【第1回】SAPとは何か?IT初心者にもわかる基本と種類を解説
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【コラム監修者 プロフィール】
薮内貴之
SAPベーシスを中心に、SAP導入やインフラ・インタフェース設計を担当。
大手企業のベーシスから出荷まで幅広く支えつつ、周辺システムの設計や運用サポートを経験。
現在は単純なSAPのみならずAWSなどクラウドのインフラを含めてサポート。
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現在は多くの企業がSAPを導入し、ERPソフトウェアのデファクトスタンダードとなっています。
皆さんの中にも、SAPという名称を耳にしたことがある人は多いでしょう。自分で調べたことがある人も含まれているはずです。
しかし、具体的にSAPがどのような製品か理解できている人は少ないでしょう。
特に、IT業務部門の担当者などITに詳しくないと、SAPの詳細についても詳しくないはずです。
今回はSAPとはどういった製品であるか、基本知識や種類を解説します。
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はじめに:SAPって何?聞いたことはあるけれど…
SAPという言葉を耳にしたことがあっても、どのようなものか説明できる人は少ないでしょう。
日常生活には馴染みの薄いシステムであり、単なるIT企業の名前だと思われがちです。
しかし、SAPは、世界中の企業活動を支える非常に重要なソフトウェアといえます。
そもそも、SAPは企業の基幹業務を統合して管理するためのシステムです。
例えば会計や販売、購買、生産管理などをSAPに集約できます。
SAP SE社がグローバル企業ということもあり、製品もグローバル企業を中心に導入されている状況です。
私達が日常的に利用するサービスや商品の背景で、SAPが動いていることもあるでしょう。
なかなか耳にしないキーワードではありますが、実は意外と身近なところにあるシステムなのです。
1.SAPの概要
※SAP公式サイト:https://www.sap.com/japan/index.html
続いては、SAPがどういったものであるか、概要を初心者向けに解説します。
1-1.SAP SE社とは
SAPはドイツに本社を置く「SAP SE」というソフトウェア会社が開発しています。
1972年に元IBMの技術者たちによって設立され、現在は世界的な大企業となりました。
企業向けソフトウェアの分野で、世界的なリーダーとして成長を続けています。
現在では、全世界で100以上の拠点を持ち、45万社以上の企業がSAP製品を導入しています。
これだけ使用される背景には、金融や製造、小売、公共機関など、あらゆる業界に対応できるソリューションを展開しているという特徴があるのです。
活用範囲の広さがSAP SE社の魅力と表現しても良いでしょう。
1-2.SAPとは
一般的にSAPとはSAP SE社が提供する基幹システムの総称を指します。
ERPシステムを中心に、数多くのソリューションを提供しているため、それらをまとめてSAPと呼ぶのです。
言い換えると、ソリューションの種類が多いことから「SAP」とだけ表現する場合は、どれを指しているか特定できません。
販売管理や購買管理、会計、人事管理などが含まれるため、状況に応じて、どのソリューションを指すかの判断が必要です。
2.ERPとは何か?
SAPのソリューションを理解するためには、ERPの理解が必要です。
ERPについても理解できていない人が多いと思われるため、こちらも簡単に解説します。
2-1.ERP(Enterprise Resource Planning)の定義
ERPは「Enterprise Resource Planning」の頭文字をとったもので、日本語では「企業資源計画」と訳されます。
企業にとってのリソースである人材、資金、在庫、情報などを一元的に管理するツールです。
また、管理するだけではなく、業務の効率化や最適化を実現するためのシステムや概念を含みます。
例えば、企業内に販売システムや会計システム、在庫システムがそれぞれ個別に存在しているとしましょう。
この状態では「業務効率が悪い」「情報の整合性が取れない」などの問題が生じます。
結果、企業活動に多かれ少なかれ悪影響を与えてしまうでしょう。
しかし、ERPを導入していれば、これらを一元的に同一プラットフォームで管理できるようになります。
今まで点在していたものを一括管理できることで、業務効率を高められるのです。
なおかつ、整合性を維持しやすくなるなどの効果も発揮します。
これにより、導入しないときの問題を解決でき、企業活動を理想的な形に近づけやすくなります。
2-2.ERPの目的は業務の統合や効率化
繰り返しになりますが、ERPを導入する最大の目的は、業務の統合と業務の効率化です。
企業内で部署ごとに異なるシステムを導入することを避け、全社的に大規模なシステムを共通して運用することを目指します。
このような環境を整えることが、業務の効率化に繋がると考えられているのです。
例えば、ERPを導入することにより、部署間で情報の二重入力や手作業での連携作業などが不要となります。
今までそれぞれの部署や手動で対応していた作業がなくなるため、大きく業務の効率化が可能です。
また、機械的にデータを連携できるため、連携ミスなどの人的ミスを防ぐ効果も期待できます。
また、ERPを導入することで、企業全体の業務プロセスを統一化できる点にも注目しましょう。
「同じ業務はどの部署でも同じプロセス」であるという環境が整うのです。
これにより、トラブルやミスを防いだり、手戻りを抑制したりできます。
2-3.なぜERPが必要とされるのか
SAPなどのERPが必要とされる背景には「データのサイロ化」と呼ばれる問題があります。
