SDの必須知識「インコタームズ」の基礎
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はじめに
SAP ERPのコアモジュールのひとつに「販売管理(SD)」があります。
日本国内でもFIやMMと並んで需要が多いモジュールですよね。
このSDですが、MMやFIと異なり、IT業界にいるとなかなか知識が身に付きません。
そこで今回は、SDの必須知識「インコタームズ」について解説します。
1.インコタームズとは
まずインコタームズの基礎を理解しておきましょう。
インコタームズ(Incoterms)とは、国際商業会議所(ICC)が制定した国際貿易における標準的な取引条件の規則です。
正式には「国際商事条件」と呼ばれ、主に売主と買主の間での責任や費用負担を明確にするために使われています。
インコタームズを遵守することにより、国際取引に関してトラブルやリスクが軽減され、取引がスムーズに進むというわけです。
インコタームズが規定しているのは、「どの時点」「どちら側」がリスクや費用を負担するかです。
貿易などの国際取引では、品物を受け渡すタイミングが複数あります。
例えばPCを輸入したとして、「船から降ろして受け渡し」なのか「相手方の工場に届ける」のかでは、費用負担のタイミングが違います。
また、万が一、自然災害や通関上のトラブル、荷下ろし作業中のトラブルなどで品物が損害を受けた場合の責任範囲も変わってきます。
インコタームズでは、これら「費用負担」と「危険負担」を11のパターンとして定め、費用負担やリスクの引き受け方法を定義しています。
2.よく使われるインコタームズの6パターン
ちなみに、現在よく使われているのは主に以下6つです。
SAP ERP内でも見かけたことがある言葉が出てくるはずです。
・EXW(Ex Works/工場渡し)
品物が売主の工場を出た時点から、買主側が輸送にかかる全ての費用負担と危険負担を「品物が売主の工場を出た瞬間から」負うパターンです。
売主に最も有利な貿易条件といえます。
・DDP(Delivered Duty Paid/関税込み仕向地持ち込み渡し)
輸送にかかる全ての費用負担と危険負担を売主側で引き受ける条件です。
EXWのほぼ真逆と考えてよいでしょう。
買主側にとって最も有利です。
・DAP(Delivery at Place/仕向地持ち込み渡し)
DDPとほとんど同じですが、売主側は輸入国での荷降ろしの責任を持たない点に違いがあります。
また、輸入国での税関手続き及び、関税・消費税の支払いも買主側で行います。
・FOB(Free on Board/本船渡し)
輸出国で荷物が船に積み込まれるまでについては費用負担・危険負担ともに売主側が負担します。
それ以降は、買主側が負担するというルールです。
また、税関手続きは、「輸出国からは売主側」「輸入国では買主側」が行うことになっています。
・CIF(Cost Insurance and Freight/運賃保険料込み条件)
売主側の費用負担と危険負担に若干の違いがあります。
「危険負担は輸出国で貨物が輸送船に積み込まれるまで」「費用負担は貨物が輸入国に到着するまで」というルールです。
危険負担と費用負担が売主から買主に切り替わる点がFOBと違います。
・CFR(Cost and Freight/運賃込み条件)
CIFとほぼ同じであるものの、売主側に義務付けられている輸送に関する保険がありません。
3.10年に一度改定されるインコタームズ
インコタームズは、国際商業会議所によって定期的に改訂されています。
改訂の目安はおおよそ10年。
最新の改訂は「インコタームズ2020」です。
インコタームズ2020は2019年9月に発表され、2020年1月1日に発効されました。
最新のインコタームズ2020では、以下のような見直しが入っています。
・DATからDPUへ
DAT(Delivered at Terminal)が廃止され、DPU(Delivered at Place Unloaded)へと移行しました。
貨物の引き渡し場所がターミナルに限定されず、任意の場所で貨物を引き渡せることが明確化されました。
・FCAと船積書類に関する新しいオプション
FCA(Free Carrier)の条件において、輸出者が貨物を積み込む前に必要な書類を受け入れるためのオプションが追加されました。
スムーズな書類処理を目的としたものです。
・CIF/CIPの保険カバーの変更
CIF(Cost, Insurance and Freight)およびCIP(Carriage and Insurance Paid To)において、保険のカバー範囲が見直されました。
CIPではより高い保険でのカバーが推奨されています。
・運送手段の種類を明確化
各規則で適用される運送手段の種類がより明確に定義されました。
マルチモーダル輸送(複数の運送手段を利用した輸送)のケースでも適切に対応できるようになっています。
・セキュリティ関連費用の知識
貨物の輸送中に発生するセキュリティ関連の費用負担について、輸出者および輸入者の責任がより明確に規定されています。
4.SAP ERPのSDモジュールにおけるインコタームズの使われ方
以上の内容を踏まえて、SDモジュールにおけるインコタームズの使われ方を整理していきます。
SAP ERPのSDモジュールにおけるインコタームズは、貿易取引における売主と買主の間での物品の引き渡し条件や費用負担、リスクの移転に関するルールを規定するために使用されます。
この点は通常のインコタームズと同じです。
ただし、SAP ERPの場合は主に伝票のデータや価格計算の条件として扱われます。
4-1.取引条件の設定
販売オーダー(Sales Order)において、カスタマーマスターデータや販売オーダーのヘッダー情報として入力されます。
また、出荷指示(Deliver)でもインコタームズが適用され、配送や引き渡しのプロセスの段階でどの程度のリスクが発生するかなどの管理を行います。
4-2.価格計算と条件
例えば、FOB(Free On Board)やCIF(Cost, Insurance, and Freight)などの条件では、売主が負担する費用と買主が負担する費用が異なるため、価格設定が異なります。
具体的には交通費、保険料、税金などの追加コストなどの設定に使われます。
4-3.輸送プロセスとロジスティクスの管理
SDモジュールでは、インコタームズを使って、物流プロセスを管理します。
具体的には、商品の引き渡し場所(例:港、倉庫、顧客の施設など)を定義し、それに応じた輸送手配や暫定措置を行います。
4-4.財務会計との連携
SDモジュールで設定されたインコタームズは、会計モジュール(FI)と管理会計モジュール(CO)とも連携します。
貿易取引に関する輸送費やその他のコストを正確に把握する際に必要だからです。
インコタームズに基づいて輸送費や保険料が正確に記録されるため、コストの透明性が向上し、国際取引における報告が効率的にかつ正確に行われます。
まとめ
SAP ERPのSDモジュールにおけるインコタームズは貿易、取引の効率化とリスク管理を支える重要な要素です。
取引条件の明確化、物流管理、価格設定、会計との統合など、複数の機能でインコタームズが活用されています。
インコタームズは貿易実務にかかわったことがない限り、ほとんど身につかない知識です。
また、SDでは価格決定や会計との連携も行っているため、非常に重要な項目です。
ロジスティクス系のモジュールを使っている製造業の企業では高確率で使いますので、知識だけでも習得しておきましょう。