鍋野敬一郎のSAPソリューション最新動向#25
こんにちは!SAP Freelance Jobs運営事務局です。
弊社では、SAPジャパン株式会社出身で、ERP研究推進フォーラム講師でもある株式会社フロンティアワン 代表取締役 鍋野敬一郎氏をコラムニストとして迎え、「鍋野敬一郎のSAPソリューション最新動向」と題し、SAPのERP製品情報や最新技術情報をお届けしています。
第25回目である今回は、「SAPが提供するサステナビリティ製品を拡充してアップデート!~カーボンニュートラルだけじゃないサステナビリティ経営を支援するSAP製品群~」について取り上げます!
これからSAPに携わるお仕事をしたい方も、最前線で戦うフリーランスSAPコンサルタントの方も、ぜひ一度読み進めてみてください!
【鍋野 敬一郎 プロフィール】
株式会社フロンティアワン 代表取締役
ERP研究推進フォーラム講師
- 1989年 同志社大学工学部化学工学科(生化学研究室)卒業
- 1989年 米国大手総合化学会社デュポン社の日本法人へ入社。農業用製品事業部に所属し事業部のマーケティング・広報を担当。
- 1998年 ERPベンダー最大手SAP社の日本法人SAPジャパンに転職し、マーケティング担当、広報担当、プリセールスコンサルタントを経験。アライアンス本部にて戦略担当マネージャーとしてSAP Business All-in-One(ERP導入テンプレート)立ち上げを行った。
- 2003年 SAPジャパンを退社し、コンサルタントとしてERPの導入支援・提案活動に従事。
- 2005年 独立し株式会社フロンティアワン設立。現在はERP研究推進フォーラムでERP提案の研修講師、ITベンダーのERP/SOA/SaaS事業企画や提案活動の支援、ユーザー企業のシステム導入支援など、おもに業務アプリケーションに関わるビジネスを行っている。
- 2015年よりインダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI):サポート会員(総合企画委員会委員、IVI公式エバンジェリスト)
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はじめに
脱炭素に向けた取り組みが加速しています。国連の関連組織IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル:Intergovernmental Panel on Climate Changeの略)より、人間が地球の気候を温暖化させてきたことに「疑う余地がない」とする報告が2021年8月に公表されました。11月にイギリスのグラスゴーで開催されたCOP26では、「石炭火力発電の段階的な削減」が合意文書として採択されました。ちなみに2019年現在、日本の火力発電が占める割合は56%です。経済産業省の計画では、2030年時点で石炭火力が占める割合19%(火力全体では41%)と石炭火力の廃止を求めていた英国や欧州連合からは日本の対応に失望の声が上がりました。太陽光発電や風力発電など、再生可能エネルギーの比率を約2割から2倍の約4割へ高めて行く計画なのですが、経済産業省が掲げているこのエネルギー基本計画の実現性を疑う声が多くあります。COP26では、温暖化対策に消極的な姿勢な国であるとして環境NGOのグループより日本が「化石賞」に選ばれました。欧米では、脱炭素に向けた取り組みがさらに加速していて、サステナビリティ経営は企業にとって最重要課題になっています。こうした流れを受けてERPの購買管理機能や環境衛生安全管理機能、SAPアリバ、SAPコンカーなど基幹系システムのデータベース上に蓄積されたデータを活用したSAPはサステナビリティ製品を拡充、企業のサステナビリティ経営支援を強化しています。
SAPで実現するサステナビリティ経営
SAP社は、10年以上にわたってサステナビリティ経営に取り組んでいます。その取り組みは、CO2削減目標の設定とポリシーの公表(2010)、統合報告書の作成・公開(2012)、SDGコミットメント(2015)、サーキュラーエコノミー(循環型経済)への取り組みの表明(2018)、VBA(バリュー・バランシング・アライアンス:企業が行う活動の環境、社会への影響を金額換算するための標準的な方法の確立を目指した企業組織の取り組み)など積極的に活動しています。さらに、カーボンニュートラル対応目標を2025年から2023年に前倒しする発表を行うなど外部機関からも高い評価を得ています。
こうしたSAP社の取り組みは、統合報告書で詳細に公表されています。SAP社の自社の取り組みや顧客企業の取り組みをベースに開発されたのが、サステナビリティ経営に対応した製品群です。以前このコラムでも既に紹介したのが、「SAP PCFM:Product Carbon Footprint Management」(SAP Product Carbon Footprint Analyticsより製品名変更されています)です。この製品は、カーボンニュートラル対応を目的とした製品/サービスごとのCO2排出量を見える化することが出来ます。
SAP社は、従来のERP製品のコンポーネントの1つであった「SAP EHS“Environment Healthcare & Safety」や、業種別ソリューションの廃棄物管理システム「SAP S/4HANA for Waste & Recycling」や、ビークル管理システムの「SAP Digital Vehicle Hub(SAP AIN)」などサステナビリティ製品の開発再編を行っています。以下にSAPのサステナビリティ製品について、簡単に紹介します。
1,HOLISTIC STEERING AND REPORTING
サステナビリティ経営のためのコミュニケーション&レポーティング
「SAP Sustainability Control Tower」(サステナビリティ経営全体をコントロール)
「SAP Ariba – EcoVadis Supplier Sustainability Rating」(EcoVadis対応評価ツール)
「SAP EHS:Environment Healthcare & Safety」
など
2,ZERO EMISSIONS
CO2排出量ゼロ(気候変動対応)
「SAP Product Carbon Footprint Management」(脱炭素、製品別CO2排出量見える化)
「SAP E-Mobility」(モビリティ管理)
「SAP Transportation Management」
など
3,ZERO WASTE
廃棄物ゼロ(サーキュラー・エコノミー対応)
「SAP Responsible Design & Production」(製品の製造/廃棄物責任管理)
「SAP S/4HANA for Product Compliance」(製品コンプライアンス管理)
「SAP Logistics Business Network Material Traceability」(製品トレーサビリティ管理)
など
4,ZERO INEQUALITY
労働災害ゼロ(労働衛生安全対応)
「SAP Health and Safety Management」(従業員健康安全管理)
「SAP Incident Management」(従業員事故管理ツール)
「SAP Concur (Duty of Care)」(従業員注意喚起ツール)
「SAP Ariba (Supplier Diversity)」(サプライヤの多様性対応評価ツール)
など
5,INDUSTRY INNOVATION
「SAP Digital Vehicle Hub(SAP AIN)」(ビークル管理)※車両などの稼働管理
「SAP S/4HANA for Waste & Recycling」(廃棄物リサイクル管理)
「SAP Work Clearance Management」(原子力発電所などのワーククリアランス管理)
など
SAPのサステナビリティ製品は、多くの企業が今後採用することになると思います。まだ導入事例も少なく、サステナビリティ経営については試行錯誤の段階ですが企業ニーズは強いため積極的に学びたい領域です。また、カーボンニュートラル対応は、2050年がゴールとして掲げられているためロンテールのビジネスニーズがあると考えられます。
今回のまとめ
今回は、カーボンニュートラル対応の市場動向とこれに対応してSAP製品群についてご紹介しました。新しく再構成されたサステナビリティ経営のための製品群ですが、コミュニケーション&レポーティング機能群、ゼロエミッション(脱炭素)機能群、ゼロウェイスト(廃棄物ゼロ)、ゼロインクエリー(労働災害ゼロ)、そしてインダストリーイノベーション(業種業務別対応)に整理分類されています。次回はもう少しこの内容を掘り下げて、カーボンニュートラル対応の取り組み方についてSAP製品ベースでご説明いたします。