「SAP ERPエンジニアが初めてSAPを学んだら」No.13 SAPのM&Aの歴史と今後の推測
1.はじめに
SAP Freelance Jobs運営事務局です。
この度、ERPエンジニアがSAPを初めて学び、資格取得するまでの学び・実施内容の第13回となります。
毎回記載しておりますが、国内にSAPエンジニアが多くいるとはいえ、どのように学び成長出来たかの記事は、あまり存在しません。SAPを初めて操作をする際、多くの人が豊富な製品ラインナップや各製品の機能の多いことに大変驚くかと思います。現時点でも非常に多くの製品・機能を有していますが、SAPは毎年のようにM&Aを実施し続けており、拡大を続けています。このように変わりゆく製品ライナップにおいて、これからSAPを学ぶ方は、SAPがどのような頻度で拡大しているのか認識し、その上でどの範囲を学習するか定めることが重要になります。
ご自身がSAPエンジニアを目指す方、また自社内にSAPエンジニアを育成したい方には、有益な記事になっておりますので、是非最後までご一読頂けますと幸いです。
2.SAP M&Aの歴史
SAPは自社のみで製品を開発しているわけでは無く、頻繁にM&Aを実施しています。1991年から2022現在まで71社M&Aを実施しています。中でも、2000年~2020年では63社もM&Aしており、非常に多くの製品がラインナップに加わっています。
15年前まで遡って一覧を記載すると、以下の通りとなります。
年 | 名称 | 概要 |
2022 | Taulia | 運転資金管理ソリューションの主要プロバイダーであり、サプライチェーンファイナンス、動的割引、および売掛金ファイナンスを通じて早期支払いを提供する |
2021 | AppGyver | コーディングスキルを持たないユーザーがWebやモバイル用のアプリケーションを構築できるようにする、ノーコード開発プラットフォーム |
2021 | Signavio | 大規模なビジネスプロセスを理解、改善、変換、管理できるプロセス管理スイート |
2020 | Emarsys | 企業と顧客の間でのオムニチャネルプラットフォーム |
2018 | Contextor | Robotic Process Automation(RPA)の設計と統合 |
2018 | Qualtrics | 組織がX-data™とも呼ばれる経験データを収集、管理、および処理するために使用するテクノロジープラットフォーム。世界中の9,000以上の企業が、Qualtricsに使用して、評価する製品を一貫して構築し、より忠実な顧客を作成し、望ましい従業員文化を開発し、強力なブランドを構築 投資額:80億米ドル |
2018 | Coresystems | AI(Artificial Intelligence:人工知能)を利用したフィールドサービスプラットフォーム |
2018 | CallidusCloud | 適切な見込み客を特定し、適切なテリトリーとノルマを確実に配分し、セールス部隊を有効にし、見積価格設定を自動化し、セールス報酬を合理化できるようにするソフトウェア 投資額:24億米ドル |
2018 | Recast.AI | SAP製品の会話能力を向上させる、機械学習ベースのプラットフォーム |
2017 | Gigya | 顧客IDおよびアクセス管理プラットフォーム |
2016 | Abakus | マーケティングおよび顧客データを統合し、編成し、増分価値を測定するソリューション |
2016 | Hipmunk | 旅行結果を価格だけでなく、所要時間、停車駅、ホテルの場所など、ビジネス旅行者にとって重要な重要な要素別にソートするウェブサイトとモバイルアプリ |
2016 | Altiscale | ハイパフォーマンスでスケーラブルなBDaaS(Big Data-as-a-Service)ソリューション |
2016 | Plat.one | コネクテッドプロダクト、スマートシティ、コネクテッド交通、スマートマニュファクチャリングなどの企業IoT(Internet of Things)環境の迅速な開発とスケーラブルな管理 |
2016 | Fedem | 構造物や機械システムの動的シミュレーションや寿命計算のための高度な工学解析・構築ソフトウェア |
2016 | Roambi | バイル中心の分析とデータ視覚化ソリューション |
2015 | Multiposting | 数千の求人広告を自動掲載するフランスのSoftware-as-a-Service(SaaS)採用ソフトウェアスタートアップ |
2014 | Concur | 総合的な旅行および経費管理サービスおよびソリューション 投資額:83億米ドル |
2014 | SeeWhy | 小売業者のEコマース収益を増加させるクラウドベースの行動マーケティングソフトウェア |
