SAPの業界別ソリューション①「自動車業界」
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【コラム監修者 プロフィール】
クラウドコンサルティング代表取締役 岸仲篤史
新卒でSAPジャパン株式会社に入社。
SAPジャパン在籍中にCOコンサルとして従事したことで、会計コンサルの面白さに目覚め、
大和証券SMBC株式会社 投資銀行部門、新日本有限責任監査法人、アビームコンサルティングにて、
一貫して約10年間、会計金融畑のプロフェッショナルファームにてキャリアを積む。
その後、2017年クラウドコンサルティング株式会社を設立し、SAPフリーランス向けSAP free lanceJobsを運営し、コラムの監修を手掛ける。
https://www.facebook.com/atsushi.kishinaka#
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はじめに
SAPはかつて、製造・小売業界を中心に導入が進みました。
しかし現在は、さまざまな業界で活用されています。
SAPでは業界別に最適なソリューションを提供していて、業界特有のタスクや慣習にも対応できているからです。
今回はその中でも「自動車業界」に特化したソリューションを紹介します。
1.クラウドERPを中心として多数の機能を配置
SAPの自動車業界向けソリューションでは、SAP S/4HANA Cloudを中心として、
・SAP Digital Vehicle Suite
・SAP E-Mobility
・SAP Sustainability Control Tower
・SAP Digital Manufacturing
といった自動車業界に特化したソリューションを提供しています。
1-1.SAP Digital Vehicle Suite
SAP Digital Vehicle Suiteは、自動車のライフサイクル全体にわたるデータ管理を行うプラットフォームです。
車両の運行データや保守情報、利用者データなどを一元管理し、リアルタイムでの状況確認やサービス提供が可能です。
顧客ごとに車両の使用状況を把握し、リコールやメンテナンス情報の提供、サブスクリプションサービスを支援します。
ユーザーエクスペリエンスの向上や新たな収益モデルの展開が可能になります。
1-2.SAP E-Mobility
SAP E-Mobilityは、電気自動車(EV)の充電管理を支援するソリューションです。
充電ステーションの運用から料金設定、エネルギー管理まで、EVインフラを一元的に管理する機能を提供します。
充電の需要予測やエネルギーの効率化、さらには利用者向けの柔軟な料金プランの設定も可能です。
充電インフラの最適化やエネルギーコストの削減を実現し、持続可能なモビリティ事業の展開をサポートします。
充電ポイントデバイス管理
・充電インフラストラクチャと充電セッションのステータスを監視する
・オープンチャージポイントプロトコルを通じてベンダーに依存しない充電インフラストラクチャと双方向通信する
・電気自動車供給設備(EVSE)、EV認証、電力網、バッジ、APIのオンボーディングと構成を簡素化
課金セッション管理
・複数の電力網ストリングにわたるスマート充電を可能にし、グリッドの再訓練に対応し、エネルギー価格を最適化
・充電プロセス、エネルギーコスト、電力網の利用状況を完全に透明化
・リアルタイムのインテリジェント負荷管理により、エネルギーコストを削減し、電力網に準拠した充電を実施
価格設定、請求、請求書発行
・複数の料金プランと料金表、契約型および従量課金型の顧客向けのリアルタイム請求により、あらゆる課金シナリオをサポート
・国別のローミングプロバイダーと統合してEVSEの公共充電を可能にする
・自宅での社用車の充電にかかる従業員の電気代金の払い戻しを簡素化
1-3.SAP Sustainability Control Tower
SAP Sustainability Control Towerは、環境負荷やサステナビリティに関わるデータを一元管理し、企業の持続可能性をサポートするプラットフォームです。
カーボンフットプリントの追跡や排出量削減計画の実施、サプライチェーンのエコ評価など、企業がサステナビリティ目標を達成するためのデータインサイトを提供します。
これにより、環境への影響を可視化し、環境基準や規制への準拠を支援します。
1-4.SAP Digital Manufacturing
SAP Digital Manufacturingは、工場の生産効率と品質管理を支援するクラウドベースの製造実行システム(MES)で、主に生産ラインでのリアルタイムなプロセス制御とデータ管理を目的としています。
バッテリーセルの製造プロセス効率化などを想定しており、以下のようなメリットがあります。
生産プロセスの最適化
SAP Digital Manufacturingは、工場の上層部から現場までのリアルタイムな可視性を提供し、設備やリソースを効果的に管理します。
