「SAP FI概要の教科書」No.5 組織マスタ編
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■はじめに
SAPシステムで業務を行えるようにするには、まずは「組織」を定義し、企業の姿をシステムに表現していく必要があります。各モジュールに「組織」と呼ばれる項目があります。FIモジュールの組織は「会社コード」と「セグメント」です。
また、従来「事業領域」はFIの組織として使われてきました。S/4でも項目としては存続していますが、事業領域に対する今後の機能開発はない、とのことですので、本コラムではご紹介いたしません。
■FIの組織
1.会社コード
会社コードはSAPを導入する法人ごとに会社コードを定義します。
FI系のテーブルのキー項目になっていて、「どの会社で発生した会計仕訳か」を識別します。BKPF(FI伝票ヘッダテーブルの会社コード項目BUKRS)あるいは、会社コードを指定して、財務諸表レポートを実行したり、各種プログラムを実行したりします。
1つの法人について複数の会社コードを定義してしまうと、決算処理関連のプログラムや償却記帳など、会社コード単位で仕訳転記するプログラムが会社コードごとに仕訳を転記するため、法人単位に集計や調整する作業が発生してしまう等のデメリットがあります。
会社コードは法人ごとに定義する考え方が基本であり、原則となります。
会社コードの定義は「編集/コピー/削除/チェック:会社コード」メニューから行います。
2.セグメント
セグメントは、財務諸表における「開示セグメント」を意識した項目として、NewGL機能の提供と同時に登場した組織です。NewGLが提供される前の古いバージョンのSAPシステムには存在しません。
セグメントは利益センタマスタから誘導され、決定します。
セグメントに関連するSAP組織とマスタは以下イメージになります。
この例では親会社、製造会社、販売会社(いずれも会社コードとして定義)について、開示セグメントの観点も踏まえ、「家電事業」と「娯楽家電事業」を「セグメント」として定義しています。
セグメントは利益センタマスタにセグメントを割り当て自動誘導させるので、利益センタ「白物家電」と「デジタル家電」で発生した会計取引は、セグメント「家電事業」でレポートします。
また利益センタは原価センタから誘導されるため、製造会社には3つの原価センタが定義されており、いずれも利益センタ「白物家電」に割り当てられている状況を示しています。セグメントの定義単位をどう考えるかは利益センタからの誘導(そして利益センタは原価センタから誘導)という関連もあるので、利益センタや原価センタを検討しているチームと連携して検討することが一般的です。
3.会社
カスタマイズ画面の財務会計(FI)の企業構造に、「会社の定義」というメニューがあります。
この項目は、連結会社、会社ID、取引先コード、項目名のVBUNDなど様々な呼ばれ方をしています。
先の例の場合、製造会社で作った製品を親会社が買い取るシナリオになりますが、この時製造会社は親会社からみた発注先となるので、仕入先マスタとしても登録を行います。しかし製造会社への発注はグループ内の取引となるため、連結決算上、外部の仕入先と区別する必要があります。この場合、製造会社用に登録した仕入先マスタ(一般データの制御データタブ内の項目「取引先コード」)にVBUNDのコードを割り当てておくことで、会計取引を識別することができるようになります。同様に、親会社から販売会社に製品を販売する場合も、販売会社は得意先マスタとしても登録します。得意先マスタ(一般データの制御データタブ内の項目「取引先コード」)にVBUNDのコード値を割り当て、企業グループ内の得意先であることが分かるようにします。
■FIのマスタ
1.勘定コードマスタ
勘定科目を表すマスタでFI-GLで管理するマスタです。
勘定コード表レベル(テーブル:SKA1等、T-cd:FSP0)と会社コードレベル(テーブル:SKB1等、T-cd:FS01)の2つのレベル(テーブル)で管理されています。この両方のレベルを同時に処理するトランザクションコードがFS00です。
勘定コード表レベルでは勘定科目の名称テキスト等を管理します。勘定コードマスタはログイン言語に応じた言語で勘定科目名をテキスト表示できるので、英語名などの登録を行うことも出来ます。
勘定グループを選択し、会社コードレベルで表示する項目群を決定します。会社コードレベルに表示する項目について「表示のみ」、「非表示」、「任意項目」、「必須項目」の設定を行うカスタマイズを「項目ステータス」と言います。
貸借対照表勘定か損益計算書勘定かの識別も設定します。またS/4からは、COの一次原価要素と二次原価要素の登録・照会が勘定コードマスタに統合されたため、一次原価要素か二次原価要素かの識別をここで設定します。
会社コードレベルでは、勘定コードを利用する会社ごとに異なる設定を行うことが出来ます。
例えば、その勘定コードで発生する消費税が仮受か仮払かの設定や、統制勘定の設定を行います。
企業グループで同じ勘定科目体系を使いながら、会社ごとの設定が出来るようになっています。
2.BP(ビジネスパートナ)マスタ
SAP以外のシステムでは、得意先と仕入先をまとめて「取引先」としてマスタ管理するデザインのシステムが多いように思います。SAPでは得意先と仕入先は分けて管理を行います。
仕入先マスタは債務管理を目的とするFI-APの仕入先マスタで、得意先マスタは債権管理を目的とするFI-ARのマスタです。
S/4HANAから得意先マスタ(T-cd:FD01、XD01)と仕入先マスタ(T-cd:FK01、XK01)のトランザクションは廃止され、どちらもBPマスタ(T-cd:BP)で登録・照会することになりました。
得意先や仕入先を登録する場合、BPロールとグルーピングを選択し、登録します。
BPロールにFLCU00(FI得意先登録用の標準のBPロール)を選択した場合、BPロール「ビジネスパートナ(一般)」とBPロール「FI得意先」の2つのロールでBPマスタが登録されます。この2つのマスタコードを同じにすることも別々にすることもカスタマイズによって設定可能です。
ビジネスパートナ(一般)で登録した内容は、テーブルBUT000等に登録されます。得意先マスタのテーブルは、S/4前と変わらず、得意先はKNA1(クライアントレベル)、KNB1(会社コードレベル)、仕入先はLFA1(クライアントレベル)、LFB1(会社コードレベル)、LFM1(購買組織レベル)が主なテーブルです。
グルーピングのカスタマイズでは、ビジネスパートナマスタの番号範囲を定義します。この設定と別に、グルーピングと得意先マスタの勘定グループまたは仕入先マスタの勘定グループを割り当てる設定箇所が、得意先統合設定と仕入先統合設定のメニューの下にあります。
得意先マスタと仕入先マスタの番号範囲と項目ステータスのカスタマイズは、従来通り勘定グループで制御します。
■おわりに
FI概要の最終回ではFIの組織とマスタの概要をご紹介させていただきました。
得意先マスタ、仕入先マスタはSAPの3大マスタの1つ(残りの1つは品目マスタ)と呼ばれることもあるマスタです。得意先マスタはSDと仕入先マスタはMMと共有するマスタとなり、他チームとの連携が重要になります。
FIモジュールを習得していくためには、FIの個々の細かい機能の習得はもちろん必要ですが、併せてSAP用語やFIと他モジュールとの統合ポイントも理解しておきたいところです。