オペレーショナル移転価格(OTP)とは?ERPとOTPの関係性を解説
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はじめに
近年、ERPの運用においてオペレーショナル移転価格の取り扱いが注目されています。
オペレーショナル移転価格(以下OTP)への対応は、欧米の多国籍企業が徐々に進めており、日本でも対応する企業が出始めています。
日本ではまだそれほど知られていませんが、EPR業界の人間であれば覚えておいて損はないでしょう。
今回はERP運用に関係が深いOTPについて解説します。
1.オペレーショナル移転価格(OTP)とは?
OTPとは、 多国籍企業グループにおける移転価格運用にかかるものを指します。
移転価格とは海外にある関連会社との取引に使われる価格です。
移転価格をどのように設定するかで、国際的な利益移転が発生し、本社や関連会社が存在する国それぞれで納める税金が大きく変わってきます。
つまり、移転価格の関係国の間で、税金の分配という問題が起こりえます。
こうした問題を調整するために、移転価格税制があります。
1-1.移転価格税制とは
日本の親会社から海外の子会社とで取引を行う場合、外部企業へ販売するときに比べて安い価格を適用することがあります。
この場合、日本の親会社が得る利益は外部企業との通常取引と比べて小さくなります。
これは、考え方によっては「日本から海外へ利益が移転した」ということにもなります。
1-2.移転価格を最適化するOTP
OTPはこの移転価格税制を考慮しつつ、各国の税制に沿って最適な所得配分を行うとともに、企業内での適切な移転価格設定を行うものです。
移転価格ポリシーの適切な実施(価格設定、利益率モニタリング、 価格変更など) を何らかのシステム、ソリューションで自動化し、関連会社が存在する国ごとに移転価格管理を行います。
2.ERPによるOTPが注目される背景
日本で移転価格税制が開始されたのは1986年です。
つまり、制度が開始されてからすでに38年が経過しています。
この間に、経済のグローバル化が進み、企業間の越境取引が増えました。
また、グローバル企業グループ内での取引も複雑化し、移転価格によるリスクが一層高まっています。
また、デジタル課税が進む中で、多国籍企業の税務業務にかかる負担が増加することは確実です。
ヨーロッパやオーストラリアを始めとする国々では、税務情報の開示義務が拡大しており、税務報告の正確性が重要視されています。
日本国内でも、国税庁がデジタル化されたデータによる正確な納税を求める方針を示しています。
その一方で、労働人口の減少で実務に携わる人は慢性的に不足している状況です。
このような環境において、ERPを利用したOTPは、人的リソースの不足をIT技術で補う数少ない方法です。
クラウドやインメモリデータベースなどの技術革新により、グローバル企業が持つ巨大なデータを高速で処理することが可能になりました。
SAP ERPが2025年~27年にかけてサポート終了を発表したことを契機に、最新世代のERPによる移転価格税制実務の効率化が求められています。
3.ERPによるOTPで得られるメリット
ERPによるOTP は、 グローバル企業が直面する移転価格税制に関する課題を効率よく処理する施策です。
最も大きなメリットとしては、営業利益にいたるまでの各セグメント損益計算の自動化にあります。
各セグメントの営業損益を自動的に計算できれば、事業・製品・機能・商流などの営業利益率を正確に把握できるでしょう。
さらに、それぞれのセグメントの貸借対照表科目 (売掛金、 買掛金、 在庫など) も算定でき、 セグメントの運転資本や FCF(フリーキャッシュフロー)を評価できます。
このほかにも、次のようなメリットがあります。
3-1.事業上のメリット
・財務パフォーマンスのリアルタイムなモニタリング
セグメントごとのFCFをリアルタイムにモニタリングすることで、グローバル企業はグル ープ全体のサプライチェーンに関するパフォーマンスを複数の軸で評価し、 適切な戦略的意思決定を行うための情報を得られます。
また、 サプライチェーンの中での利益配分を可視化することで、適切なリソース配分が可能になります。
これは、後述の実効税率適正化と合わせ、企業価値の向上につながるでしょう。
・シナリオ分析と感度分析
予測財務諸表を用いた損益シミュレーションや感度分析が可能となります。
このことから、複数の商流の損益を比較して適切なサプライチェーンの選定が推進されます。
適切なサプライチェーンの選定は、事業リスクの低下につながるため、事業の安定化にも貢献します。
・運転資本の適時な把握と予測
OTP を通じて各セグメントの運転資本を適時に正確に把握・予測することで、 外部借入の余剰を削減し、資金調達コストの削減が可能となります。
・ESGカーボンフットプリント(CFP) の計算
カーボンニュートラルの実現にむけて近年注目されているCFP(カーボンフットプリント)の算定は、企業の新たな責務といえるでしょう。
CFPの計算はサプライチェーンに沿った活動を追跡して行われるため、計算は非常に複雑です。
一方でこの計算は、OTPに関するERPのアドオン機能を活用することで、自動化が可能だと見られています。
3-2.税務関連のメリット
・SKU (品目の最小管理単位)レベルの移転価格設定の自動化
SKU レベルでの価格設定を自動化することで、 商品・サービスに対する移転価格管理作業が効率化されます。
品目の数が多いほどメリットが大きいため、グローバルに事業を展開する製造業では恩恵が大きくなるでしょう。
さらに、期末の価格調整金が不要になる、移転価格リスクや調査対応コストが低減できる、二重課税リスクが回避できるなどのメリットもあります。
・実効税率の最適化
ERPによるOTPの本丸とも言えるのが「実効税率の効率化」です。
国ごとの適切な移転価格管理を通じて実効税率を適正化し、税金と利益のバランスをとるのです。
3-3.その他業務の自動化
OTP に関するERPのアドオン機能を活用することで、ERP 外で行われていたアナログな税務関連業務を自動化することができます。
具体的には、法人税の課税所得の計算、デジタル課税の第2の柱への対応、間接税(消費税・付加価値税 (VAT) など)計算などが含まれます。
まとめ
このようにOTP は、グローバル企業の移転価格業務の変革を支援する以外にも、「企業価値の向上」という大きなメリットが得られるものです。
日本ではまだそれほど対応が進んでいませんが、今後は企業規模にかかわらず、越境取引を行う場合には必須の施策になるかもしれません。
その時には、間違いなくERP側にも対応が求められるでしょう。
5~10年後には、OTPがらみの要件を持つプロジェクトが増えるかもしれません。
ERP業界に籍を置く人材ならば、今から知識を得ておいたほうが良いでしょう。