BASISについて
SAP BasisはSAPシステムのミドルウェアコンポーネントです。

SAP BasisはSAPを利用するにあたって必要となる、ミドルウェアコンポーネントの名称です。SAPは一般的なアプリケーションとは動作の仕組みが異なるため、SAP Basisと呼ばれるコンポーネントが必要とされています。SAPを動作させるために非常に重要なコンポーネントではありますが、意外と詳細が知られていないコンポーネントでもあります。今回はSAP Basisがどのような製品であるのかと関連する業務や課題についてご説明します。
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SAP Basisとはなにか
最初に中心となるキーワードであるSAP Basisとはなにかについてご説明します。
SAP Basisの概要
冒頭でも触れたとおり、SAP BasisはSAPシステムのミドルウェアコンポーネントです。SAPは一般的なアプリケーションとは異なり、OSの上で直接アプリケーションを構築する仕組みではありません。OSの上にはまずSAP Basisと呼ばれるコンポーネントを配置して、その上でSAPを動作させる仕組みとなっています。
中間にコンポーネントが挟まることは「手間が増えるだけではないか」と考える人がいるでしょう。しかし、このSAP Basisと呼ばれるコンポーネントがあることで、OSやデータベースが異なっていてもSAPが同じように動作します。構築する環境の違いを吸収してくれるコンポーネントと表現しても良いでしょう。
なお、SAPの世界ではSAP Basisと呼ばれていますが、これはSAP R/3時代に利用されていたキーワードです。現在は「SAP NetWeaver Application Server」が正式名称として利用されていて、SAP NetWeaverとしてバージョン管理なども行われています。
ただ、「SAP Basis=SAPの基盤となるコンポーネントや業務全般」「SAP NetWeaver=SAPのコンポーネント名」との認識がある程度広まっているため、今回、SAP Basisのコンポーネントのみならず関連する業務全般を含めて解説します。
SAP NetWeaver 7.5の機能
現在、一般的に利用されているSAP NetWeaverには概ね以下のコンポーネントが含まれています。
- SAP NetWeaver Application Server
- SAP NetWeaver Process Integration
- SAP NetWeaver Mobile
- SAP NetWeaver Portal
- SAP NetWeaver Business Intelligence
- SAP NetWeaver Business Warehouse
- SAP NetWeaver Exchange Infrastructure
- SAP NetWeaver コンポジットアプリケーションフレームワーク
これらの中でもSAP Basisに該当するものはご説明したとおりSAP NetWeaver Application Serverです。ただ、実際にはSAP Basisに該当するもの以外のモジュールも多数含まれています。むしろ全体のバランスで考えると、SAP Basis以外のコンポーネントの方が多いのです。
ただ、SAP Basisに代わるApplication Serverが含まれていることから、SAP NetWeaver=SAP Basisと捉えられる傾向にあります。そのような認識は厳密には誤っているため、SAP Basis以外のコンポーネントも含めた総称であると理解しておきましょう。
SAP Basisに関連する主要な業務
SAP Basisはご説明したとおり、SAPを動作させるにあたって基盤となるコンポーネントを指します。ただ、実際にはコンポーネントだけではなく、SAP Basisに関連する業務を含めて「ベーシス」と呼ぶケースが大半です。そのため、続いてはSAP Basisに関連する主要な業務についてご説明します。
SAP導入
Basisの担当者は初回のみですが、SAP導入作業も担当します。
システムセットアップ
SAPを導入するにあたって様々なシステムセットアップが必要です。これらのセットアップ作業にはSAP Basisに関連する部分があり、Basisの担当者がこれを担います。
ただ、セットアップ作業が中心であり、設定値については担当者が決定するとは限りません。SAPの導入にあたってコンサルタントなどの専門家が関与しているケースが多く、そのような専門家が設定値を決定するのです。そのような場合は、操作を把握しているエンジニアとして、設定作業のみ担当します。
ミドルウェアセットアップ
SAP Basisはご説明したとおり構築に利用されているミドルウェアの差を吸収するコンポーネントです。ただ、ミドルウェアが不要になるわけではないため、Basisの担当者はミドルウェアのセットアップを担当します。