多くの企業では、部署間の情報共有がうまくいかない「サイロ化」と呼ばれる事象が発生しがちです。
各部門が情報を抱え込んで情報共有がなされず、全社的な意思決定が難しい状態を指します。
社内にデータが蓄積されているにも関わらず、共有不足から、有効的に活用できないケースが多いのです。
対して、ERPを導入すると、各部門が保有するデータをリアルタイムで共有できるようになります。
ひとつのシステムに、すべての情報が集約されるからです。
その結果、経営層などが全体を俯瞰しながら、迅速に判断を下せるように変化します。
他にも、ERPには「業務プロセスを標準化する」という役割があります。
全社的に同じプロセスを導入することで、作業を効率化したり、新しいプロセスを覚えたりしなくて済むのです。
これは、従業員の引き継ぎや教育の負担が軽減されるというメリットを生み出します。
3.SAPとERPの違い・関係性
SAPとERPは関係の深いキーワードです。
ただ、違いを理解できていなかったり、誤って解釈されることもあるため、改めて解説します。
3-1.ERPは考え方でSAPはその実装例
根本的な違いとして、ERPは考え方・概念であり、SAPはその実装例であるということが挙げられます。
まず、解説したとおりERPは業務の統合管理という「考え方」や「コンセプト」です。
間違えられがちですが「ERP」というソフトウェアや製品が存在しているわけではありません。
一方で、SAPはERPの考え方を具体的に落とし込んだ製品です。
ERPという考え方を企業に導入するための「ツール」と考えて良いでしょう。
ERPという設計思想に基づいて構築されたシステムの代表例がSAPだと考えるべきです。
言うまでもなく、SAP以外にも、ERPを実現するためのソフトウェアや製品が存在します。
あくまでも、SAPはそれらの選択肢のひとつなのです。
3-2.「SAP=ERP」の誤解が生まれる背景
「SAP=ERP」と誤解されることが増えています。
この背景には、SAPがERP市場で圧倒的な存在感を誇っていることが挙げられるでしょう。
実際、日本国内でも多くの企業が「ERPといえばSAP」と認識している現状があります。
しかし、上記で述べたとおり、ERPはあくまで汎用的な概念です。
SAPはそれを体現した製品のひとつに過ぎません。
この点を正しく理解することで、他のERP製品との比較や選定がより合理的に進められるでしょう。
4.SAP製品の種類と主な特徴
SAP製品には種類があるため、どういったものがあるか解説します。
4-1.SAP ERP(旧来のR/3)
SAP ERP(旧R/3)は、SAPが1990年代に開発した基幹業務システムです。
企業の会計、販売、生産、在庫、購買、人事などの業務を統合管理できる統合プラットフォームとして登場しました。
R/3は、三層アーキテクチャに基づき、業務ごとに「モジュール」と呼ばれる機能群で構成されています。
この仕組みにより、部門間のデータ連携がリアルタイムで可能となりました。
その結果、業務の一元化を進められるようになり、これが世界中でSAPが導入されるキッカケともなっています。
長年にわたって多くの企業で活用されており、SAP ERP Central Component(ECC)へと進化しました。
ただ、2027年以降はサポート終了が予定されており、次世代のS/4HANAへの移行が進んでいます。
4-2.SAP S/4HANA(最新のクラウド対応型ERP)
SAP S/4HANAは、SAP ERPの後継として登場した最新のERP製品です。
独自開発の高速なインメモリデータベース「SAP HANA」を基盤に設計されています。
従来のSAPで課題となっていた性能面を改善し、高速な検索・分析が可能となりました。
以前よりもリアルタイム経営、データドリブン経営に貢献してくれることがポイントです。
また、クラウドとオンプレミスの両方に対応し、最新のUI「SAP Fiori」により操作性も大幅に向上しています。
業務の可視化や予測分析、AIとの連携など、次世代の経営支援機能が充実していることも注目しましょう。
DXを推進する企業が採用を進め、SAP SE社が今後展開する中核となる製品です。
参考:SAP S/4HANA Cloud Public Edition
4-3.SAP Business One など中小企業向け製品も存在
SAPは「大企業向け」のイメージが強い製品ではあります。
しかし、実はここ数年で、中小企業向けの製品も複数ラインナップされました。
例えば、新しい製品の代表格として「SAP Business One」が登場しました。
会計、販売、在庫、購買、顧客管理など、ビジネスの基本機能を1つのシステムに統合したERPとして提供されています。
小規模ながらもSAPのノウハウが凝縮され、短期間かつ低コストで導入できることで人気を集めました。
クラウドにも対応し、ITインフラの整備が不十分な企業でも導入しやすくなっています。
他にも、「SAP Business ByDesign」と呼ばれる成長志向の企業向けに設計されたサービスも提供が開始されました。
こちらは、SAP Business Oneよりも部門間の連携や分析機能も強化されています。
どちらにしろ、中小企業でもSAP品質のERPを活用できる時代が到来しました。
まとめ
今回はSAPがどのような製品であるか、初心者でも分かりやすいように解説しました。
少々、馴染みの薄いキーワードがあったとは思われますが、製品のイメージを持ってもらえたでしょう。
SAPの根底にあるERPの概念も併せて理解できていると理想的です。
なお、SAPフリーランスジョブズでは、SAP案件の専門会社として、プライムベンダからの案件を多数有しています。
「自分の実力を最大限発揮したい」と考えるならばぜひご相談ください。
また、今後のキャリアを相談したいフリーランスの方やエンジニアを見つけたいというクライアントの方からのご相談もお待ちしております。