SAP S4HANAのカスタマイズ「支払い媒体ワークベンチ」とは?
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【コラム監修者 プロフィール】
クラウドコンサルティング代表取締役 岸仲篤史
新卒でSAPジャパン株式会社に入社。
SAPジャパン在籍中にCOコンサルとして従事したことで、会計コンサルの面白さに目覚め、
大和証券SMBC株式会社 投資銀行部門、新日本有限責任監査法人、アビームコンサルティングにて、
一貫して約10年間、会計金融畑のプロフェッショナルファームにてキャリアを積む。
その後、2017年クラウドコンサルティング株式会社を設立し、SAPフリーランス向けSAP free lanceJobsを運営し、コラムの監修を手掛ける。
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はじめに
SAP S/4HANAには従来のECC6.0と同じような機能がブラッシュアップされて搭載されています。
ここでいう機能とは内部的なものだけではなく、カスタマイズも含まれます。
このカスタマイズのひとつが「支払い媒体ワークベンチ」です。
FI関連のカスタマイズということで比較的注目度が高いです。
この機会に基礎を確認しておきましょう。
1.支払いワークベンチとは
「支払い媒体ワークベンチ」(Payment Workbench)は、SAP S/4HANAで活用されている支払い処理のカスタマイズです。
一般的な支払処理は、国内取引であれば全銀協フォーマットに従うのが通例です。
ちなみに全銀協フォーマットとは、日本国内の銀行間で電子データを交換する際に使われるフォーマットを指します。
全銀協フォーマットを使うと、複数の銀行に対して振込(支払い)の指示を行う場合でも、単一のフォーマットに従えばよいので、処理の効率化やミス発生のリスクを減らせるわけです。
ただし、全銀協フォーマットに即したフォーマット以外を使いたい場合には、支払いができないことにもなりますよね。
そこで、各社固有の要件を盛り込む場合は、別途、支払媒体書式(DMEファイル)を作成して支払処理を進めます。
このDMEファイルを正しく作成することが支払い媒体ワークベンチの役割です。
2.支払いワークベンチの操作・設定
支払いワークベンチによる設定は、基本的に以下2つのステップで行います。
・支払媒体書式の登録
・支払方法に支払媒体書式を割り当て
2-1.支払い媒体書式の定義と登録
「財務会計\債権管理及び債務管理\会計トランザクション\銀行支払\自動銀行支払\支払媒体1\支払媒体ワークベンチの支払書式\登録支払媒体書式(クライアント非依存)」に移動しましょう。
支払媒体書式をクリックし、起動された画面の 「プログラム制御」 →「DME エンジン使用によるマッピング」をオンにしましょう。
DME エンジンのボタンをクリックすると書式の定義画面が表示されます。
書式ツリーは、構造として定義されるので、複数のレコードに対して有効です。
また、1つのレコードごとに、項目 (属性・桁数など) や計算式などで設定値を記述していきます。
2-2.支払方法に支払媒体書式を割り当て
次に割り当てです。
一般的なカスタマイズと同じで「定義→割り当て」なのでこの点は覚えやすいですね。
メニューは以下です。
「財務会計\債権管理及び債務管理\会計トランザクション\銀行支払\自動銀行支払\支払プログラム用の支払方法/銀行選択\設定:支払取引の国別支払方法」
上記画面の国別支払方法を選択し「支払い媒体ワークベンチの使用」をオンにします。
次に、あらかじめ定義しておいた書式を割り当てて完了です。
より詳しい手順については、SAPの公式ブログに掲載されていますので参考にしてみてください。
ちょっと情報が古いのですが、基礎的な手順は現在も同じだと思います。
・Part 1
・Part 2
3.支払いワークベンチの何が便利なのか?
さて、この支払ワークベンチですが、「アドオンプログラムの開発工数削減」に役立ちます。
DME (支払媒体書式) を利用することで、任意のフォーマットで支払データファイルを作成でき、支払先に応じたデータファイル作成のプログラムが必要なくなるのです。
実はS/4 HANAの新機能ではなく、ECC6.0の時代から実装されていたのですが、S/4HANA でもカスタマイズメニューに存在し、よく利用されるようになりました。
近年は、国境をまたいだ支払いが一般的に行われます。
「本社所在地ではない国で働く従業員」に対しては、その国の金融機関に沿った支払いファイルを使わなくてはなりません。
1つの国ならば良いのですが、本社がイタリアにあって、支社が日本と香港にある…といったようなケースでは、毎回プログラムを組んでいると工数もお金も膨大にかかります。
こうしたコストを削減できることは、支払いワークベンチの大きなメリットです。
例えば以下のような事例ですね。
・要件
海外の現地法人へ定期的に支払いを行いたい
現地の金融機関が指定する形式の支払い用データファイルを作成する必要がある
ファイル作成用のアドオンプログラムは組みたくない、標準機能で対応したい
・実現方法
SAPの標準機能である支払いワークベンチを活用し、銀行が指定するDEMファイルを自動生成することで対応
DMEフォーマットの定義方法を把握しつつ、海外の現地法人が求めるフォーマットを実現
・実現後の効果
フォーマットの要件確認と定義に時間を要したが、実現にかかるコストや手間については満足がいく結果になった
標準機能ということでSAPからのサポートが受けられ、保守性が高い
まとめ
今回は複数の支払先に応じたDMEファイルを作成するカスタマイズ「支払い媒体ワークベンチ」について解説しました。
国内取引のみの企業ではあまり使いませんが、今後はグローバル展開を進める企業などでの活用事例が増えるかもしれません。
標準機能のみで複数のアドオンプログラムと同様の働きをしてくれるので、工数削減や保守性向上の観点からとても優秀な機能です。
ぜひこの機会に学習を進めてみてください。