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2層ERPとは?規模の異なるパッケージを併用するメリットとリスク

はじめに

「2027年問題」の影響でSAP導入コンサルタントや技術者の不足が深刻化しています。

それにともなって開発コストも上昇しており、リソースの問題から新規プロジェクトに二の足を踏む企業も少なくないようです。

こうした状況の中で、「2層ERP」が再注目されているのだとか。

2層ERPは2010年代に流行したERPの実現方法ですが、再注目される背景には、何があるのでしょうか。

 

今回は、SAP人材にも関係が深い「2層ERP」について解説します。

 

 

 

1.2層ERPとは?概要とメリット

2層ERPは、企業の様々な業務プロセスを統合し、リソースの計画、管理、運用を効率化するための情報システムの一つです。

ここでいう「2層」とは、システムが大きく分けて2つのレイヤー、つまり「層」で構成されていることを指します。

2層構造を採用する主な目的は、企業グループ内における特定のニーズ(地域や規模などに関係するもの)に柔軟に対応しつつ、全体の一貫性を保つことにあります。

 

以下は、2層ERPの構成を簡単に説明したものです。

 

 

1-1.第1層:コアERP

第1層は通常、企業全体の基本的なビジネスプロセスをカバーするコアERPシステムです。

この層は会計、人事管理(HR)、調達、在庫管理など、企業運営に不可欠な基本機能を提供します。

第1層のERPは、組織全体の統合データベースを使用し、異なる部門や機能間でのリアルタイムな共有が可能なように設計されています。

これにより、データの一貫性と透明性が向上し、意思決定が迅速化します。

 

 

1-2.第2層:サテライトERP

第2層は、特定の地域、部門、またはビジネスユニット固有のニーズに対応するために設計されたサテライトERPシステムです。

この層は、第1層のコアERPによってカバーされない特殊な要件や地域特有の法規制、言語、通貨などに対応するためのものです。

例えば、特定の国の税法に準拠する必要がある場合や、独自のビジネスプロセスを持つ子会社がある場合などに、第2層のシステムが活用されます。

 

 

1-3.2層ERPのメリット

2層ERPは一般的に次のようなメリットを持ちます。

 

・柔軟性とスケーラビリティ

企業が成長したり、新しい市場に進出したりする際に、異なるニーズに柔軟に対応しながら、全社的な統制と一貫性を保つことができます。

・コスト効率

全てをカバーする単一の巨大なERPシステムを導入するよりも、必要に応じてサテライトシステムを追加することで、実装と維持のコストを抑えることが可能です。

・リスク管理

地域や部門ごとに異なるシステムを導入することで、システム障害やデータ損失のリスクを分散させることができます。

 

 

 

2.なぜ今「2層ERP」なのか?

次に、決して新しい考え方ではない2層ERPが、注目されている背景について解説します。

2層ERPが注目される背景にあるのは、「2027年問題」です。

 

2027年問題とは、SAPの旧バージョンに対する正式なサポートが終了し、多くの企業が新システムへの移行を迫られる状況を指します。

実際に数年前から、SAP導入の専門家や技術者が不足し、その単価が高騰、さらにはシステムインテグレーターも人材不足により、案件の受注が困難な状態です。

こうした背景の中、2層ERPが注目を集める理由は複数あります。

 

 

2-1.リソースの節約につながる

2層ERPは前述のように2つの「性質の異なるERP」を「状況に応じて配置」する方法です。

 

規模の大きな本社ではS/4 HANA(コアERP)への移行を進めつつ、中小規模の拠点ではそれぞれの規模に合ったERP(サテライトERP)を導入することで、移行費用と保守費用を抑えることが可能です。

 

本社以外では高コストで機能が多すぎるSAPに代わり、シンプルで使い勝手の良いクラウドERPを選択することで、小規模拠点の運用効率が向上します。

さらに、クラウドサービスを利用することでシステム管理者の必要性が減少し、人材不足の問題もある程度緩和されます。

 

しかし、2層ERPにはデータ統合や、異なるシステム間での情報共有に関する課題も存在します。

これらの問題に対処するため、企業は経営管理、経理、情報システム部門が協力して、グループ全体で一貫した経営管理が行えるよう、適切なシステム選定と設計を行う必要があります。

 

 

2-2.ビジネスの柔軟性と統一性を担保しやすい

海外拠点を持つグローバル企業にとって、2027年問題の対応は特に複雑です。

各拠点が異なるシステムを独自に運用することは、不正のリスクを高め、統制を難しくします。

そのため2層ERPは、ビジネスのスピードに合わせて迅速にシステムを変更できる柔軟性と、グループ全体での統一された経営管理を可能にするための有効な戦略となります。

 

ビジネス環境の変化が激しい今日、特に海外拠点では「Fit to Standard」を基本に、標準機能を活用し、カスタマイズを最小限に抑えることがマストです。

2つのERPを標準状態で適用することにより維持コストと工数を削減し、ビジネスの変更に即座に対応できる柔軟性を確保できるでしょう。

これが2層ERPを採用する2つ目の理由です。

 

