「SAP PSモジュール徹底解説」No.1 SAPにおけるプロジェクト管理
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■はじめに
SAP Freelance Jobs運営事務局です。
今回は新連載として、「SAP PSモジュールを徹底解説」をスタートします。
PS(Project System)は聞いたことがあるけど、PSモジュールで何をしているのか分からない、実際にPSモジュールで何が出来るのか分からない。そんな方も多いのではないでしょうか。
今回はPSモジュールに触れたことがない方向けに、PSモジュールの解説を行っていきます。
PSの概要から実際のプロジェクトを想定したケーススタディーまで、幅広く説明していく予定です。
本連載を皆様の日々の業務にお役立ち頂けることを心より願っています。
■PSモジュールの概要
SAPのPSモジュールは、企業で行われる大小様々なプロジェクトの管理を目的としています。
プロジェクトとは具体的には、大規模なシステムの導入や、長期間にわたる工事などです。
また、一般的にプロジェクトの特徴として、以下の様な点が挙げられるかと思います。
- 複数の業務を掛け合わせて特定の目標を達成する
- 目標達成までの期限が決まっている
- 進捗状況を管理する
- 他社と協力して行う場合が多い
PSモジュールでは、企業内で行われるこれらのプロジェクト案件に関連する様々な情報(予算・収益・費用・スケジュール・進捗・リソース)を一元管理することを目的としています。
また、PSモジュールは、FIやMM、SDなど他モジュールの業務プロセスで発生したデータがリアルタイムで連携されます。そのため、各プロジェクトの売上・費用実績からプロジェクトの進捗まで、最新のプロジェクトの状況を把握することが可能となっています。
【PSモジュールによるプロジェクト管理】
販売管理:販売伝票との紐付けにより、プロジェクト単位で収益を把握
購買管理:購買伝票との紐付けにより、プロジェクト単位で発注・原価把握
財務会計:仕掛・売上原価を自動計上/プロジェクト別の資金収支の把握
管理会計:内部人件費・間接費を計上/部門別、セグメント別に損益を集計
人事管理:従業員毎の工数・資格を管理
日程管理:WBSやネットワークを利用した、プロジェクト・タスク単位での日程の管理
PSモジュールでは、WBSと呼ばれるコストオブジェクトでプロジェクトの予算・費用実績を管理します。
WBSは階層構造を作ることが可能となっており、各プロジェクトの要件に合わせて構造を定義することができます。
■PSモジュールの主な機能
PSモジュールの主な機能を紹介します。
1.マスタ登録機能
PSモジュールでは、前述したプロジェクト定義、WBS要素、ネットワークをマスタ管理します。
- プロジェクト定義登録(T-code CJ01)
- WBS要素登録(T-Code CJ11)
- ネットワーク登録(T-Code CN21)
プロジェクトビルダーではプロジェクト定義、WBS要素、ネットーワークの登録、変更、照会、ステータスの変更、計画、スケジュールの割り当てを同一トランザクションで実施できます。
- プロジェクトビルダー(T-Code CJ20N)
2.決済機能
WBSに計上された費用実績を他のコストオブジェクトに決済を行う事が出来ます。WBSの決済ルールは各WBSのマスタで設定が可能です。
- WBS決済(CJ88)
3.レポート
期間別・勘定別など業務要件に応じて様々な切り口でプロジェクトの状況の確認を行うことができます。また、計画に対する実績と差異を分析することもできます。
■PSモジュールの構造
プロジェクトの規模、組織構造は各プロジェクトによって異なります。そのため、プロジェクトの遂行に関わる情報を一元管理するためには、各プロジェクトごとに固有の組織体系を定義する必要があります。
PSモジュールでは、プロジェクト定義、WBS、ネットワークを使用して、各プロジェクトを構造的に管理することが可能となっています。
業種やプロジェクトの特性に合わせた形で各プロジェクトの組織構造を定義することで、業務要件に応じた様々なメッシュでの予実分析やプロジェクト管理が可能となります。
1.プロジェクト定義
管理するプロジェクトの最上位階層のオブジェクト。プロジェクトの案件名称、プロジェクト全体の一般的な属性情報を管理します。
(プロジェクト案件名称、プロジェクト開始日/終了日、責任部門など)
2.WBS要素
WBS(Work Breakdown Structure)によって、プロジェクトを複数の階層で構造的に管理することが可能になります。プロジェクトの予算・計画の割り当てや費用実績の集計もWBS単位で行います。
WBSで入力した予算・集計した費用は上位の階層に連携されます。
3.ネットワーク
プロジェクトのスケジュール・必要資源(人・モノ)を作業単位で管理します。ネットーワーク内で各作業順序を定義することが可能です。
また、ネットワークの構成要素である活動によって、工数、日程、構成品目、文章、リソース等の管理が可能となっています。
【ネットワークで管理可能な項目】
- 工数(原価計算・能力計画)
- 日程(日程計画)
- リソース(スキル、要員計画)
- 構成品目
- 文章
■PSモジュールの使用例
実際にPSモジュールを使用したプロジェクト管理の例を紹介します。
1.個別受注案件に関する個別原価管理
種類が異なる製品を個別に生産する場合の原価管理方法として、PSモジュールを使用することが可能です。注文生産、受注生産の場合に適応できます。
造船業・航空機産業・IT業界などで、PSモジュールを使用した個別原価管理を行う場合が多く見られます。
【事業概要】
- 製造業重工業
- 個別受注製品を中心とした生産を実施
- プロジェクト管理が企業収益管理上重要となっている
【PSの適応範囲】
個別受注製品に対してWBSを使用した単体の原価管理・収益管理を実施した。
WBSを各生産フェーズごとに取得し、フェーズごとの原価管理を実現した。
2.研究開発などの投資案件管理
製造業における研究開発などの投資案件の予算・実績管理を行う。
WBSの階層構造を利用して、投資案件のフェーズ別の予実管理を実現できる。
【事業概要】
- 自動車OEM
- 輸送機器などの開発・製造・販売・サービスを全世界に事業展開
【PSの適応範囲】
新機種開発の投資案件の予算入力・費用計上までをWBSで実施。
予算入力を行うWBS階層と費用実績を計上するWBS階層を分けるなど、案件固有の要件にもWBSの階層構造を利用して対応した。
3.WBSに計上した費用の資産化
WBSに計上した費用をSAPの決済機能を使用して振替を行い、固定資産化する。設備投資案件や建設業の工事案件などに適応される。
SAPの決済機能を使用することで、WBSに計上された費用は建設仮勘定に振替えることができる。
PSモジュールで建設仮勘定を計上した後のプロセスは、FI-AAの固定資産管理プロセスで実施する。
【事業概要】
- 鉄道会社
- 鉄道会社の工事業務(駅の建設・線路の敷設など)をWBSを使用して管理
【PSの適応範囲】
各工事案件の予算管理と費用実績の集計をWBSを使用して実施。
WBSに集計した費用は、工事の検収が完了後にSAPの決済機能を用いて固定資産化した。
WBSを使用することで工事の予実管理、その後の資産取得の状況を一元管理した。
■おわりに
今回はPSモジュールの解説として、PSモジュールの概要、組織構造、実際のプロジェクトでの使用例、主な機能のご紹介をしました。
次回以降は、PSモジュールのマスタデータの詳細な解説、実績WBSと統計WBS、予算、計画管理、PSモジュールーを使用した固定資産管理の紹介を行っていく予定です。