさそうです。

 

 

 

まとめ

ここでは、ポストモダンERPの解説と、今後主流になるコンポーザブルERPについて述べました。

コンポーザブルERPは、オンプレミス時代の経験も活かせる仕組みです。

しかし、根本的なシステムの組み方がモノシリック型とは異なりますし、実際の製品もオンプレミス時代とは一線を画すものになっています。

 

SAP ERP業界は人材不足が慢性化し、ベテランエンジニアが活躍できる余地はまだまだあります。

クラウドの経験を積み、今後到来するであろうコンポーザブルERPの導入プロジェクトにも積極的に参加していきたいですね。

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