EPMとは?ERPとの違いと関連性、SAP ERPとの連携について解説
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コラム監修:佐京正則
大学卒業後、新卒で国内のベンチャー企業に入社。
その後、約11年間、外資系企業や国内のインフラ関連企業にてSAP ERPの導入、開発、運用までを経験。
経験モジュールはSD、MM、FI。
2015年よりライターとして活動を開始。
IT製品の導入にまつわる企業課題、エンタープライズIT製品に関するコンテンツの執筆、ホワイトペーパー作成などを手掛ける。
また、CRM/ERPベンダーに対して顧客導入事例の作成支援なども提供。
ビジネス課題と企業向けITが結びついたコンテンツを得意とする。
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0.はじめに
ERPに携わるエンジニアにとって、いま注目したいキーワードの一つが「EPM(Enterprise Performance Management)」です。
本記事では、EPMの基本的な考え方から、ERP・BIとの違い、SAPが提供する関連ソリューション、そしてSAP ERPとの連携パターンまでを整理しました。
「業績管理」という経営視点を身につけることで、参画できるプロジェクトの幅やエンジニアとしての市場価値を高めるきっかけとしていただければ幸いです。
1.EPMとは?企業内のデータを統合して分析
EPM(Enterprise Performance Management)は、日本語で「企業業績管理」と訳されます。
企業の戦略・中期計画・年度予算・月次実績・各種分析を「ひとつなぎ」で考えるための仕組みです。
財務データ(売上、コストなど)だけでなく、顧客数や案件数、生産量、人的リソースなどの「非財務データ」も含めて統合する点が特徴です。
EPMでは、部門ごとにバラバラに作られたデータを寄せ集めて評価するのではなく、「戦略―計画―予算―実績―分析」を一気通貫で管理します。
「経営管理を標準化・高度化するためのプラットフォーム」というのがEPMの基本的なイメージです。
1-1.EPMの定義と目的
EPMの根底にあるのは、「企業全体の業績を、共通の物差しで計画し、把握し、改善する」という考え方です。
経営陣が掲げた戦略目標を具体的な数値計画に落とし込み、その計画に対して実績がどの程度進捗しているかを可視化し、ギャップの要因を分析して次の打ち手に反映します。
勘違いされがちですが、EPMは単に予算を作るためのツールではありません。
経営判断の精度とスピードを高めるための「共通基盤」としての役割が大きいのです。
1-2.EPMはビジネスへどう影響するか
事業環境の変化が激しい現在、過去の実績だけを材料とした状況判断は危険を伴います。
EPMを導入することで、サイロ化していたデータを統合し、最新の実績と将来予測を踏まえた意思決定がしやすくなります。
たとえば、キャッシュフローの見通しを早期に把握して投資や資金調達のタイミングを最適化したり、需要予測と生産計画を連動させて在庫リスクを抑えたりといった改善が可能です。
また、経営管理プロセスを標準化することで、担当者が変わっても一定品質のレポーティングや分析が行える体制を構築できる点もメリットですね。
2.EPMの主な機能とプロセス
続いて、EPMの代表的な機能と、その裏側にあるプロセスの考え方を整理します。
2-1.業務プロセスの可視化
EPMでは、中期経営計画から年度予算、月次の実績、四半期ごとの見通しまでを、共通のモデルで扱います。
また、計画の作成・レビュー・承認といったプロセスをワークフローとして定義し、履歴を残しながら進めます。
履歴が残されることで「どの前提で計画した数字なのか」「どのタイミングでどのように修正されたのか」など、数値の文脈を知れるようになるわけです。
結果的に、
・経営計画や予算編成のステップが明確になる
・ボトルネックの可視化(原因となっている部門、部署など)
・修正が入った理由を、後から説明しやすくなる
といった効果が得られます。
2-2.KPI設定とモニタリング
EPMのもう一つの柱が、KPIの一元管理です。
