SAP 業界でフリーランスに転身するのは何歳が最適か
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はじめに
SAP業界で収入やキャリアを上げる方法として「フリーランスへの転身」があります。SAPに限らず、IT業界ではある程度のスキル・経験を積んだのちにフリーランスへ転ずる人材が数多く存在します。SAPコンサルタント/エンジニアは、IT業界の中でも特に単価が高いことで知られ、フリーランスへ転ずるメリットが大きい職種です。
しかし、ここで問題になるのがフリーランスに転身するタイミング。「年齢が高すぎるのでは?」「自分のスキルや経験がどこまで通用するか不安」といった迷いを持つ方は少なからず存在するようです。そこで、SAP業界でフリーランスに転身する年齢、タイミングについて述べてみたいと思います。
1.フリーランスで活躍するには修行の期間が不可欠だが…?
一般的にIT業界でフリーランスとして活躍するためには、正社員や派遣社員として何年か実務経験を積む必要があります。
現在は新卒でフリーランスという選択肢もあるようですが、SAP業界では非現実的ですよね。SAP業界で必要とされる知識・スキルの大半は、実際のプロジェクトで吸収するものだからです。各モジュールの概要やABAPの基礎的な記述方法は座学でも学べますが、SAP ERPの実機を存分に操作できる環境がなければ、現場で必要とされるスキルは身に付きません。この点がSAP業界の独特なところで、まずどこかの組織に所属しなければ学びの機会すら得られないのです。
1-1.キャリア形成のパターン
前置きが少し長くなりましたが、SAP業界で新卒フリーランスはほぼ成立しませんので、「最初に所属する企業」で基礎固めをしていく必要があります。最初に所属する企業は、大きく「事業会社の情報システム部門」「SIer」「SAP Japan本体」「SAP製品を取り扱うITコンサルティングファーム」のいずれかになるでしょう。
しかし、事業会社であれば同じシステムを何年も担当することになりがちで、スキルや知識の上限値が意外と早く見えてしまいます。
SAP Japan本体の出身は肩書として非常に強いのですが、新卒/中途ともに入社できる人は限られていますし、難易度も高いです。
おすすめのキャリアパスは、SIerに入社して技術的な基礎固めをし、その後に事業会社やITコンサルティングファームで経験を積み、上流/下流をバランスよく経験していくといったものです。SIerで5年、ITコンサルティングファームで3~5年ほどの実務経験があり、さらに得意領域(モジュール)と業界知識があれば、フリーランスとして十分に活躍できると思います。
ここで注意すべきなのが「上流と下流のバランス」です。SIerでさまざまなクライアントを経験すると、技術的な幅は広がるでしょう。しかし、上流工程に参画するまでに長い時間がかかってしまうことがあります。また、ITコンサルティングファームで最上流のみを経験すると、技術的な知識に不足が生じ、活躍できる範囲が限定されるリスクがあります。したがって、人材としての「旬」が過ぎてしまう前に、ある程度バランスよく経験を積むことが大切です。
2.ねらい目は30台前半?
