SAPとは何か?
SAPは世界40カ国以上で使用されているソフトウェアのマーケットリーダーです。SAPの概要や導入のメリット・デメリットを詳しく解説します。

SAPは世界的に利用されている有名なソフトウェアではありますが、意外にも「名前だけは聞いたことがある」という人も多いようです。幅広い業界や業種の企業で導入されているものの、今まで触れ合ってきていない人にはどのような製品なのかイメージできないのでしょう。今回は世界的に利用されているソフトウェアのSAPとはどのような製品であるのか解説します。今まで利用したことがない人でも、今回の内容を読めばどのような製品なのか理解できるはずです。
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SAPとは
それでは最初にSAPがどのような製品であるのか基本知識を解説します。
SAPはドイツSAP社の製品
SAPはドイツのSAP社が提供する製品群を指します。「SAP」と省略されることが多いですが、実際にはいくつもの製品が存在し、状況によってどの製品を指しているのか異なるのです。まずは単体の製品ではなく、複数の製品群であることを理解するようにしましょう。
なお、複数の製品を扱ってはいるものの、「ERP(Enterprise Resources Planning)」と呼ばれる分野に分類される製品が中心です。ERPはいくつもの解釈がありますが、全社的に各種リソースを把握するための仕組みやシステムだと理解すると分かりやすいでしょう。
例えば、ある程度の規模の企業になると、部門ごとに独自のシステムを導入する傾向があります。経理部門、営業部門、システム部門などそれぞれがシステムを導入するのです。ただ、自分たちの業務だけを考えてシステムを導入するため、部門間の連携などが考えられていません。
しかし、ERPを導入するとこれらの情報を一元的に管理できるようになります。すべての業務をカバーできるような大きなシステムも導入し、どうしてもカバーできない部分だけ独自のシステムを導入するのです。このようなシステムを導入することで、企業に関する情報が点在しなくなり、管理や活用がしやすくなるメリットを生み出します。
少し脱線しましたが、SAPはこのような「情報を一元管理したい」との要望に応えるシステム群です。複数の製品を組み合わせることで、企業内の情報を管理できるようになっています。
SAPが普及した背景
SAPがここまで普及した背景には、リリースされたタイミングとシステムの設計思想があります。
そもそも、SAPが普及するまでの1980年代までは、上記でも触れたとおり部門ごとにシステムを導入していました。しかし、1990年代に入りアメリカを中心に「業務プロセス改革」が叫ばれるようになり、これをきっかけとして日本ではシステムの見直しが始まりました。SAPに限らず何かしらのERPシステムを導入する企業が増えたのです。
ただ、この段階ではSAP社以外も販売していました。そうであるにも関わらずSAPは「クライアントサーバーの採用」「モジュール毎に分けられたシステム構成」などの特徴から圧倒的なシェアを獲得したのです。新製品が発売されたタイミングも含め、いくつもの要素が重なってSAPが大きく普及しました。
SAPが提供するソリューション例
上記でも触れたとおり、SAPはいくつもの製品群から成り立ちます。具体的にどのような製品がどのようなソリューションを提供してくれるのか、一部を抜粋してご説明します。
ERPや財務管理
SAPの中心となるソリューションは、ERPや財務管理に関わるものです。ERPや財務は企業を効率よく運営するために必ず注目しなければならない観点で、SAPを導入することで情報をいち早く収集できるようになります。
また、直接的なソリューションは「情報収集」ではありますが、SAPを導入することで将来を見据えた活動を実現可能です。財務管理によって自社の状況を正確に把握できれば、新しいビジネスへのチャレンジなど、重要な決断を下しやすくなります。
CRMやカスタマーエクスペリエンス
カスタマーエクスペリエンスの向上に役立つ製品があり、これによって商機を最大限活かすことが可能です。顧客に関する情報を内部で共有できるようになっていて、ニーズの把握や営業活動などをSAPで完結できます。
また、現在のSAPにはAIが活用されていて、顧客が何を求めているのかをAIが分析してくれます。これによって人間が考えるよりもさらに効率よく顧客にアピールできる仕組みです。売上を増加させるためには「顧客へのアピールタイミング」「アピールの仕方」「需要を見据えた供給」などいくつもの条件を満たす必要があり、SAPの製品を導入することでこれらを一気に満たす活動ができます。
支出管理
SAPが提供する複数の製品を組み合わせることで、支出全般を一気に管理できるようになります。原材料管理の「SAP Ariba」、人件費管理の「SAP Fieldglass」、出張経費管理の「SAP Concur」などのソリューションがあり、これらを組み合わせることでもうお金の流れを可視化できるのです。
