SAP BWについて
SAP BWはSAP社が提供するデータウェアハウスのプラットフォームです。

SAPを導入している企業ならば、SAP BWを導入しているケースも多々あるでしょう。データウェアハウスプラットフォームとして多用されているSAP BWですが、SAP社がS/4 HANAをリリースすることで大きな変化を迎えようとしています。今回はSAP BWや新しいSAP BW/4HANAについてそれぞれご説明します。
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そもそもSAP BWとは
SAP BWはSAP社の主要な製品ではありますが、具体的にどのようなものであるのか理解できていない人もいるようです。まずはSAP BWがそもそもどのような製品であるのかご説明します。
データウェアハウスプラットフォーム
SAP Business Warehouse(SAP BW)はSAPなどを利用して、全社的な情報を処理するためのプラットフォームです。例えば、SAP BWには以下の機能が搭載されています。
- 蓄積・収集
- 抽出分析
- 配信
データウェアハウスに必要な機能が揃っている製品であるため、SAP BWはグローバル企業を中心に世界中で利用されています。SAP自体が幅広い企業で利用されているため、それに加えてSAP BWも利用される状況です。他社にもデータウェアハウス製品は存在しますが、SAP社が提供しているという安心感から一定のシェアがあります。
また、SAP BWは「SAPのデータとしか連携できない」と考えられることがありますが、この理解は誤っています。SAP BWはさまざまなデータソースからのインプットに対応していて、例えば以下の選択肢が考えられます。
- SAP以外の基幹システム
- CRMシステム
- 各種データベース
- CSVやExcelなどのファイル
これらのデータソースから提供された情報もSAP BWに集約できるため、利用する際はデータソースについて気にする必要はありません。どのようなデータソースでも収集して蓄積できると考えておきましょう。
そもそも、SAP BWにはSAP ERPなどのSAP社が提供する他のモジュール群と連携できる「ビジネスコンテンツ」と呼ばれるデータモデルテンプレートを利用して、実質的には自動的にデータモデリングができるようになっています。データモデリングといえば「テンプレート作成に時間を要する」「自力で対応することは難しい」と思われがちですが、SAP BWの時代からこの問題を解決しています。
ビジネスコンテンツと呼ばれるテンプレートがあることを踏まえると、SAP社のデータウェアハウスは業界でも圧倒的な性能を持つといえるでしょう。それほどまでにSAP BWやそれ以前から導入されているSAP社のデータモデリングは高い精度を誇っています。
SAPのモジュールと連携し大量のデータ処理が可能
SAP BWはご説明したとおり、ビジネスコンテンツと呼ばれるデータモデリングテンプレートを利用してデータ連携が可能です。これはSAPのモジュール群がソースとなる機能となるため、大量のデータ処理が可能となっています。
SAPの利用方針によって左右されるものの、SAPは基幹システムであり大量のデータが投入されると考えられます。年々、管理するデータ量は多くなり、SAP BWへと連携するデータの量も増えるはずなのです。このようなシステムにおいて、大量のデータ連携に対応できない状況はあってはなりません。
SAP BWは最初からこのような状況に対応できるように設計されていて、SAPに格納されているデータの量が増えてもスムーズに連携や処理が可能です。データ量が増えると動作に影響が出てしまうことは避けられませんが、それでもスムーズなデータ連携と処理を実現できます。
2027年にSAP BWからSAP BW/4HANAへ
現在、主に利用されているSAP BWはSAP R/3時代に公開されたものでSAP BWのバージョンならば6.0や7.5が利用されているはずです。これらは現行では主要なバージョンであるため、これらのどちらかに該当する企業が多いでしょう。
ただ、SAP BWは保守の終了が告知されていて、現時点で新しいバージョンに該当する7.5以上を利用していても、2027年12月31日でサポートが終了してしまいます。そのため、これからはSAP BWのバージョンアップかSAP BWを別のBIツールなどにリプレイスする作業が求められます。
