「S/4 HANAでクラウド化」No.12 S/4 HANAをクラウドで導入!行動する前のチェックポイントを解説
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1.はじめに
これからS/4 HANAへシステム移行するにあたって確認しておきたいチェックポイントがあります。この連載ではシステム的な観点での説明が中心ですが、移行時はそれ以外の観点からも確認が必要です。
今回はいくつもの観点から、S/4 HANAのシステム移行で重要なチェックポイントを解説します。それぞれのポイントについて関係者と連携しつつ確認し、問題点を事前に洗い出したり解消したりしていきましょう。
2.S/4 HANAのシステム的なチェックポイント
まずはシステム的な観点からチェックポイントをご説明します。
2-1.移行先はクラウドかそれ以外か
S/4 HANAの移行先はクラウドか確認しましょう。クラウドではない場合はオンプレミスが中心となり、今までと同じようなシステム運用ができると考えられます。
逆にS/4 HANAの移行先がクラウドならば、今までとは異なるシステム運用が求められます。クラウドにはクラウドの運用があるため、システム的に対応できるか検討しなければなりません。SAPの運用にあたって自動化ツールなどを利用していたならば、それが適用できるかどうか確認しましょう。
また、システム的な確認だけではなく、システムを運用する担当者の観点でも確認が必要です。担当者が操作できないと話にならないため、スキルの確認なども求められます。
2-2.移行データは明確であるか
移行対象が明確であるか確認しましょう。データ移行については以前に詳しくご説明しているため、その内容を踏まえられているならば問題ありません。
ただ、注意してもらいたいのは、状況の変化によって移行対象も変化する可能性があることです。最終的にどのデータを対象とし、どのタイミングで抽出するのか明確にしましょう。
2-3.追加開発のアドオンなどはS/4 HANAでも利用できるか
既存のSAPで独自開発のアドオンを導入しているならば、S/4 HANAでも利用できるのか確認しましょう。何度か触れていますが、アドオンはS/4 HANAに移行できない可能性があります。移行できないことはやむを得ないため、適切な対策が必要です。
アドオンがS/4 HANAでも利用できるか評価していないと「想定していた機能が利用できない」という状況になりかねません。リリースしてからこのような事実が発覚すると広範囲に影響する可能性があるため、事前によく確認しておきます。
2-4.業務フローの変更は許容されているか
S/4 HANAでは機能の追加や削除、統廃合が行われているため、今までと同じようにSAPを利用できない可能性があります。場合によっては業務プロセスが変化するため、ビジネス部門と業務の変化について合意が必要です。
また、S/4 HANAをクラウドに構築する場合は、各種クラウドサービスと連携する可能性があります。そのようなアーキテクチャになると、業務フローだけではなくユーザーの操作に大きな影響を与える可能性もあります。必要に応じて操作方法の教育などが必要となるため、業務フローの変化と合わせて合意が必要です。
3.S/4 HANAの移行作業についてのチェックポイント
続いては移行作業についてのチェックポイントをご説明します。
3-1.必要に応じてベンダーに発注できているか
移行作業は社内だけで完了できる場合もありますが、専門的な知識が求められるためSAPベンダーに依頼することが大半です。データ移行のノウハウを持ったプロに依頼することで、正確かつスムーズにデータ移行ができます。
もし、データ移行にベンダーを利用するつもりならば、発注ができているか確認しましょう。基本設計が完了した段階で移行計画を立てるため、この段階で発注できているのが理想的です。
3-2.社内・社外の役割分担はできているか
S/4 HANAのような大規模なシステムでは移行作業に多くの人が携わります。それぞれの人が「いつ」「なにを」担当するのか明確であるか確認しましょう。明確にしておかなければ「他の人がやってくれると思った」という状況になりかねません。
また、社内のみならず社外の担当者についても役割分担の確認が必要です。ベンダーを利用する場合は体制表を提出してもらい、意図したとおりの役割分担になっているか確認する必要があります。
なお、今回初めてクラウドサービスを利用するならば、役割分担が正しいのか判断に困ってしまうかもしれません。可能な限り有識者を交えて確認し、不明点があればベンダーに説明してもらうようにしましょう。
3-3.社内の担当者は余裕を持ってアサインできているか
社内の担当者については余裕をもったアサインが必要です。一般的にSAP関連のプロジェクトは規模が大きくなるため、負荷分散のために多くの人が求められます。また、特定の人物に情報が偏ると休暇を取得した際などにプロジェクトが回らなくなるため、リスクヘッジの観点でも複数人が必要です。
