鍋野敬一郎のSAPソリューション最新動向#22
こんにちは!SAP Freelance Jobs運営事務局です。
弊社では、SAPジャパン株式会社出身で、ERP研究推進フォーラム講師でもある株式会社フロンティアワン 代表取締役 鍋野敬一郎氏をコラムニストとして迎え、「鍋野敬一郎のSAPソリューション最新動向」と題し、SAPのERP製品情報や最新技術情報をお届けしています。
第22回目である今回は、「SAP Carbon Footprint Analyticsとは~企業別、工場別、製品別のCO2排出量を収集・解析するツール~」について取り上げます!
これからSAPに携わるお仕事をしたい方も、最前線で戦うフリーランスSAPコンサルタントの方も、ぜひ一度読み進めてみてください!
【鍋野 敬一郎 プロフィール】
株式会社フロンティアワン 代表取締役
ERP研究推進フォーラム講師
- 1989年 同志社大学工学部化学工学科(生化学研究室)卒業
- 1989年 米国大手総合化学会社デュポン社の日本法人へ入社。農業用製品事業部に所属し事業部のマーケティング・広報を担当。
- 1998年 ERPベンダー最大手SAP社の日本法人SAPジャパンに転職し、マーケティング担当、広報担当、プリセールスコンサルタントを経験。アライアンス本部にて戦略担当マネージャーとしてSAP Business All-in-One(ERP導入テンプレート)立ち上げを行った。
- 2003年 SAPジャパンを退社し、コンサルタントとしてERPの導入支援・提案活動に従事。
- 2005年 独立し株式会社フロンティアワン設立。現在はERP研究推進フォーラムでERP提案の研修講師、ITベンダーのERP/SOA/SaaS事業企画や提案活動の支援、ユーザー企業のシステム導入支援など、おもに業務アプリケーションに関わるビジネスを行っている。
- 2015年よりインダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI):サポート会員(総合企画委員会委員、IVI公式エバンジェリスト)
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はじめに
気候変動に対するニュースが、身近なところでも増えています。新型コロナウイルスのため、今年もお花見は宴会なしでしたが東京では3月早々に開花して、4月にはもう散っていました。まだGWが終わった5月ですが、平年より20日以上早い梅雨の季節を迎えています。今更ですが、地球温暖化による気候変動は、身近なところで目に見えて悪化しています。SAPが取り組んでいる「RISE with SAP(ライズ・ウィズ・エスエーピー)」の中にも、「CLIMATE21」という言葉で、サステナビリティ対応について明記されています。今回ご紹介したいのは、このCLIMATE21のソリューションでCO2排出量管理システム「SAP Product Carbon Footprint Analytics(以下SAP PCFA)」についてです。
カーボンニュートラル対応、温室効果ガス排出量の削減による気候変動への具体策
最近ニュースでよく聞く言葉に「カーボンニュートラル」というのがありますが、これは地球温暖化の主な原因とされる温室効果ガス(二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、フロンガスなど)の排出を、2050年までに実質ゼロにするという取り組みです。資源エネルギー庁のホームページによると、その大半はCO2二酸化炭素です。その中でも、エネルギー由来のCO2は全体の85%を占めています。地球温暖化による気候変動は、ゲリラ豪雨などによる災害や気温上昇による天候への悪影響、農作物や海洋資源への悪影響などが顕著になっています。地球全体における人類の生活に影響する最重要課題として、全世界が取り組む課題であり日本においても菅首相が、2021年4月22日(アースデイ)にオンライン開催された気候変動サミット2021において、菅首相は『日本は2030年に、CO2排出量を(2013年CO2排出量の)マイナス46%削減を実現する』と表明しています。ちなみに、最も先行する欧州は『2030年に、CO2排出量を(1990年CO2排出量の)マイナス55%削減』、米国は『2030年に、CO2排出量を(2005年CO2排出量の)マイナス50~52%削減』などを掲げています。
