ERPの進化と展望 そもそもERPは何で、どうなっていくのか
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はじめに
ERPの代表格といえばSAP社の製品ですが、SAP社以外にもERPを提供している企業は沢山あります。
現在は「ERP=企業の主要業務を統合する基盤」として認識する人が大半ですが、そのルーツは意外と古く、原型はMRP(Material Requirements Planning)にあることは意外と知られていません。
そこで今回は、ERPの歴史を発祥から現在まで詳細に解説しつつ、その進化に伴う変遷、今後の展望などをまとめて紹介します。
1.ERP発祥と初期のコンセプト (1960年代 – 1980年代)
ERPはそもそもツールではなく企業運営の方法論、つまり経営手法のひとつとして生まれました。
よく「ERPの誕生は1973年のドイツである」という情報を見かけますが、これはある意味で正解であり、ある意味では間違いです。
システムやツールとしてのERPは確かに、1973年にドイツのSAP社が生み出した「R/1」が最初ですが、方法論としてのERPはもっと前から存在しています。
ではいつか、と問われると明確な答えは出にくいのですが、米国で1960年代に、製造業において発生した材料要件計画(Material Requirements Planning, MRP)が源流であると言われています。
MRPは製造業において生産計画を改善するために開発され、基本的な生産要件の計算と制御を可能にしました。
これがERPの原型であり、現在でもMRP計算は主要機能のひとつとして搭載されています。
また、1973年にはIBM出身者が設立したSAP社において、ツール・システムとしての最初のERP「SAP R/1」が誕生しました。
SAP R/1はアセンブリ言語で開発されており、主にメインフレームシステムをターゲットとし、会計系の機能を盛り込んでいました。
1980年代に入ると、MRPが拡大・進化して製造業全体のプロセスを統合する概念が生まれました。
つまり、資材調達と製造以外の販売や在庫管理、会計といった一連の企業活動全体を統合し、わかりやすく可視化しようというわけです。
この時期には、企業が持つ資源を計画的に活用し、経営者の判断がしやすいようにデータで表すことが求められました。
つまり、現在のERPパッケージの基本的な部分が生み出される土壌となったわけです。
2.ERPの普及と発展(1990年代 – 2000年代初頭)
1990年代に入り、システムやツールとしてのERPが本格的に発展し始めます。
この時期、組織が異なる業務部門やプロセスを単一のデータベースで統合する概念が強調されました。
さらにSAP社が開発したクライアントサーバー型の3層アーキテクチャ型システム「R/3」が誕生したことで、ERP業界は本格的な発展期を迎えます。
国内外の大手企業を中心に、多くの企業においてERPの導入が促進されました。
この時期のERPは財務、人事、製造、サプライチェーン管理など、多岐にわたる機能を一元的に管理することを可能にしました。
しかしながら、導入プロセスが長く、専門的なスキルを持つ人材が必要であるという課題も浮き彫りになっていったのです。
3.インターネット時代と柔軟性の向上 (2000年代中盤 – 2010年代初頭)
2000年代中盤以降、ERPはインターネットの進化と共に順調に進化しました。
中心は引き続きクライアントサーバー型かつオンプレミス型でしたが、徐々にクラウド型の開発も始まります。
同時に、モジュール式の導入や柔軟なカスタマイズが可能なERPシステムの需要が高まりました。
4.デジタル変革とAIの影響 (2010年代以降)
2010年代以降、デジタル変革(DX)の考え方が徐々に浸透しはじめ、ERPもその一環として進化しました。
ERPは大量のデータをリアルタイムで処理し、ビジネスインテリジェンスや予測分析をサポートするなど、「意思決定のサポート機能」を充実させるようになりました。
さらに、人工知能(AI)や機械学習(ML)の技術を統合することで、自動化と意思決定プロセスの改善を目指しています。
