「SAP ERPエンジニアが初めてSAPを学んだら」No.8 SAP未経験のERPエンジニアがSAPを1か月操作して感じた良い点と悪い点
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■はじめに
SAP Freelance Jobs運営事務局です。この度、ERPエンジニアがSAPを初めて学び、資格取得するまでの学び・実施内容の第8回となります。
毎回記載しておりますが、国内にSAPエンジニアが多くいるとはいえ、どのように学び成長出来たかの記事はあまり存在しません。SAPはドイツで開発が実施されており、国内のERPとは異なる点も多くあります。
本日は国内で開発されたERPを操作していたエンジニアがSAPを1か月操作して感じた良い点と悪い点を紹介します。当ERPエンジニアは販売管理・購買管理中心に操作した結果での感想となりますが、その他モジュールに共通の内容も多いかと思います。
これからご自身がSAPエンジニアを目指す方、また自社内にSAPエンジニアを育成したい方には有益な記事になっておりますので、是非最後までご一読頂けますと幸いです。
1.SAP S/4 HANAを操作して感じた良い点と悪い点まとめ
上述の通り、SAPは国内で開発されたERPと異なる点が多くあります。この後細かな内容の記載となりますが、まず最初に良い点と悪い点を列挙します。
良い点
- 多くのプロセスに標準対応している
- 各企業に応じた設定が可能になっている
- 各ユーザー個別の設定が可能になっている
- 各モジュール間の連携が豊富
- 損益把握の項目が多い
- 国内と海外でプロセスが同一になっている
- 複数通貨に対応している
悪い点
- UIがわかりづらい
- 帳票がほとんど用意されていない
- 使用している用語が日本の商習慣と異なる
- キーボード操作だけでは使えない
- お金のマイナス表記に違和感がある
- 分からない内容を調べることが難しい
- 設定が非常に多く、学習コストが高い
- 定期的に使用する項目もパラメータ設定(カスタマイジング)となり、ユーザー部門でのメンテナンスが難しい
この後はそれぞれを補足します。
2.SAP S/4 HANAを操作して感じた良い点詳細
・多くのプロセスに標準対応している
販売管理で具体例を挙げると、標準的な受注・出荷・売上に加えて、契約・見積・引合の機能を保持しています。また、購買管理であれば購買依頼機能や契約機能を保持しています。他ERPの販売管理・購買管理でここまで多くのプロセスに標準対応しているERPは無いと感じました。
・各企業に応じた設定が可能になっている
マスタ設定とパラメータ設定(カスタマイジング)により、非常に多くの設定が可能になっています。一般的な組織・取引先・商品の設定のみならず、見積から受注にコピーする項目を指定できる等、かなり細かな設定が可能です。それにより、各企業に応じた最適な設定が可能になっています。
・各ユーザー個別の設定が可能になっている
各ユーザー(利用者)毎の設定も多様です。組織の初期表示設定や検索条件の保存機能やメニューショートカット機能等、ユーザーの利用しやすいよう設定が可能です。
・各モジュール間の連携が豊富
ERPなので当然といえば当然なのですが、各モジュール間の連携が豊富です。販売管理の取引先(ビジネスパートナーマスタ)は当然他モジュールでも利用可能になっていますし、品目マスタも同様です。入力した伝票情報は他モジュールで二重に入力することが無いように連携されます。また連携先でどのような番号が採番されたのか、どのようなデータが作成されたのか簡単に参照可能です。
・損益把握の項目が多い
組織・取引先・品目のあらゆる軸で損益を把握可能です。管理会計で各軸に対して損益を把握することが出来ます。
・国内と海外でプロセスが同一になっている
国内のERPであれば国内と海外でプロセスを別としている場合がありますが、SAPは受注入力時にインコタームズ(貿易条件)が予め表示される等、国内と海外で同一プロセスとなっています。利用する立場であれば、覚えやすいです。
・複数通貨に対応している
これも国内のERPとの大きな違いですが、複数通貨に対応しています。国内のERPは対応していても使い勝手や桁数対応が不十分なケースもありますが、SAPは複数通貨に全く問題なく対応しています。
3.SAP S/4 HANAを操作して感じた悪い点詳細
あまりネガティブなことを記載することは避けたいですが、正直に申し上げて違和感を感じる部分も多々ありました。慣れの問題もあるかと思いますが、1か月操作した感想として記載します。
・UIがわかりづらい
UIは非常に分かりづらいです。各画面毎に登録ボタンの配置がバラバラ、TabとEnterどちらで項目を確定するのか分かりづらい等、UIは非常に分かりづらいです。
・帳票がほとんど用意されていない
帳票がほとんど用意されていません。SAPの研修講師も帳票はアドオンで作る想定と言い切っていました。日本の商習慣では相手先に提示する帳票(見積書・注文書・納品書・請求書 等)が必要であり、その点は非常に違和感を感じました。
・使用している用語が日本の商習慣と異なる
過去記事でも記載しましたが、売上計上処理を請求計上と表現していたり、仕入計上や検収登録を請求書照合処理と表現しており、違和感があります。
・キーボード操作だけでは使えない
SAP S/4 HANAになって特に顕著ですが、Fioriはマウス必須になっています。キーボードで大量の伝票を登録している方にとってはストレスが溜まるかもしれません。
・お金のマイナス表記に違和感がある
お金のマイナス表記に違和感があります。例えば-50,000をSAP S/4 HANAで表現する場合、50,000-となります。
・分からない内容を調べることが難しい
分からない内容を調べることが難しいです。例えば項目の意味合いを調べたい場合、公式サイトで確認できることは稀であり、有志が記載しているブログ情報で発見できるかどうかです。それでも発見できない場合には英語で調べることとなり、わからない内容を調べることが難しいです。
・設定が非常に多く、学習コストが高い
これは良い点でもありますが、設定が非常に多いです。ABAPによりアドオンの開発も可能ですが、開発無しで設定で制御可能な内容も非常に多いです。ただし、それを全て把握することは非常に学習コストが高いです。自社に導入するからと言って、一からすべて覚えることは不可能に近く、SAPコンサルタントに頼ることが必須かと思います。
・定期的に使用する項目もパラメータ設定(カスタマイジング)となり、ユーザー部門でのメンテナンスが難しい
運用開始後は出来る限りユーザー部門で保守・運用する方針で考えるかと思いますが、ユーザー部門の保守・運用を想定していないパラメータ設定(カスタマイジング)でのみ組織関連の設定が可能となっている等、定期的に使用する項目に対しても知識が必要となっています。その為、ユーザー部門だけでのメンテナンスは難しいです。
4.おわりに
今回はSAP S/4 HANAを1か月操作して感じた良い点・悪い点を紹介しました。
当ERPエンジニアが感じた違和感を予め認識しておくことにより、より効果的にSAPを操作・学習できるかと思います。読者の方々が今後学ぶ際に是非参考にしていただけると幸いです。
次回以降も、各ソリューションの概要や資格取得に向けての研修受講状況や学習方法を紹介していきます。