「SAPコンサルの将来性」は考えてもあまり意味がない
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はじめに
SAP ERP業界では、定期的に「SAPコンサルに将来性はない」といった流言飛語が飛び交います。
流言飛語とまで言い切るのは少し危ういかもしれませんが、定期的に聞こえる割には全く将来性が無くなりません。
筆者は個人的に「SAPコンサルの将来性を憂う意味がない」と考えています。
今回は、その理由をまとめてみました。
1.そもそもSAPコンサルはなぜ「将来性がない」と言われるのか
まずSAPコンサルの将来性を憂う声について、その根拠を探ってみましょう。
筆者が知る限り、下記いずれかのパターンだと思います。
・そもそもSAPのシェアが低下している
・SAPコンサルの仕事内容はニッチすぎて潰しがきかない
・そもそも国内では脱SAPが進んでいる
一理あるものもあれば、そうでもないものもありますね。
ひとつひとつ見ていきましょう。
1-1.そもそもSAPのシェアが低下している
これは明確に間違いです。
SAP ERPのシェアは、確かに最盛期に比べると低下しました。
しかし、その最盛期は「1990年代~2000年代の初頭」です。
それ以降は他社にシェアを奪われつつも、歯止めがかかり、ここ10年ほどは6~7%弱のシェアを維持しています。
もちろん、グローバルのERP市場では1位です。
例えば2015年の市場シェアは約6%ですが、2020年には6.5%に回復、その後は6.8%に落ち着いているようです。
・2015年シェア
https://products.sint.co.jp/backoffice/blog/erp-market-share.html
・2020年シェア
https://biz.moneyforward.com/erp/basic/173/
おおもとの記事は更新のタイミングで過去のシェアが消えてしまいますので、当時の調査結果をまとめたものを参考としました。
そもそもERP市場は企業向けのIT製品とあり、それほど大きな変動はありません。
なぜかというと、「ERPパッケージ」という巨大なアプリケーションを製品化できる企業が限られているからです。
上位陣を見ても、おなじみの顔ぶれ(オラクル、Intuit、Microsoft)が並んでいます。
この顔ぶれは、少なくともここ10年ほどは変わっていませんね。
日本市場に限って言えば、近年は中小企業向けのパッケージが増えてきましたが、これについても上記のメジャーどころがバリエーションとして提供しているものにすぎません。
SAPであれば、「Business One」、オラクルは「Netsuite」、Microsoftは「Dynamics 365 Business Central」などですね。
こうした中小企業向けパッケージは今後も増えていくと考えられます。
しかし、上位陣のシェアは大企業向けのパッケージをメインとしていることから、中小企業向けのパッケージはシェアに大きな影響を与えないでしょう。
1-2.SAPコンサルの仕事内容はニッチすぎて潰しがきかない
こちらも明確な間違いに近いですね。
これは実際に筆者の周辺の元SAPコンサルにヒアリングした結果からも明らかです。
確かにSAPコンサルの仕事は、SAP ERPプロジェクトという断面で見ればニッチで専門性が高いです。
パッケージの仕様に精通している必要があり、この知識を他の分野で活かすことは不可能に近いでしょう。
しかし、SAPコンサルの多くはSAP ERPの技術的な知識のみを提供価値としていませんよね。
たいていの場合は、
・そもそもERPとはどういう使い方をすべきか
・クライアントの業務課題はどこにあり、SAP ERPでどう解決できるのか
・SAP ERP以外のシステムとどのように連携すべきか
などを提案するかと思います。
一昔前は、「カスタマイズやパラメータ設定がSAPコンサルの要件」と言われた時代もありましたが、現在はこのような認識は皆無ですよね。
もっと広範で、汎用的なスキルが培われるのがSAPコンサルです。
具体的には下記のようなものですね。
・幅広い業界への適用性
SAP ERPは、製造業、小売業、金融業など多様な業界で採用されています。
SAPコンサルタントとして活躍しているならば、これら業界別の知識に精通することは必須であり、必ず身についています。
この知識を活かして、異業種への転職も含めて柔軟なキャリア展開が可能です。
・ビジネスプロセスへの深い理解
SAPコンサルタントは、企業の業務プロセスを理解し、それをシステムに反映させる能力が必要とされます。
このスキルは、ERP業界全般において有用であり、さらに上流のビジネスコンサルティングの分野でも高く評価されます。
・プロジェクトマネジメント能力
多くのSAPコンサルタントは、プロジェクトにおいて導入から運用まで幅広いフェーズを経験します。
このプロセスで培われるプロジェクトマネジメントのスキルは、IT業界内外で広く応用可能です。
・技術的アジリティとキャッチアップ能力
SAPは定期的に新しい技術を導入しています。
例えば、ここ5年程度を切り取ってみても、SAP S/4HANAやクラウドサービスへの移行などがありますよね。