現状、SAP BWを利用しているならば、特別な理由が無い限りそのままSAP社の製品を利用するでしょう。そのため、いずれは現在のSAP BWからSAP BW/4HANAへとバージョンアップしなければなりません。SAP BW/4HANAはSAP BWの後継製品であり、今までのSAP BWとは異なるインメモリデータベースのシステムです。製品の詳細については後ほどご説明します。
ここで理解しておいてもらいたいことは、SAP BWのサポートが近い将来、終了してしまうということです。SAP社が誇る主要製品としてSAP BWは数多く導入されていますが、それも2027年末にはなくなってしまいます。
SAP BW/4HANAとは
上記でご説明したとおり、SAP BWは新バージョンに切り替わってきていて、現在はSAP BW/4HANAと呼ばれる製品が存在しています。SAP BWの後継製品となるSAP BW/4HANAとはどのようなバージョンであるのかについてご説明します。
クラウドやオンプレミスで利用できるDWH
SAP BW/4HANAはクラウドやオンプレミスで利用できるデータウェアハウス製品です。今までのSAPはオンプレミスでの利用が基本でしたが、SAP BW/4HANAなどの「HANA」製品はクラウドも利用できるようになっています。クラウドへの構築が容易になったという観点だけでも、今までのSAP BWとは大きく異なる製品です。
製品としても多くの変化を遂げていて、今のようにIoTやビックデータ解析が重要となる時代に対応できるようになっています。顧客データを「ソーシャルデータ」と位置づけ、今までは購買関連のシステムで管理したような情報もSAP BW/4HANAで管理できるようになりました。
全体としてはSAP S/4 HANAやそれらのプラットフォームと組み合わせて利用することが前提としてあり、各種運用レポートや履歴分析などのデータウェアハウジングを提供してくれます。また、IoTやデータレイクなどを現時点で取り入れていない企業に向けて、後からでもカスタマイズできるような設計も取り入れられています。
現時点でリリースされている製品ではありますが、SAP BW/4HANAは常に最新かつトレンドの機能を取り入れる方針です。必要に応じて機能を拡張するなどして、自社にとって最もよい状態で利用できます。
SAP BW/4HANAで注目したいポイント
SAP BW/4HANAを導入するにあたって注目したいポイントは以下の4つです。
- 効率のよいオープンデータウェアハウジングの開発
- 最新のインターフェースへの対応
- クラウドとオンプレミスへの対応
- 高度なマルチオプションの提供
最初に注目してもらいたいのは、オープンデータウェアハウジングを構築よく開発できる点です。一般的にこのようなデータウェアハウジングを開発するためには、多くの手間が必要になってしまいます。開発にあたっては小さな機能を大量に実装する必要があるため、どうしても開発工数が肥大化してしまうのです。
しかし、SAP BW/4HANAではデータウェアハウジングに必要な機能がある程度揃っています。導入する側はこれらをベースに必要なカスタマイズを施せば良いため、実質的な開発工数は大きく低減できる仕組みです。
また、SAP BW/4HANAはSAP BW時代と比較してもインターフェースの種類が増えていて、なおかつ最新のインターフェースにも対応しています。SAP BWもデータソースを選ばないような製品ではありましたが、SAP BW/4HANAになることで新しいデータソースにも対応可能です。新しく特殊なインターフェースを利用している場合でも、変換する仕組みを別途実装する必要はありません。
他にも、上記で触れましたがSAP BW/4HANAはクラウドとオンプレミスの両方に対応できるデータウェアハウジングの製品です。現在はクラウド上にシステムを集約するケースが増えているため、SAP BW/4HANAならばそのような実装が可能です。SAP BW/4HANAに限らず、SAP S/4 HANAもクラウド上に構築できるようになっているため、今までとは大きく異なったSAP環境を実現できます。
SAP BW/4HANAで注目したい4つの機能
SAP BW/4HANAには注目したい機能が4つあるため、それぞれの機能についてご説明します。
シンプルなデータモデリング管理
SAP BW/4HANAはデータモデルを活用した効率の良いデータモデリングが意識されています。SAP全体で効率よくデータを管理できるようになっているため、以前のバージョンよりも利用しやすいと考えてよいでしょう。