どの程度の人数が必要になるかは、ワークストリームの規模に左右されます。例えば、S/4 HANAの導入に伴い業務プロセスを大きく見直すならば、責任者から業務担当者まで大規模なアサインが求められます。
また、オンプレミスからクラウドへの移行などインフラ基盤に変更があるならば、IT担当者にも余裕を持つべきです。クラウド環境の構築などから参画し、運用に向けてナレッジを蓄えなければなりません。
3-4.意思決定者は明確になっているか
プロジェクトを進めるにあたって意思決定者は非常に重要であるため、誰が担うか明確にしましょう。事前にプロジェクト体制を作成し責任者が明確になっているはずですが、意思決定者についても定義しておきます。
S/4 HANAは大規模なシステムであるため、要件ごとに意思決定者が必要です。例えばモジュールなどを鑑みて以下のような分担が考えられます。
・会計関連責任者
・製造関連責任者
・人材関連責任者
・インフラ関連責任者
意思決定を下す必要があるため、業務に詳しい人が意思決定者になるべきです。ただ、該当する人がSAPに詳しいとは限らないため、各担当者はスムーズな意思決定のために考慮する必要があります。
3-5.移行手順は明確でリハーサルされているか
これまでの記事でリハーサルの重要性についてご説明しています。実際にS/4 HANAへの移行にあたっては「リハーサルが完了しているか」「リハーサルはスケジューリングされているか」を再確認しましょう。
リハーサルフェーズが先であれば、以前にご説明した内容をもとにリハーサルを実施してください。すでに実施した後であれば、こちらも同様に以前にも説明した内容をもとにリハーサル内容を評価してください。
4.S/4 HANAの移行リスクについてのチェックポイント
最後にリスクについてのチェックポイントを説明します。リスクは広範囲に影響する可能性があるため、それぞれの部門が認識しなければなりません。
4-1.システムの変更に関するリスクは洗い出されているか
S/4 HANAへとシステム移行するにあたってのリスクが洗い出しできているか確認しましょう。リスクの洗い出しが終わらない状態でシステムを移行すると、本番稼働してからリスクが顕在化してしまいます。特に、S/4 HANAは既存のSAPと異なる部分が多いため、リスク評価が重要です。
リスク評価にあたっては、IT部門だけではなく関係部門を巻き込まなければなりません。例えば以下が考えられます。
・製造に関わる部門
・品質管理部門
・物流部門
・経理部門
S/4 HANAでどのようなモジュールを利用しているかに左右されますが、利用する部門はすべてを巻き込むことが重要です。
4-2.移行のデットラインはいつか
移行のデッドラインは必ず押さえておきましょう。基本的には余裕を持ってスケジューリングしますが、システム移行は遅延する可能性があります。遅延した場合はデッドラインを踏まえた判断が必要となるため、事前に把握しなければなりません。
例えば、その他のシステムと足並みをそろえる必要があれば、システム連携などを優先しなければなりません。遅延による影響を最小限に抑える必要があるため、関係する部分から着手します。
また、影響範囲が社内のみであれば、リリースの優先を検討する必要があるでしょう。利用開始日までにリリースできる機能をピックアップして、残りはリリース後に追加で開発やリリースするのです。関係者で優先順位を検討し、その内容を踏まえてデッドラインに間に合わせます。
4-3.切り戻しが必要となる場合は誰が意思決定するか
切り戻しが必要となってしまう場合は、その意思決定を誰がするかが重要です。S/4 HANAへ移行せず切り戻しすることは、S/4 HANAの利用者や関係者、取引先などに大きな影響を与えかねません。重要な判断であるため、事前に定義しておきます。
一般的には、切り戻しの原因となった部分の責任者とプロジェクトマネージャ、システムオーナーなどが会議を開き、その場で切り戻しが決定されます。切り戻しの基準が設けられている場合は、その基準に沿って判断が下せますが、多くの場合は臨機応変に判断しなければなりません。重要な判断ができるだけの権限を有する人に、常時待機してもらう必要があるのです。
5.まとめ
S/4 HANAをクラウドなどで導入するにあたって意識してもらいたいチェックポイントをご説明しました。クラウドに限らず意識してもらいたい部分はありますが、クラウドにS/4 HANAを導入することで意識するポイントが増えてしまいます。チェックポイントを踏まえて、問題がないか細かく評価するようにしましょう。
なお、チェックポイントを評価した結果に問題があると、S/4 HANAの移行ができないというものではありません。課題が顕在化したならば、それを解消することで移行へと駒を進められるのです。