支出を適切に把握することは企業にとって非常に重要と考えられます。手元に残るお金を把握することでリスクに備えられ、新たなチャレンジも決断できるからです。
なお、SAPの製品は現状の把握だけではなく、将来に向けたデータ分析にも対応しています。支出状況を経営者が適切判断できるのは当たり前ですが、より効率よく判断するためにデータ分析のソリューションを提供しているのです。
サプライチェーン
サプライチェーンに関する複数のソリューションが提供されていて、世界的なサプライチェーンもスムーズにカバーできます。また、時代の変化とともに求められている「収益と環境への配慮のバランス」を考慮したサプライチェーンを設計可能です。
基本的には「SAP Digital Supply Chain」と呼ばれるソリューションを利用して、計画からロジスティクス、製品ライフサイクル管理などを実施します。また、クライアントの要望にいち早く応えるためにも、全社規模で円滑な物流ネットワークを構築する、大規模なシステム開発にも対応可能です。
SAPの代表製品はERP
SAPはいくつものソリューションを提供していますが、その中でも代表格がERPです。このERPにはいくつもの製品があるため、どのような製品があるのか簡単にご紹介します。
SAP S/4HANA
SAP S/4HANAは現在、SAPから提供されているERPの中心となる製品です。2015年から導入が開始されて、現在では多くの企業が利用しています。旧バージョンのSAPを継続利用している企業もありますが、徐々に新しいバージョンであるSAP S/4HANAに切り替わっています。
SAP S/4HANAはデータを高速処理できるように、独自のデータベースを採用しています。自社の製品に最適化したデータベースを利用することで、効率よくシステムを動かせるような仕組みとしているのです。また、データを可能な限りリアルタイムで連携したり処理したりできるように設計されているため、情報をいち早く把握できます。
なお、このSAP S/4HANAは自社のデータセンターか契約しているクラウド上に構築するものです。導入にあたっては大規模なプロジェクトを立ち上げる必要があり、多くのリソースを割かなければなりません。
SAP S/4HANA Cloud
上記でご説明したSAP S/4HANAをクラウドサービスとして提供しているものがSAP S/4HANA Cloudです。自社が契約しているクラウド環境にシステムを配置するのではなく、SAP社が事前に用意している環境を使わせてもらいます。
基本的には上記のSAP S/4HANAがクラウドサービスとして提供されていると認識して差し支えありません。ただ、サービスとして提供されているものであるため、自社向けに独自のカスタマイズをしたい場合は注意が必要です。最近は柔軟なカスタマイズが発表されましたが、それでも自社のデータセンターやクラウドに配置する場合と比較すると制限があります。
ただ、基本的なアプリケーション部分についてはSAP社が定期的にアップデートしてくれるなどのメリットがあります。本来は自分たちで対応する必要があるため、ここは一長一短だと考えましょう。
SAP Business ByDesign
SAP Business ByDesignはSAPの機能を縮小して、気軽に導入して利用できるようにしたものです。SAP S/4HANAの導入は大規模なプロジェクトとなってしまうため、そのような対応が難しい場合はこちらを利用します。
機能が縮小されているため、内容としては中小企業向けのサービスです。ただ、機能の概要レベルでは幅広く提供されていて、SAP Business ByDesignでも以下の業務に対応できます。
- 会計業務
- 調達業務
- 人材管理業務
- 顧客管理業務
- サプライチェーンに関する業務
対応できる業務の種類を減らした製品ではなく、それぞれの業務で機能を制限した製品です。そのため、中小規模の企業で一般的な業務のみであれば、十分にSAP Business ByDesignだけでも対応できるでしょう。導入のハードルが大きく異なるため、むしろSAP Business ByDesignを選択した方が良いかもしれません。
しかも、SAP Business ByDesignには従量課金制の料金システムが導入されています。最低限、支払う料金はありますが、企業の規模や利用者数に応じて料金が変化する仕組みです。「費用をかけて導入したが使いこなせない」といった状況にもなりにくく、利用しやすいSAPといえるでしょう。
SAP Business One
SAP Business OneはSAPが提供するサービスの中でも、個人や中小企業向けのものです。上記のSAP Business ByDesignでも機能を使いこなせない場合はこちらの製品を選択します。最低1ライセンスから契約できるため、少人数で利用する場合でも料金の心配がありません。
