「S4 HANAでクラウド化」No.8 SAP HANAへの移行で悩んだ?PoCの実施でスムーズに解決できる
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1.はじめに
S/4 HANAなど規模の大きなシステムを移行する際は、PoCと呼ばれる作業を実施します。システムを移行して想定どおりの動作をするかどうか検証する作業です。
これまでS/4 HANAをクラウドに移行するにあたり、どのような項目を検討すべきであるかご説明しました。PoCはそれらの検討結果を踏まえ「実際にそのとおり動作するか」「想定している操作は可能か」などを評価する作業であるため、具体的にどのような作業かご説明します。
2.システム移行におけるPoCとは
最初に、システム移行におけるPoCとはどのような意味を持つキーワードであるのか理解しておきましょう。
2-1.懸念点を洗い出し検証する作業
PoCを簡単に説明すると「新しいシステムの懸念点を検証する作業」です。事前に新しいシステムに対する懸念点を洗い出しておき、それらの懸念を払拭できるかどうか検証していきます。
懸念を払拭する必要があるため、PoCは実際にサーバーなどにシステムを構築して実施します。ただ、本番ほど大規模なものではなく、PoC用に小規模なシステムを構築するケースが一般的です。
環境はSAP社や導入ベンダーに相談すれば手配してもらえます。期間や規模などによってコストが変化するため、事前に確認しておくとよいでしょう。
2-2.目的を明確にして実機で検証
PoCを実施するにあたっては、目的を明確にすることが重要です。また、上記でご説明したとおり実際にシステムを動かしながら検証するため、決められた期間で効率よく検証することが求められます。
どのような目的をもって実施するのかは、これまでの記事でご説明してきた内容を踏まえましょう。具体的な事項については次の見出しでご説明いたします。
基本的には「やってみなければわからない」という内容について重要視すべきです。また「論理的には実現できるか自信がない」などの状況に陥っている事柄についても検証しておくと良いでしょう。
3.S/4 HANAのPoCで検証する事項例
続いては具体的S/4 HANAのPoCでどのような事項を検証すれば良いかをご説明します。
3-1.新機能の動作
最初に検証してもらいたいのは新機能の動作です。S/4 HANAは今までのSAPと大きく機能が異なっているため、「どのような新機能があるのか」「新機能の使い勝手は想定通りか」などを確認しておきます。
S/4 HANAの新機能は公式サイトなどでも紹介されているため、ある程度は事前情報を持てるはずです。期待している機能も多いと思われるため、期待通りの動作であるのか検証していきましょう。
3-2.データ移行の手法確認
想定どおりデータ移行ができるか手法について確認しておきましょう。時にはデータ移行の考慮漏れによって、想定していたプランのデータ移行ができない場合があります。データ移行については以下の観点から検討しておくと良いでしょう。
・データの形式は想定どおりか
・テーブルに情報を登録できるか
適切にデータ移行できなければ、S/4 HANAに移行してもシステムを利用できなくなってしまいます。計画通りにデータを移行して、業務を継続できるかPoCで検証しておきます。
3-3.データ移行時のダウンタイム
データ移行にどの程度の時間を要するか測定します。データ移行では想定よりも長い時間がかかる場合があり、そのような事態に陥るとユーザーへの影響が大きくなってしまいます。
PoC環境は本番環境と全く同じではありませんが、ある程度は本番環境を想定して構築されます。そのため、PoC環境でデータ移行してみることで、ある程度のダウンタイムは予測可能です。
ただ、本番と同様のデータ移行を実施するのは難しく、部分的なデータ移行に留まりがちです。特に時間がかかると想定される部分を中心に検証し、部分的には余裕をもった予測を立てるしかありません。
3-4.導入による効果
S/4 HANAを導入することで業務にどのような効果があるのかを検証します。特に新しい機能は利用してみなければ効果を実感できない部分があるでしょう。PoCで新しい業務フローを実践し、どの程度の効果があるのか確認します。