このような環境下で働くことは、技術的なアジリティ(機敏さ)を鍛える絶好の機会です。
また、直接的に開発に携わらなくとも、常に最新情報をキャッチアップする習慣と学習能力が身に付きます。
これらは、自己成長の原資ともいえるわけです。
したがって、SAP ERP以外の分野においても、長期的なキャリア形成が可能になるでしょう。
・国際的なキャリア機会
これはやや限定的ですが、SAP ERPを採用している企業はグローバル企業が多く、SAPコンサルタントは国際的なプロジェクトに参加する機会が多くあります。
もし機会に恵まれれば、グローバルなビジネス環境で活躍するための経験とスキルを得ることができるでしょう。
1-3.そもそも国内では脱SAPが進んでいる
これについては、確かに傾向が確認できています。
ただし、「SAP ERPを忌避している」というよりは「レガシーシステムとしてのSAP ERPから、いかに脱却するか」という意見が多いようです。
つまり、脱すべき対象はSAP ERPではなく「レガシーシステム」なのです。
2024年現在、オンプレミスなレガシーシステムとしてSAP ERPを活用している企業はまだまだあります。
その多くはECC6.0時代までの「モノシリック型(一枚岩型)」なシステムを採用していて、これが硬直性や運用コストの高さにつながっているのが実情です。
この流れはSAP側でも察知していて、ECC時代のモノシリック型システムを改めようと、さまざまな手段を提供しています。
SAP S/4 HANAのコンポーネント型システムもそうですし、BTPによる開発やチューニングの外部化、クラウドとオンプレミスという2つのパターンを用意した製品など、工夫を凝らしていますね。
SAP ERPに限らず、特定のパッケージ内で蓄積されたビジネスロジックを他のパッケージに移行するには、多大な労力が必要です。
この労力と、同じパッケージの最新版に移行する労力を比較した結果、後者のほうが有利という判断も十分にあり得ます。
例えばECC6.0からS/4 HANAへの移行ですね。
このように脱SAPは一直線に進むわけではないので、ある程度はSAP離れが起こったとしても、現在の地位が崩れ去るほど大きな流れにはならないと思います。
2.SAPコンサルとして身に着けたい「裏のニーズ」を読む力
筆者がSAPコンサルとして将来性を高めるために必要だと感じているスキルに、「裏のニーズを読む力」があります。
ニーズとはご存じのとおり「必要性」です。
SAP ERPの導入やシステム改修を望んでいる企業の担当者は、何らかのニーズを持っています。
このニーズは、表に出ているものものあれば、出ていない(担当者が気づいていない)ものもあります。
つまり、顕在ニーズと潜在ニーズですね。
有名なニーズ論は、この2つをうまく突くことをニーズ把握の要旨としていますが、SAP ERPにおいてはもう一つの軸を持っておきたいのです。
もう一つの軸とは「気づいているが、何らかの理由があって外部に話しにくいニーズ」です。
これが「裏のニーズ」です。
BtoBの場合はこの裏のニーズがキーポイントになることが多く、裏のニーズをいかに引き出せるかがSAPコンサルの腕の見せどころと言っても過言ではないでしょう。
ちょっと想像しにくいかもしれませんが、裏のニーズの例を見てみましょう。
・顕在ニーズ
システムが老朽化していて処理が遅いので、処理能力をアップさせたい
→先方が気づいていて、なおかつ明示しているもの。
・潜在ニーズ
本当に必要なのは処理能力ではなく、ワークフローの効率化である
→先方が気づいておらず、こちらから見えているもの
・裏のニーズ
予算的にクラウド移行は難しいが、建前としてクラウドを選択せざるを得ない(本当はオンプレの拡張でいきたい)
→先方が気付いているが現段階では口に出しづらいこと
実際にプロジェクトが始まると、裏のニーズに関する事柄が次々に露呈します。
これを事前に察知し、「先方から打ち明けてくれる」レベルにまで関係性を強めておけば、よりよい提案ができるはずです。
裏のニーズ把握は、コンサルティングセールスなどの分野で用いられる知識ですが、SAPコンサルも身に着けておいて損はないとおもいます。
「クライアントと不自然に距離を縮めろ」と言っているわけではありません。
「この人になら話しても良さそう」と思ってもらえるだけの経験と知識を提示できるかが重要なのです。
最も簡単なのは、さまざまな事例やユースケースを具体化して見せてあげることでしょうね。
このスキルが身につけば、SAPコンサルとしても、ビジネスパーソンとしても一段上に登れる可能性が高いと思います。
まとめ
今回は、「SAPコンサルは将来性がない」という意見に対する反論を、いくつかの根拠に基づいて紹介してみました。
確かにSAP ERPは一時ほどの勢いはありませんが、確実に日本企業に定着しており、最新のトレンドもキャッチアップできています。
また、SAP ERPを通して身に着けたスキルは汎用性を持っていますので、他の分野でも十分に通用するでしょう。
ただし、ある程度の「量」を経験しなくては実を結びません。
フリーランスとしてさまざまな案件を経験し、「クライアントが自ら裏のニーズを打ち明ける」レベルの人材を目指してみてはいかがでしょうか。