他のSAPとは異なり、SAP Business Oneは必要な機能を追加していく仕組みです。上記のSAP Business ByDesignは定められた機能を利用しますが、SAP Business Oneはそうではありません。例えば、会計業務を利用したいならば、会計業務に関するサービスを契約します。
非常に小さな単位かつ機能から利用できるため、利用にあたって無駄が生じません。SAPのようにライセンスが高くなりがちな製品を利用する際は、このようなミニマムスタートが切れる製品も活用すべきです。
企業がSAPを導入する4つのメリット
SAPを導入することになるメリットは多数あります。具体的にどのようなメリットがあるのか、以下でご説明します。
データの一元管理
SAPの中でもERPに属するシステムを導入することによって、情報を一元管理できるようになります。このようなシステムが存在しないと情報がバラバラに管理されてしまうため、一元管理できることが大きなメリットです。
また、直接的なメリットは情報の一元管理ですが、これが以下のようなさらなるメリットを生み出します。
- 社内で情報を共有できる
- どの情報がどこにあるのか把握しやすくなる
- 業務の効率化が期待できる
データが個別に管理されている場合と一元管理されている場合では、業務の進めやすさが大きく異なります。いうまでもなく、情報が一元管理されている方が業務を進めやすいのです。情報を探したり連携したりする手間が減るため、スムーズな業務フローを生み出せます。
なお、SAPを導入しなくとも社内のデータを共有・集約するシステムの構築は可能です。そのようなソフトウェアも発売されているため、適切な製品を選択すれば実現できるでしょう。ただ、業務で利用する製品とは別にこのような製品を導入することは、運用負荷を高めることに繋がります。SAPのようにひとつの製品だけで完結できることにメリットがあると考えるべきです。
システム運用コストの低減
一般的にはシステムを集約することで、運用コストの削減が可能です。例えば、以下の観点から運用コストが低減されます。
- 契約するベンダーの数が減る
- 社内担当者を減らせる
- セキュリティ対策製品などのライセンスが減る
特に重要となるのは契約するベンダの数を減らせる点です。一般的にベンダとの契約には「基本料金」のようなものが必要となり、契約するだけでまとまった費用が請求されてしまいます。そのため、契約するベンダが増えると料金もどんどん増えてしまうのです。
また、システムを集約すると社内の担当者、情報システム部門の規模を最小限に抑えられます。人件費を減らせることはもちろん、既存のリソースを別の役割に充てることもできるようになるのです。
経営判断に必要な情報の出力
SAPを活用することで、経営判断に必要な情報を出力しやすくなります。経営層が判断を下すために必要となる情報を多角的に提供できるのです。その理由は以下のとおり2つあります。
- 情報が集約されているため出力しやすい
- SAPには情報の分析機能がある
まず、SAPのような全社的な情報を管理できるシステムを導入することで、情報の集約が可能です。これは上記でもご説明したメリットであるため、皆さん理解できてるでしょう。そして、このように情報が集約されているため、必要な情報を取り出しやすくなっています。
例えば、「在庫数と売上高の関係」を知りたいとしましょう。この時、SAPのように情報が集約されていなければ、流通部門と営業部門の両方に協力を求めなければなりません。それぞれが別のシステムで情報を管理しているため、個別に協力を依頼するのです。
また、すべての部分が同じような形式で情報を保持しているとは限りません。このような形式の差を修正しながら、経営判断に必要な資料が完成します。
しかし、SAPを導入してればこのような問題も発生しません。情報は一元管理され、処理しやすい形式で保存されているからです。情報が集約されていることで大きなメリットを生み出します。
加えて、SAPには情報を分析できるソリューションがあります。必要に応じて導入しておくことが求められますが、導入しておくと簡単に保存されている情報を分析できるのです。分析した結果はグラフや表などで簡単に出力可能であり、経営層が自社の状況を把握するのに役立ちます。
情報の適切な管理
SAPのように情報を一元管理することで、自社の情報を適切に保持できます。近年はコンプライアンスや内部統制の重要性が強調されているため、SAPでこれらに対応するのです。
例えば、SAPには「情報をいつ誰が更新したのか」を管理する仕組みがあります。このような仕組みを活用することで、保存されている情報が不正に変更されていないかなどを確認できるのです。特に会計などに関する情報はJSOXの観点から監査証跡を取得すべきであり、SAPを利用すればこれを実現できます。
これは一例ではありますが、SAPを導入することで全社的に情報を適切に管理可能です。また、管理している事実を外部にも示しやすくなるため、そのような観点でもメリットがあります。
企業がSAPを導入する3つのデメリット
これまでSAPのメリットをご説明しましたが、実際にはデメリットもあるためこちらをご説明します。