導入による効果にはさまざまな観点があります。例えば以下に注目して検証すると良いでしょう。
・業務のやりやすさ・システムの使いやすさ
・システムのレスポンス速度
・業務の開始から終わりまでに必要な時間
使いやすさや業務に必要な時間は、導入による効果がわかりやすい部分です。特に業務に必要な時間が短くなると、システム導入の効果があると考えられます。
なお、レスポンスなども認識すべきですが、PoC環境は本番環境よりもスペックが劣るケースが多くあります。その場合、どうしてもレスポンスが遅くなりがちであるため、その点は注意しておきましょう。
3-5.予期せぬ課題の発見
何かしら予期せぬ課題が潜んでいないかの確認に意識を向けておきましょう。最初から「課題を見つけよう」と意気込んで課題を見つけるのは難しいものです。何かしら「思っていたものと違う」との状況に陥った際、それを見逃さないようにします。
PoCは顕在している課題やリスクの確認に利用されるのが一般的です。冒頭でご説明したとおり、これらの課題やリスクを検証することを目的にPoCは実施されます。
ただ、そもそも課題やリスクとして認識できていないものが潜んでいるケースは多々あります。そのようなものを見落とすとS/4 HANAへ移行してからトラブルになるため、可能な限り気づけるように意識すべきです。
3-6.テクニカルな問題の検証
S/4 HANAへと移行するにあたってテクニカルな問題が発生するかもしれません。特に既存のSAPでアドオン開発に力を入れていると、S/4 HANAと仕様が異なるためテクニカルな問題が発生しやすいです。
テクニカルな問題については、実際に実装して動作を確認してみることが重要です。PoCのタイミングで動作確認しておけば、その方針で進められるかどうかが判明します。もし、テクニカルな問題を解決できないのであれば、実装方法を見直さなければなりません。
実装せずに机上だけでシステムを設計すると問題が起きていても気づかないままです。そのような状況を避けるために、テクニカルな問題や疑問があるならば、必ずPoCで確認しておきましょう。
4.S/4 HANAのPoCを実施したならば評価が重要
S/4 HANAへの移行に向けてPoCが必要であることをご説明しました。ただ、実施するだけではなく評価も重要であるため、こちらについてもご説明します。
4-1.想定通りの動きをしたかどうか
最初に評価しなければならないのは、想定通りの動きをしたかどうかです。具体的には以下のような評価をしておきましょう。
・システムは思い通りに動作したか
・S/4 HANAへの移行で業務効率が改善したか
・テクニカルな問題は解消したか
全ての評価観点で問題がなければよいですが、何かしら問題があれば対応について検討が必要です。全体のスケジュールやコストに大きなインパクトを与える可能性もあるため、想定していたことに反して問題が見つかったならば速やかな対応が必要です。
4-2.潜在のリスクは存在しないか
S/4 HANAのような大規模なシステム移行にはリスクがつきものです。それぞれのリスクを認識したり評価したりして、それを踏まえた移行計画を立てなければなりません。
PoCなどを通じてリスクが認識できているものは良いですが、気を付けるべきは認識できていない潜在のリスクです。システム移行には多くのリスクがあるため、潜在的なリスクがあると考えるべきです。「PoCでリスクの洗い出しができた」と考えていると、潜在的なリスクに泣かされるでしょう。
潜在的なリスクを洗い出すためには、過去に実施したシステム移行のリスクを参考にしてみましょう。もし、オンプレミスからクラウドへの移行が初めてならば、専門家にアドバイスを求めることも重要です。
5.まとめ
S/4 HANAの導入にあたってPoCが必要であることをご説明しました。PoCはシステムを検証する作業で、新しいシステムの機能や効果などを評価します。大規模なシステムを導入する際は事前に検証や評価をしておかなければ、導入してから後戻りできません。
具体的にどのような観点から検証すべきかはご説明したとおりです。ユーザー目線で機能を評価するだけではなく、エンジニア目線でテクニカルな問題なども解決するようにしておきましょう。
忘れてはならないのはPoCを実施した後に評価をすることです。S/4 HANAは規模の大きなシステムであるため、多少時間をかけてでも丁寧に評価することを心がけましょう。