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第2回:SAP S/4HANA移行の3つの方法(Greenfield/Brownfield/Hybrid)を徹底比較

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【コラム監修者 プロフィール】

薮内貴之

 

SAPベーシスを中心に、SAP導入やインフラ・インタフェース設計を担当。

大手企業のベーシスから出荷まで幅広く支えつつ、周辺システムの設計や運用サポートを経験。

現在は単純なSAPのみならずAWSなどクラウドのインフラを含めてサポート。

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はじめに

SAP S/4HANAへの移行を検討する際、「どの移行方式を選ぶべきか」と悩みがちです。

現行システムをそのまま利用するか、ゼロから再構築するか、両者を組み合わせるかが主な選択肢といえます。

SAPの場合、大きくGreenfield(新規導入)、Brownfield(システム変換)、Hybrid(選択的移行)の3つから選択が可能です。

 

それぞれにメリットとデメリットがあり、企業のデータやデータ品質などによって最適解は異なります。

今回は3つの方式の特徴・違い・選定のポイントをわかりやすく比較するため、方向性を検討する参考としてください。

 

 

 

1.SAP S/4HANAへの移行で選べる3つの方式

SAP S/4HANAへシステム移行する方法は、目的と現状に応じて3つの選択肢があります。

 

 

1-1.Greenfield(新規導入)

Greenfield方式は、現行のSAP ERPシステムを引き継がず、ゼロから新しいS/4HANA環境を構築する方法です。

業務プロセスを見直し、SAP標準機能を中心に再設計することで、老朽化したシステムや複雑なカスタマイズから脱却できます。

 

・新規に設計するため、現行の制約を受けない

・データを必要最小限に選別して移行できる

・業務プロセス改革(BPR)を同時に実施できる

 

メリット

・SAPベストプラクティスを最大限活用できる

・クラウドERP(RISE with SAP)との親和性が高い

・将来的な拡張・保守が容易になる

 

デメリット

・初期費用・導入期間が長くなる

・現場ユーザーの教育負担が大きい

・過去データをすべて引き継げない場合がある

 

適している企業

・DX推進を機に業務を抜本的に見直したい企業

・現行システムの老朽化・複雑化が深刻な企業

・グローバル統一や標準化を進めたい企業

 

 

1-2.Brownfield(既存システム変換)

Brownfield方式は、既存のSAP ERP(ECCなど)をベースにS/4HANAへ変換する方法です。

現行の設定・カスタマイズ・データ構造を維持しながら、データベースやアプリケーション層を最新化します。

 

特徴

・現行業務を変えずにS/4HANAへアップグレードできる

・データ移行範囲が広く、過去実績を維持可能

・短期間・低コストでの移行が可能

 

メリット

・現行業務への影響が少なく、教育コストが低い

・段階的な移行ができ、業務停止リスクを抑えられる

・プロジェクト期間を短縮できる

 

デメリット

・現行システムの課題や非効率なプロセスを引き継ぐリスク

・カスタマイズの多い環境では移行が難航する場合がある

・クラウド化や新技術導入の柔軟性が限定される

 

適している企業

・現行システムが安定稼働しており、業務を大きく変えたくない企業

・移行コストを最小限にしたい企業

・早期にS/4HANAサポート体制へ切り替えたい企業

 

 

1-3.Hybrid(選択的変換)

Hybrid方式(Selective Data Transition)は、GreenfieldとBrownfieldの中間に位置する方法です。

刷新が必要な領域だけを新構築し、残りは現行システムを活かす「選択的移行」を推進します。

 

特徴

・必要なモジュールやデータのみを段階的に移行

・移行リスクを分散できる柔軟な戦略

・専用ツール(SAP DMLT等)を活用して実施

 

メリット

・既存の資産を活かしつつ重要領域を刷新できる

・プロジェクト負荷を分散し、予算を段階的に配分可能

・将来的な完全移行(Greenfield化)を視野に入れられる

 

デメリット

・要件定義やデータ設計が複雑で難易度が高い

・一時的に整合性・運用負荷が増す可能性がある

・ベンダーのノウハウや移行ツールへの依存度が高い

 

適している企業

・拠点や事業部ごとにシステムを分割管理している企業

・現行SAP環境を維持しつつDX化を進めたい企業

・リスクを抑えて段階的にS/4HANAへ移行したい企業

 

 

 

2.方式別の特徴とメリット・デメリット比較表

比較項目 Greenfield(新規導入) Brownfield(既存変換) Hybrid(選択的変換)
主な目的 業務改革・再設計 現行維持・延命 段階的な最適化
導入期間 長期(12〜18か月) 短期(6〜12か月) 中期(段階的)
コスト 中〜高
業務影響 大(全面見直し) 小(現行維持) 中(範囲限定)
データ移行 選別して新規導入 既存データ引継ぎ 選択的移行
カスタマイズ 原則廃止 維持 選択的活用
クラウド適性 低〜中 中〜高
適した企業 DX推進企業 安定稼働重視企業 段階的移行志向企業

 

