鍋野敬一郎のSAPソリューション最新動向#10
こんにちは!SAP Freelance Jobs運営事務局です。
弊社では、SAPジャパン株式会社出身で、ERP研究推進フォーラム講師でもある株式会社フロンティアワン 代表取締役 鍋野敬一郎氏をコラムニストとして迎え、「鍋野敬一郎のSAPソリューション最新動向」と題し、SAPのERP製品情報や最新技術情報をお届けしています。
第10回目である今回は、「S/4HANA時代のSAP Intelligent RPAについて(前編)」について取り上げます!
これからSAPに携わるお仕事をしたい方も、最前線で戦うフリーランスSAPコンサルタントの方も、ぜひ一度読み進めてみてください!
【鍋野 敬一郎 プロフィール】
株式会社フロンティアワン 代表取締役
ERP研究推進フォーラム講師
- 1989年 同志社大学工学部化学工学科(生化学研究室)卒業
- 1989年 米国大手総合化学会社デュポン社の日本法人へ入社。農業用製品事業部に所属し事業部のマーケティング・広報を担当。
- 1998年 ERPベンダー最大手SAP社の日本法人SAPジャパンに転職し、マーケティング担当、広報担当、プリセールスコンサルタントを経験。アライアンス本部にて戦略担当マネージャーとしてSAP Business All-in-One(ERP導入テンプレート)立ち上げを行った。
- 2003年 SAPジャパンを退社し、コンサルタントとしてERPの導入支援・提案活動に従事。
- 2005年 独立し株式会社フロンティアワン設立。現在はERP研究推進フォーラムでERP提案の研修講師、ITベンダーのERP/SOA/SaaS事業企画や提案活動の支援、ユーザー企業のシステム導入支援など、おもに業務アプリケーションに関わるビジネスを行っている。
- 2015年よりインダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI):サポート会員(ビジネス連携委員会委員、パブリシティ委員会委員エバンジェリスト)
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はじめに
ここ最近急速に普及している製品の1つに、RPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション)があります。既にこのコラムを読んで頂いて居る読者の皆様の会社でも、導入されているところが多いと思います。2015年に設立された一般社団法人日本RPA協会(https://rpa-japan.com/)の定義では、「これまで人間のみが対応可能と想定されていた作業、もしくはより高度な作業を人間に代わって実施できるルールエンジンやAI、機械学習等を含む認知技術を活用した業務を代行・代替する取り組みです。」と説明されています。RPA協会は、2025年までに全世界で1億人以上の知的労働者、もしくは1/3の仕事がRPAに置き換わることを想定しているそうです。さて、ご存知の方も多いと思いますがSAPもRPA製品を新しくリリースしました。「SAP Intelligent RPA」という商品名となります。これは、従来型のRPAとは少し違った次世代のRPAなのです。今回は、この「SAP Intelligent RPA」について2回に分けてご紹介したいと思います。
RPAの市場動向について
はじめに、RPAの市場動向について簡単にご紹介したいと思います。調査会社アイ・ティ・アール(ITR)の調査によると、国内RPA市場は2016年にはわずか8億円でしたが、2019年は160億円、2020年には260億円と急拡大しています。
これまでは、大企業における導入が中心でしたがここ最近は中堅中小企業や地方自治体などでの導入が有拡大しています。その理由として、「働き方改革」として繰り返し行うルーティン業務をRPAで自働化して、作業時間の短縮する使用によるものだと報告されています。
最近では、紙やPDFなどの文書をAI-OCR(AIの自動読み取り機能)でデジタル化して、入力作業を効率化してその値をERPや他システムにRPAで一括処理するような利用が普及しています。特にERPとRPAは親和性が高く即効性も高いため、最近のERP提案には必ず一緒にRPAの提案が付いくるという状況です。
国内市場におけるRPAの売れ筋ですが、出荷本数では、国産のWinActorが1位で、これに次いでBizRobo!、UiPathが続きます。MM総研が発表した国内RPA利用者動向調査の最新発表では、利用ユーザー数が最も多かったのがUiPath、次いでBizRobo!、その次はWinActor、BlurPrism、Automation Anywhereが並立という状況です。