一般的に複雑なデータモデリングを採用すると、データウェアハウスを運用するために多くのコストが必要です。また、導入するまでの開発コストも高額になりかねず、利用者に大きな負担を与えてしまいます。そのため、データウェアハウスの製品としてモデリングを複雑化するのは理想的ではありません。
しかし、SAP BW/4HANAはこのような問題を解決できるように考えられています。これにより特に導入時に必要なコストの低減が可能です。また、SAP BW/4HANAのようなデータウェアハウスは必要に応じて変更が必要ですが、これらの変更に向けた設計や開発作業も最小限に抑えられます。
各種システムとのスムーズな連携
各種システムと連携できる仕組みが設けられているため、SAPやそれ以外のアプリケーションとスムーズに統合できます。SAP BW/4HANAのようなデータウェアハウスは各種アプリケーションやデータソースとの接続が必須です。この部分の実装に手間のかかるプロジェクトが多数ありますが、SAP BW/4HANAを利用すればそのような手間は最小限に抑えられるでしょう。
具体的に期待できる効果は、データ統合やプロセスの抽出、データ変換など各種機能の実装期間が短くなることです。一般的にデータ連携(インターフェイス)の実装にはファイルの内容を加工する処理などが必要ですが、それらはSAP BW/4HANAでカバーできてしまいます。
これは導入時に発揮されるだけではなく、運用時にも発揮されます。例えば、投稿するデータの形式が変更されても、SAP BW/4HANAの設定を変更すれば大半はカバー可能です。ファイル加工のプログラムなどを自分で実装していないため、これらに対する影響を考える必要がありません。
なお、このようなスムーズなデータ連携は、オンプレミスとのデータ連携においても発揮できます。SAP BW/4HANAをクラウドに構築してオンプレミスと連携するような形でも、最新の機能を最大限活かせるのです。
UXの向上
今までのSAPBWからSAP BW/4HANAへと移行することで、ユーザーエクスペリエンスの向上が期待できます。ユーザーエクスペリエンスは価値を高めるために重要であるため、ここが向上していることが魅力的です。SAP BW/4HANAのような導入にコストがかかるシステムでユーザーエクスペリエンスが低く利用者が減ると、企業として大きな損失を抱えるからです。
具体的にユーザーエクスペリエンスを向上させるために、最新のインターフェースが設けられています。SAPといえば専用のGUIを利用して昔ながらのデザインで操作するものでしたが、そのような状況が改善されているのです。SAP BW/4HANAはWebブラウザで利用できるように作られていて、利便性の向上が図られています。
また、純粋にユーザーインターフェースが改善されているため、生産性の向上が期待できます。今までのGUIは操作性に課題がありましたが、そこが改善されているためスムーズに操作できるのです。これによりシャドウアナリティクスの抑制も期待できます。
リアルタイムかつ大量のデータ処理
データウェアハウスの製品であるため、リアルタイムかつ大量のデータ処理が可能です。今までも大量のデータ処理には対応できていましたが、更に性能が高まったと考えれば良いでしょう。また、リアルタイム性も向上したため、いち早くデータウェアハウスで情報を処理できます。
今までのデータウェアハウスは、一定期間ごとにデータを取り込むものが中心でした。どの程度の時間間隔であるかはデータウェアハウスの設計により異なりますが、リアルタイムに情報を統合することは難しかったのです。それがSAP BW/4HANAを実現できるようになっています。
また、データ統合の処理時間だけではなく、処理の待ち時間も短縮されています。これはデータ処理のアルゴリズム改善が影響しているのでしょう。スムーズにデータ内容を把握できるため、結果を業務にいち早く反映できます。
他にも、設計次第では連携された情報を自動的に分析可能です。可能な限り人間の作業を減らすことで業務の負荷を軽減し、アウトプット内容の分析に注力できます。
SAP BW/4HANAの導入で期待できる3つの効果
続いてはSAP BW/4HANAを導入するとどのような効果があるのか、以下3つの観点からご説明します。
ビジネスインサイトの効率化
SAP BW/4HANAにより効率よく全社的なデータ分析ができることによって、ビジネスインサイトの効率化が期待できます。ビジネスインサイトの定義は明確に定められていないものの、「新しいビジネスを創造する力」だと考えれば良いでしょう。