売上高や利益率といった財務指標だけでなく、案件パイプライン、受注件数、稼働率、離職率などの非財務KPIも含めて整理します。
まず、企業全体のKGI(最終目標)から、事業別・部門別のKPIをブレイクダウンします。
そのうえで、それぞれのKPIをどのデータから算出し、どの頻度でモニタリングするのかを定義します。
EPMでは、これらのKPIをダッシュボードとして可視化し、最新データに基づいて自動更新します。
メリットは、「異常値やトレンドの変化に気づきやすい」ということですね。
「どの指標が目標から外れているのか」「どの地域・商品・チャネルに偏りがあるのか」を、画面上で素早く確認できるようになります。
2-3.予算編成と予測
こちらは比較的メジャーですが、「予算編成と将来予測」についてもEPMでカバーします。
単年度の予算を年に一度作って終わりにするのではなく、ローリングフォーキャストで定期的に見通しを更新していく点が特徴です。
たとえば、四半期ごとに12か月先までの売上・利益計画を見直し、
・市場環境の変化
・為替や原材料価格の変動
・採用計画や投資計画の変更
といった要素を織り込んで、最新のシナリオを比較検討します。
EPMでは、共通のデータモデルを用意し、売上・コスト・投資・人員計画
といった前提を一元的に管理します。
需要・売上・利益の予測も同じ基盤上で行うため、
・売上計画を変更すると、利益やキャッシュフローへの影響も同時に更新される
・景気悪化シナリオと成長投資シナリオを並べて比較できる
という具合に高速かつ質の高いシミュレーションが可能です。
3.EPMと他の管理手法との違い
このようにEPMは、計画・実績・予測を結びつけ、継続的に見直すためのプロセスそのものです。
ただし、日本ではあまり聞きなれないため「この内容ならERPで十分なのでは?」「BIがあれば代用できるのでは?」という疑問を持つ方もいるでしょう。
ここでは、ERP・BIと比較しながら、EPMの立ち位置を整理してみます。
3-1.EPMとERPの違い
まずERPです。ERPは、日々の取引や業務実行データを一元管理し経営判断に役立てようという概念。
もしくはこれを体現したシステムです。
「いつ・どの取引が発生したか」「どの商品を、いくらで仕入れ・販売したか」といった過去と現在の事実を、正確に記録し、処理できます。
一方でEPMは「未来志向」です。ERPなどに蓄積されたデータをもとに、
・これからどのような計画を立てるのか
・どのようなシナリオで事業を進めるのか
・目標に対してどこまで進捗しているのか
など、未来の意思決定を支えます。
ERPだけでも予実の差異を集計することはできます。
しかし、事業別・地域別など多軸のシミュレーションやローリングフォーキャストの材料としては不十分です。
ERPとEPMを連携させることで、ERPの実績データが自動的にEPM側へ取り込まれ、計画値との比較やシナリオ分析を高い頻度で、かつ高精度に回せます。
結果として、予実管理の精度とスピードが大きく向上するというわけです。
3-2.EPMとBIの違い
BI(Business Intelligence)は、データを集約し、グラフや集計表として見える化・分析するツールです。
「売上推移を可視化したい」「商品別に粗利を分析したい」といったニーズに応えるのが主な役割であり、基本的には「すでにあるデータをどう切り取るか」に特化しています。
これに対してEPMは、BIの役割を内包しながら、
・目標値・計画値の設定
・予算編成・配賦
・予測・シミュレーション
・承認フローやバージョン管理
といった経営管理プロセス全体を扱う点が大きな違いです。
その意味で、EPMは「BIの上位概念」のような立ち位置かもしれません。
3-3.者を組み合わせて使う
ここまでの内容を表にまとめると、以下のようになります。
| 観点 | ERP | BI | EPM |
| 主な役割 | 業務処理・取引データの一元管理 | データの可視化・分析 | 計画・予算・予測・予実管理の基盤 |
| 扱うデータ | 受発注、在庫、仕訳など日々の取引実績 | ERPなどから集約した実績データ | 実績データ+計画値・予測値・KPI |
| 時間軸 | 過去・現在の「事実」 | 過去・現在の「事実」の理解 | 現在〜将来のシナリオ・見通し |
