販売管理の強化にはSAP!SDモジュールの活用を解説
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はじめに
SAPには、販売管理に関わる「SD」と呼ばれるモジュールが用意されています。
受注から出荷、請求までの業務プロセスをスムーズに処理してくれるものです。
中小企業も販売管理モジュールを利用することで、業務の効率化が期待できます。
今回は、販売管理にお困りの中小企業に向けて、SAPによる販売管理を解説します。
1.SAPにおける販売管理
SAPのSDモジュールは、販売管理を取り扱うものであり「Sales Distribution」の頭文字を取ったものです。
個別のシステムを導入することなく、SDモジュールだけで販売管理の業務を一通りこなせます。
1-1.販売管理はSAPのSDモジュール
SAPは機能ごとに「モジュール」と呼ばれる単位に分けられていて、販売管理はSDモジュールに分類されます。
中小企業でSAPを導入する場合は、必要なモジュールのみ導入することが多いですが、SDモジュールは導入するケースが大半でしょう。
SAPのSDモジュールにはいくつかの機能があり、大雑把にまとめると以下のとおりです。
・見積もりや受注
・製品などの出荷
・取引先への請求
これらに関連する「販売伝票」の発行に対応していて、幅広いプロセスに対応できます。
一般的な取引で利用する帳票はもちろん貿易帳票など、特定の業界のみが利用するような帳票でも対応が可能です。
中小企業は、特定の業界に特化していることも多いため、特殊な帳票にも対応していることはSAPの魅力といえます。
1-2.特殊なプロセスにも対応
SAPの各種モジュールは、一般的なプロセスのみならず、特殊なプロセスにも対応していることが特徴です。
この特徴があるため、多くの業務にSAPの基本機能だけで対応できます。
例えば、SDモジュールでは、商品の返品にも対応が可能です。
例えば、返品の依頼を受けて返品伝票を作成したり、情報をSAPに登録したりできます。
また、商品が返却されると入庫されるため、在庫を見直したり請求を取り消したりもできます。
他にも、サービス業では「商品を出荷する」というプロセスが存在しないことが考えられます。
この場合は、受注を受けてからサービスを提供し、請求するだけです。
出荷に関する作業を除いたプロセスを構築することもでき、製造業など「モノ」のやり取りをする業界・企業以外でも利用できます。
1-3.柔軟な価格設定も可能
中小企業では、取引先によって価格設定を変更しているケースがあるでしょう。
昔からのお得意様に対しては、安価に製品を提供することは不思議ではありません。
ただ、このような価格設定の変更は、業務担当者がその都度、手動で実施しているのではないでしょうか。
しかし、SAPならばこのような設定は最初から対応可能であり、取引のたびに価格を確認したり修正したりする必要がありません。
設定された金額が自動的に表示・適用されるようになっているため、業務の効率化が可能です。
また、設定されている値さえ間違っていなければ、入力間違いによって請求額が誤ることもありません。
他にも、大量注文など「ボリュームディスカウント」も事前に設定が可能です。
割引率や割引後の価格が定まっているならば、それらも踏まえた価格設定にSAPだけで対応できます。
2.中小企業の販売管理にSAPを採用するメリット
SAPを採用すると、どのようなメリットがあるのかイメージしづらいかもしれません。
中小企業がSAPを採用した場合、販売管理にどのようなメリットがあるのか理解しましょう。
2-1.利用しやすいユーザーインターフェース
SAPはユーザーインターフェースの改善に力を入れていて、販売管理は利用しやすく考えられています。
以前のSAPは、独特なユーザーインターフェースで利用しづらい部分がありましたが、現在はそのようなデザインではありません。
特に、販売管理はシンプルなデザインに仕上げられていることが特徴です。
受注情報を入力するにあたって、どの項目を入力すれば良いのかわかりやすく表示され、効率よく業務に取り組めるようになっています。
中小企業は、一人で複数の業務を兼務することも多いため、効率よく処理できることは大きなメリットでしょう。
また、SAPにマスタデータを集約できるため、事前に登録してあるデータなどは自動的に表示されます。
個別のシステムを利用していると、それぞれに手入力しなければならないことがありますが、そのような手間も発生しません。
2-2.処理の自動化
現在、SAPは処理の自動化に力を入れています。
また、外部のツールと組み合わせることでも、様々な業務の自動化が可能です。
自動化によって業務効率が高まれば、中小企業における働き方改革につなげられます。
販売管理の担当者が少ない場合、取引における事務処理が一部の人に集中してしまいます。
結果、残業が発生してしまうなど働き方に影響を与えません。
従業員のモチベーションが下がり、残業代がかさむ原因にもなってしまいます。
しかし、SAPを活用して可能な限り自動化できれば、このような状況は防ぐことが可能です。
例えば、顧客から提供されたPDFデータを「Intelligent RPA」を活用して自動的に読み込み、販売管理の情報として入力できます。
担当者は、読み込まれた内容をチェックするだけで済むため、作業量を大きく削減できるのです。
また、ワークフローの自動化などにも対応しています。
これを活用できれば、担当者や承認者は状況を確認したりSAPを少し操作したりするだけで済むのです。