2014 | Fieldglass | 派遣労働とサービスの調達と管理を行うプロバイダー |
2013 | KXEN | モデリングと分析タスクを自動化する予測分析技術を提供 |
2013 | Hybris | 販売チャネルとソリューションを1つのプラットフォームにシームレスに統合 |
2013 | Camilion | 保険商品の開発、商品ライフサイクル、および引受ソリューションを提供 |
2013 | SmartOps | 在庫およびサービス・レベルの最適化ソフトウェア |
2013 | Ticket-Web | スポーツや娯楽施設向けのオンラインチケット販売 |
2012 | Ariba | サプライヤ管理に焦点を当てた企業間環境で使用されるコマースアプリケーション 投資額:43億米ドル |
2012 | Syclo | 資産管理(EAM)、フィールドサービス、在庫管理、承認/ワークフローを含むモバイルアプリケーション |
2011 | SuccessFactors | 業績管理、目標設定、報酬計画、トレーニングなど、従業員の人的資本を管理(HCM)するソリューション 投資額:34億米ドル |
2011 | Crossgate | メモリー中心で軽量なリレーショナル・データベースを提供 |
2011 | Right Hemisphere | ユーザーが製品設計や製造プロセスの3Dモデルを作成できるようにするソフトウェア |
2011 | SECUDE | セキュリティ、IDおよびアクセス管理ソフトウェア |
2010 | Cundus | ドイツ、欧州、米国市場における主要なコンサルタント会社 |
2010 | Sybase | 情報を管理、分析するモバイルソフトウェア 投資額:58億米ドル |
2010 | TechniData | 製品の安全と環境、健康と安全(EHS)ソリューション |
2009 | SAF | 小売業界および卸売業業界における発注、予測、補充ソフトウェア |
2009 | SOALogix | プロジェクト管理ソリューション |
2009 | Highdeal | 通信、オンラインサービス、メディア、輸送・物流業界向けの価格設定、評価、課金ソフトウェア |
2009 | Clear Standards | 企業の二酸化炭素排出管理を提供し、企業が事業活動全体にわたって温室効果ガス排出やその他の環境影響を測定、緩和、収益化を支援する |
2009 | SkyData | CRMソリューション |
2009 | Coghead | ノーコードWebアプリケーション開発基盤 |
2008 | Vispirise | 製造オペレーションを計画、定義、制御、実行、分析 |
2007 | BusinessObjects | ビジネス・インテリジェンス(BI)ソフトウェア 投資額:48億ユーロ |
このM&Aの歴史を振り返って見ると、今ではSAP S/4 HANA以外の主要製品に位置付けているAriba、Concur、SuccessFactorは、M&Aによりラインナップが追加さていることが分かります。
3.SAP M&Aによる売り上げ推移や市場評価
上述の様に多くの企業をM&AしているSAPですが、2007年から2021年末でのアメリカでの時価総額・売上・利益は以下の通りに推移しています。
年度 | 時価総額 | 売上高 | 利益 |
2021 | 1660億ドル | 320億ドル | 90億ドル |
2007 | 610億ドル | 140億ドル | 38億ドル |
いずれの数字も2倍超となっています。このM&Aにより製品やサービスを拡張する戦略は非常に効果が出ていると言えます。また、今後世界のERP市場は、拡大すると言われているので、SAPが主要企業である可能性はかなり高いです。
4.SAPの今後の推測
この15年で時価総額・売上・利益が2倍超になっていることを考えると、今後もこの戦略は、継続すると思われます。
どのような企業をM&A対象とするかですが、過去より推測すると大きく2つの観点が考えられます。
①RPAやAI等その時々で話題になっている最新技術に関連する企業
②Concur(経費精算)のように、従来保持していない業務ソリューションを保持している企業
日本でこれほど多くM&Aをしているシステム開発企業は無く、SAP社のM&Aを注視することは今後のERP状況を把握する上で非常に重要です。
5.おわりに
今回は、SAPのM&Aの歴史と今後の推測を紹介しました。記載した内容は筆者の一エンジニアの主観もありますが、冒頭記載した通りで変わりゆく製品ライナップにおいて、これからSAPを学ぶ方は、SAPがどのような頻度で拡大しているのか認識し、その上でどの範囲を学習するか定めることが重要になります。
次回以降も、各ソリューションの概要や研修受講状況や学習方法・ERPエンジニアの所感等を紹介していきます。