| 主な目的 | 正確・効率的な業務処理と記録 | 現状の把握と原因分析 | 目標設定と進捗管理、意思決定支援 |
| 強み | 業務プロセスの標準化・内部統制 | 多角的な分析・レポーティング | 予算編成、ローリング予測、シミュレーション |
| 典型的な利用者 | 経理・業務部門 | 経営企画、営業企画、アナリスト | 経営層、経営企画、事業責任者 |
ERP・BI・EPMを組み合わせることで、
・ERP:事実の記録
・BI:事実の理解
・EPM:未来の目標設計と管理
という役割分担が明確になり、経営管理の高度化につながります。
4.EPMの導入メリット
さらに、EPM導入によって得られる代表的なメリットを見ていきましょう。
4-1.業務の効率化と透明性向上
最も分かりやすい効果が、「手作業からの脱却」です。
各部門から送られてくるファイルをつなぎ合わせ、ミスがないか確認し、最新版を探す——。
こうした「手作業」の比率を大きく減らせます。
4-2.迅速な意思決定の実現
EPMを導入すると、「数字が揃うまで待ってから議論する」スタイルから、「最新データを見ながら、その場でシナリオを検討する」スタイルに変えられます。
ERPなど周辺システムの実績データがEPMに取り込まれ、ダッシュボードやレポートが自動更新されるため、資料作成に追われる時間が減ります。
その結果、リソースを「打ち手の検討」に割けるようになり、意思決定のスピードと質の両方が向上します。
4-3.情報の一元管理と分析
EPMは会計データに加え、生産・販売・人事など、複数システムのデータを統合する基盤でもあります。
このことから、次のような切り口での分析がしやすくなります。
・売上と人員・稼働率を組み合わせた生産性分析
・在庫レベルと需要予測を組み合わせた在庫リスクの把握
・予算配分と実際の投資効果の比較
EPM上に共通のデータモデルを用意することで、「事業全体を横串で見る」ための分析が日常的に行えるようになります。
4-4.AIとデータ分析の活用
EPMは、蓄積したデータをAIや高度な分析に活用するための土台にもなります。
個々の部門でバラバラにデータを持っている状態では、AIを活用しようとしても「データの前処理」に時間がかかります。
EPMでデータ構造と管理プロセスを整えることが、AI活用の第一歩にもなります。
4-5.クラウドEPMの普及と利点
近年は、クラウド型のEPMソリューションが主流になりつつあります。
グローバル展開している企業にとっては、各国拠点から同一環境にアクセスし、共通フォーマットで計画・実績を管理できることも大きなメリットです。
このように、EPMは単なる「レポーティングの効率化」にとどまらず、経営管理のスタイルそのものを変え、将来の意思決定力を高めるための基盤として機能します。
5.SAPが提供するEPM関連ソリューション
SAPは、ERPだけでなくEPM領域でも複数のソリューションを提供しています。
ここでは代表的な製品と役割の違いを整理し、「どの製品が何を得意とするか」を押さえます。
5-1.SAP Business Planning and Consolidation(SAP BPC)
SAP BPCは、計画・予算・連結を一体で扱う従来型のEPMソリューションです。
オンプレミスやハイブリッド構成で使われることが多く、SAP ERPやBWと連携して予算編成や管理会計、財務連結などを管理します。
複雑な連結・調整仕訳をシステム上で処理できる点が強みで、「連結決算の基盤」として長く採用されてきました。
5-2.SAP Analytics Cloud(SAC:Planning & Analytics)
SAP Analytics Cloudは、クラウド上で分析と計画の両方を扱えるソリューションです。
ダッシュボードやレポートでの可視化に加え、Planning機能を使って売上計画やコスト計画を作成できます。
シミュレーションも同じ画面で行えるため、「見る」「考える」「直す」を一体で回せます。
SAPとしては今後のEPMの主力製品という位置づけであり、S/4HANAなどと連携してクラウド中心の経営管理基盤を構築する際の中核になります。
5-3.SAP S/4HANA for Group Reporting(財務連結)