ちなみに、SAPのERPと連携実績が多いRPAは、UiPathでSAPの業務ごとに各種テンプレートが提供されていて、SAPユーザー企業が利用しやすい環境が整っています。こうした状況において、このタイミングでSAPが新規投入したのが「SAP Intelligent RPA」です。日本語版も既に昨年秋から提供されていて、インストールマニュアルや各種資料なども揃っています。パートナー企業が提供しているRPAと「SAP Intelligent RPA」は、同じ“RPA”という名前称が付いていますが、その内容は少し違います。
オペレーショナルRPAとインテリジェントRPAの違いとは
SAPが新しくリリースした「SAP Intelligent RPA」は、従来のRPA製品と少し違っています。その違いは、オペレーショナル(作業の自働化)なのかインテリジェント(データ処理の自働化)なのか、という点です。従来RPAの操作をおさらいしてみると、「①人間が通常作業している複数システムの処理を手順に沿ってRPAに設定する → ②設定が正しく動くか確認する → ③RPAで自動処理する」という流れとなります。つまり、人間の操作手順をなぞることが出来ます。これによってマニュアル作業を減らすことが出来るので、時短が可能となります。
但し、システム側に不具合やときどき状況判断でデータの読み替えなどが生じるケースには対応出来ません。最悪なのは、RPAで設定していたシステムの1つに不具合があって、内容が違っていてもRPA側では中身は分からないため全部処理して後から気づく場合です。これが、ERPなど基幹システムの転記入力だとRPAで転記した処理を一度全て取り消し(赤伝処理)してから、再度やり直すこととなります。これは、人間による処理でもしばしば生じるトラブルですが、後始末に膨大な処理時間とコストが発生します。また、従来RPAの問題点として、自動処理しているRPAが暴走して意味のない作業を繰り返すというケースがあります。すぐに気付けば良いのですが、気づくまでに時間が掛かって、これも時間とコストがムダになります。
インテリジェントRPAは、こうしたオペレーションをなぞる自動処理ではなくデータの自動処理にフォーカスしています。オペレーショナルRPAと大きく異なるのは、各システムのデータをプラットフォームに読み込んでプラットフォーム上で自動処理するところです。
各システムにあるデータをAPIで呼び出し、データをプラットフォームに収集蓄積します。収集蓄積されたデータは、プラットフォームに組み込まれた機械学習(AI:マシンラーニング)が正規化します。
あきらかにエラーと分かるデータや、データに連続した抜け落ちなどがある場合は、パージや補正などを行います。各システムからのデータが整ったところで、一気通貫で一括自動処理されます。これによって、複数システムをまたがる処理やシステムと人間の作業が混在する場合のムダな待ち時間やエラーなどによるRPAの暴走を回避できます。
「SAP Intelligent RPA」は、人間との対話インターフェースをチャットボットで提供しています。
チャットボット型のメリットは、人間側のレベルに合わせた対話が可能なので、熟練度の低い担当者の場合には操作手順やその意図を組んだ説明資料を提示して対応を行い、熟練者からの質問には関連する高度な詳細情報を提示して問題解決の支援をするような使い方が可能です。また、SAPの強みである標準業務シナリオのベストプラクティスに沿ってチャットボットのテンプレート化が出来ています。ユーザー企業は、このテンプレートをそのまま利用することも出来ますし、これをベースにカスタマイズして自社独自のテンプレートを作ることも出来ます。
2020年1月現在で、ベストプラクティスベースに10万以上の「構築済みRPAボット」が利用出来るとのことです。SAP Intelligent RPAは、パートナーであるRPAベンダとの共存可能なプラットフォーム上で自動処理するインテリジェントRPAというソリューションです。
今回のまとめ
今回は、最近話題のRPAの市場動向をご紹介したうえでなぜこのタイミングでSAPがRPA製品をリリースしたのかを分かりやすくご説明しました。次回は、このSAP Intelligent RPAについて、ERPとRPAを取り巻く周辺ソリューションも含めた全体イメージから製品コンセプトやポイントについてご紹介いたします。