 

 

3.実装の課題も

2層ERPは、特にグローバルでオペレーションを展開している企業や、異なるビジネスモデルを持つ複数の子会社を統合したい大企業にとって魅力的な選択肢となりうることは確かです。

一方で、このシステムを最大限に活用するためには、いくつかの重要な考慮事項を理解しておく必要があります。

 

 

3-1.連携と統合

2層ERPの成功は、異なるシステム間のスムーズな連携とデータ統合に大きく依存します。

これには、第1層と第2層のシステムが互換性を持ち、リアルタイムでのデータ共有が可能であることが求められます。

システム間で一貫したデータモデルを使用することで、データの重複や不整合を避けることができるでしょう。

 

 

3-2.カスタマイズと標準化

第2層ERPは特定の地域の特殊な要求に対応するためにカスタマイズされることが多いですが、過度なカスタマイズは将来的なアップデートやメンテナンスを困難にする可能性があります。

「事情がある」とはいえ、可能な限り標準化に努め、必要最低限のカスタマイズに留めることが重要です。

 

 

3-3.チェンジマネジメント

2層ERPの導入は、組織内で大きな変化をもたらします。

特に現場担当者レベルのオペレーションは大きく変わる可能性があります。

従業員のトレーニングやチェンジマネジメントプロセスの実施が不可欠ですし、組織全体でのコミュニケーションを強化し、変更への理解と受け入れを促進すること欠かせません。

 

 

3-4.継続的なサポートと進化

テクノロジーは常に進化しているため、2層ERPシステムも継続的な評価とアップデートが必要です。

ビジネスニーズやテクノロジーの変化に対応するためには、定期的なレビューと、必要に応じてシステムの拡張やアップグレードを行う柔軟性が重要となります。

 

 

 

4.2層ERPとS/4 HANAへの統合を比較

2027年問題への処方箋として「S/4 HANAへの移行」を掲げる企業は少なくありません。

一方で、予算やリソースの制約から2層ERPで急場をしのぐという企業もあるでしょう。

そこで、それぞれのメリットとデメリットを整理しておきます。

 

 

4-1.2層ERPへの移行

メリット

・コスト効率

中小規模拠点では、拠点の規模に合ったERPを導入することで、高価な全機能型ERPよりも低コストで運用が可能です。

 

・柔軟性

地域や部門ごとの特定ニーズに合わせたシステムを導入できるため、現地での運用効率が向上します。

 

・導入スピード

シンプルなクラウドERPなどは、導入が迅速であり、ビジネスの変更や成長に柔軟に対応できます。

 

・人材不足の緩和

クラウドサービスの採用により、システムの維持管理に必要な専門スタッフの数を減らすことが可能です。

 

デメリット

・データ統合の課題

異なるシステム間でのデータ共有や統合が難しくなり、一貫性の確保に努力が必要です。

 

・管理の複雑化

複数のシステムを管理する必要があり、統制が難しくなる可能性があります。

 

・機能の限界

小規模ERPでは、大規模システムほどの機能性や拡張性を持たない場合があります。

 

 

4-2.SAP S/4HANAへの統合基盤移行

メリット

・統一されたデータベース

企業全体で一貫したデータベースを使用することで、情報の透明性とアクセス性が向上します。

 

・プロセスの最適化

最新技術を活用した業務プロセスの最適化が期待でき、効率的な運用が可能になります。

 

・イノベーションの促進

IoTや機械学習などの新技術との統合が容易で、イノベーションを促進します。

 

・グローバルな統制

税制や商習慣の変更に迅速に対応でき、グローバルなビジネス運営がスムーズになります。

 

デメリット

・高い導入コスト

S/4HANAへの移行には、高額な初期投資が必要となります。

 

・リソースの必要性

移行プロジェクトの成功には、十分な内部リソースと専門知識が必要です。

変更管理: 既存のシステムからの移行は、組織全体での変更管理を必要とし、従業員の抵抗やトレーニングの課題を伴います。

 

・カスタマイズの見直し

既存のカスタマイズ機能がS/4HANAでサポートされない場合、その見直しや再開発が必要になる場合があります。

 

 

 

まとめ

2層ERPシステムは、グローバルなビジネスを効率的に運営し、地域固有のニーズに対応するための強力なツールです。

考え方によってはS/4 HANAへのビッグバン的な移行よりも確実に、低コストでビジネス環境を変えられるでしょう。

ただし、2層ERPの基礎となるコアERPとしてのSAPのほかに、ほかのクラウドERPについてもノウハウが必要です。

 

SAP人材側から見れば、2層ERPプロジェクトへの参画は自分の知見を拡大する良い機会になります。

SAP以外の製品に触れる良い機会ですので、2層ERPに関するプロジェクトにも積極的に参加してみてください。

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