CO2排出量削減に最も積極的なのは欧州で、2019年12月11日に、フォン・デア・ライエン欧州委員長が「欧州グリーンディール(EGD」」を打ち出して、6つの優先課題をあげて取り組んでいます。ここでいくつかポイントがあります。CO2排出量の8割以上は、エネルギー起源CO2を排出する電力(化石燃料からの電力)と非電力(産業活動で消費する燃料消費)です。電力会社は、CO2排出量の大きい石炭/石油の火力発電をLNG/水素などへ転換してCO2排出量を押さえます。しかし、2030年まで残り10年を切っているので対応には限界があります。産業界は、運輸業と製造業がCO2排出量を大幅に減らす必要があります。しかし、電力会社から購入する電気には火力発電が含まれますので、その分は排出枠取引やCO2排出量を減らす技術(これをネガティブエミッション技術と言います)で補う必要があります。国と国で貿易を行う場合、製品に由来するCO2排出量(原材料や生産活動、輸送など)を輸出先国へ申告して、CO2排出量に応じて国境調整金を支払うことになります(これを国境炭素税と呼ぶこともあります)製造業は他国と貿易するときに製品ごとにCO2排出量の報告と申請を行って、輸入の許可を得ることになると思われます。欧州では、その国境調整の計算式を策定中で2021年末までにその仕組みを公開すると言われています。つまり、その内容によって火力発電からの電力を使ったCO2排出量の大きい製品は、国境調整金の負担が大きくなる可能性があります。企業がまず取り組むべき対策は、企業/工場/設備/製品ごとにどれくらいのCO2排出量があるのかを調べて、「CO2排出量の見える化」をします。次に、CO2排出量の大きい製品/設備/工場ごとに省エネに取り組みます。同時並行して、使用している電力を火力発電から再生可能エネルギー(太陽光発電、風力発電など)や原子力発電などへ置き換える必要があります。
アップル社は、既に企業活動の全てでCO2排出量ゼロを達成しています。これは、「RE100」(使用する電力の100%を再生可能エネルギーにより発電された電力で賄っている企業)と呼ばれていて、アップル社は原材料や部品など仕入先110社にも「RE100」を調達条件として提示しています。日本企業では、村田製作所やツジデンの2社が既に対応していて、今後は日本電産やソニーセミコンダクタソリューションズ、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業や台湾積体電路製造(TSMC)などがアップルに対し同様の取り組みを約束しているそうです。こうした動きは今後さらに広がると思われ、再生可能エネルギーへの移行を強く求められることになるでしょう。「RE100」に対応できない企業は、アップル社などと取引ができなくなる恐れがあります。
CO2排出量を見える化するSAP Product Carbon Footprint Analyticsとは
SAPでは、サステナビリティに対する取り組みを強化しています。SAPが気候変動対策として立ち上げたプログラム「CLIMATE21」のうち、第一弾として製品毎工程毎のCO2排出量分析管理を行う「SAP Product Carbon Footprint Analytics(SAP PCFA)」という製品がリリースされています。
SAP PCFAは、企業の各部門や拠点別CO2排出情報を蓄積はしているものの日常的な管理が出来ておらず、削減に向けた改善活動にまでつながらないという課題を入力データの収集管理機能とそのデータの分析機能でCO2排出削減、ボトルネックの可視化(対策ポイント)に効果を発揮するソリューションです。SAP PCFAを導入することで、常に最新のCO2排出量を必要な視点で関係者が可視化及び改善に向けた判断を可能にし、企業全体のCO2排出抑制を実現することが出来ます。入力機能は、CO2排出量を製品別に収集管理します。1)購入原材料、2)入荷輸送、3)エネルギー/活動、4)直接排出、5)出荷輸送、6)間接排出の以上6つです。分析機能は、全体の数量、ボトルネックの分析把握、各項目ごとのCO2排出量のランクなどを可視化していて、全体表示画面や詳細分析画面、ランク別ダッシュボード画面など切り替えることで最新のCO2排出量の状況を即時かつ分かりやすく把握することが出来ます。既にドイツでは、導入企業の事例(ドイツ大手食品会社Döhler社)が昨年開催されたSAPPHIRE NOW2020で公開されています。
(参考URL:https://blogs.sap.com/2020/06/16/how-can-software-support-to-slow-down-the-climate-change/)
今回のまとめ
今回は最近話題のカーボンニュートラルとSAPの気候変動対策プログラム「CLIMATE21」とその第一弾製品「SAP Product Carbon Footprint Analytics(SAP PCFA)」について、できるだけ簡単にご紹介しました。このように、SAPはサステナビリティに対する感度が高く、これまで企業経営の軸だった売上(Top Line)とコスト(Bottom Line)に加えて、第3の事業評価指標として“グリーン係数”(Green Line)を追加することを提案しています。経営システムとして成長してきたSAPのソリューションですが、この領域でも既に具体的なソリューション提供を行って、事例を公開していることはとても参考になるとともに既存のお客様に対して、積極的に紹介して導入を促したいソリューションです。