Group Reportingは、グループ会社の連結会計をリアルタイムに行うためのソリューションです。
S/4HANA上で動作し、個社会計から連結会計までを一気通貫で管理できます。
従来BPCで担っていた連結機能の後継的な役割を持ち、決算・連結領域におけるEPMの「財務統合」部分を強化します。
5-4.SAP Profitability and Performance Management(PaPM)
SAP PaPMは、原価計算や収益性分析に特化したソリューションです。
複雑な配賦ロジックやコストドライバーをモデル化し、商品別・顧客別・チャネル別など多様な切り口で収益性を分析できます。
シミュレーション機能も充実しており、「前提条件を変えると利益構造がどう変わるか」を短時間で検証できます。
5-5.SAP Financial Close Solutions(SAP FCC など)
SAP FCCなどのFinancial Close Solutionsは、決算早期化と決算プロセス統合を支援するソリューション群です。
月次・四半期・年次の決算プロセスを標準化し、タスクや進捗を見える化します。
Group Reportingや他のEPM環境と組み合わせにより、決算で締めた数字を経営管理に活かすための橋渡し的な役割を果たします。
6.SAP ERPとEPMの連携方法
SAP ERPとEPMを連携させると、「実績を記録するシステム」と「計画や予測を扱うシステム」をつなげることができます。
このつながりが、予実管理やシミュレーションの質を大きく左右します。
6-1.SAP ERPとEPMを連携する目的
連携の一番の目的は、ERPに蓄積された実績データをEPM側で計画・予測・分析に活用することです。
販売・購買・在庫・人件費などの実績を自動で取り込み、計画値との比較やキャッシュフロー分析を素早く行えるようにします。
手作業でデータを扱う機会を減らしつつ、高い頻度で予実の差異を確認できる環境をつくることが狙いです。
6-2.連携アーキテクチャ
連携の方式としてはいくつかのパターンがあります。
SACを利用する場合は、標準のコネクタやOData APIを使ってS/4HANAからデータを取得するケースが一般的です。
データ量が多い場合や、複数システムをまたぐ場合には、ETLツールやデータレイクを経由して連携する方法も取られます。
いずれにしても、S/4HANAとEPMを「個別連携」するのではなく、将来的な拡張も見据えたアーキテクチャ設計が重要になります。
6-3.連携時のポイント
連携を設計する際は、勘定科目や組織構造などのマスターデータをどこまで統一するかが大きな論点になるでしょう。
ERP側の科目体系と、EPM側で管理したい収益性分析の軸が噛み合っていないと、後から配賦や集計ロジックが複雑になってしまいます。
また、計画値の粒度と実績データの粒度を揃えておくことも重要です。
日次レベルで実績があるのに、計画が年間合計だけといった状態では、十分なギャップ分析ができません。
予算体系とKPI体系の整合性を取り、「どの単位で数字を比較するのか」をあらかじめ決めておかなくてはなりません。
6-4.導入形態別の特徴
導入形態によって、連携の設計や運用のポイントも少しずつ変わります。
既存のBPCを活かすハイブリッド構成では、オンプレミス環境とクラウド環境の役割分担を整理しつつ、段階的にSACやGroup Reportingへ移行していくケースが多くなります。
一方で、新規導入でクラウドを中心に設計する場合は、SACを軸にして計画と分析を構築し、連結はGroup Reportingで行うといった分担が一般的です。
連結特化でGroup Reportingを先に導入し、その後にPaPMやSACを追加していくパターンもあります。
どの形を選ぶにしても、「短期的な導入しやすさ」と「中長期的な全体最適」の両方を見据えたロードマップ設計が重要です。
7.まとめ
EPMは、ERPの“先”で意思決定を支える経営管理基盤です。
ERPエンジニアにとっても、今後はEPMを含めた業績管理の知識が当たり前に求められていくでしょう。
自身の市場価値を高めるためにも、予算管理や連結、SACなどEPM関連プロジェクトに積極的に参画してみてください。