自動化やそれに伴う働き方改善は、中小企業にとって大きなメリットとなります。
2-3.突発的な需要にも対応
製造業で突発的な需要が発生した場合、通常の在庫だけでは対応できない可能性があります。
これに対応するため、SAPの販売管理には「SAP S/4HANA for Advanced ATP」と呼ばれるものが用意されています。
これは、通常プラントだけでの引当や納期確認を実施するだけではなく、他のプラントを自動的に含めてくれるものです。
この機能が用意されていることで、通常の在庫以外も含めて出荷を確約できるようになりました。
中小企業でも拠点が日本各地に設けられることは多く、在庫が分散されることも増えています。
通販の需要などを鑑みて、このような体制を採用している企業は多いでしょう。
そのような場合は、SAP S/4HANA for Advanced ATPを活用することで、通常の在庫からエリア全体の在庫、センターなど大規模な在庫まで一気に確認できます。
また、他プラントの引当だけではなく、代替品の引当も可能です。
事前にマスタで代替品や代替する条件を設定しておけば、自動的に対応できます。
突発的な需要で商機を失う状況を避けられるようになっているのです。
3.中小企業が販売管理の強化にSAPを導入する流れ
最後に、中小企業がこれからSAPで販売管理を強化した場合、どのような流れになるかを紹介します。
なお、基本となるSAPは導入されている前提で解説するため、不明点がある場合はSAPコンサルタントなどへ相談すると良いでしょう。
3-1.SDモジュールで利用する組織設定
事前にSAPで組織を設定しておかなければ、適切にモジュールを活用できません。
いくつかの情報が利用されますが、以下を設定するようにしましょう。
・販売組織:販売管理の最上位に位置する組織
・製品部門:製品や商品の担当部門
・流通チャネル:商品を供給するためのルートなど
・販売エリア:製品部門や流通チャネルの組み合わせ
これらを設定しておくことで、販売管理をスムーズに実施できるようになります。
ただ、どのような組織にするかは、企業の組織構造やSAPのデザインに左右される部分です。
プロの意見を踏まえて、設定することが求められます。
3-2.マスタデータの設定
販売管理にあたっては、SAPに登録されている多くのマスタ情報を参照します。
SDモジュールに限らず、いくつものモジュールで利用されるマスタもあるため、追加で必要なものがある場合には設定が必要です。
・品目マスタ:製品名や販売名などのパラメータ
・販売価格マスタ:本体価格や割引、税率、特定条件下での価格など
・得意先マスタ:取引先の名称や住所、担当者など
これらの情報を設定しておくことで、繰り返しSAPによる販売管理が可能です。
得意先マスタは、一回限りの取引に利用する「ワンタイム取引」というものが用意されていますが、一度でも取引するならばマスタ登録したほうが良いでしょう。
別の機会に取引する可能性がゼロとは言い切れません。
3-3.SDモジュールの詳細設定
標準で販売管理が利用できるようになっていますが、中小企業ごとに細かな部分は異なっているはずです。
それらをモジュールに反映させることで、業務に最適化され、利用を開始できます。
・伝票タイプ:取引における伝票の種類を設定
・明細カテゴリ:取引の明細に利用するカテゴリを設定(入力の自動化などに活用)
・出荷タイプ:出荷プロセスが複数ある場合は適した伝票が出力されるように設定
・出荷明細カテゴリ:出荷数量の上限や在庫確認、保管場所の情報などを指定
・ピッキング:出荷にあたってプラントや保管条件などを設定
・請求伝票:自動的に伝票を起票させる場合に設定
・価格決定:条件によって販売価格を算出するための設定
・勘定コード:会計であるFIモジュールへと連携する際の勘定科目など
設定する内容は多いですが、企業によって業務内容が異なるためやむを得ません。
製品数が少ない場合は設定する項目が少なくなり、多い場合は細く設定することになるでしょう。
販売管理を強化するための準備であるため、時間を要しても丁寧に対応することが重要です。
3-4.運用開始
上記までの準備が完了したならば、実際に販売管理が始まります。
一般的には以下のような流れで運用されるはずです。
・受注伝票の登録:取引先からの依頼に応じてマスタの選択や出荷数量などを設定
・与信管理:SAPの与信管理機能を活用し、受注を受けられるかを判断
・出荷準備:在庫を確保できるか確認し、確保できたならば出荷へむけて準備
・出荷伝票の登録:マスタなどの情報から所定の住所へ出荷するために設定
・請求伝票の登録:売掛債権が成立した際に伝票を作成するが、多くの情報は事前に入力されたものを流用
・請求処理:請求の管理はFIモジュールで実施するため、情報が連携され販売管理は終了
まとめ
SAPを利用した販売管理について解説しました。
中小企業では、Excelなどを利用して販売管理しているケースがありますが、SAPを活用することで業務を効率化できます。
また、複数のシステムで販売管理を実現している場合も、SAPに集約することで利便性が高まるでしょう。
特に中小企業では、販売管理のプロセスに大きな違いはないはずです。
受注して出荷し、検品されれば請求されるという流れでしょう。
SAPは基本的な流れを標準に組み込んでいるため、特別なことがなければすぐにでも利用を開始できます。
SAPのイメージとして、大企業が利用するものと思われがちです。
しかし、現在は中小企業向けのSAPも提供されているため、SAPコンサルタントの支援を受け、導入したり活用したりしてみましょう。