「S4 HANAでクラウド化」No.9 SAP HANAへ移行する前に課題を解決!移行に向けて行うべきこととは
INDEX LINK
1.はじめに
基幹システムの移行では課題を抱えやすく、S/4 HANAへの移行も例外ではありません。SAPは大規模な基幹システムであるため、移行するとなると多くの課題を解決する必要があります。
課題を解決することは重要ですが、移行にあたっての方針などを踏まえることも重要です。今回はクラウドのS/4 HANAへ移行するにあたって抱えやすく解決すべき課題についてご説明します。
2.S/4 HANAへの移行に向けた課題解決
システムにはサポート期限があるため、あるタイミングで移行するしかありません。ただ、移行するとなるとそれだけで課題が生じてしまうものです。具体的にどのような課題が生じやすいのかご説明します。
2-1.移行はIT部門が主体であり課題が残りやすい
一般的にシステムの移行はIT部門が主体となって実施します。システム切り替え作業だけではなく、業務部門の調節などもIT部門が担当するケースが大半です。
ただ、このようにシステムの移行を進めると、システム移行に業務部門が関わらない状況が生まれてしまいます。IT部門の内部で完結させた方がスムーズに物事が進むため、このような進め方になりがちなのです。
しかし、このような進め方をすると、管理する部門との課題が解決されないのは言うまでもありません。時には課題とすら認識されず、システム移行の準備がある程度進んでから課題と認識されるぐらいです。そのような状況にならないために、IT部門は課題の存在を認識して、解決に努める必要があります。
2-2.単純な移行と次世代を見据えた移行
基幹システムの移行では、単純なデータ移行だけではなく未来を見据えることが重要です。S/4 HANAのようなシステムは一般的なシステムよりも長期間利用するため、それを考慮する必要があります。
このような将来的な使い方についても考慮すると、どうしても課題の数が増えてしまいます。つまり、一般的なシステムの導入や移行よりも多くの課題解決が必要となるのです。
次世代の基幹システムを見据えた移行には、数多くの課題が隠れています。課題解決には負担がかかるため目を逸らしがちですが、S/4 HANAを中長期的に活用するためにも、可能な限り課題の発見と解決に努めましょう。
3.S/4 HANAへ移行で生じる人材面での課題
S/4 HANAの導入にあたって人材面の課題があるため、よくある課題についてご説明します。
3-1.新しいSAPを運用できる人材の不足
新しくS/4 HANAを導入するとシステムを運用する人材面で課題が発生します。新しいシステムを熟知しているメンバーがいないため、社内での運用が難しくなってしまうのです。
中長期的にS/4 HANAを運用していくと、ナレッジが溜まり社内の担当者も育成されていきます。このような状況になれば、こちらの課題はある程度解決されていくでしょう。
しかし、S/4 HANAを導入するタイミングでこのような人材を育成するのは現実的ではありません。SAPは非常に多くの機能を有しているため、IT部門の担当者などが習得することは困難なのです。そのレベルになるまで時間を割けないと言っても過言ではないでしょう。
システムの運用に関する課題は、有識者の導入で解決すべきです。アウトソーシングやスキルの高いフリーランスの導入などで、スムーズな運用開始を目指しましょう。
3-2.業務担当者のITリテラシー不足
SAPの運用担当者にITリテラシーが不足している場合があります。このような状況では、社内に運用担当者がいても、スムーズな運用が難しくなってしまいます。
まず、SAPを運用するとの観点で課題が生じてしまいます。これは上記で述べたとおり、有識者によるサポートなどで解決するようにしましょう。ナレッジが溜まれば社内の人員でも運用できるはずです。
続いて、クラウドに構築するとの観点でも課題が生じます。クラウドサービスの運用には専門知識が必要となるため、こちらも十分なスキルが必要となるのです。
どちらについても有識者の導入で課題は解決できます。ただ、社内ナレッジが残らない可能性があるため、解決方法は吟味が必要です。
将来を見据えた対応ができるIT人材の不足
ご説明したとおり、基幹システムは中長期的に利用するため、将来を見据えた設計や運用が必要です。ただ、このような作業は経験がないと難しく、人材面で課題になりやすい部分です。
簡単に人材を補充できる分野ではなく、経験者や有識者が見つからないならば諦めるしかないでしょう。ただ、常に将来的な観点を持ち、システム設計やレビューなどを行うようにすべきです。
なお、S/4 HANAを扱うベンダーの中には、SAPを活用したソリューションを提供しているところがあります。また、DXに強いフリーランスなどもいるため、そのような企業や人を活用すれば、人材面の課題は解決に近づくでしょう。