新しいビジネスを創造するにあたって重要となるのは「数値によるエビデンス」です。公的機関や大手企業が公開した数値をエビデンスとして利用するケースは多々あります。
ただ、ビジネスインサイトに向けて重要となるのはこのような数値ではなく「自社の営業活動に基づいたエビデンス」です。全社的な状況を正確に把握して、そこから新しいビジネスを創造しなければなりません。既存のリソースやナレッジを最大限活かすことが求められています。
SAP BW/4HANAを導入して全社的な数値を横断的に収集、分析できれば、営業活動に基づいたエビデンスがすぐに手に入ります。SAP BW/4HANAならば必要に応じてデータの加工も可能であり、意思決定に必要な情報もスムーズに作成可能です。
既存データのさらなる活用
SAP BW/4HANAのようなデータウェアハウスのプラットフォームを導入することで、社内のデータを最大限活かせるようになります。SAP BW/4HANAは「ビッグデータウェアハウス」に分類され、大量のデータ蓄積や分析を目的としているのです。
データウェアハウスが存在しない企業では、それぞれの部門が持つデータの価値が限られてしまいます。基本的には部門を横断してデータを活用する手段は無いと考えられ、閉じた世界でしか利用されないからです。全社的に活用すべきデータでも活用されていないケースが大半を占めます。
例えば、営業内容やその結果に関する情報は営業部門の中でしか共有されません。この情報をSAP BW/4HANAなどの導入で全社的に展開することで、新しい需要の発見や生産計画の見直しにつなげられる可能性があります。
また、データをSAP BW/4HANAへ集約する仕組みを作ることで、全社的なデジタル化が促進されます。個人のパソコンで管理されがちな情報でも、SAP BW/4HANAへと集約できるようにすれば、大きな価値を生み出すかもしれません。
情報源を踏まえたシステムの再構築
数多くのデータソースに対応していて、なおかつリアルタイムな処理が可能です。効率よく大量のデータを処理できる仕組みが搭載されていて、SAP BW/4HANAを軸としたシステム構築も可能です。
例えば、SAP BW/4HANAにデータを集約しそれを人工知能などに解析させることで、業務の中に隠れる定型作業が見えてくるかもしれません。SAP BW/4HANAに情報を連携して頻繁かつ高速な分析をすれば、業務にフィードバックできるわけです。このような効果を生み出すために、SAP BW/4HANAへのデータ連携を軸としたシステム構成が考えられます。
SAP BW/4HANAは多くのデータフォーマットに対応できるため「どのデータソースがSAP BW/4HANAに接続できるか」を意識する必要はあまりありません。ほぼすべてのデータがSAP BW/4HANAに連携できるため、それらを連携する前提のシステム構成を実現可能です。
SAP BW/4HANAの導入による改善事例
SAP BW/4HANAを導入することによって、今までのSAP BWの問題はいくつも改善されています。例えば、以下のような事例が存在しています。
- SAP BWをクラウド化することによる運用コストの改善を目指した
- SAP BW/4HANAをクラウドのクラウドで負荷分散することで運用効率を高めた
- SAP BWのインターフェース改修に必要な手間をSAP BW/4HANAで削減した
- RPAやSAP BW/4HANAの分析機能を活用して利用者の負担を軽減した
これらの事例はSAP BW/4HANAを導入した場合の一例に過ぎません。SAP BW/4HANAは今までのSAP BWとは大きく異なる製品であるため、今までは想像もできなかったような観点で改善される可能性もあります。
まとめ
SAP社が提供するデータウェアハウス製品のSAP BWについてご説明しました。一般的にSAP BWと呼ばれるのは、SAP R/3時代までに提供されていた製品で、現在は新規の提供が終了しているものです。またサポートも2027年末で終了する予定であり、リプレイスなどが求められているものでもあります。
現在は、SAP BWではなくSAP BW/4HANAと呼ばれる後継製品が存在します。SAP BWとは異なり、クラウドで構築しやすいなど根本的な違いを持つのです。また、HANAシリーズの製品として独自のデータベースを持つなどの変化もあります。
現時点では「SAP BW」がまだまだ利用されているため、「過去の製品」と呼べるわけではありません。ただ、徐々にSAP BW/4HANAへの移行が必要であり、これからは「SAP BW/4HANAの時代」がやってくると考えておきましょう。