「SAP MMモジュールの教科書」No.2 MMで使用する組織
SAP MMモジュールの教科書②では、MMモジュールに関連する組織やコンフィグについてご説明します。組織定義は、SAPで要件を満たした業務を実現するために必要不可欠で重要な要素になります。他のモジュールに比べるとMMモジュール固有の組織はあまり複雑ではありません。しかし、クライアントの業務・システム要件を満たした運用をSAPで実現するためには、組織構造や各組織の役割や影響をしっかりと理解した上で組織定義を行う必要があります。当記事では、MMモジュールの組織構造や各組織の使われ方をまとめているので、参考にしていただければと思います。
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1.MMモジュールの組織構造
まず、組織構造についてご説明します。会社コードに『プラント』と『保管場所』が紐づいています。これらの組織は、主に在庫管理で使用します。1つの会社コードに複数の『プラント』の紐づけが可能です。また、『保管場所』同様に1つのプラントに複数の紐づけることができます。
『購買組織』は、会社コードとプラントに割り当てられている組織です。『購買グループ』は、どの組織にも紐づかない独立した組織になります。これら2つの組織は、購買領域で使用します。
2.MMモジュールの組織定義
次に、各組織の使われ方や定義の方法をご説明します。下図は、組織定義の一例です。ABC株式会社は、生産拠点である「工場」と製品を保管する「倉庫」の二拠点で展開しているメーカー企業を想定しています。
2-1.会社コード
会社コードは制度会計上の法人を指し、課税対象となる組織です。正式な帳簿を作成する単位とも言えます。そのため、子会社が存在する場合は、別で会社コードを定義する必要があります。貸借対照表損益計算書を作成する単位で、FIやCOなどの会計で重要な組織であるため、会計チームが主管して定義を行います。ロジスティック観点でも会社コードはMMだけではなく、SDなどのモジュール横断で使用される組織になります。上図では、「ABC株式会社」を会社コードとしています。
2-2.プラント
プラントは、会社コードに割り当てる組織で、1つの会社コードに複数紐づけることができます。物理的な拠点を表す組織で、MRP(所要量計算)や入出庫を行う単位で定義します。そのため、生産工場、倉庫、流通センターなどの拠点単位で作成されるのが一般的です。上図では、製造拠点となる「工場」と商品を保管する「倉庫」の2つの拠点それぞれをプラントとして定義しています。
また、プラントは在庫品目の数量だけではなく、原価を管理する組織単位でもあります。棚卸を実施し、在庫評価額を管理する単位です。そのため、同じ拠点内でも部門ごとに原価の管理を行っているようなケースでは、1拠点内でプラントを分ける必要があります。
さらにプラントは様々なマスタでキー項目として使われます。例えば、品目マスタでは、プラントをキー項目として多くのビューを拡張することが可能です。組織定義を行う際は、プラントを細分化するとマスタのメンテナンスの業務負荷が高くなるという点を考慮しなければなりません。
会社コード同様、プラントもMMだけではなく、SDやLOを含めたロジスティックス全体で根幹となる重要な組織です。プラントの組織定義はロジスティックス全体で検討しなければなりません。
2-3.保管場所
保管場所はプラントに割り当てる組織で、1つのプラントに複数の保管場所の紐づけが可能です。保管場所は、在庫数量を管理するプラント内の物理的な場所を表します。あくまでも在庫数量管理を目的にした組織であるため、在庫評価は管理することができません。
上述の通り、通常保管場所はプラント内で在庫を保管する物理的な場所を意味しますが、不良品や輸入未着品などを管理するための在庫の状況を把握するために利用することもあります。例えば、海外仕入先から商品を仕入れた場合、契約条件によっては実際に商品が自社に到着する前に在庫計上を行います。例えば、輸入契約で、輸入元での船積み時に在庫計上が行われるとします。しかし、実際の商品は海外の港にある船の上にあり、自社にモノが到着するまでにはしばらく時間がかかります。そのような場合、「未着品」用の保管場所を用意することがあります。自社に商品到着前は、この「未着品」用の保管場所を使用して在庫計上を行い、実際に商品が自社に届いたタイミングで商品が保管される物理的な保管場所に在庫移動の処理を行う運用も1つの手段です。
上図では、製造拠点であるプラント「工場」に3つの保管場所が割り当てられています。「第一倉庫西ラック」「第一倉庫東ラック」と「第二倉庫」は、製造に使用する原材料や部品、または完成した製品を保管する物理的な場所を表していますが、「未着品」は海外から調達する原材料や部品で、在庫計上はしたものの向上に到着していないケースを想定して定義しています。一方、プラント「倉庫」では、特にプラント内で在庫を保管する場所を分ける要件がないと想定し、「通常」という保管場所のみが定義されています。