4.S/4 HANAへ移行で生じるコスト面での課題
続いてはS/4 HANAへの移行で生じるコスト面での課題についてご説明します。
4-1.運用コストの増加
システムの導入前後では運用コストが高まる可能性があります。運用に関するコストはシビアな評価を受けやすいため、課題として事前に認識し解決しておくことが重要です。
コストが高まる背景には「システムの操作に慣れない」「新しいシステムへの引き継ぎに時間がかかる」などが挙げられます。これらはやむを得ないコストではありますが「コスト削減しろ」と指示されてしまうのも事実です。認識の違いが課題となるため、その差を埋めるようにしましょう。
なお、必要以上にコストカットするとS/4 HANAの運用に支障をきたします。関係者が歩み寄って課題解決することが重要です。
4-2.クラウドへの漠然とした不安
クラウドへシステムを移行すると「クラウドの利用は不安だ」などと漠然とした不安を主張する人がいます。経営層が不安を示すとシステム移行ができず、S/4 HANAのような大規模システムで課題になりやすい部分です。
例えば、経営層の中には「クラウドは青天井に料金が高まるのではないか」と心配する人がいます。確かに設定ミスなどで高額請求が起こる可能性はありますが、概ね誤解だと言ってよいでしょう。このような誤解が課題の原因となるのです。
課題の解決としては事実を丁寧に伝えるしかありません。システムをクラウド化する際はクラウドを不安視する人が一定数現れるため、課題が大きくならないように手を打ちましょう。
4-3.移行期間中の一時的なコスト増加
移行期間中は複数のSAPを並行して稼働させることがあり、通常よりも多くのコストが生じてしまいます。例えば現在の本番環境と新しいS/4 HANAの本番環境が同時に存在している期間は、それぞれを管理するコストがかかってしまうのです。
移行期間中に運用コストが増加するかどうかは、移行の進め方によって変化します。既存のSAPからS/4 HANAへの移行で、それぞれのSAPが同時に利用されなければコストは増加しません。段階的な移行などで並行利用される際に注意が必要です。
移行期間のコストはプロジェクト負担となるケースが多くあります。コストの負担先が課題となるため、どこが負担するのか明確にしておきましょう。
5.S/4 HANAへ移行で生じる機能面での課題
最後にS/4 HANAへの移行で生じる機能面での課題についてご説明します。
5-1.機能拡張を認める範囲
利用者の多いシステムでは機能拡張を認める範囲を決定しなければなりません。S/4 HANAは基幹システムであり利用者が多いため、どこまでの要望を受け入れて機能拡張を認めるかは大きな課題です。
機能拡張を認める範囲が広ければ広いほど、設計に時間がかかりコストも高まってしまいます。機能拡張は青天井になるケースが多く、全ての要望を踏まえるのは現実的ではありません。
ただ、機能拡張を認めないと利用部門から「使いにくい」などのクレームが出てしまいます。予算や工数などの基準を設け、その範囲内で機能拡張を認めるような方針とすることをおすすめします。
5-2.新しいEnterprise Architectureへの対応
近年は企業の資産配置や業務プロセスの改善が重要視されています。基幹システムはこのような改善の影響を受けやすく、課題の原因となりかねません。
新しいアーキテクチャを導入するならば、可能な限りS/4 HANAの設計前に方針を固めた方が良いでしょう。新しいアーキテクチャに沿った設計をすれば、後から業務プロセスの変化によりSAPを改修する必要がなくなります。
5-3.業務プロセスや組織の変化
業務プロセスや組織に変化が生じると、S/4 HANAの利用にも変化が生じてしまいます。現時点で最善のカスタマイズを施していたとしても、何かしらの変化によって最善ではなくなるのです。
ただ、このような変化は避けられるものではなく、課題が生じるものだと考えておく必要があります。例えば、新しい部署が設立されると、それに伴いS/4 HANAを改修しなければなりません。
事前に検討しておきたいのは、このような変化が起きた際に「機能をどのような方針で改修するのか」です。マスタデータの変更のみでそのままSAPを利用する方針とするのか、部署の増加に合わせてプログラム改修するのかなどを決定しておくと、その時が来た際にスムーズな対応ができます。
6.まとめ
S/4 HANAを導入する前に検討すべき課題についてご説明しました。基幹システムは規模の大きなシステムであるため、多くの課題が生じる傾向が見受けられます。それぞれの課題に注目して、丁寧に解決するよう心掛けていきましょう。
ただ、解決には時間がかかったりコストがかかったりするものがあります。また、そもそも事前の解決が難しいものもあります。基本的には解決を目指すべきですが、時には課題があることを認識しておき、S/4 HANAのリリースを優先した方が良いかもしれません。