業務フローの見直しが必要
SAPを最大限生かすためには、業務フローの見直しが必要となる場合があります。SAPは一般的な業務フローを想定してシステムを開発しているため、自社の業務フローと差異があれば、修正しなければならないのです。
例えば、「休暇申請」と呼ばれる業務プロセスがあるとします。ただ、SAPと社内で業務プロセスにギャップが生じている場合、以下のような対応をとらなければなりません。
- SAPを改修する
- 業務プロセスを見直す
- 手動での対応を組み合わせる
基本的にSAPを改修するとなるとまとまったコストが必要です。また、何かしら業務プロセスが変化するためにSAPを修正しなければならず、ここでもコストを要してしまいます。つまり、いつまでもコスト面でのデメリットが付きまとうのです。
また、SAPに合わせて業務プロセスを見直すならば、利用部門の理解を得なければなりません。例のような休暇申請は全社的に利用している可能性が高く、反対意見が出ることは避けられないでしょう。反対意見への対応に時間が取られることもデメリットです。
SAPの業務プロセスと実際の業務プロセスが完全に一致することはまずありません。何かしらFit&Gapが生じます。この時にどのような選択をしても、負担が生じてしまうことはデメリットです。
ライセンス料など維持費
SAPを導入するにあたってはライセンス料などの支払いが必要です。契約方式によってはライセンス料が高額になってしまい、ここがデメリットになってしまいます。
例えば、上記でご紹介したSAP S/4HANAは競合他社が提供するERP製品よりも2割から3割程度、価格が高く設定されています。実際の料金は導入時に見積もられるため一概にはいえないものの、競合製品より価格が高いデメリットがあると考えておきましょう。
また、同じく上記で触れましたが、SAPを導入することは大規模なプロジェクトになってしまいます。金銭面だけではなく人材面も含めて、多くのコストがかかってしまうのです。運用のみならず初期費用としても高額になりがちである点はデメリットといわざるを得ません。
ただ、最近はこのようなデメリットを解消するために、SAP Business ByDesignやSAP Business Oneなどの製品が提供されています。SAP S/4HANAが中心となる製品ではありますが、必要に応じて別の製品を選択し、デメリットを最小限に抑えましょう。
独特なユーザインターフェース
近年は解消されつつありますが、SAPは独自のユーザインターフェースを採用しています。他のソフトウェアと大きく異なるユーザーインターフェースであるために、「SAPは操作しにくいソフトウェア」と捉えられてしまうことがあるくらいです。
ただ、これは過去のデメリットであり、現在は新しいデザインに刷新されています。昔のSAPを踏襲している部分はあり「デメリットが完全になくなった」とは言い切れませんが、改善されてると考えてよいでしょう。昔のイメージを抱き続けている人は、この機会に認識を改めてみてください。
とはいえ、ユーザーインターフェースの使い方は、人によって捉え方が異なります。新しくなったSAPも使いづらいと考える人は一定数いて、逆に新しくなったことがデメリットだと考える人もいるでしょう。
これらのSAP活用と求められる人材
これからの時代は経営の効率化やコンプライアンス意識向上のために、SAPのような基幹システムの導入が求められます。「基幹システムは大企業が導入するもの」とのイメージがあるかもしれませんが、現在はSAPのように小規模でも導入できるサービスが提供されていて、これらを使いこなすスキルが求められます。
複雑なシステムを使いこなすためには、高いスキルを持つ専用の人員が必要です。社内での育成はもちろん、外部の人材も活用して効率よくシステムを運用すべきです。SAPのような複雑なシステムを使いこなす人材を育成するにはいくつものハードルを超える必要があり、外部のリソースを利用したほうがスムーズに進むケースが多く見受けられます。
もし、皆さんの中にこのような「SAPを使いこなせる人材」の需要に応えられる人がいるならば、ぜひとも当社でSAPの案件を探してみませんか。多数の案件を保有しているため、興味がある方はぜひともこちらからご応募ください。
まとめ
SAPはSAP社が導入するERPを中心とした製品群を指します。特定の製品をイメージされることが多いですが、実際には複数の製品が含まれるのです。また、主要となるERP製品にもいくつもの種類やモジュールが存在します。
基本的には企業内の情報を一元管理するために導入され、経営判断の効率化や内部統制の強化に利用されます。個々の部署がシステムを導入するのではなく、一元管理できる点がSAPの大きなメリットです。
その反面、SAPは導入に時間を要したり業務プロセスの見直しが必要になったりします。また、競合他社の製品よりも料金が高い傾向があるなど、ある程度のデメリットもあるのです。メリットとデメリットのバランスを踏まえ、最終的に導入するか判断しなければなりません。