保管場所は、在庫管理を目的にした組織であるため、在庫評価金額などの情報は管理できませんが、業務要件に沿って適切な定義をすることで、様々な使い方ができます。
2-4.購買組織
購買組織は、商品や部品の調達を行う組織の単位です。会社コードとプラントに紐づけを行います。購買組織は、仕入先マスタや購買情報マスタのキー項目としても使用されるため、むやみに購買組織を細かく分けてしまうとこれらのマスタ管理が手間になるという点を考慮して定義する必要があります。
2-5.購買グループ
購買グループは、商品や部品の調達を行う購買担当者、もしくは、購買担当者のグループを表す組織です。階層構造は持っておらず、独立した組織になります。そのため、他の組織への割り当てや紐づけは行いません。
購買担当者ひとりひとりに購買グループを定義することもあれば、上図の例のように課として1つの購買グループを定義し、複数担当者で1つのコードを共有して使用するという運用を選択することもあります。購買グループは、購買発注時に購買発注伝票への入力が必須です。つまり、購買グループを分けることで、各購買発注を誰が登録したのかを細かく把握することが可能です。購買発注の登録者を管理する必要があるかなど、要件に応じて定義する必要があります。
また、購買グループは、購買発注の承認を行う単位でもあります。SAPで購買発注を承認する際、承認者は購買グループを指定して、承認対象となる購買発注を確認します。そのため、担当者によって購買発注の承認者が異なる場合は購買グループを分ける必要があります。
3.各組織のコンフィグ
コンフィグについて以下解説します。
3-1.会社コード
前述の通り、会社コードはMMだけではなくモジュール横断で使用し、特に会計領域で重要な組織です。そのため、会社コードのコンフィグはFIモジュールに含まれ、会計チームが管轄するのが一般的です。会社コードの定義は、既存の会社コードをコピーして作成します。4桁のコードを入力し、会社名、住所、通貨、言語などの必要情報を入力します。
会社コードの定義は、以下のパスから行います。
SPRO>企業構造>定義>編集/コピー/削除/チェック:会社コード
3-2.プラント
会社コード同様、プラントもモジュール横断で使用する組織ですが、プラントの定義はMMモジュールに含まれます。既存のプラントをコピーして作成します。
プラントの定義は、以下のパスから行います。
SPRO>企業構造>定義>ロジスティックス―一般>プラントの定義、コピー、削除、チェック
作成したプラントは、会社コードに割り当てます。1つの会社コードに複数のプラントを割り当てることが可能です。一方、複数の会社コードに同一のプラントを割り当てることはできません。
会社コードへの割当は、以下のパスから行います。
SPRO>企業構造>定義>ロジスティックス―一般>会社コードに対するプラントの割当
3-3.保管場所
保管場所の作成は、以下のパスから行います。「新しいエントリ」をクリックし、4桁コードや名称、住所などを定義します。なお、保管場所の定義の中で紐づけるプラントを指定するため、プラントへ割当を行うための設定はありません。
SPRO>企業構造>定義>在庫/購買管理>保管場所の更新
3-4.購買組織
購買組織の作成は、以下のパスから行います。「新しいエントリ」をクリックし、購買組織の4桁コードや名称などを定義します。
購買組織の定義:SPRO>エンタープライズ構造>定義>資材管理>購買組織
上記コンフィグで定義した購買組織は、会社コードとプラントに割り当てる必要があります。以下のパスから購買組織を会社コードとプラントそれぞれに割り当てることにより、各マスタやトランザクションで使用することができるようになります。
会社コードへの割り当て:SPRO>企業構造>割当>在庫/購買管理>購買組織の会社コードへの割当
プラントへの割り当て:SPRO>企業構造>割当>在庫/購買管理>プラントへの購買組織の割当
3-5.購買グループ
購買グループの作成は、以下のパスから行います。「新しいエントリ」をクリックし、購買グループの3桁コードや名称などを定義します。なお、前述の通り、購買グループは独立した組織であるため、購買組織など割り当てる設定はありません。
SPRO>在庫/購買管理>購買管理>購買グループの登録
4.最後に
組織はSAPでの業務運用に影響する重要な要素になるため、業務・システム要件を理解し、他チームと協議の上定義する必要があります。まずは、それぞれの組織がどのトランザクションやマスタで使用され、どのように影響するのかを理解することが大切ですので、組織定義の際は当記事を参考にしていただければと思います。