セットアップの対象はさまざま考えられ、データベースやジョブ管理ツール、ファイル転送ツールなどが挙げられます。SAPの起動に必須のミドルウェアだけではなく、効率よく利用するためのミドルウェアもセットアップしなければなりません。また、SAPに必須ではないミドルウェアは、自分たちの責任でセットアップする必要があります。時には手順書の作成などから準備しなければなりません。
稼働管理
Basisの担当者は日々SAPが正常に稼働しているかを管理する必要があります。
アプリケーションの生死監視
SAPのアプリケーションが正常に稼働してるかどうかを確認する作業です。SAPに限らずインフラ関連の担当者はシステムが正常に動作しているかの確認をしなければなりません。なお、SAPにはいくつものモジュールが存在するため、それぞれを監視しなければなりません。また、SAPとインターフェースしているシステムがあるならば、そのようなインターフェース部分の監視についてもBasisの担当者が対応します。
リソース監視
SAPが安定して稼働するためにリソースの監視をする作業です。リソースの定義はあいまいですが「CPU」「メモリ」「ストレージ」が監視対象の代表格です。また、SAPで設定されているワークプロセスなどが適切に動作しているかどうかなども監視の対象に含まれます。
Basisの担当者がリソース監視の対応をするものの、実際の監視はツールなどを利用して自動的に行うケースが大半です。人間の目で状況を監視するのは不可能であるため、ツールを利用して監視を行い、問題が起きた場合のみ対応します。
パフォーマンス監視
SAPが想定したパフォーマンスを発揮しているかどうかを監視する作業です。多くの場合、SAPにはパフォーマンスの基準値が設けられています。例えば「応答時間が1秒以内」などと定められていて、この基準を満たせているかどうかを監視するのです。
こちらに関してもリソース監視と同様に、人間が常時状況を把握することは不可能です。そのため、OSやデータベースなどのツールを利用してパフォーマンスを自動的に数値化し、その数値に異常が発生した場合のみ人間が対応します。
運用管理
Basisの担当者は日常的な管理タスクをこなす必要があります。
ユーザー作成や管理
SAPを利用するためのユーザ作成や管理はBasisの担当者が担当します。ユーザー作成については平常業務として別の担当者が対応するケースがありますが、管理についてはBasisの担当者のタスクです。
基本的には日常的に現在の状況を確認して、「ユーザーの利用に問題がないか」「ライセンス数は守られているか」などを評価します。また、不正な操作をしているユーザーや不正に利用されている可能性があるユーザーがいないかどうかなども確認します。
バックアップ管理
基幹システムに限らずシステムは基本的にバックアップが取られています。これらのバックアップを管理する担当者はシステムによって異なりますが、SAPの場合はBasisの担当者が担当するケースが多いです。
バックアップは基本的に自動的に取得できるような構成とするため、Basisの担当者が手動で担当することはありません。何かしらトラブルがありバックアップから復元する際に作業があると考えておきましょう。また、万が一に備えて適切なバックアップを取得しておくことが重要です。どのようなバックアップが必要となるかなど、バックアップ計画の立案も担当します。
ノート適用管理
SAPでトラブルなどに対応する際は「ノート」と呼ばれるものを適用します。一般的なシステムでは「パッチ」と呼ばれる、SAPの簡易的なバージョンアップを実施するものです。このようなノート適用は定期的に発生するため、Basisの担当者が対応する必要があります。利用者の都合ではなくSAPの都合でバグが修正されることもあり、対応せざるを得ないケースも多々あるのです。ノートを適用する際は「前提条件の確認」「適用作業」「動作確認」などを担当します。ノートはコンソールから適用できるため、基本的に手順書の作成などはありません。
月次業務
Basis部分について月報などを作成しなければならない場合があります。運用担当者としてアサインされていると仕事状況について報告する必要があるのです。どのような報告が必要となるかは、Basisの担当者として働いている環境によって異なります。簡単な内容だけ報告することもあれば、テクニカルな内容まで細かく報告することもあるでしょう。報告は手間のかかる作業ですが、雛形などが用意されていて、それに沿うケースが大半です。情報もSAPの標準で取得できるものを利用すれば、最小限の時間で完了できます。
障害管理
何かしらの障害が起きてしまった際は、障害管理タスクも担当しなければなりません。
障害受付
SAPに障害が起きた際は、障害が起きた事実を検知して受け付けなければなりません。SAP Basisが障害の原因だとは限らないものの、基本となるコンポーネントであるためBasisの担当者がまずはアサインされるケースが多いです。ただ、障害の連絡を受けるのはBasisの担当者とは限りません。直接問い合わせが来るケースもありますが、ユーザーサポート部門に問い合わせが来たり、サーバー管理部門で障害を検知したりするケースが大半です。周りからの連絡を受けてBasisの担当者が事実を把握します。
障害調査
