コンポーザブルERPとは?SAP ERPでも進むコンポーザブル化
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はじめに
ERPの世界にもトレンドがあり、今のトレンドは「コンポーザブルERP」です。
日本では長らくモノシリック型ERPが重宝されてきましたが、この流れはクラウド化によって完全に変わりました。
今回は、今後数年にわたってERP業界の中心となるであろう「コンポーザブルERP」について解説します。
1.ERP業界のトレンドをおさらい
まず、ERP業界のトレンドを簡単におさらいしておきましょう。
ERPのトレンドは、およそ35年の間に2回ほど変化しました。
1-1.モノリシック型ERP
まず1990年代にERPが日本に入ってきたとき、トレンドは「モノリシック(一枚岩)型ERP」でした。
モノリシック型ERPは巨大な密結合の構造を特徴としていて、いわば大艦巨砲主義のような存在。
基幹業務を実行するための機能をすべて備えたソフトウェアパッケージです。
ITにおけるモノリシックとは、日本語で「一枚板」などと訳され、さまざまな機能が単一のシステムとして統合されている状態を指しています。
ERPとしては、販売・在庫購買・生産管理・会計・人事など一般的な企業に必須とされる活動を、ひとつのシステムで完結できることが求められました。
これら主要な企業活動(基幹業務)を、正確かつタイムリーにデータ化することで、素早い経営判断に役立てようという動きがあったわけです。
2000年~2010年代初頭までのERPプロジェクトは、大半がこのモノリシック型ERPに対する改修でした。
しかし、モノリシック型ERPにはさまざまな問題点があります。
代表的なものは以下です。
・連携機能が貧弱である
モノリシック型ERPは、単一で完結するシステムとして設計されており、外部との連携はあまり考慮されていません。
もちろん、ファイル連携などは可能ですし、SAPにもBAPIなどが実装されていますが、これらを活用するにはアドオン開発が必須です。
コストも時間もかかるため、プロジェクトが肥大する遠因になっていました。
・運用・管理に手間とコストが必要
モノリシック型は、一般的に「オンプレミス型」です。
つまりハードウェア調達や運用保守費用が必要となり、これが大きな負担となります。
イニシャル・ランニングともに高いコストを支払う必要がありました。
・障害の影響が大きい
モノリシック型ERPは、すべての機能が密結合状態にあるため、一部で起こった障害が全体に影響をおよぼします。
また、改修時にも影響調査に多大な工数が必要でした。
1-2.コンポーネント型ERP
2000年代に入ると、モノリシック型ERの次のトレンドとして、コンポーネント型ERPが登場しました。
必要な機能を部品(コンポーネント)のように組み合わせるタイプで、業務に必要な機能だけを選択して導入できることがメリットです。
最小限の機能構成で短期間・低コストで導入できるほか、ビジネスの拡大や変更に合わせて柔軟に機能を再編できる点が魅力だとされました。
しかしこちらも、機能が重複しやすいことや長期的な追加開発の必要性などのデメリットがあり、徐々に見直されるようになります。
1-3.ポストモダンERP
厳密にいえばポストモダンERPは「次世代」という意味を持つため、ERPのトレンドではないのですが、便宜上こう呼ぶことにします。
コンポーネント型ERPの次に注目されたのがポストモダンERPです。
ポストモダンERPは、コンポーネント型の特徴を受け継ぎつつ、より「疎結合」な点を強調したERPです。
複数のアプリケーションを独立して、かつ疎結合状態で統合し、必要な機能を実現していくという考え方がベースにあります。
今主流になっているERPの方法論は、このポストモダンERPが根底にあると言って良いでしょう。
S/4 HANAを中心にさまざまなアプリを連携させるSAP ERPも、見方によってはポストモダンERPと言えます。
ここまでが、1990年代から2010年代にかけてERP業界に起こったトレンドの概要です。
2.真のポストモダン「コンポーザブルERP」とは
こうしたERPのトレンド変遷を受けて、2020年代初頭にガートナー社が提唱した概念が、「コンポーザブルERP」です。
コンポーザブルは、「(複数の要素や部品などを結合して)構成できる」という意味を持っており、複数の機能部品を組み合わせた構造によるERPだとされています。
コンポーネント型ERPの発展版で、APIやマイクロサービスによる機能部品の疎結合などが主な考え方です。
前述の「ポストモダンERP」では、基幹業務領域を担うERPをコアERPとし、そこへSaaS型サービス等の組み合わせることでかつてのモノリシック型ERPのような機能群を実現するという流れがありました。
これに対してコンポーザブルERPは、ポストモダンERPが持つ「組み合わせ」という考え方を基に、さまざまな先端技術を取り入れながら進化する「自由度と柔軟性を極限まで高めたERP」と言えます。
コンポーザブルERPでは、コアとなるERPパッケージすらも存在せず、かつてERPが持っていた機能をマイクロサービスとAPIによる疎結合で実装してしまおうという考え方があります。
例えば在庫管理機能に関しても、パッケージが用意している在庫管理機能をそのまま使うのではなく、自社の在庫管理にかかる各業務をあらかじめマイクロサービス化しておき、APIで連携させながら対応する、というイメージです。
マイクロサービスを「最小単位」とすることで、どのように業務が変化しても柔軟に対応することができます。
また、必要に応じて外部のサービスとのAPI連携も視野に入れ、ビジネスの拡張性と信頼性を担保しようという考え方でもあります。
3.SAP ERPもコンポーザブル化していくのか
2024年現在の状況をみると、SAP ERPはまだコンポーザブルERPの域には達していないようです。
しかし、ポストモダンERPのようにコンポーネント型+αの状態は実現しています。
S/4 HANAを中心に、C/4 HANAやAribaといった外部システムと柔軟に連携していく様子は、まさにポストモダンERPです。
一方で、コアERPとしてS/4 HANAの存在が大きく、マイクロサービスとAPIが主体になるコンポーザブルERPとはやや趣が異なるものとなっています。
また、コンポーザブルERPのプロジェクトは、その性質上「アジャイル型」になるとされます。
現時点でSAP ERPプロジェクトの大半はウォーターフォール型ですから、やはりコンポーザブル型に移行するには時間を要するのかもしれません。
まとめ
今回は、ERPのトレンドをおさらいしながら、最新の「コンポーザブルERP」について解説しました。
SAP ERPのコンポーザブル化はまだ先になりそうですが、すでにMicrosoftやOracleはコンポーザブル型ERPを徐々に実現しています。
したがって、SAPにも必ず影響は出てくるでしょうね。
今後はパッケージの機能を熟知するよりも、「顧客の業務を深く理解し、マイクロサービスとして実装できること」が求められるかもしれません。