では、実際にSAP業界でフリーランスに転身するには何歳が適当かを考えてみたいと思います。
結論から述べると「30代前半」が色々と都合が良いのではないでしょうか。何故かというと、下記のように年齢別に経験しておくべきことを踏まえた場合、30代前半で一巡するからです。
2-1.それぞれの年代で経験しておくべきこと
・20代前半
SIerやコンサルファームでSAP ERPの基礎を学びます。初期研修やアカデミーでSAP ERPの概要を学び、認定資格を1~2つ取得して最初のプロジェクトに参画するといった流れになるでしょう。
最初のプロジェクトでは、SIerならば開発や保守、コンサルファームならばPMOや小規模チームのトップなどを経験しながら、上流/下流の経験を積みます。ここで開発経験を最低でも3年ほど積んでおくと、フリーランスに転身してからも信頼を得やすくなるように感じます。各モジュールの基本的なカスタマイズ方法や、よく使用するBAPI、アドオンプログラム(帳票/Dynpro)の開発スキルは積極的に身に着けたいところですね。移送に関する基本的な仕組みや、よく使う標準テーブルの種類と項目、権限関係の基礎知識(権限オブジェクトと権限ロール)も抑えておくと、後々かなり楽になると思います。
・20代後半
20代後半から30歳になるまでの間に、単独で「概要設計・詳細設計・開発・テスト」を完結できるようにしておきましょう。概要設計には、影響調査や調査結果の取りまとめ、顧客への説明なども含みます。
このくらいの範囲を単独でこなせるようになると、自然と顧客と接する機会が増え、プレゼンやレビューの機会が増えてきます。当然のことながら、説明資料を作成する機会も増えますね。
他の分野でいうところの「プログラマーからSEへのステップアップ」に該当するのですが、SAP ERP業界ではSEとプログラマーの境界線が曖昧な傾向にありますので、ポジションはあまり気にせずスキルと経験を積むことに専念していきましょう。また、チャンスがあれば要件定義フェーズにも参画したいところです。
・30歳直前~30代前半
このあたりで、フリーランスとして働くか、組織人として働くかを決めておくと良いでしょう。順調に経験を積んでいると、30歳を過ぎたあたりから、プロジェクト内でリードなどを任されるケースが増えてきます。
TLやPLの経験は、組織人として上を目指すのであれば間違いなくプラスに働きます。一方、メンバーの取りまとめやマネジメント、顧客への説明資料の作成など技術に関連しない仕事が増えますので、純粋なSAP ERPのスキルという点では停滞する可能性が出てきます。実際に、30歳前半から40歳前半くらいまでの10年間を、管理やマネジメントだけに費やしたことで、技術的なスキルを喪失してしまう方がいるようです。
もちろん、ケースバイケースではあるのですが、フリーランスとして働くためには、管理やマネジメントスキルだけでは心もとありません。多くの企業がフリーランスのSAP人材に求めているのは「自社にないノウハウやスキルを保有していること」です。具体的には、標準モジュールの仕様に関する知識やアドオン開発の実現方法などです。もちろん、管理やマネジメントができれば尚よいのでしょうが、本丸がそこであるケースは少ないように感じます。したがって、技術から離れてしまうことは、フリーランスを目指すにあたってリスクに成り得るのです。
このくらいの年齢に差し掛かったら、フリーランスとしての独立を計画し、営業支援会社やフリーランス支援企業などに接触していきましょう。
3.仕事量に関しては「杞憂」であることがほとんど
フリーランスへ転身するにあたり「仕事が途切れるのではないか」と不安になる方が多いようです。しかし、一定以上のスキルと経験を持つ人材であれば、長期間にわたり仕事が途切れるケースは稀です。
過去を振り返ると、最もSAP業界が厳しかったのはリーマンショック直後だったと思います。リーマンショック直後は、多数のプロジェクトが凍結され、顔見知りの営業担当が「これほど案件が枯渇した状況は記憶にない」と述べたほどでした。
しかし、そういった状況であっても10年前後の経験を持つ人材は2~3か月で別のプロジェクトにアサインされていました。リーマンショック直後の焼け野原状態でさえ、ほんの2~3か月で需要が回復するのがSAP業界の底堅さを物語っています。
4.フリーランスとして成長する絶好の機会
ましてや今後は、2025年/2027年に向けてECC6.0からS/4 HANAへの移行期に向かいます。また、コロナ禍の本格的な終息と相まって、人材需要は増えていくでしょう。
これら種々の事情を総合すると、少なくとも数年は仕事量に関して過度の心配をする必要はないように思います。それよりも、できるだけ多くのプロジェクトでSAP ERPの使われ方を学び、自身のスキル・経験へと転換していくべきではないでしょうか。