障害の連絡を踏まえてどのような理由で障害が起きているかなどを調査します。基本的にはSAP Basisに関する調査をするため、特定のトランザクションやアドオンについての調査は、それぞれの開発担当者などに調査を引き継ぐ段取りです。なお、調査にあたってはSAP Basisの機能を活用したり、ログ取得のために利用しているツールを活用したりします。SAPでトラブルが起きてしまう原因は多岐に渡るため、一概にどこを操作すれば良いとは言い切れません。調査範囲が絞れるように、Basisの担当者としてあらかじめ設計しておくことが重要です。
障害復旧
障害の原因が判明したならば、障害復旧に向けて段取りをします。SAP Basisや関連するミドルウェアが障害の根本原因である場合は、Basisの担当者が障害復旧まで対応しなければなりません。障害復旧に必要な工程は状況によって異なります。例えば以下のような障害復旧の方法が考えられます。
- サーバーの再起動
- ジョブの再実行
- ノートの適用
- 連携データの不具合修正
突発的に発生してしまう問題であればサーバーの再起動やジョブの再実行などで対応できる場合があります。再起動や再実行については手順化されているケースが多いため、そのような手順があればそれに沿って進めましょう。また、SAP側の問題ではなく、連携してくるデーターに問題が生じているケースがあります。これはSAP側では障害対応できないため、障害の内容を伝えて相手側に修正してもらわなければなりません。
障害対応のナレッジ共有
障害はいつ発生してもおかしくないものであるため、障害の発生に備えておくことが重要です。上記のように障害発生から復旧まで対応したならば、手順書などを作成してナレッジ共有することが求められます。
特に今まで発生していない障害が起きたならば、その原因と対処方法について残しておくことが重要です。同じような障害が発生してしまった場合の対応工数を可能な限り減らせるようにしておきます。障害対応が属人化するとBasisの担当者間で負荷のばらつきが生まれるため、そうならないためにも共有して対応者を増やすのです。
変更管理
Basisの担当者はSAP Basisに対する変更を管理できるようにする必要があります。
変更管理対象の決定
SAPのような大規模なシステムは、設定内容を誰かが管理しなければ把握できなくなってしまいます。導入してから様々な変更が加えられると最新の状況がわからなくなるため、変更管理の手続きで最新の状況を把握できるようにするのです。変更管理にはSAP Basisが大きく関わってくるため、Basisの担当者が対応するケースが多くみられます。ただ、具体的にどのような内容を変更管理の対象とするかは、SAPの利用状況や方針などによって異なります。全ての変更を管理する場合もあれば、SAP全体に影響する重要な変更だけを管理する場合もあるのです。
Basisの担当者は変更管理の意味を理解し、どのような変更を管理対象とするのか決定しなければなりません。時にはエンジニアだけではなくSAPを利用する部門や関連する部門との調整が必要です。業界によっては法律で変更管理が定められていることもあるため、全社的に方針を決定する必要があります。
パラメーターなどの変更
SAP Basisや各SAPのモジュールには数多くのパラメーターが設定されています。これらはSAPの挙動に大きな影響を与えるため、最新の設定値を把握すべく変更管理が必要です。しかも、パラメーターは専用の画面から設定したり、サーバー内に設置されているファイルに記述したりします。つまり、Basisの担当者でなければ管理しにくい部分です。そのため、設定変更から管理までBasisの担当者が担当します。
バージョンアップ
ノートを適用するなどしてモジュールがバージョンアップされると変更管理の対象となります。モジュールのバージョンはSAP社への問い合わせや調査で重要となるため、必ず管理すべきです。基本的にSAPモジュールのバージョンアップは、Basisの担当者が実施します。そのため、変更管理もBasisの担当者が対応するしかありません。こちらについてもバージョンアップ作業から管理作業まで一貫して対応します。
SAP Basisを扱うエンジニアが担当する関連業務
SAP Basisを扱うエンジニアはSAPだけを扱うのではなく、関連するソフトウェアやミドルウェアなども扱う場合があります。
サーバーOS
SAPが動作するアプリケーションサーバーのOSもBasisの担当者が扱うケースが大半です。SAPとは別にサーバーの管理担当者がいるならば、Basisの担当者が扱うことはありませんが、専任者がいなければSAP Basisと関連して操作が必要です。とはいえ、サーバーは一度設定してしまうと大きな設定変更が無い限り操作する必要がありません。担当する可能性がある部分ではありますが、気負う必要はないでしょう。
データベース
SAPのために利用するデータベースを管理する場合があります。SAP Basisを利用することでデータベースの違いを意識する必要はなくなりますが、データベースそのものがなくなるわけではありません。データベースを快適に利用できるように、Basisの担当者などがメンテナンスする必要があるのです。ただ、データベースについては専門的なスキルが必要となるため、データベースエンジニアが在籍している場合があります。この場合はBasisの担当者と役割分担ができるため、データベースを直接扱うことは少ないでしょう。