また、SAP S/4 HANAの登場でもわかるように、本格的なクラウド型へのシフトが始まったのも2010年代中盤以降です。
5.現在の発展状況
現在、ERPはデジタルトランスフォーメーションの中心的な要素として位置づけられています。
多くの企業が既存のERPシステムをクラウドベースのソリューションに移行するなど、柔軟性とアクセス性を向上させています。
また、ERPは次世代テクノロジーの統合によって、以下のような進展を遂げています。
5-1.人工知能(AI)と機械学習(ML)の統合
現在、ERPはAIとMLを活用して、過去のデータから学習し、将来のトレンドや需要を予測します。
これにより、企業はより正確な生産計画や在庫管理を行い、効率を最大化できるようになります。
5-2.インターネット・オブ・シングス(IoT)の活用
IoTセンサーの普及により、ERPはリアルタイムでデバイスからのデータを収集し、製造ラインやサプライチェーンの可視性を向上させています。
例えば、センサーが製造設備の稼働状況をモニタリングし、予防保守の計画を立てるのに活用されています。
5-3.ブロックチェーン技術の導入
企業はブロックチェーン技術をERPに統合し、取引の透明性や信頼性を向上させています。
特に、サプライチェーンのトレーサビリティや契約の自動化において利用が進んでいます。
6.今後の展望
最後に、今後のERPはどのような発展をしていくかについて、簡単に予想してみたいと思います。
6-1.クラウドネイティブERPの普及
企業はクラウドネイティブなERPソリューションを採用し始めています。
SAP S/4 HANAでもパブリッククラウド版が人気を集めているように、今後はクラウドを第一選択肢とすることが当たり前になるはずです。
クラウドネイティブなERPは、リアルタイムでのデータアクセスやスケーラビリティの向上を実現します。
これにより、従来のオンプレミス型システムよりも迅速で柔軟な運用が可能となるでしょう。
運用保守は自動化が進み、R/3の時代のように「運用保守専門のチーム」が重要な存在ではなくなるかもしれません。
一方で、業務担当者がERPを積極的に活用するケースが増えていくことも考えられます。
6-2.エッジコンピューティングとの統合
エッジコンピューティングの進化により、ERPは製造現場や倉庫などのエッジデバイスと直接連携し、リアルタイムでデータ処理を行うようになるでしょう。
これにより、生産プロセスにおいて「現場」と「管理層」の距離が縮まって効率が向上し、迅速な意思決定が可能になります。
近年はモバイルERPという考え方が登場しており、モバイル端末がERPの主要構成物のひとつになる日も遠くなさそうです。
6-3.ユーザーエクスペリエンス(UX)の向上
ERPではユーザーエクスペリエンスの改善が進み、直感的で使いやすいUI/UXが提供されることが期待されます。
SAP S/4 HANAでもFioriやSAP UI5などUI/UXの改善には力を入れていますよね。
今後は「機能ベースで整理されたUI」ではなく、「UX(つまり使い勝手)ベースで整理されたUI」が主流になっていくのでしょう。
後者のほうがユーザーにやさしく、迅速に情報を把握して業務プロセスを効率的に実行できるようになるからです。
6-4.サステナビリティとの統合
ERPを活用して、サステナビリティ目標の達成をサポートするために、エネルギー使用量や環境影響などのデータを管理・分析するようになるかもしれません。
環境への貢献と同時にコストの最適化も図ることができるからです。
具体的には、カーボンオフセットやカーボンクレジットなどを定量化し、企業の資源としてERPで管理する機能が強化されるかもしれません。
まとめ
今回はERPの発祥と進化、現状と未来などをまとめて紹介しました。総じて、未来のERPには先進性と柔軟性が求められており、ビジネスのあらゆる側面において効率を向上させることが期待されています。正直なところ、先端技術やサステナビリティとの融合がどこまで続くのかは未知数です。しかし、R/3時代のERPはすでに過去のものになりつつあることは確かです。SAP界隈で働く人材にも、より多くの知見や経験が求められるようになるのは間違いないでしょう。