Greenfieldは「変革志向」、Brownfieldは「安定志向」、Hybridは「柔軟志向」と分類できます。

どれが正解というわけではなく、企業の経営目標とシステムの現状に応じた最適化が必要です。

 

 

 

3.SAPの移行方式を選定する際のポイント

SAPの移行方式を選定する際は、以下のポイントから多角的に評価しなければなりません。

 

 

3-1.現行システムの状況

最初に現行システムの状況を確認しましょう。

置かれている状況によって最適なSAP S/4HANAへの移行方法が大きく変化します。

 

最低限、以下の観点から評価してみましょう。

 

・既存SAP ERPの稼働年数や技術的老朽化を確認する

・モジュール間の依存関係やアドオン数を把握する

・維持コスト(運用負荷・障害対応工数)を算出する

 

現行環境が老朽化し、修正やカスタマイズが多いならば、Greenfieldによる再構築をおすすめします。

逆に、現在のSAPが安定稼働しているならば、BrownfieldでSAP S/4HANAへ移行することを考えた方が良いでしょう。

 

 

3-2.データ品質

基本的にSAPへ保存されているデータを移行しなければなりません。

ただデータ品質によって移行の負荷が大きく変化するため、以下のポイントを評価します。

 

・マスタデータの整合性、重複、欠損を確認

・不要データをアーカイブし、移行対象を明確化

・データクレンジングを事前に実施できるか

 

データ品質が悪いまま移行を実施すると、移行が終わってからエラーや業務停滞を招く恐れがあります。

特にHybrid方式では、部分移行による整合性維持が重要です。

データ品質が悪いならば品質向上に時間をかけなければなりません。

 

 

3-3.カスタマイズ量

現在のSAPにどれだけカスタマイズが入っているかどうかが重要です。

一般的にカスタマイズが多ければ多いほど、移行時に負担が大きくなってしまいます。

まずは以下のポイントで洗い出してみましょう。

 

・アドオン機能の数と利用頻度を棚卸し

・標準機能で代替できる領域を特定

・カスタマイズ維持の有無を経営判断として整理

 

過剰なカスタマイズがある場合は、Brownfieldでは非効率な仕組みを引き継ぐリスクがあります。

この場合、SAP S/4HANAへの移行タイミングで業務フローなどを最適化した方が良いのです。

「カスタマイズを全て移行する」という考え方は捨て、最小限のカスタマイズだけ移行する方針にしましょう。

 

 

3-4.コスト・期間・リスク

SAP S/4HANAへの移行を検討する際には、コスト、時間、許容できるリスクの程度を慎重に評価することが極めて重要です。

 

例えば、以下の観点から評価すると良いでしょう。

 

・導入コストとROIを試算

・プロジェクト期間と業務停止リスクを可視化

・社内リソースと外部パートナーの体制を確認

「短期間・低コスト」を重視すればBrownfield、「長期的な価値創出」を重視すればGreenfieldが向いています。

Hybridは、その中間として段階的な投資を考える企業に最適です。

 

 

 

4.業種別SAP S/4HANA移行の成功事例

業種別にSAP S/4HANAの移行に成功した事例を紹介します。

 

4-1.製造業:段階的Brownfield導入

国内大手製造業A社は、既存のSAP ERPを活かしながら段階的にS/4HANAへ移行しました。

販売・在庫・会計モジュールを優先して変換し、その後生産計画や購買領域を拡張したのです。

また、全社導入ではなくフェーズ分割する方針を採用しました。

これにより、業務停止を最小限に抑え、移行コストも20%削減に成功しています。

 

 

4-2.商社:Greenfieldで業務刷新

総合商社B社は、旧システムのカスタマイズが複雑化しており、既存資産の引き継ぎが非効率と判断されました。

そのため、Greenfield方式を採用し、S/4HANAの標準機能を活かした新業務プロセスを再設計しています。

これにより、販売から会計までの処理時間が約40%短縮され、グローバル統一会計基盤を実現できました。

SAP S/4HANAへの移行プロジェクトの中でも、導入時の負担は大きいものでした。

 

しかし、標準化による維持費削減効果で3年以内に投資回収を達成できています。

 

 

 

5.まとめ

SAP S/4HANA移行を成功させる鍵は、「自社に合った移行方式を選ぶこと」です。

 

・Greenfield:抜本的改革でDXを推進したい企業

・Brownfield:短期間で安定移行したい企業

・Hybrid:リスクを抑えながら段階的に移行したい企業

 

それぞれに長所と課題があるため、システムの現状と経営目標を照らし合わせて判断することが重要です。

とはいえ「どの移行方法が最適であるか」を考えることは大きな負担でしょう。

そのため、判断に困った際はSAPコンサルタントの活用をおすすめします。

 

SAPに深い知見を持つコンサルタントがサポートすることで、最適な選択肢で移行を実現できるのです。

弊社クラウドコンサルティングでは、さまざまなスキルを持つSAPコンサルタントをご紹介できます。

移行についてお悩みを抱えているならば、ぜひ一度、ご相談ください。

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