システム間インタフェース
SAPと様々な情報をやり取りするために、システム間のインターフェースが構築されているケースが大半です。例えばマスタ情報が連携されてきたり、在庫情報を連携したりします。これらの情報を出力したり取り込んだりする際、SAPのインフラ部分を設定しなければなりません。Basisの担当者はインフラ全般を担うということもあり、この部分も担当するケースが多いのです。インターフェースの実装方法によっては、ミドルウェアの設定なども扱わなければなりません。SAPに長けているだけではなく、必要に応じてSAP製品以外のスキルも求められます。
ジョブ管理ツール
システムの定期的な処理をするためにジョブ管理ツールは必要不可欠です。データベースの操作などアプリケーションの基盤に関わる部分が含まれるため、Basisにも大きな影響があります。Basisの担当者がジョブ管理ツールを扱うかどうかは、全社の方針に左右されやすいです。例えばジョブ管理ツールがすべてのシステムを管理しているならば、Basisの担当者以外に専任者がいるでしょう。逆にSAPのためだけにジョブ管理ツールを導入していると、Basisの担当者が扱います。
SAP Basisを社内で運用する際の課題
SAP Basisを社内で運用するとなると、いくつもの課題が生じてしまいます。社内にSAPのプロがいない限りは対応が難しい課題が以下のとおりあるのです。
SAP NetWeaverに詳しい要員の確保
SAP BasisやSAP NetWeaverに詳しい要員の確保が大きな課題となります。SAPの中でもコアな部分で専門知識が求められるため、社内の要員だけで対応するのは限界があるのです。また、要員を育てるコストなどを踏まえても対応できる範囲には限界があります。また、世の中的にSAP Basisに詳しい要員の需要は高く、エンジニアの取り合いが発生している状況です。SAPの主要な機能ではありますが、SAP Basisを専門としているエンジニアは少なく、需要に対して供給が不足しています。
ミドルウェアを扱える要員のアサイン
SAPのアプリケーションを動作させるためには、ミドルウェアも操作できなければなりません。こちらを扱えるインフラ面の要員が不足するという課題があります。SAPのアプリケーションはSAP Basisを利用して動作していますが、ミドルウェアが不要になるわけではありません。データベースなどを用意する必要があり、これらを扱える要員が求められるのです。ただ、ご説明しているとおりSAPにおいてはBasisの担当者がミドルウェアも扱う傾向にあります。そのため、Basisの担当者として活躍するならば、ミドルウェアに関する課題も解決できるようになっておきたいものです。
運用負荷の分散方法
SAP Basisは高いスキルが求められるため、対応できる要員に限界があります。これは上記でご説明したとおりです。要員が不足しているため、どうしても特定の担当者に負荷がかかりやすくなっています。運用負荷の分散ができず特定の担当者に負荷がかかりすぎると、体調不良などの原因となりかねません。近年は働き方改革も重要視されているため、企業としてはそのような状況を脱したいのです。SAP Basisの負荷分散は非常に大きな課題と考えられています。フリーランスでも求められている状況であるため、負荷分散に寄与できるスキルがあれば活躍の場が広がります。
クラウドにおけるSAP Basis対応
近年はクラウドサービスでSAPが構築されるようになっています。そのため、SAPの担当者にはクラウドのスキルも求められるようになっています。ただ、クラウドのスキルは一般的なインフラのスキルと異なるため、社内で運用する際の課題です。利用するクラウドサービスによっても運用が異なるため、それぞれに適したスキルを持つ人材が必要です。Basisの担当者でクラウドのスキルを保有していれば、これから活躍の幅が広がります。クラウドで運用するにあたって課題を持つケースは多いため、課題解決ができる要員になれるのが理想的です。
まとめ
SAP BasisはSAPを利用するにあたって、ほぼ必須のコンポーネントです。アプリケーションの基盤となるものであり、OSやデータベースの差を吸収してくれます。
一般的にはSAP Basisと呼ばれているものの、これは昔の名残であり現在は「SAP NetWeaver Application Server」が正式名称です。若干意味合いが異なっているため、正しい意味で伝えたい場合は注意が必要です。
また、SAP Basisに関連する業務としてBasisの担当者は幅広い作業を担います。専門的なスキルが必要かつ業務量が多いため、人員不足などの課題を抱えている企業が多く、スキルの高いフリーランスに助けを求めるケースも多々あります。
弊社では、そのようなスキルを持ったフリーランスを求めるクライアントを多数保有しています。Basisは非常に需要が高い分野であるため、専門知識をお持ちの方は是非一度お問い合わせください。