全体の稼働状況を把握し、稼働率の向上や生産ラインでのボトルネックの解消に役立ちます。
また、機械学習を活用して品質管理を行い、不良品の発生原因を迅速に分析する機能もあります。
データ統合とインサイトの提供
SAP Digital Manufacturingは、複数の製造システムや生産ラインで得られたデータから、生産性や品質に関するKPI(主要業績評価指標)を可視化し、迅速な意思決定を支援します。
また、SAP S/4HANAとの統合により、企業全体のサプライチェーンと生産計画をシームレスに連携できます。
リスク耐性と持続可能性の向上
持続可能な製造とリスク耐性を実現するため、SAP Digital Manufacturingは予測分析を用いた異常検知や、メンテナンスの効率化を行います。計画外のダウンタイムを最小限に抑え、環境負荷を減らすことが可能です。
また、生産過程でのエネルギー管理と排出量追跡に対応しており、サステナビリティ目標の達成をサポートします。
個別化生産(マスカスタマイゼーション)への対応
現代の製造業では、個別化された製品に対する需要が高まっています。
SAP Digital Manufacturingはこうした「市場の個別ニーズ」への対応を強化します。
製品の仕様変更やオーダーメイド製品の管理が容易になり、柔軟性と効率を高める仕組みが提供されます。
2.自動車業界向けソリューションで提供する価値
SAP S/4HANA Cloudに前述の4つの機能を加えることで、以下のような価値を提供します。
2-1.デジタルな車両管理とクラウド化
SAP Digital Vehicle Suiteは、車両のライフサイクル全体をデジタルで管理するための包括的なプラットフォームです。
車両関連のデータを一元管理する「SAP Digital Vehicle Hub」や、フリート(車両群)管理のプロセスを統合する「SAP Digital Vehicle Operations」などが含まれています。
自動車メーカーやフリート管理業者が車両データをリアルタイムで共有し、サプライチェーンや顧客サービスでの協力を促進できます。
また、これらのデータはクラウド上で管理され、サービスとして利用することが可能です。
2-2.サプライチェーン管理(SAP S/4HANA Supply Chain)
SAPのサプライチェーン管理ソリューションは、自動車業界においてリアルタイムのデータ統合を提供し、部品供給から製造までの一連のプロセスを効率化します。
在庫管理や物流計画の最適化が可能になり、供給の遅れや予期せぬボトルネックにも迅速に対応できます。
SAPのサプライチェーン管理システムは、部品調達や納期管理の精度向上にも寄与し、最終的に生産効率やコスト削減に貢献します。
2-3.アフターマーケットサービス管理
SAPは、アフターマーケット、つまり「販売後に生じる消耗品や交換品」についてのサービス管理機能も提供しています。
具体的には、「顧客からの問い合わせ対応」「サービスチケット管理」「部品在庫管理」「保証申請処理」などが含まれます。
こうした管理既往を通じて、アフターサービスの品質と顧客満足度の向上をサポートします。
さらに、顧客とのインタラクションを一元管理するCRM機能により、パーソナライズされたサービス提供やマーケティング活動も強化できます。
2-4.新しいビジネスモデル対応(モビリティサービスなど)
SAPは、自動車メーカーがモビリティサービスやサブスクリプションサービスなどの新しいビジネスモデルをサポートできるように設計されています。
たとえば、「SAP E-Mobility」ソリューションは、電気自動車(EV)向けの充電管理やデータ連携を効率化し、EVインフラの管理とコスト最適化を支援します。
これにより、車両販売からサービス提供へとシフトする動きに対応し、持続可能で収益性の高いビジネスの構築が可能になります。
近年は日本でもカーシェアが普及し始めていて、車両は「売る」から「使用する」へシフトしています。
所有ではなく使用を前提としたビジネスモデルに対応できるビジネス基盤を提供するようですね。
2-5.環境とサステナビリティ管理
SAPは、自動車業界のサステナビリティに向けたソリューションも提供しています。
たとえば、「SAP Sustainability Footprint Management」により、企業がサプライチェーン全体の炭素排出量を追跡し、削減策を計画できるようになります。
これにより、自動車業界全体が脱炭素化を進め、持続可能な生産体制を構築することが可能になります。
まとめ
SAPの自動車業界向けソリューションは、クラウドとAI、さらに業界特化のソリューションを組み合わせることで、ビジネスモデル変革を強力にサポートするものになっています。
自動車業界は現在、過渡期にあり、今後は情報システムの形も変わっていくかもしれません。
グローバルで先行導入されている機能が多いのですが、日本でも導入される可能性は十分にあります。ぜひチェックしてみてください。